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ナイトメア シリーズ【IFルート……のようなストーリー】

ダン編 〜シルヴィアside〜 前編

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  シルヴィア・ソールバルグの朝は早い。

 夜明けとともに起き出し、走り込み、壁のぼり、ハンマー投げといつもの鍛錬をこなす。

 ――それにしても、今日はいつもより身体が重いわね。

 長剣の素振りをしながら、シルヴィアは思う。

 千回目のそれを終えようとしたとき、邸宅の門から長身の若い男が入ってくるのが見えた。

「団長!!!」

「ダン、朝から頑張るわね」

「はいっ、湖まで走って、ひと泳ぎしてきました」

 白い歯を見せて笑うダンの赤い髪は、濡れている。

 白いシャツの胸元からのぞく、しなやかな筋肉。


 シルヴィアは満足げにうなずく。


 ――やはり第一騎士団は、筋肉が資本!!!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 朝食の席にシルヴィアが座ると、目の前に青緑色のどろりとした液体が入ったグラスが置かれた。

「これは……?」

「特製のドリンクです! 滋養のある根菜と、緑の野菜を中心に、ガルムの血もくわえています。これを飲めばさらなる筋力アップが期待できるかと!」

 ダンの笑顔。

「ありがたいわね」

 シルヴィアは一気に飲み干した。

「……」

 ――えぐ味しかない。

「コンラード様もいかがですか?」

「いや、私は遠慮しておくよ。ありがとう、ダン」

 コンラードが、紅茶のカップを手に苦笑いする。


 平和な、朝の風景。

「ところで……アントンがまだみたいだけど、どうしているのかな?」

 今気づいた、という素振りでコンラードが切り出す。

「アントン様は、まだ寝室で……。その、まだお休みになっています。まだ、お疲れのご様子で……」

 しどろもどろのダン。

 シルヴィアとコンラードは、お互い顔を見合わせる。

 無言のせめぎあいの結果、結局シルヴィアが口を開く。

「ダン……、アントンのことなんだけど、もう少し、その……、控えてくれないかしら」

「は、控えろ……とは」

 ダンの澄んだ空色の瞳が、シルヴィアを見つめる。

「その……、夜のことよ。わかるでしょ、昨日もあなた達は……」

「夜……?」

 とぼけているのか、本当にわかっていないのか……、だんだんシルヴィアは怒りが湧いてきた。


「ええーい、はっきり言わなければわからないようなら、言ってあげるわよ!
あなた達、毎晩毎晩、いい加減にしてくれない?
アントンの声と、ベッドのきしむ音が屋敷中に響いて、こっちは毎日寝不足なの!」

「それは……」

 シルヴィアの剣幕に、ダンがひるむ。

「しかも、最近アントンは全然元気がないみたいじゃないか。こうして朝食の時間にも出てこられないようだし……。
ダン、アントンは君のような騎士団員とはちがう。君とは体力も全然違うんだ。
せめて日を開けるとか、普段は部屋をわけるとか……、アントンのためにも考えてみてくれないか?」

 コンラードの指摘に、ダンはすっかり青ざめている。

「日を開ける……、部屋を分ける……」

 確かに新婚のダンにとっては、酷な話だろう。

 だが、このままでは自分の命よりも大切な可愛いアントンの危機だ。譲るわけにはいかない。

「いい? とにかく今日はアントンを休ませて!」

「わかりました。ですから……、どうかアントン様と部屋を分けるということだけは、お許しください。
そんなことをしたら……、私は……、これから一体なんのために生きていけば……っ」

 ぐっと拳を握りしめ、身を震わせるダン。

 ――お前は一体何のために生きているのよっ!!!

「ダン、アントンを片時も離したくない気持ちはわかるが、男たるもの、自制心も必要だよ。
仮にも君は、第一騎士団の副団長なんだから」

 コンラードの言葉に、ダンはうなだれる。

「はい……。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません……」

「今日は私達も見張っていますからね! くれぐれもアントンに無理をさせないように」

「はい……、承知いたしました」

 深く頭をたれるダン。

 ようやく今日こそはゆっくり眠ることができる……、そう安心していたシルヴィアとコンラードだったのだが……。


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