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ナイトメア シリーズ【IFルート……のようなストーリー】
エリアス編 〜アデラside〜 前編
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「もうっ! 人前でベタベタすんなって、何度言ったらわかるんだよっ!!!」
ガタンっと派手に椅子を鳴らして、アントンが立ち上がった。
「ご、ごめん……、君のことが可愛くて、つい我慢できずに……」
「はあ? 俺に向かって可愛いとか言うな」
辛辣な口調。
「ごめん、もう言わないよ。だから怒らないで、ねっ!?」
照れたように笑うのは、エリアス卿。
魔法大臣の一人息子で、類まれな魔力を持つ男……。
その金色に輝く髪とエメラルドの瞳の際立った容姿の美しさは、女だけでなく男も魅了すると言われている……。
だが、そんな誰もがひれ伏すほど高名なエリアス・フェルセンでも、婚約者であるアントン・ソールバルグの前では形無しだ。
アントンはその黒い瞳でエリアスを睨みつける。
「いっつもヘラヘラして! そういうところが嫌だって言ってるんだよっ!!!」
いつにも増して、エリアスに食って掛かるアントン。
――二人の間になにかあったのかしら?
「アントンっ、落ち着いて! 座って! ほら、みんな見てるわよ!」
アデラが慌ててその場を取りなそうとする。
「……もういいっ!!!!」
アントンは、くるりと背を向けると、ランチの途中だというのに、そのまま校舎の方へと走っていってしまった。
「ああ、どうしてこううまくいかないんだろう……」
エリアスはため息をつくと、額に手を当てる。
「エリアス様、申し訳ありません。アントンには私からよく言っておきますから……」
「君が謝ることないよ、アデラ」
エメラルドの瞳に見つめられると、従弟の婚約者だというのに、胸がときめいてしまう。
――貴族学校のランチタイム。
アデラ・ソールバルグはこうしていつも、従弟のアントンとその婚約者のエリアス・フェルセンと一緒に昼食を取ることにしていた。
それにしても……、
アデラは、落ち込んだ表情で物憂げにアントンが走り去っていった方向をいつまでも見ているエリアスに目をやった。
――エリアス様、お気の毒に……。
幼馴染だったエリアス卿が、アントンに婚約を申し込んできたときは、ソールバルグ家一同度肝を抜かれた。
だが、エリアスの一途すぎる想いが伝わったことと、結婚後はエリアスがソールバルグ家で同居するという条件に、あのシルヴィア・ソールバルグもついに折れたのだ。
しかし、周りから祝福された、これ以上ない良縁だというのに、アントンは婚約後もエリアスを邪険に扱い続けていた。
「エリアス様、アントンとなにかあったのですか?」
アデラが切り出すと、エリアスは力なく微笑んだ。
「……うん、多分この髪のことなんだよね」
エリアスが前髪をつまむ。
「髪を短くされたのですね。お似合いですわ」
背中の半分まであった長い金髪を、短くカットしたエリアス。もちろん長い髪も似合っていたが、耳が隠れるほど短さになったその髪型は、今までにない男らしさで、学園の女子たちも騒いでいたほどだ。
――でも、どうしてかしら……? この髪型、見覚えがあるわ……。
「ありがとう、でもアントンは気に入らなかったみたいで……」
「アントンが?」
「アントンに、長ったらしい髪が邪魔だって言われたから切ったんだけど、切ったら切ったで、なんで切ったんだ!?って怒られちゃって……」
――うーん、理不尽……。
「アントンはエリアス様の前では恥ずかしがって本当のことが言えないだけですわ。きっと」
「だといいんだけど……」
エリアスが髪を耳にかける。
長めの金髪からのぞく、エメラルドのピアス。もちろんアントンとおそろいのものだ。
――アントンの性格からいって、本当に嫌いな相手に、あんな態度は絶対に取らないはずだわ。
ましてや、揃いのピアスなんて大人しくつけるはずがない。
なんだかんだ文句をいいながらも、毎日ランチの時間にはやってくるし、エリアスともこっそり二人で会ったりもしているようだし……。
――あとは、アントンがもうちょっと大人になって、エリアス様に対して素直になれればいいんだけど。ま、そんなことより週末のデートの相手を誰にするか、今のうちに考えておかなくっちゃ。
アデラは紅茶を飲みながら、ぼんやりと自分の恋人たちのことについて考え始めていた……。
ガタンっと派手に椅子を鳴らして、アントンが立ち上がった。
「ご、ごめん……、君のことが可愛くて、つい我慢できずに……」
「はあ? 俺に向かって可愛いとか言うな」
辛辣な口調。
「ごめん、もう言わないよ。だから怒らないで、ねっ!?」
照れたように笑うのは、エリアス卿。
魔法大臣の一人息子で、類まれな魔力を持つ男……。
その金色に輝く髪とエメラルドの瞳の際立った容姿の美しさは、女だけでなく男も魅了すると言われている……。
だが、そんな誰もがひれ伏すほど高名なエリアス・フェルセンでも、婚約者であるアントン・ソールバルグの前では形無しだ。
アントンはその黒い瞳でエリアスを睨みつける。
「いっつもヘラヘラして! そういうところが嫌だって言ってるんだよっ!!!」
いつにも増して、エリアスに食って掛かるアントン。
――二人の間になにかあったのかしら?
