56 / 95
第56話
しおりを挟む
エリアスは、俺のベッドに腰掛け、くすんくすんと鼻をすすっている。
その姿はまるで本物の深窓の令嬢のようだ。
「えっ、じゃあ、アデラが別の男と舞踏会に行っちゃったって、そういうことか?」
「……うん、そうみたい……。アデラは、僕には熱があるから行けなくなったって、嘘ついて……」
俺が渡したハンカチを受け取ると、エリアスはそれでチーンと鼻をかんだ。
「……前見かけたっていう、あのガタイのいい男か?」
「……ううん、別のヤツ。結構身分が高い貴族で、金茶の髪のすかした男だよ」
「……」
俺は、額に手を当てる。ああ、どいつもこいつも……。
「だから一緒に舞踏会に乗りこんで、アデラを説得してよ!
こうやって変装してたら、僕だってわからないでしょ。こっそり近づいて、様子を伺いたいんだ! 最終的には相手の男とも話をつけたいし!」
エリアスの真剣な瞳。
従姉の不祥事とあっては、俺としても黙っているわけにもいかない。
「わかった……、でも俺、舞踏会に行く予定なんかしてなかったから、服装が……」
クローゼットには正装一式も入っているが、舞踏会に参加するにしてはちょっと堅苦しすぎる。
それに、中身はエリアスとはいえ、これほどの美女をつれているのが、しょっぼい俺というのも気が引ける……。
「そんなことなら、大丈夫! 僕の魔法でちょちょいのちょいだよ~!」
エリアスは言うと、どこからか小さな小瓶を取り出し、ブツブツと呪文を唱え始める。
小瓶のなかのキラキラした砂のようなものを俺に振りかけると、なんと俺の姿は、輝くほど立派な王子様(服装のみ)にっ!!!
髪型も後ろに流されて固められ、ちょっと大人っぽくなっている(当社比)!!
「すごいっ、すごいなエリアス!!」
俺は鏡の中の自分にびっくりしていた。 まさに、シンデレラの魔法使いのおばあさんのようだ。
「素敵だよ~、アントン! 惚れ直しちゃった!」
エリアスもお世辞を言ってくれる。
と、その時俺は、とても素晴らしいアイデアを思い付いた。
「あのさ、エリアス。俺、アルベルトの誕生日プレゼントをどうしても今夜中に買いに行きたいんだ!
舞踏会に行く前に、城下町のどこか空いている店にでも寄ってくれないか?」
エリアスは、にっこり微笑む。
「お安い御用だよ! でも、アルベルトの誕生日プレゼントを買うんだったら、もっといい店を知ってるよ!
夜遅くにしか営業してないんだけど、知る人ぞ知る魔道具屋があるんだ!
そこの店のものだったら、きっとアルベルトも大喜びだよ~!
舞踏会が終わったらちょうどいい時間になってるから、アデラと3人で行って、一緒にアルベルトのプレゼントを選ぼうよ!」
なんと!!! 持つべきものはやはり友達だ。
俺は目を輝かせる。
「ありがとう、エリアス。すごくありがたいよ!」
「じゃあ、先に舞踏会に行くよ。転移魔法で王宮までひとっとび~!!」
婚約者に浮気された悲劇の男だというのに、エリアスはいつも通り底抜けに明るかった……。
その姿はまるで本物の深窓の令嬢のようだ。
「えっ、じゃあ、アデラが別の男と舞踏会に行っちゃったって、そういうことか?」
「……うん、そうみたい……。アデラは、僕には熱があるから行けなくなったって、嘘ついて……」
俺が渡したハンカチを受け取ると、エリアスはそれでチーンと鼻をかんだ。
「……前見かけたっていう、あのガタイのいい男か?」
「……ううん、別のヤツ。結構身分が高い貴族で、金茶の髪のすかした男だよ」
「……」
俺は、額に手を当てる。ああ、どいつもこいつも……。
「だから一緒に舞踏会に乗りこんで、アデラを説得してよ!
こうやって変装してたら、僕だってわからないでしょ。こっそり近づいて、様子を伺いたいんだ! 最終的には相手の男とも話をつけたいし!」
エリアスの真剣な瞳。
従姉の不祥事とあっては、俺としても黙っているわけにもいかない。
「わかった……、でも俺、舞踏会に行く予定なんかしてなかったから、服装が……」
クローゼットには正装一式も入っているが、舞踏会に参加するにしてはちょっと堅苦しすぎる。
それに、中身はエリアスとはいえ、これほどの美女をつれているのが、しょっぼい俺というのも気が引ける……。
「そんなことなら、大丈夫! 僕の魔法でちょちょいのちょいだよ~!」
エリアスは言うと、どこからか小さな小瓶を取り出し、ブツブツと呪文を唱え始める。
小瓶のなかのキラキラした砂のようなものを俺に振りかけると、なんと俺の姿は、輝くほど立派な王子様(服装のみ)にっ!!!
髪型も後ろに流されて固められ、ちょっと大人っぽくなっている(当社比)!!
「すごいっ、すごいなエリアス!!」
俺は鏡の中の自分にびっくりしていた。 まさに、シンデレラの魔法使いのおばあさんのようだ。
「素敵だよ~、アントン! 惚れ直しちゃった!」
エリアスもお世辞を言ってくれる。
と、その時俺は、とても素晴らしいアイデアを思い付いた。
「あのさ、エリアス。俺、アルベルトの誕生日プレゼントをどうしても今夜中に買いに行きたいんだ!
舞踏会に行く前に、城下町のどこか空いている店にでも寄ってくれないか?」
エリアスは、にっこり微笑む。
「お安い御用だよ! でも、アルベルトの誕生日プレゼントを買うんだったら、もっといい店を知ってるよ!
夜遅くにしか営業してないんだけど、知る人ぞ知る魔道具屋があるんだ!
そこの店のものだったら、きっとアルベルトも大喜びだよ~!
舞踏会が終わったらちょうどいい時間になってるから、アデラと3人で行って、一緒にアルベルトのプレゼントを選ぼうよ!」
なんと!!! 持つべきものはやはり友達だ。
俺は目を輝かせる。
「ありがとう、エリアス。すごくありがたいよ!」
「じゃあ、先に舞踏会に行くよ。転移魔法で王宮までひとっとび~!!」
婚約者に浮気された悲劇の男だというのに、エリアスはいつも通り底抜けに明るかった……。
158
お気に入りに追加
2,637
あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる