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第66話

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「えっ!? あの二人は……?」

 黒焦げの無惨な姿で、風呂に浮いているエリアスとヴィクトル……。

「まだ命はあります。幸い仰向けで浮いているようですし、そのうち王宮の誰かが気づくでしょう。
さあ兄さん、そんなことより俺と呼吸を合わせて」

 かなりの重症のようにも見えるのだが、大丈夫なのだろうか……?


 そんな俺の不安をよそに、アルベルトはさっさと転移魔法の呪文を唱え始める。

 ――ああっ、また世界がぐるぐる回るっ!!!!!



 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「……」

 俺は今、ダンとの一件があったときにアルベルトに連れてこられたあの邸宅にまた来ている。


 そして、さっきアルベルトに言われたとおり、一人で風呂に入っている!!!

 ちなみに今日も泡風呂だ!!


 そんなことより……!!


「やっぱり、絶対におかしいって……!!」

 俺は頭を抱える。


 ――状況を整理してみよう。


 さっき俺、確かにアルベルトに告白したよね!? 

 でも、それに対する返事が、ないよね?


 普通さ、愛してる人に「ア・イ・シ・テ・ル!!」って言われたら、「俺もっ、ア・イ・シ・テ・ル!!!」ってなって、『エンダァァァァ…(略)』って始まるよね!?


 でも……、俺が愛してるって言ったときのアルベルト、めっちゃ素の顔だったよね!? もしかして、迷惑だった!?
 っていうか、

 ――もしかして、なかったことにされちゃった!?


「どーしよ!!!」

 俺ってば、めちゃくちゃ早まったことしちゃったのか?

 アルベルトはたしかに俺のこと好きみたいだけど、俺とアルベルトは血は繋がらないとはいえ、兄弟なわけで!
 急に兄に、ガチで告白されても、弟のアルベルトはきっと困るわけで!!!

 俺は、ショックにうなだれたまま風呂から上がり、アルベルトが用意した衣服に着替えた。

 袖を通して気づく。


 あれ? これって……??


 さっきアルベルトが舞踏会に着てきていた服とおそろい??

 白をベースとした正装のスタイルで、キラキラした飾りがとても上品だ。


「もう寝るだけなのに、なんでこんな服……!?」

 はじめて見た服だが、俺のサイズにピッタリだ。もしかしてわざわざ誂えたのだろうか?

 てっきりパジャマに着替えるのだと思っていた俺は、首をひねる。


「アルベルト、出たよ!」

 風呂場から出て居間を探すが、アルベルトはいない。


「アルベルトー、どこー?」

 一階の部屋を見て回るが、どこにもアルベルトの気配はない。


 ――もしかして、置いていかれた?


 ここがどこかもよくわかっていないのに、こんなところに一人残されたら、帰り道がわからない。

 俺が不安になって、二階へと続く階段を登っていると、上からアルベルトの声がした。


「兄さん! こっちに来てください。2階のバルコニーへ……」

 ほっとして、俺は階段を駆け上がった。

 そして、バルコニーへと続く、ガラス扉を開けた……。




「わあっ……」



 そこに広がっていたのは、満点の星空。

 俺に気づき、振り返るアルベルト。


「兄さん……」

 俺と同じ、白を基調とした気品のある衣装を着て、優しく俺に微笑みかける。


 長めの銀髪が夜風になびき、青紫色の美しい瞳が俺だけを映している……。
 

「アルベルト……っ」


 近づく俺を、アルベルトはきつく抱きしめた。
 
 俺もそれに応えるように、アルベルトの背に手を回す。


「兄さん、踊ってくれませんか……? 俺と……」

 アルベルトの息遣いが耳元で聞こえる。


「えっ、ああ……、うん。でも、どうやって?」

 アルベルトは身体を離すと、俺の手をとった。


「俺がリードするから、兄さんはそれに合わせて」

「うん……」

 アルベルトが低く小さな声で、ワルツの曲を口ずさむ。

 それに合わせて、俺たちはワルツを踊った。


 満点の星空の下、白いバルコニーで俺をエスコートするアルベルトは、まるで絵画から抜け出してきたようで、目眩がするくらい美しかった。


「兄さんのラストダンスの相手は俺ですね」

 アルベルトが俺の手の甲に口づける。


「そういえば、舞踏会ってまだ続いているのかな……」

 あのとき、王宮の明かりは全て消えていたようにも見えた。


「……」

 アルベルトは、俺からわざと目をそらす。


「アルベルト! 一体なにがあったんだよ!? 教えて!」

 アルベルトは俺の腰に手を回した。


「舞踏会は……、おそらくもうとっくにお開きになっているでしょう。
兄さんの居場所を聞き出すためにソフィア王女に詰め寄ったとき、ひと暴れしてしまったもので……」

「ひと暴れ……」



 この夜が後に、「血塗られた舞踏会」として、長い間語り継がれることになった伝説の一夜となったことを俺が知るのは、もうしばらく後の話。

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