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【番外編】〜その後のアントンとアルベルトを中心に〜

アントンとアルベルトのドキドキクッキング 〜後編〜

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 そんなこんなで、ハムや卵、野菜や果物なんかの食材を買いこみ準備は万端!
 途中で、おいしそうな屋台の誘惑に勝てず、なんだかんだ飲み食いした俺は、そこそこ気力も回復した。

「じゃ、戻ろうか、兄さん」

 大通りのまさにど真ん中。
 アルベルトが俺の目をのぞき込む。

「えっ、ここで? 周りにいっぱい人がいるよっ! もっと奥の路地で……」

 後ずさる俺の腕を、アルベルトは強い力で引き寄せる。


「さあ、目を閉じて」

 有無を言わせずアルベルトの顔が近づいてくる。

「むっ、うっ、んんっ……」

 唇が重なり、舌が絡み合い……、そして……、

 ――俺たちは、あの屋敷へと転移した。




「アルベルトっ!! なんでいつもこうなんだよっ! 学校でもいつも周りに人がたくさんいるときに、わざとやってるだろっ!!!」

 俺は涙目になりながら唇をふき、アルベルトに抗議する。


 転移魔法に悪酔いして気持ち悪くなってしまう俺。アルベルトが見つけた解決策は、とても効果のあるものだった。

 ものだったが……。


 ――いくら転移魔法に酔わない方法とはいえ、毎回毎回人の往来のど真ん中でアルベルトにディープキスされる俺って!!!!


「キスに集中してたら、転移魔法のめまいも起きないんでしょ?」

 俺を抱きしめ、ほほ笑むアルベルト。

「……」

「さ、兄さん、サンドイッチを作ろうか」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「はい、料理の前にまずはこれをつけて!」

「これ……?」

 アルベルトの訝しげな表情。


 ――やっぱり料理と言えば、これだよねっ!


 さっき魔道具屋の前で足を止め、アルベルトが何か真剣に探していた間に、俺は衣料品店でちゃっかりエプロンを手に入れておいたのだ。

 むろん、メイドさんのつけているような白いフリフリタイプのエプロンしかなかったわけだが、これで、俺もようやくアルベルトに仕返しができるというわけだ!!


 ――もちろん、執念深い俺は忘れてなどいない! あのメイド姿での屈辱のお茶会をっ!!!


 というわけで、アルベルトにもフリフリエプロンを着せて、俺の溜飲を下げる予定だったのだが……、



 俺は驚愕した。


「これでいいの? 兄さん?」


 ――そこそこ似合っている、だとーーーーー!!!!????


 そこには、得意料理はイタリアンっぽい、いかにもなスパダリエプロン男子がいた!!!!


 ――完敗し、た……。



「うん……、似合ってるよ、アルベルト……っ」

 俺は涙をこらえながら、笑顔を作る。


「兄さんのエプロンは?」

「俺は大丈夫。ほら、切ったりするのはアルベルトにやってもらうし」

「ふーん……」

 不満そうな口ぶりながらも、さすがは剣の達人!
 アルベルトは華麗な手さばきで野菜やハム、チーズなどを切り、手早くサンドイッチを作ってくれた。

「うーん……」

 一方俺は、コンロの前で固まっている。


 ――火の付け方がわからん……。


 こちらの世界にはガスや電気の代わりに、魔力や魔石を使っているわけだから、魔法が使えない俺には、コンロに火をつけることもできないというワケ。

「アルベルト、魔法で火を出せる?」

「雷撃でもいい?」

 ――絶対よくない!


「そっか、アルベルトは雷属性だから、こういうとき火属性のダン兄様がいれば……」

 俺のつぶやきに、アルベルトは急に怒りに満ちた表情になる。

「酷いよっ、こんなときに、他の男の名前を出すなんて……っ!」

 ……ボッ!

 突然、コンロに火がつく。火はなぜか緑色だ。


「あ、アルベルトも火の魔法が使えるんだったね! でも、緑色の炎なんて珍しいね」

「ええ、まあ……」

 なぜか複雑な表情のアルベルト。


 だが、これでスープも作れる!!!

