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第76話

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 アルベルトに転移魔法で連れてこられたのは、やはり俺達の新居用に建てられたという例の屋敷だった。

「ねえ、アルベルト、俺たちちょっと話し合ったほうがいいんじゃないかなっ!?」

 問答無用で寝室へ直行し、ベッドに沈められた俺。アルベルトが何をしようとしているかは明白だ。

「話し合う……? 隠し事ばかりの兄さんと、今更何を話すことがあるの?
それとも、何か他にも俺に告白しなければならないことがあるのかな?」

 俺の上に乗ったアルベルトが、自身の上着を脱ぎ捨てる。

「だからそれが全部誤解なんだって! 俺っ、アルベルトが思ってるようなことなにもしてないしっ、
アルベルトが心配するようなことなんてなにもないんだからっ!!」

 俺の上着のボタンを外そうとするアルベルトの手をつかむ。

「なにも、してない……?」

 アルベルトの青紫色の瞳が光る。その瞬間、俺の上着を乱暴に剥ぎ取られた。飾りの金ボタンが弾け飛ぶ。

「だからっ……」


「そう……、あの魔法大臣の息子に兄さんの全裸を見せて、全身を洗わせて、香油にまみれた身体を触れさせたことが?
それから、あの王子に魔力譲渡と称して口づけを受けて、舌を絡み合わせたことが……、何もしていないって!?」

 はだけたシャツから、アルベルトの手が侵入する。
 熱い手のひらで素肌を撫でられると、思わず息が上がった。

「アルベルト……っ!」

「そんな顔して、他の男も誘うつもりだったの?
兄さん……、あれから一度も許してくれないのは、どうして? もしかして俺以外に、男がいるの?」

 アルベルトの責めるような瞳……。

「違うっ、そんなことあるはずないっ!!」

「俺のこと、愛しているっていったのは嘘? それとも、そんなに良くなかった? 俺との……」

「だから、違うって! 家ではお母様もお父様もいるから気兼ねするし……っ、それにあれからずっと婚約パーティの準備で忙しかったし……」

 毎日俺とセックスすると宣言したアルベルト。だが、あの最初の夜から後、俺は何かにつけてその誘いを断っていた。
 だって、あんなこと毎日したら、俺の身体がもたないし、それに……、それに……。


「一度兄さんにはきちんとわからせてあげる必要があるみたいだね。
自分がどんなふうに周りから見られているか、そして自分が一体誰のものなのか……」

 アルベルトは俺のベルトを抜き取ると、俺の下半身に手を伸ばした。

「アルベルトっ、俺っ……」

「ほら、もうこんなになってるよ……、触られたくてたまらないの……? もしかして男なら誰でもいいのかな……?」

 咎めるようなアルベルトの口調に、俺は思わずアルベルトの頬を張った。

「馬鹿野郎っ!!!」

 ペチンと呆れるほど情けない音だったが、それでもアルベルトは驚いたのか、目を丸くしてその動きを止めた。

「兄さん……?」

「バカッ、このアルベルトの大馬鹿者っ!
俺はっ、お前がっ、お前だけが好きなんだよっ!
愛してるっていっただろ!! お前がいるのに、他の男のことなんか考えられるわけないだろっ!!!
アルベルトこそっ、なんでっ……、なんで俺なんだよっ!
俺みたいな普通の顔の、なんの取り柄もないような男の、いったいどこが好きなワケ!?
お前なら、女も男もよりどりみどりだろ!? わけわかんないよっ、お前みたいなやつが……、こんな、俺を……、好きでいてくれるなんてっ!!!」

 涙が自然と頬を伝う。

「ごめんっ、ごめんね兄さんっ!!! 俺が馬鹿だった! お願いだから泣かないで!」

 アルベルトは俺をベッドの上に起き上がらせると、力任せに俺を抱きしめてきた。

「ぐえっ……、苦しいっ」

 あまりの馬鹿力に俺の涙も引っ込んだ。

「兄さんっ! 兄さんのほうこそ、無自覚すぎるよ!
そんな可愛い顔で、無邪気で可愛い言動で、幼い頃から俺を惑わしておいて……!
こんな可愛いこと言われたら……、許すしかなくなるじゃないかっ!!!!」

「アルベルト、ごめんな……。ずっとお前に見放されるのが怖かったんだ……。
今度からはお前になんでも話すし、もう絶対隠し事なんてしない」

 俺もアルベルトを抱き返し、その広い背中に手を回した。

「わかったよ、兄さん。それから、今後は俺以外の男には近づいちゃ駄目だよ。
笑顔で話しかけたりしないで! 必要以上に親しくしないで! 約束だよっ!」

「うん……」

 ――うん? それって……、どうなのかな?


「でもさ、兄さん、俺……、ずっと兄さんに許してもらえなかったから、もう限界……。
だから……、いいよね?」

 アルベルトが優しく俺の髪を梳き、俺の首筋にキスをする。

「うん、アルベルト、……いいよ」


「あと、今日だけ俺のお願い、聞いてくれるかな? 今日の婚約の記念にっ!」

 俺を見つめるアルベルトの青紫色の瞳が、甘くきらめく。


「え、あっ? ……うん!?」







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