「アントンっ、落ち着いて! 座って! ほら、みんな見てるわよ!」
アデラが慌ててその場を取りなそうとする。
「……もういいっ!!!!」
アントンは、くるりと背を向けると、ランチの途中だというのに、そのまま校舎の方へと走っていってしまった。
「ああ、どうしてこううまくいかないんだろう……」
エリアスはため息をつくと、額に手を当てる。
「エリアス様、申し訳ありません。アントンには私からよく言っておきますから……」
「君が謝ることないよ、アデラ」
エメラルドの瞳に見つめられると、従弟の婚約者だというのに、胸がときめいてしまう。
――貴族学校のランチタイム。
アデラ・ソールバルグはこうしていつも、従弟のアントンとその婚約者のエリアス・フェルセンと一緒に昼食を取ることにしていた。
それにしても……、
アデラは、落ち込んだ表情で物憂げにアントンが走り去っていった方向をいつまでも見ているエリアスに目をやった。
――エリアス様、お気の毒に……。
幼馴染だったエリアス卿が、アントンに婚約を申し込んできたときは、ソールバルグ家一同度肝を抜かれた。
だが、エリアスの一途すぎる想いが伝わったことと、結婚後はエリアスがソールバルグ家で同居するという条件に、あのシルヴィア・ソールバルグもついに折れたのだ。
しかし、周りから祝福された、これ以上ない良縁だというのに、アントンは婚約後もエリアスを邪険に扱い続けていた。
「エリアス様、アントンとなにかあったのですか?」
アデラが切り出すと、エリアスは力なく微笑んだ。
「……うん、多分この髪のことなんだよね」
エリアスが前髪をつまむ。
「髪を短くされたのですね。お似合いですわ」
背中の半分まであった長い金髪を、短くカットしたエリアス。もちろん長い髪も似合っていたが、耳が隠れるほど短さになったその髪型は、今までにない男らしさで、学園の女子たちも騒いでいたほどだ。
――でも、どうしてかしら……? この髪型、見覚えがあるわ……。
「ありがとう、でもアントンは気に入らなかったみたいで……」
「アントンが?」
「アントンに、長ったらしい髪が邪魔だって言われたから切ったんだけど、切ったら切ったで、なんで切ったんだ!?って怒られちゃって……」
――うーん、理不尽……。
「アントンはエリアス様の前では恥ずかしがって本当のことが言えないだけですわ。きっと」
「だといいんだけど……」
エリアスが髪を耳にかける。
長めの金髪からのぞく、エメラルドのピアス。もちろんアントンとおそろいのものだ。
――アントンの性格からいって、本当に嫌いな相手に、あんな態度は絶対に取らないはずだわ。
ましてや、揃いのピアスなんて大人しくつけるはずがない。
なんだかんだ文句をいいながらも、毎日ランチの時間にはやってくるし、エリアスともこっそり二人で会ったりもしているようだし……。
――あとは、アントンがもうちょっと大人になって、エリアス様に対して素直になれればいいんだけど。ま、そんなことより週末のデートの相手を誰にするか、今のうちに考えておかなくっちゃ。
アデラは紅茶を飲みながら、ぼんやりと自分の恋人たちのことについて考え始めていた……。
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