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第52話

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 アルベルトとまたあんなことになってしまって、俺は自分の想いにどうケリをつけていいか全然わからなくなってしまった。


 でもそんな俺の内面の葛藤を知ってか知らずか、結局アルベルトはいつも通り……、

 ――とはならなかった!!!!



「兄さん、俺から絶対に離れないで!」

「うん、わかった。……でも大丈夫だよ。だって、ここは……」


 ――俺の自室だからね!?



 ソールバルグの屋敷の、俺の部屋。

 昨晩、さすがに寝るときは自分の部屋にしぶしぶ戻ったアルベルトだが、あんなことがあったせいなのか、どうなのかわからないが……、


 ――アルベルトは、超絶過保護の『兄さんは絶対に俺が守るマン』と化してしまった!!!


 おはようからおやすみまで、俺のそばをひと時も離れようとしないアルベルト。

 今も俺は、アルベルトに後ろから抱きしめられるようにして、ソファで本を読んでいる。

 もちろん、内容なんてぜんっぜん頭に入ってこないからな!
 なんなら、上下逆に読んでたって全然わからないくらいだからな!!!

 そして俺は今、ある問題において、超絶困った状況になっている。

 というのも、
 
 アルベルトの誕生日プレゼントを買うのは今日しかないというのに、アルベルトがこんな状態で、ぜんっぜん俺から離れようとしてくれないのだ!

 明日は、貴族学校の1年の締めくくりといえる学園祭、そしてその次の日がなんとアルベルトの誕生日!

 日曜日の今日、アルベルトの誕生日プレゼントを町に買う予定にしていた俺だが……、

 ――いったいどうすりゃいいの!?


 ヴィクトルのクッキー事件のこともある。この16歳の誕生日で、アルベルトの心をばっちりつかむプレゼントを用意して、何とか名誉挽回したい俺なのだが……。

 まさかアルベルトの目の前で、アルベルトの誕生日プレゼントを買うわけにもいくまい。プレゼントというのは、サプライズあってこそ、喜びも倍増するものなのだ。
 しかし、ここまでべったり張り付かれては、俺としては身動きが取れない。
 かといって、俺が誕生日プレゼントを用意し損ねるという大失態を犯した場合、ただでさえいまいちなアルベルトの俺への評価がさらにダダ下がるという恐ろしい結末が待っている!
 だが、俺のちっぽけな脳みそでは、この事態を打開できるような解決策が思い浮かぶわけもなく……。


「明日の学園祭は、俺がついていくから安心してくださいね。片時も兄さんのそばを離れませんから……」

 俺の首筋に息を吹きかけるみたいにして、アルベルトは俺に語り掛ける。

「うん、わかった。ありがとう、アルベルト……」

 そして、アルベルトの言葉で、学園祭で何か調達するという選択肢も消えてしまった。魔法研究部が売りに出す回復ポーションでもいいかなって、ちょっと思ってたのに!!!!

 貴族学校の学園祭は、基本的に生徒だけでなく、その家族や恋人、婚約者なんかと参加するのが主流だ。
 恋人も、婚約者もいない俺は、もともとお母様と一緒に行くはずだったのだが、お母様は突然騎士団の大切な用事ができてしまったとかで、その役目をあっさりアルベルトに譲ってしまった。

 以前アルベルトが学園祭に一緒に行きたいと言ったときは、絶対に駄目だと凄んでいたのに……。




 そうこうしているうちに、何も解決しないまま、あっという間に時間だけが過ぎていき……、

「兄さん。明日は楽しみですね」

 夕食後、俺の部屋で毎週恒例の魔力譲渡の準備をしてくれているアルベルト。
 
 いつも通りベッドに寝そべる俺だったが……、


 ――なんか、この状況、絶対おかしくない!?


 アルベルトにすっぽりと抱きしめられている俺。

 ――触れている面積が多い方が、魔力譲渡には都合がいい……という理由らしいのだが!!

 ――そんなこと、今ま一回もで言わなかったよね!?


 アルベルトは、俺に頬ずりするみたいに顔を寄せてくる。

「途中で寝てしまっていいですよ。いい夢を見てくださいね」


 ――お前は俺の恋人……!?、いや、ママか!?

「うん、ありがとう」

 これはどう考えても、普通の仲のいい兄弟の範疇を超えている!!!!


 ――でも、アルベルトはあれ以来、スキンシップはすごいくせに、キスは絶対にしてこない。

 普通あんなことがあって、お互い盛り上がって、すごく気持ちよくなったりして、しかも俺が絶対に拒まないとわかっているなら、絶対するよね!?
 キスも、それ以上のことも!!!
 健全な男子ならば、もちろんそういうことをしたいという欲望は絶対にあるはずで!!

 

 だからつまり、アルベルトは……、

 俺をそういう対象とは見ていない!?

 俺への感情は、ただの兄弟に対する過剰な独占欲!?

 あの時媚薬でタガが外れていた俺がいくらすがっても、決して身体を繋げようとしなかったアルベルト。

 兄弟で越えてはいけない一線は、守ったということなのだろうか……?


「朝、起こしに来るのでそれまでぐっすり眠っていてください」

「うん……、おやすみ、アルベルト」

 俺がアルベルトの胸に顔をうずめると、アルベルトは俺の髪を優しく撫でてくれた。


 ――アルベルト……、アルベルトは俺のこと、どう思ってる?


 アルベルトの真意について考えると、俺の胸はキリキリと痛みを覚え、頭はこれ以上なく混乱する。

 こんな風に優しく触れられて、アルベルトの熱をこの身体に感じてしまったら、俺はもういつも通りではいられない。
 
 アルベルトにもっと触れたいし、アルベルトともっともっと気持ちいいことがしたい。

 そして、あわよくば……、兄としてではなく、アルベルトの特別になりたいと願ってしまう。


 ――俺の分際でそんなこと、絶対に不可能だとわかっているのに!


 アルベルトの身体から暖かい魔力が流れ込んでくる……。

 消化しきれない中途半端な思いを抱えながら、俺の意識はあっという間に深いところへと沈んでいった……。



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