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第46話 ~シルヴィアside~
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~シルヴィアside~
シルヴィア・ソールバルグは逡巡していた。
――これで、本当に良かったのかしら……。もしかしたら私は、なにかとんでもない間違いを犯しているのでは……?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シルヴィアが、アルベルトのその計画に気づいたのは、執事のトーマスの耳打ちからだった。
――まさか、アルベルトが!?
自分の息子が、そんなおぞましいことを密かにたくらんでいるなんて、にわかに信じられないシルヴィアだったが……。
――でもこれで、決断できたわ。やはり、アルベルトにアントンを渡すわけにはいかない。
可愛いアントンにふさわしい相手は、自分の部下であるダン・モーアンしかいないと、シルヴィアは確信した。
シルヴィアとアルベルトの間に密かに交わされた取り決めの日……、アルベルトの16歳の誕生日はすぐそこだ。
――アルベルトが16歳になる前に、なんとしても決着をつけなければ!
――絶対に、アントンとダンを結びつける!!
そして、ついに実行の日がやってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ダンはもともと、相手の感情を敏感に感じ取り、それを何よりも先んじてしまうため、恋愛においては「あと一押し足りない」ところがあった。
せっかくアントンといい雰囲気になっても、すぐにそれを察知したアントンにはぐらかされてしまう。
ダンがかなり前からアントンに特別な感情を抱いていたことはもちろん知っていたし、アントンも幼いころからダンにとても懐いていたため、放っておいても二人の関係は進展するだろうと、シルヴィアは高をくくっていた。
――だが、いったい誰が予見できただろう。シルヴィアのもう一人の息子、アルベルトが兄のアントンに恐ろしいほどの執着心を抱くようになっていったことなど。
なかなか進展しないダンとアントンだったが、さすがのダンも、存在感を日に日に増していくアルベルトに業を煮やしたようだ。
ある日ダンはシルヴィアに、直接アントンとの縁談を申し込んできた。
もちろん二つ返事で快諾し、二人を応援すると約束したシルヴィアだったが、そこからもダンの及び腰が災いし、長い間二人の仲が盛り上がることはなかった……。
しかし、そうこうしているうちに、アルベルトとの約束の日は刻一刻と近づいてくる。
このままでは、にっちもさっちもいかないと判断したシルヴィアは、ある計画を実行に移すことにする。
そして、それは成功したかに思えたのだが……。
氷のドラゴンは、まずまずの出来だったし、それをダンが炎で溶かして水浸しになってしまったことは想定外だったが、その後二人で仲良く湖畔の小屋に入っていたところをみると、このままうまくいきそうな気がしている。
――あの媚薬を飲めば、いくら奥手なダンだって、きっと積極的にアントンを誘えるはず!
アントンがある種の男たちの劣情を、特別に刺激する存在であることは、夫のコンラードから聞いて知っていた。
――だから、変な男どもからの縁談の話が絶えないのよね……。
シルヴィアはため息をつく。
名だたる貴族の後添えの縁談や、アントンの同級生の貴公子たちからの熱心なお茶会への誘い……。
どこの馬の骨とも知らないような男と比べれば、ダン・モーアンは気もよくきくし、家の雑事も一通りこなせるし、とても便利……、いやとても頼りになる男だ。
そしてなにより、強い!!
シルヴィアにとって、アントンは特別な存在だった。
捨てられていたアントンを養子にするまで、シルヴィアとコンラードの夫婦仲は冷え切っていた。
いや、冷え切っていたというより、何もなかった。
もともと親に決められた婚約者だった。騎士のくせに、魔法が得意なところも気に入らなかった。そして、いくらシルヴィアが突っかかって挑発しても、いつも人を食ったような微笑みで返してくるところも……。
結婚式の誓いの口づけですら、するふりですませたし、手も握らせなかった。もちろん、寝室は別にしたし、子供をつくる気など、さらさらなかった。
自分は騎士団長でありさえすれば、それでよかった。
だが……。
コンラードがアントンを見つけて、屋敷に連れ帰ったあの日から、シルヴィアとコンラードの生活は一変した。
子育ては楽しいことばかりではなかった。赤ん坊には話も通じず、いらだつことも多かった。だがそんなときも、ずっとコンラードはそばにいてくれた。
二人で、赤ん坊のアントンを育てていくうちに、いつしかコンラードへの愛情が芽生えていた。
そして、アルベルトが生まれた。
だから、アントンはシルヴィアにとって、特別な子供なのだ。だから、絶対に幸せにしてやりたい。絶対に……!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
湖畔の小屋から、そう遠く離れていないところで、シルヴィアは見守っていた。
二人が小屋に入ってしばらくたつ。
――今頃、二人はどうなっているのかしら……?
ダンが媚薬を飲んでいれば、きっと自分の本心をむき出しに、アントンを押し倒しているに違いない。
アルベルトの魔石のピアスはわざと外させているから、アントンも抵抗はできないはずだ。
――でも、アントンは?
大人の男に突然襲い掛かられ、おびえて抵抗するアントンの姿が思い浮かぶ。
――やっぱりダメだわっ!!!!
シルヴィアは拳を握り締める。
――いくら二人を結びつけるためとはいえ、これはいくら何でもやりすぎだわ!
――早く、アントンを助け出さなくては! 早くっ!
アントン救出へとシルヴィアが向かおうとしたその時、
雷鳴とともに、アルベルトが姿を現した。
――アルベルト!
おそらく瞬間移動で駆け付けたのだろう。
あの北の領地に巣くったドラゴンを、もうすでに倒したということなのだろうか!?
アルベルトにはコンラードが帯同しているが、あくまで補佐の役割で、相当な危険が及ばない限り、手出し無用と伝えてある。
シルヴィア自身も、16歳になるまでにドラゴンを一頭しとめている。だが、その討伐にはおよそ半月を要した。
――あのドラゴンを、たった数日で!?
鬼気迫るアルベルトを突き動かすのは、アントンを想うまごうことなき深い愛情……。
――そうか、そうなのね……。
――お前は、そこまでアントンを愛しているのね……。
なんとも言えない不思議な感情が、シルヴィアの胸に沸き起こってくる。
――いつまでも子供だと思っていたけど、もうこんなに立派になったのね……。
――完敗だわ。アルベルト……。
その時初めて、シルヴィアは、息子のアルベルトのことを、心から誇らしいと思った。
シルヴィア・ソールバルグは逡巡していた。
――これで、本当に良かったのかしら……。もしかしたら私は、なにかとんでもない間違いを犯しているのでは……?
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シルヴィアが、アルベルトのその計画に気づいたのは、執事のトーマスの耳打ちからだった。
――まさか、アルベルトが!?
自分の息子が、そんなおぞましいことを密かにたくらんでいるなんて、にわかに信じられないシルヴィアだったが……。
――でもこれで、決断できたわ。やはり、アルベルトにアントンを渡すわけにはいかない。
可愛いアントンにふさわしい相手は、自分の部下であるダン・モーアンしかいないと、シルヴィアは確信した。
シルヴィアとアルベルトの間に密かに交わされた取り決めの日……、アルベルトの16歳の誕生日はすぐそこだ。
――アルベルトが16歳になる前に、なんとしても決着をつけなければ!
――絶対に、アントンとダンを結びつける!!
そして、ついに実行の日がやってきた。
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ダンはもともと、相手の感情を敏感に感じ取り、それを何よりも先んじてしまうため、恋愛においては「あと一押し足りない」ところがあった。
せっかくアントンといい雰囲気になっても、すぐにそれを察知したアントンにはぐらかされてしまう。
ダンがかなり前からアントンに特別な感情を抱いていたことはもちろん知っていたし、アントンも幼いころからダンにとても懐いていたため、放っておいても二人の関係は進展するだろうと、シルヴィアは高をくくっていた。
――だが、いったい誰が予見できただろう。シルヴィアのもう一人の息子、アルベルトが兄のアントンに恐ろしいほどの執着心を抱くようになっていったことなど。
なかなか進展しないダンとアントンだったが、さすがのダンも、存在感を日に日に増していくアルベルトに業を煮やしたようだ。
ある日ダンはシルヴィアに、直接アントンとの縁談を申し込んできた。
もちろん二つ返事で快諾し、二人を応援すると約束したシルヴィアだったが、そこからもダンの及び腰が災いし、長い間二人の仲が盛り上がることはなかった……。
しかし、そうこうしているうちに、アルベルトとの約束の日は刻一刻と近づいてくる。
このままでは、にっちもさっちもいかないと判断したシルヴィアは、ある計画を実行に移すことにする。
そして、それは成功したかに思えたのだが……。
氷のドラゴンは、まずまずの出来だったし、それをダンが炎で溶かして水浸しになってしまったことは想定外だったが、その後二人で仲良く湖畔の小屋に入っていたところをみると、このままうまくいきそうな気がしている。
――あの媚薬を飲めば、いくら奥手なダンだって、きっと積極的にアントンを誘えるはず!
