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第72話

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 だが、結局、そうなにもかもうまくいくはずはなく……。


「絶対に嫌ですっ!!!!!」

 アルベルトの青紫色のオーラがものすごーく濃くなっている。

「そういわれても、モーアン家以上にいい条件はないのよ!?
親戚筋に養子にいっても、結婚は承認されないんだし。
ダンのところが一番問題なく、スムーズに行くんだから……」

「でも、だめと言ったらだめです!!!戸籍上とはいえ、兄さんが、あの……、あんな野獣の弟になるだなんて!!!!!!!」


 そう、俺かアルベルトがソールバルグ家から籍を抜き、親戚筋以外の養子になるために、ダンの家が名乗りをあげてくれているらしい。
 だが、ダン自身が、アルベルトがモーアン家に入ることに、断固反対!

 俺でなくては、絶対に受け入れないと固い意思を示しているそうだ。
 こんなところでも、アルベルトとダンの確執が……。


 お母様はやれやれとため息をつく。


「アルベルトがどうしても嫌というなら、フェルセン家からも一応、連絡はきているのよ。もちろん、アルベルトではなくアントンを受け入れるという条件だけど……」

「さらに駄目です!!! そんなところに、兄さんをやったら、そのまま一生帰ってこられません!!!」

 牙を剥くアルベルト。


 うーん、たしかに、俺もエリアスと兄弟になるのは、なんか嫌だし、すごく不安だ……。

 しかし、ダンにしろ、エリアスにしろ、すでにそんな申し出をソールバルグ家にしていたとは……。どんだけ、先を見越してるんだ!?


「アルベルト、俺は全然問題ないって。名前は変わっても、ここに住むことに代わりはないんだから。ただの戸籍上の話だろ?
それに、俺……、早くアルベルトと正式に婚約したい」


「兄さんっ!!!!!!!!!」

 俺にひしと抱きつくアルベルト。


 ――で結局、俺が一時的に、モーアン家に養子に入ることで決着したのだったが……。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 それから3日後……。


 俺は晴れて「アントン・モーアン」となり、アルベルトたっての希望で、ソールバルグ家で俺たちの婚約披露パーティが開かれることになった。

 急に決まった割には、かなり盛大に催されたパーティで、なんとセシリア女王陛下までお目見えすることとなった。

 ソールバルグ家の屋敷には、その日、各界の有力者たちが一同に会すこととなった。

 パーティは、着席型でランチが振る舞われるオフィシャルなものが終わった後、広い庭を会場とした立食型のカジュアルなパーティへと移行していく形だ。




「アントンさん、アルベルトさん、このたびはおめでとうございます」

 藍色の瞳に、藍色の髪……。

 ソフィア王女とヴィクトル王子と同じその色を持つその人は、この国をまとめる女王陛下。

 俺は、その威厳の前に、食事が一口も喉を通らない状態だった。


「ありがとうございます」

 俺の隣に座るアルベルトは、まったく緊張などしていないらしく、相変わらず憎たらしいほど正装姿が様になっていた。ちなみに、あの舞踏会の夜に俺たちが着たあの正装一式は、アルベルトがこの婚約披露パーテイのために密かに準備していたものだったらしい。
 まったく、どれだけ用意がいいんだよ!!

「今日は、ソフィアがこちらにうかがえず申し訳ありません。あの子ったら、アルベルトさんに自分の結界を破られたことから、未だに立ち直れていないみたいで」

 セシリア女王が楽しげにふふっと笑う。


 ――いや、笑い事ではない!


 アルベルトはあの舞踏会のあの夜、俺を助け出すために、王宮の舞踏会会場のみならず、俺がいたあの風呂場のある離宮まで、その魔力でほとんど原型なく破壊してしまったのだった。
 だが、事の顛末を知ったセシリア女王は、ソフィア王女とヴィクトル王子の非をすべて認め、アルベルトはお咎めなし、となった。
 そして、例のお茶会の出来事含め、ソフィア王女とヴィクトル王子の悪巧みは、すべてセシリア女王にバレてしまったそうだ……。

 ちなみに、俺に飲み物をぶっかけてきたご令嬢3人組の凶行も、俺を浴場に連れていくために、ソフィア王女の指示したことだったとか。

 よかった。俺が多重人格者じゃなくって……。


 ――それにしても……。

 俺はよそ行きの笑みを浮かべるアルベルトをちらりと見る。

 ――そりゃ、あのソフィア王女といえども、引きこもりたくなるよな。

 ソフィア王女は、アルベルトに完敗した心の傷が未だに癒えず、ショックで寝込んでいるらしい。



「アルベルトさんには、感謝していますの。ソフィアは、いままで挫折というものを知らず、傲慢さに磨きがかかっておりましたから、このことがいい教訓になったことでしょう。あのままでは、次の女王はとても務まらないと思っていましたのよ」

「そうおっしゃっていただき、私も安堵の思いです、陛下」

 アルベルトが恭しく頭を下げる。

 ――いや、お前がしたことは決して褒められることではないぞ!!! 女王陛下も、王宮をめちゃくちゃにされているのに、その心の余裕はなに!? 陛下クラスになると、下々のものとはそもそも発想が違うのか!?


「今回のことのお詫びもかねて、お二人の結婚式では、私が祝福をさせていただきますわね」

「陛下がっ!?」

 普通、結婚式で女王が祝福するのは、王族のみ。いくら騎士団長の息子の婚姻とはいえ、これは、破格の対応だろう。

「ありがたき幸せ」

 アルベルトが拳を胸に当て頭を垂れるのに、慌てて俺も倣った。



 ――結婚式も、ものすごいことになりそうだ……。


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