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第62話

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 猫はシャム猫みたいな顔をしたプライドの高そうな印象で、優雅な身のこなし。
 一方、犬はテリアみたいな四角っぽい顔で縮れ毛、風呂の床でツルツル脚を滑らせてはワシワシ吠えていた。

 俺は思わず吹き出した。


「お前ら、どっから来たの? もしかしてソフィア王女のペットかな?」

 猫は、前脚をお湯につけて少し様子をみると、そのままチャポンとお湯に飛び込んできた。

 犬も負けじと風呂に飛び込み、犬かきでこちらに向かってくる。

 わーさすが王宮のペット! 自ら風呂に入るとは綺麗好きにしつけてあるね!


 猫はスイスイ泳いで俺の目の前までやってきた。

 俺がそのまま猫を抱きとめてやると、猫は俺の首筋をペロペロと舐めてきた。

 猫の舌は思ったよりずっとトゲトゲしていて……、うーん、気持ち悪いっ!!


 そして俺の背後からは、ワシワシと黒い犬が何度も水を飲みながら必死で泳いでくる。

 ――犬なのに、泳ぎが下手だな……。



 黒い犬は、ようやく俺の背中にたどりつくと、溺れそうになりながらも俺の両肩に前脚をかけた。

 犬特有のハアハアという荒い息遣いが俺の耳元にかかる。


「よしよし、よく頑張ったね!
じゃあ、さっそくだけど」


 ――もう出よう!!!



 グッバイ。俺の至福のお風呂タイム!


 犬猫の風呂のお世話をしてあげられるほど、今の俺には心の余裕なんて全く無い!

 俺は、猫と犬をそれぞれ両脇に抱えると、そいつらをそのまま風呂の床に置く。


「じゃあな! お前たちはゆっくりつかっていくといいよ!」

 だがそのまま出口に向かおうとする俺に、その猫と犬がニャーニャーワンワンとまとわりついてくる。


 ――おいっ、この犬、サカッてるのか!?


 俺の足に、犬がナニをこすりつけてくる。


「ちょっ、やめろっ、なんだよっ、このバカ犬っ! 離れろっ!」


 俺が、破廉恥な犬を振り払おうとしたその時、

 ボカンと音がして……、


「ヤッホー、アントン! すっかり元気になったみたいで安心したよ!」


 ――エリアス!? 今度は猫にっ!?


「アントン、お前っ! 今、愚民の分際で俺様を蹴ろうとしただろうっ!?
いますぐ、頭を垂れろっ!!!!!」


 ――そして……、このおバカ犬は……、やっぱりヴィクトル!?


 そしてこんな状況下で、俺たち3人は真っ裸であって……。




「エリアス……、殿下……、どうしてここに!?」


 言い争いをしていた二人……。

 いったい、どういう経緯があって、犬猫に……!?


「僕たち仲直りして、一緒にみんなでお風呂に入ろうってことになったんだよね~。殿下?」

 エリアスが意味ありげにヴィクトルに目配せする。


「まあ、そういうことだ!」

 裸のままヴィクトルがふんぞり返る。


「へえ~」

 わけのわからないながらも、なんとか納得しようとした俺だったが……、


 って、ちょっと待て! もしかして、ヴィクトルってばエリアスともそういう関係!?
 ヤダ! 不潔!!!!

 考えたくもないけど、この世界って、男同士のそういう関係が密かに流行ってたりするのか!?


 俺は2,3歩後ずさりする。


「そ、それは、良かったですね~!
じゃあ、お邪魔虫は退散するとして、あとはお二人で仲良くどうぞ~」

 俺は薄ら笑いを浮かべ、一目散に逃げ出そうとした。
 だが……、


「待って!」
「待つんだ!」

 右腕をエリアスに、左腕をヴィクトルに掴まれ、俺は簡単に引き戻されてしまったのだった。

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