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第73話
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堅苦しい昼食会が終わると、あちこちを満開の花々で彩られた庭へと会場は移った。
「アントン様~~!!!!」
俺を呼ぶ声に、アルベルトはあからさまに顔をしかめる。
「あいつか……。兄さん、相手にしないで」
「いや、そう言われても、ダン兄様は……」
「その言い方も、もう止めて! 呼び捨てか、モーアン殿とでも呼べばいいでしょう!?」
「いや、でも、もうほんとうに兄なんだし……。戸籍上は……」
その昔、いつまでも「ダン兄様」と呼ぶのがはずかしくなって、「ダンさん」と呼び名を変えてみたことがあった。
だが、そう呼ばれたダンが首でも吊りそうなほど落ち込んでしまったので、致し方なくいまでも「ダン兄様」と呼んでいるわけなのだが……。
「アントン様っ! お元気ですかっ!?」
「うん、ダン兄様もお元気そうで……」
相変わらず人懐っこい顔を俺に向けてくるダン。少し短くなった赤毛に、空色の瞳が輝いている。
あの湖での出来事のあと、ダンに気づいたお母様がすぐに騎士団専属の医師のところにつれていき、最高峰の回復魔法により、ダンはすっかり元気になったようだ。
アルベルトが、俺とダンの間にずいっと割り込んでくる。
「モーアン殿、私の婚約者に馴れ馴れしく振る舞うのはおやめください」
絶対零度のアルベルトの表情。相変わらず、怖い……。
「そうはおっしゃっても、アルベルト様。私は実質、アントン様の兄なのです。アントン様っ、ぜひモーアン家にいらしてください。弟や妹たちもすごく楽しみにしているんです。俺も、家族が増えて嬉しいですっ!」
「……うん、ありがとう。ダン兄様……」
俺は引きつった笑みを浮かべる。
「一緒に食事をしたり、風呂に入ったり、一緒に寝たり……!!! 俺とアントン様はもう兄弟なんですから、なんの気兼ねもいりませんよね!
今週末にでもどうですか!?」
「いや……、そのっ……」
――なんか、ちょっと、いやだいぶ何かが違う気がするっ!!!
そして……、
アルベルトの纏うオーラがまた禍々しく、凍てつくような温度に変わっていく。
「性懲りもない犬め! 貴様っ、もう一度俺の電撃を喰らいたいのか!?」
アルベルトがダンの胸ぐらをつかむ。
「いえっ、滅相もないっ! アルベルト様、落ち着いてくださいっ、私はもうすでに盟約を結んでおりますっ!!」
ダンは俺とのあの一件を深く反省し、詫びるために、騎士団長であるお母様に「アントンに邪な目的で近づいたり、触れたりしない」という盟約を結ばされていた。ちなみにこの世界で盟約を結ぶということは、命をかけるという意味と同義である。
というわけで、ダンは俺には今後手出しはできない、ということになっているのだが……。
「アルベルト、もう止めて。ダン兄様は俺たちの結婚のために、俺をモーアン家に迎えてくれたんだから」
俺の言葉に、アルベルトがしぶしぶダンを離す。ダンはすぐに態勢を立て直すと、いつものように人好きのする笑顔になった。
「アントン様、これからは困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくださいね。なんせ、俺はあなたのたった一人の兄なんですから!
兄様が、ずっとアントン様を守って差し上げますからね!!」
「貴様っ!!!!!!」
アルベルトが拳を振り上げたと同時に、ダンは脱兎のごとくその場を去っていった。
「……」
「兄さん、わかってるよね!? あの野獣には、今後……」
「大丈夫、大丈夫!!! 近づいたりしないって! 俺はずっとアルベルトのそばにいるよ! ねっ!?」
「……」
アルベルトの手をギュッと握ると、アルベルトの凶悪なオーラの色が少し薄らいでくる。
――何この婚約パーティ!? 俺の修行の場かなにかの間違いなの!?
