上 下
48 / 95

第48話

しおりを挟む
「ふ、二人で風呂に入るなんて、何年ぶりかな? な、なんか、変な感じ……だね……」

「……」

 湯船に浸かったアルベルトは、俺をギロリと睨む。

 風呂の中だというのに、俺の背筋には冷や汗が伝った。


 アルベルトの魔法で、風呂はいい香りのするモコモコの泡風呂に変えられている。

 俺はどっちかっていうと、日本風の温泉が好きなんだけど……ってそんな事を考えている場合ではなく!!


「そ、そうだっ! ドラゴン退治はどうだったんだ? お母様は一週間くらい戻らないって言ってたけど……」


「兄さんへの魔力譲渡があるんです。日曜までには戻ってくるに決まってるでしょう!」

「そ、そうだよね。ご、ごめんねアルベルト……」

「兄さん! なにかほかに俺に言うことはないんですかっ!?」

「……それはっ、そのっ、いろいろあるとは思うんだけど、一体何から説明していいんだか……」


「兄さんはどうしていつもそう、隙だらけなんですかっ!?
俺はいつも身の回りには気をつけるように言っていますよね!あの男にも気をつけろと!!!
もし俺が間に合わなかったら、いまごろ兄さんはあの男の慰み者にされていたんですよっ!!!」

 ざばっと水音をたてて、アルベルトが距離を詰めてくる。

「はっ、はいっ! ごめんなさい! すべて俺の不注意で……」

「今、兄さんは自分がどんな状態がわかっているんですか?
あの男に穢されて、どこもかしこもあの男の痕がっ……」

 アルベルトは気色ばんで俺の腕をつかんだ。


「わっ!!」

「ほらっ、ここも、ここも、ここもっ……!」

 アルベルトに腕を取られ、湯船の中で俺の身体が引き寄せられる。

 指摘された俺の両腕を見ると、いたるところに鬱血痕と噛み痕があった……。



 ――ダン・モーアン……。人の良さそうなあの男が、あんな変態性癖を抱えていたなんて!!



「今日ほど、治癒魔法が使えないことを悔やんだことはありませんっ!」

 スポンジを手にしたアルベルトは、まるで積年の恨みでもあるかのように、俺の腕に残された噛み跡を強い力でゴシゴシこすった。

「痛いっ、痛いって、アルベルト!」


 俺を犬みたいにワシャワシャと洗うアルベルトは、苛立ちを隠しきれないみたいで、さっきから口調や所作が荒々しい。


 だが、そんなアルベルトを目の前にして、俺は……、



 ――めちゃくちゃ興奮していた!!!!



 そうだよ! 俺だってあの果実酒風の激甘媚薬を飲んでいたんだってば!

 しかも、その説明書きによると「いつもは抑え込んでいる自分の感情に素直になれる」らしい。

 というわけで、俺は現在……、

 普段は隠しているアルベルトへの劣情がダダ漏れの状態!!


 アルベルトのたくましい裸の胸や腕が目の前にあり、その美しい瞳は俺だけに向けられていて、俺はこれ以上なくアルベルトに構われていて……。

 さっきから何度も、ついアルベルトに抱きついてしまいそうになるのを、理性でギリギリの状態で抑えているんだぁっ!



 ――あー、これが泡風呂で良かったかも……。

 ――しかし、出るときにどうしよう。うまくタオルで隠せるのか……!?


 アルベルトに触れられているだけで、もうすでにどうしようもなく反応してしまっている俺自身。

 どうやって誤魔化そうかと考えていたのもつかの間、アルベルトの手が俺の下半身に伸びてきた。


「あっ、そこはいいって! 自分でっ」

「駄目です。全部俺に見せて!」

 容赦ないアルベルトの手が、俺の太ももをつかむ。


「……っあ!!」

「……そんな声、あの男にも聞かせたんですか?」

 アルベルトの声のトーンが一段下がる。


「いや、その……、それは……」

 しどろもどろになる俺に、アルベルトはにやりと笑った。



「適切な治療を施すためにも、兄さんがあの男にどんなことをされて、どんなふうになったか、詳細に知る必要がありますね。
もちろん協力してくれますよね……、兄さん」



 ――終わった……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

処理中です...