上 下
57 / 95

第57話

しおりを挟む
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王宮は着飾った男女たちで、これ以上なくにぎわっていた。

「すごい人だな」

 俺はあたりをきょろきょろと見渡す。

「学園の生徒はほとんど来てるんじゃない?
突然の開催だったから、にわかカップルも多そうだけどね~」

 エリアスは身元がバレないように、「ザ・仮面舞踏会」って感じの目元だけを隠すキラキラしたマスクを着けている。
 だが、マスクをつけていても、その美しさはダダもれらしく、さっきから周りの男たちからの視線がかなり痛い。

 本日の舞踏会に参加するには、カップルのどちらかが学園の生徒であることが条件らしい。

 もちろん、俺はれっきとした在校生であるから、入り口でのチェックもなんなくクリアしたのだが……、


「ちょっと、あれ、アントン様じゃない!?」

「なんでアントン君が舞踏会にっ! お連れの令嬢はどなただ?」

「うそっ! アントン君が、見ず知らずのご令嬢となんてっ!!!」

「嫌っ! 信じられない!!!」


 会場に俺の姿を認め、ざわめきが起こる。

 どーもすみませんね、こんなクオリティの低い男が王宮の舞踏会なぞに参加してしまって!!!




「アントン、周りのことなんて気にしちゃだめだよ。さあ、僕とファーストダンスを踊ろう!!」

 エリアスが、くるりと回って俺の手を取る。ミントグリーンのドレスの裾が、花びらみたいに揺れ、
 高く結い上げた髪に止められている淡い緑色の宝石もキラキラと輝いている。

 うおっ、まぶしいっ、まぶしすぎる!! 
 俺としたことが、うっかりエリアスにときめいてしまいそうになったぜ!!!


 舞踏会でのお約束として、一番初めのダンスは一緒に参加した相手と踊るのが決まりだ。
 そして、恐ろしいことに、この恋愛至上主義の世界では、ファーストダンスとラストダンスの相手が全然別だったりすることも珍しくはない。

 音楽が始まり、エリアスは軽やかにステップを踏む。なぜか女性パートのダンスもばっちりで、踊りの下手な俺をうまくリードして踊ってくれる。


「ふふっ、楽しいね。アントン!」

「うん、まあ……」

 その時、視界の端にあのアデラの姿が入った。

「エリアスっ! アデラがいたよ!」

 エリアスの言う通り、アデラは金茶の髪の男と楽しそうに踊っている。

「やっぱりね……、ちょっと近づいて様子を見てみよう」

 エリアスはちらりとアデラの方に視線を向けると、さりげない様子で踊りならが近づいていく。

 アデラとその男はじっと見つめ合っていて、周りの様子はまったく目に入っていないようだった。


 ――あの男の顔、どこかで……!?


 しかしもう少しで、二人の会話が聞こえそうなくらい近づいたところで、曲が終わってしまった。



「アントン、もう一曲僕と踊ろう?」

 エリアスが耳元でささやいたその時……、



「アントン様っ、これはいったいどういうことですの!?」

「そのお方はいったいどなたですの!?」

「私との約束はどうなったのです!?」


 ピンク、黄色、オレンジのドレスを着たどこぞのご令嬢3人が、なぜか俺の周りをぐるりと囲んだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

白陽の残骸

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:39

妹に婚約者を奪われましたが今は幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:32,290pt お気に入り:2,180

月夜の陰で悪魔と踊る

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:13

年齢30歳、童貞歴64年……?

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:194

旦那様は、転生後は王子様でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:575

悪役令嬢を演じるのは難しい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:484

年上のお兄さんにマッサージされてメスイキするショタ

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:223

田舎のおっちゃん♂とヤリまくる夏休み☀️

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:73

私のことを愛していなかった貴方へ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:972pt お気に入り:6,468

処理中です...