そして、うんざりするほどたくさんの人への挨拶も一通り終わろうとしたその時、
奴らはやってきた……。
「ハーイ! アントン、アルベルト! 婚約おめでとう!!」
「婚約ごときで、浮かれるなよ! アルベルト!」
「エリアス……、とヴィクトル殿下……」
――あー、やっぱり出てくるよね……。
「アントン様~~!!!!」
俺を呼ぶ声に、アルベルトはあからさまに顔をしかめる。
「あいつか……。兄さん、相手にしないで」
「いや、そう言われても、ダン兄様は……」
「その言い方も、もう止めて! 呼び捨てか、モーアン殿とでも呼べばいいでしょう!?」
「いや、でも、もうほんとうに兄なんだし……。戸籍上は……」
その昔、いつまでも「ダン兄様」と呼ぶのがはずかしくなって、「ダンさん」と呼び名を変えてみたことがあった。
だが、そう呼ばれたダンが首でも吊りそうなほど落ち込んでしまったので、致し方なくいまでも「ダン兄様」と呼んでいるわけなのだが……。
「アントン様っ! お元気ですかっ!?」
「うん、ダン兄様もお元気そうで……」
相変わらず人懐っこい顔を俺に向けてくるダン。少し短くなった赤毛に、空色の瞳が輝いている。
あの湖での出来事のあと、ダンに気づいたお母様がすぐに騎士団専属の医師のところにつれていき、最高峰の回復魔法により、ダンはすっかり元気になったようだ。
アルベルトが、俺とダンの間にずいっと割り込んでくる。
「モーアン殿、私の婚約者に馴れ馴れしく振る舞うのはおやめください」
絶対零度のアルベルトの表情。相変わらず、怖い……。
「そうはおっしゃっても、アルベルト様。私は実質、アントン様の兄なのです。アントン様っ、ぜひモーアン家にいらしてください。弟や妹たちもすごく楽しみにしているんです。俺も、家族が増えて嬉しいですっ!」
「……うん、ありがとう。ダン兄様……」
俺は引きつった笑みを浮かべる。
「一緒に食事をしたり、風呂に入ったり、一緒に寝たり……!!! 俺とアントン様はもう兄弟なんですから、なんの気兼ねもいりませんよね!
今週末にでもどうですか!?」
「いや……、そのっ……」
――なんか、ちょっと、いやだいぶ何かが違う気がするっ!!!
そして……、
アルベルトの纏うオーラがまた禍々しく、凍てつくような温度に変わっていく。
「性懲りもない犬め! 貴様っ、もう一度俺の電撃を喰らいたいのか!?」
アルベルトがダンの胸ぐらをつかむ。
「いえっ、滅相もないっ! アルベルト様、落ち着いてくださいっ、私はもうすでに盟約を結んでおりますっ!!」
ダンは俺とのあの一件を深く反省し、詫びるために、騎士団長であるお母様に「アントンに邪な目的で近づいたり、触れたりしない」という盟約を結ばされていた。ちなみにこの世界で盟約を結ぶということは、命をかけるという意味と同義である。
というわけで、ダンは俺には今後手出しはできない、ということになっているのだが……。
「アルベルト、もう止めて。ダン兄様は俺たちの結婚のために、俺をモーアン家に迎えてくれたんだから」
俺の言葉に、アルベルトがしぶしぶダンを離す。ダンはすぐに態勢を立て直すと、いつものように人好きのする笑顔になった。
「アントン様、これからは困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくださいね。なんせ、俺はあなたのたった一人の兄なんですから!
兄様が、ずっとアントン様を守って差し上げますからね!!」
「貴様っ!!!!!!」
アルベルトが拳を振り上げたと同時に、ダンは脱兎のごとくその場を去っていった。
「……」
「兄さん、わかってるよね!? あの野獣には、今後……」
「大丈夫、大丈夫!!! 近づいたりしないって! 俺はずっとアルベルトのそばにいるよ! ねっ!?」
「……」
アルベルトの手をギュッと握ると、アルベルトの凶悪なオーラの色が少し薄らいでくる。
――何この婚約パーティ!? 俺の修行の場かなにかの間違いなの!?
そして、うんざりするほどたくさんの人への挨拶も一通り終わろうとしたその時、
奴らはやってきた……。
「ハーイ! アントン、アルベルト! 婚約おめでとう!!」
「婚約ごときで、浮かれるなよ! アルベルト!」
「エリアス……、とヴィクトル殿下……」
――あー、やっぱり出てくるよね……。
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