アントンがある種の男たちの劣情を、特別に刺激する存在であることは、夫のコンラードから聞いて知っていた。
――だから、変な男どもからの縁談の話が絶えないのよね……。
シルヴィアはため息をつく。
名だたる貴族の後添えの縁談や、アントンの同級生の貴公子たちからの熱心なお茶会への誘い……。
どこの馬の骨とも知らないような男と比べれば、ダン・モーアンは気もよくきくし、家の雑事も一通りこなせるし、とても便利……、いやとても頼りになる男だ。
そしてなにより、強い!!
シルヴィアにとって、アントンは特別な存在だった。
捨てられていたアントンを養子にするまで、シルヴィアとコンラードの夫婦仲は冷え切っていた。
いや、冷え切っていたというより、何もなかった。
もともと親に決められた婚約者だった。騎士のくせに、魔法が得意なところも気に入らなかった。そして、いくらシルヴィアが突っかかって挑発しても、いつも人を食ったような微笑みで返してくるところも……。
結婚式の誓いの口づけですら、するふりですませたし、手も握らせなかった。もちろん、寝室は別にしたし、子供をつくる気など、さらさらなかった。
自分は騎士団長でありさえすれば、それでよかった。
だが……。
コンラードがアントンを見つけて、屋敷に連れ帰ったあの日から、シルヴィアとコンラードの生活は一変した。
子育ては楽しいことばかりではなかった。赤ん坊には話も通じず、いらだつことも多かった。だがそんなときも、ずっとコンラードはそばにいてくれた。
二人で、赤ん坊のアントンを育てていくうちに、いつしかコンラードへの愛情が芽生えていた。
そして、アルベルトが生まれた。
だから、アントンはシルヴィアにとって、特別な子供なのだ。だから、絶対に幸せにしてやりたい。絶対に……!
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湖畔の小屋から、そう遠く離れていないところで、シルヴィアは見守っていた。
二人が小屋に入ってしばらくたつ。
――今頃、二人はどうなっているのかしら……?
ダンが媚薬を飲んでいれば、きっと自分の本心をむき出しに、アントンを押し倒しているに違いない。
アルベルトの魔石のピアスはわざと外させているから、アントンも抵抗はできないはずだ。
――でも、アントンは?
大人の男に突然襲い掛かられ、おびえて抵抗するアントンの姿が思い浮かぶ。
――やっぱりダメだわっ!!!!
シルヴィアは拳を握り締める。
――いくら二人を結びつけるためとはいえ、これはいくら何でもやりすぎだわ!
――早く、アントンを助け出さなくては! 早くっ!
アントン救出へとシルヴィアが向かおうとしたその時、
雷鳴とともに、アルベルトが姿を現した。
――アルベルト!
おそらく瞬間移動で駆け付けたのだろう。
あの北の領地に巣くったドラゴンを、もうすでに倒したということなのだろうか!?
アルベルトにはコンラードが帯同しているが、あくまで補佐の役割で、相当な危険が及ばない限り、手出し無用と伝えてある。
シルヴィア自身も、16歳になるまでにドラゴンを一頭しとめている。だが、その討伐にはおよそ半月を要した。
――あのドラゴンを、たった数日で!?
鬼気迫るアルベルトを突き動かすのは、アントンを想うまごうことなき深い愛情……。
――そうか、そうなのね……。
――お前は、そこまでアントンを愛しているのね……。
なんとも言えない不思議な感情が、シルヴィアの胸に沸き起こってくる。
――いつまでも子供だと思っていたけど、もうこんなに立派になったのね……。
――完敗だわ。アルベルト……。
その時初めて、シルヴィアは、息子のアルベルトのことを、心から誇らしいと思った。
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