 緑色の炎はかなり火力が強いらしく、あっという間に鍋の中身が沸き立った。

 ほとんど具の入っていないスープ鍋をかきまわしながら、俺は頭をひねる。


「今度はどうしたの? 兄さん」

「スープを作ったつもりなんだどさ、全然味がしない……、やっぱり塩と胡椒だけじゃだめだったのかな?」

「かしてみて」

 アルベルトは、小皿に入れて味見すると、何やら呪文をつぶやき始めた。
 そして、鍋の上でパチンと指を鳴らした。

「これでどう? 味見してみて」

「ん……」

 俺が味見すると、あら不思議!!!
 ほとんど味がしなかったスープが、ソールバルグ家の専属料理人もびっくりの絶妙なお味に早変わり!!

「すごいっ、アルベルト。さすがはアルベルトだね」

 俺は尊敬の眼差してアルベルトを見上げる。

「……っ、兄さんにそんなに喜んでもらえるんなら、俺、料理ができるような魔法も覚えようかな?」

 ちょっと赤くなって照れるアルベルトが、すごく可愛い。

 ――うーん、幸せ……!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 サンドイッチとスープで食事を済ませ、満ち足りた俺は、広い居間のソファでアルベルトにもたれかかっていた。

 ――これなら、料理人がいなくても、ふたりでなんとか暮らせそうだ……。


「兄さん……」

 アルベルトが唇を寄せてくる。

「アルベルト……」

 唇が重なる。触れるだけのやさしいキス。


「口開けて、兄さん」

「んっ……」

 アルベルトの唇から、甘酸っぱい味のキャンデイが俺の口の中に移された。

「体力回復の効果がある飴だよ。さっき魔道具屋で見つけたんだ」

「んっ、美味しい……」

「兄さん、疲れさせちゃってごめんね」

 アルベルトの舌が俺の舌に絡まる。

「大丈夫だよ……っ」

「俺……、いつも兄さんが相手だと我慢できなくなるんだ……」

 アルベルトが俺を抱き寄せる。

「俺も、だよ……」

「兄さん……、ずっと、ずっとこうして二人でいたい」

「うん、俺も……」


 ――アルベルトが、好きだ……。


「アルベルトも疲れてるだろ」

 俺はそっと、そのキャンディをアルベルトの口に押し返す。

「んっ、美味しいね……、レモン味だ」

「んっ、はあっ……、んん」

「兄さんにも……」

 そうして何度も二人の間で、キャンデイは行き交って……。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「どう? キャンディの効果はあった?」

 アルベルトが、ソファに押し倒した俺を見下ろしてくる。


「そうだね、元気になった感じがする!」

 確かに魔道具の効果があったようで、俺の身体も軽い。

「そう。……じゃ、いいよね?」

 青紫色の瞳が、すっと細められる。


「へ?」

 とたんに、シャツの隙間から、アルベルトの手のひらが差し入れられて……、


「ちょ、ちょっと、待って、待って、アルベルト」

「ダメ、待てない」

 びっくりするほど華麗な手付きで、俺はあっという間に裸に剥かれた。

「あっ、アルベルトっ!!!」


「……兄さん、今度は兄さんがこれを着て見せて」

 アルベルトの右手に握られているのは……、


「なんで、いま、エプロンなんて……」


「兄さんがこれをつけてるところが見たい……、裸の上に」


 真剣なアルベルトの瞳……。

 俺は驚愕のあまり、言葉が出てこない。


 ――いったいどこでそんなこと覚えてくるの??



 アルベルトは、全裸の俺を姫抱きにした。


「さあ、キッチンに行こうか。楽しみだなあ、兄さんのエプロン姿!
 魔道具で回復したし、まだまだいっぱいできるよね、兄さん!」


「うわあああああああああああああああ!!!!!!!」



 ――そして地獄の週末は、まだまだ続く……。



(了)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まだまだ書きたい番外編があるので、お付き合いいただければ嬉しいです~❤
そろそろ新作も検討中です✨✨
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