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ナイトメア シリーズ【IFルート……のようなストーリー】
ヴィクトル編 〜ソフィアside〜 中編
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――何がなんだかわけがわからないわ……。
まだ嬌声が続いている部屋の扉をそっと閉めると、ソフィアは大きく深呼吸した。
なぜアントンがここにいて、ヴィクトルとあんなことになっているのか……。
そもそもアントンが王宮にいるはずはない。だって、アントンは……。
そこまで考えて、またソフィアの頭は混乱する。
――アントンは……、なんだっけ?
自室に戻ったソフィアは、鏡台の前に座り、鏡の中の自分をじっと見つめる。
藍色の瞳、藍色の髪、白く滑らかな肌、薄桃色の唇……。
そこにはいつも自分が認識している、ソフィア自身の姿があった。
だが……、
なぜだろう、ソフィアは鏡の中の自分に、ほんの少しだけ違和感を覚えた。
――何かが引っかかる。思い出せそうで、思い出せない……。
その時、ノックの音がし、いつもの女官たちがやってきた。
「殿下、ヴィクトル殿下とアントン殿下から、お茶の時間にご一緒しませんかとお誘いが来ています」
「アントン……、殿下……!?」
――王族の敬称になっている……。やはり、結婚したというのは本当だったのね……。私の記憶が混乱しているのか、それとも……。
この世界が、ソフィアの知っている世界とは別の時間軸を持った世界なのだとしたら……?
ソフィアはゆっくりと首を振った。
――まだそうと決まったわけではないわ。ヴィクトルとアントンの様子を見てから判断しても遅くはないわ。二人して私をからかっているということも有り得るのだから……。
「ぜひご一緒させていただくわ。二人に伝えておいて」
ソフィアはいつもの柔和な笑みを浮かべる。
「かしこまりました」
「ヴィクトルとアントンのことだけれど……、二人はとても仲がいいのね」
おしゃべりで有名な女官長に水を向けてみる。
「ええ、それはもう! いつ見てもお二人はぴったりと寄り添っていらして……。見ているこちらが恥ずかしくなるほどですわ!」
――そりゃそうでしょうね。朝っぱらから、交合に励むくらいですから……。
「二人には乗り越えなければいけないことがたくさんあったから、それで結びつきも深いのでしょうね」
ソフィアの意味ありげな言葉に、女官長は大きくうなずいた。
「本当に! 騎士団長のシルヴィア様の反対はそれはすごいものでしたものね!
でも、お二人は根気よく、ご両親を説得されて……。ご婚約が決まったときは私どももとても嬉しかったですわ」
「アントン殿下が、学園で魔力切れで倒れているところをヴィクトル殿下が魔力譲渡でお救いになってからのご縁なんですわよね。
本当に、ロマンチックだわ~!!」
若い女官も頬を染めて話に加わった。
「あら、違うわよ。ヴィクトル殿下は、幼い頃にはじめてアントン殿下に会ったときから、ずっと想いを寄せていらしたのよ」
「ますます、素敵~!」
「アントン殿下と恋仲になられてから、ヴィクトル殿下は本当にお変わりになられましたわよね。以前は……、どちらかというと他のものを顧みられないところもありましたけど、今はどんなものにも優しく、公正で、本当に王族にふさわしい人物になられましたわ~!」
女官長の瞳が、完全に恋する乙女のものになっている……。
「まあ……、そうなのですね……」
ソフィアは笑みが引きつるのを感じた。
――まさか、あのヴィクトルがっ!!??
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてお茶の時間……。
部屋に入ってくるソフィアに、ヴィクトルが近づいてきた。ソフィアは瞬時にヴィクトルの全身を観察する。
結婚したというヴィクトル。王族の結婚は、どんなに早くても学園を卒業してからとなるので、おそらく今は18か19歳以上ということになる。
そう思ってよく見れば、ソフィアがよく知っているヴィクトルよりも幾分背も高く、顔つきもぐっと精悍になっている。
――違和感の正体はこれね。
鏡の中の自分……。自分の知っている顔よりも、数年老けていたのだ。
「姉上、いくら姉弟といえど、プライベートな空間まで立ち入られるのは、今後ご遠慮いただきたいものです」
冷淡な表情に、冷え冷えとした声。これがあの情けないヴィクトルと同一人物とは思えない。
「それは失礼したわね。でも、ヴィクトル、朝からあんなことを恥ずかしげもなく……、王族として不謹慎であるとは思わないの?」
いつもの蔑んだ視線にも、ヴィクトルは動じなかった。
「姉上にはいささか刺激が強すぎましたか? それは申し訳ありませんでした。ですが、少しはお目溢しいただけないでしょうか?
私達はまだ新婚なもので……。未だ独身を貫かれていらっしゃる姉上には、おわかりにならないかもしれませんが……」
見下した口調に、ソフィアのはらわたは煮えくり返った。
――おのれ、ヴィクトルの分際でっ……!!!!
それに、それに私にだって、立派な婚約者がいるのよっ! 隣国の第3王子で、立派な方で気立ても良くて、結婚の準備もつつがなく進んでいて……。
だが……、
ソフィアは自分の婚約者であるはずの人物の顔も名前も、思い出すことはできなかった。
まだ嬌声が続いている部屋の扉をそっと閉めると、ソフィアは大きく深呼吸した。
なぜアントンがここにいて、ヴィクトルとあんなことになっているのか……。
そもそもアントンが王宮にいるはずはない。だって、アントンは……。
そこまで考えて、またソフィアの頭は混乱する。
――アントンは……、なんだっけ?
自室に戻ったソフィアは、鏡台の前に座り、鏡の中の自分をじっと見つめる。
藍色の瞳、藍色の髪、白く滑らかな肌、薄桃色の唇……。
そこにはいつも自分が認識している、ソフィア自身の姿があった。
だが……、
なぜだろう、ソフィアは鏡の中の自分に、ほんの少しだけ違和感を覚えた。
――何かが引っかかる。思い出せそうで、思い出せない……。
その時、ノックの音がし、いつもの女官たちがやってきた。
「殿下、ヴィクトル殿下とアントン殿下から、お茶の時間にご一緒しませんかとお誘いが来ています」
「アントン……、殿下……!?」
――王族の敬称になっている……。やはり、結婚したというのは本当だったのね……。私の記憶が混乱しているのか、それとも……。
この世界が、ソフィアの知っている世界とは別の時間軸を持った世界なのだとしたら……?
ソフィアはゆっくりと首を振った。
――まだそうと決まったわけではないわ。ヴィクトルとアントンの様子を見てから判断しても遅くはないわ。二人して私をからかっているということも有り得るのだから……。
「ぜひご一緒させていただくわ。二人に伝えておいて」
ソフィアはいつもの柔和な笑みを浮かべる。
「かしこまりました」
「ヴィクトルとアントンのことだけれど……、二人はとても仲がいいのね」
おしゃべりで有名な女官長に水を向けてみる。
「ええ、それはもう! いつ見てもお二人はぴったりと寄り添っていらして……。見ているこちらが恥ずかしくなるほどですわ!」
――そりゃそうでしょうね。朝っぱらから、交合に励むくらいですから……。
「二人には乗り越えなければいけないことがたくさんあったから、それで結びつきも深いのでしょうね」
ソフィアの意味ありげな言葉に、女官長は大きくうなずいた。
「本当に! 騎士団長のシルヴィア様の反対はそれはすごいものでしたものね!
でも、お二人は根気よく、ご両親を説得されて……。ご婚約が決まったときは私どももとても嬉しかったですわ」
「アントン殿下が、学園で魔力切れで倒れているところをヴィクトル殿下が魔力譲渡でお救いになってからのご縁なんですわよね。
本当に、ロマンチックだわ~!!」
若い女官も頬を染めて話に加わった。
「あら、違うわよ。ヴィクトル殿下は、幼い頃にはじめてアントン殿下に会ったときから、ずっと想いを寄せていらしたのよ」
「ますます、素敵~!」
「アントン殿下と恋仲になられてから、ヴィクトル殿下は本当にお変わりになられましたわよね。以前は……、どちらかというと他のものを顧みられないところもありましたけど、今はどんなものにも優しく、公正で、本当に王族にふさわしい人物になられましたわ~!」
女官長の瞳が、完全に恋する乙女のものになっている……。
「まあ……、そうなのですね……」
ソフィアは笑みが引きつるのを感じた。
――まさか、あのヴィクトルがっ!!??
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてお茶の時間……。
部屋に入ってくるソフィアに、ヴィクトルが近づいてきた。ソフィアは瞬時にヴィクトルの全身を観察する。
結婚したというヴィクトル。王族の結婚は、どんなに早くても学園を卒業してからとなるので、おそらく今は18か19歳以上ということになる。
そう思ってよく見れば、ソフィアがよく知っているヴィクトルよりも幾分背も高く、顔つきもぐっと精悍になっている。
――違和感の正体はこれね。
鏡の中の自分……。自分の知っている顔よりも、数年老けていたのだ。
「姉上、いくら姉弟といえど、プライベートな空間まで立ち入られるのは、今後ご遠慮いただきたいものです」
冷淡な表情に、冷え冷えとした声。これがあの情けないヴィクトルと同一人物とは思えない。
「それは失礼したわね。でも、ヴィクトル、朝からあんなことを恥ずかしげもなく……、王族として不謹慎であるとは思わないの?」
いつもの蔑んだ視線にも、ヴィクトルは動じなかった。
「姉上にはいささか刺激が強すぎましたか? それは申し訳ありませんでした。ですが、少しはお目溢しいただけないでしょうか?
私達はまだ新婚なもので……。未だ独身を貫かれていらっしゃる姉上には、おわかりにならないかもしれませんが……」
見下した口調に、ソフィアのはらわたは煮えくり返った。
――おのれ、ヴィクトルの分際でっ……!!!!
それに、それに私にだって、立派な婚約者がいるのよっ! 隣国の第3王子で、立派な方で気立ても良くて、結婚の準備もつつがなく進んでいて……。
だが……、
ソフィアは自分の婚約者であるはずの人物の顔も名前も、思い出すことはできなかった。
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