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第43話

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 そもそもダンは、子供の頃から第一騎士団に所属する美しき女騎士・シルヴィア・ソールバルグに強い憧れを持っていたという。

 13、4歳の頃、勢い余ってシルヴィア・ソールバルグに直談判して、弟子入り。その後、俺とアルベルトのベビーシッター代わりとしてこき使われるという憂き目にあいながらも、剣の腕を磨き、第一騎士団に堂々と入団!

 その後は団長であるシルヴィア・ソールバルグの無理難題や無茶ぶりに、笑顔とガッツで応えながら、あれよあれよという間にシルヴィア・ソールバルグの腹心の部下・副団長まで登りつめたのだった。


 ――そこにあるのは、ひとえに、幼少期からのシルヴィア・ソールバルグへの熱烈な思慕の感情!!!!


 だが、お母様にはすでに夫がいた。魔力も一流、剣も一流、家柄も一流、もひとつおまけに見た目も一流のコンラード・ソールバルグ。(旧姓はたしかクロイツだ!)

 しかし、その恋慕の情をあきらめきれないダンは、お母様に近づく代わりに、その子供である俺たちに近づいた……。

 嫌な顔ひとつせず、幼い俺とアルベルトの世話に明け暮れていたダン……。

 それもこれも、最愛のお母様に認められたいがためだったのだ……。


 そしてついに、ダンは思い至ったのだ。


 ――愛するシルヴィア・ソールバルグと永遠に離れないで済む方法……。


 そう。それは、チョロい方の息子の俺と婚姻関係を結ぶことだ!!
 
 そうすれば、ダンは名実ともに「義理の息子」という、お母様と切っても切れない関係になれる!!!


 俺は驚愕する。


 ――ただの気の毒な男だと思っていたが、そこまで狡猾な男だったとは!!!!

 ――ダン・モーアン……。恐ろしい男!!!



 そして、真実が明らかになった今、俺がやるべきことは一つ!




 ――このプロポーズ、全力で断る!!!!!!!


 
 自分の邪な欲望を満たすため、当たり障りのなさそうな俺を利用するなど、言語道断!

 そこそこ年はいっているが、まだまだ小娘なんぞには負けないほど麗しいお母様を、その毒牙にかけようという嫌らしい計画は、息子の俺が何としても阻止する!




「ダン兄様っ、落ち着いて! 俺の話を聞いてほしいんだ!」

 俺は立ち上がり、ダンに向き直った。


「……アントン様……?」

 俺の鬼気迫る表情に、ダンは一瞬ひるむ。

「ダン兄様、俺は、ダン兄様とは結婚できないっ!」

 言い切ると、ダンのその顔に絶望が浮かぶ。


「……理由を、聞かせていただいても?」

 ぎゅっと拳を握り締めたダンは、下を向いた。


「俺、思うんだ。ほかの誰かが心の中にいるのに、別の人と結婚しても、絶対幸せになれないって!
愛する人が別にいるのに、違う相手と結婚するのは、相手に対しても、自分に対してもすごく失礼なことなんじゃないかって!
――たとえそれが、好きになってはいけない相手だとしても!!!」


「アントン様……、それは……」

 ダンは顔を上げ、驚きに目を見開いて俺を見る。
 俺は満足げに、鼻を膨らませる。



 ――どうだ、これでわかっただろう。お前の計画なんざ、すべてお見通しなんだわ!!!!



「だからダン兄様、俺はダン兄様とは……」

「やっぱり、……そういう、こと、だったんですね」

 低く、ダンが呻く。その瞳はいつものように明るく澄んではおらず、昏く翳っていた。


「へ……? そういうこと……って?」

「それが、アントン様の答えなんですね。
だが俺は納得できないっ!!!」

 ダンは唇を噛み締めると、俺に向かって突進してくる。


「わっ、な、な、わああああっ!」

 思わず逃げようとする俺を背後から抱きしめるようにして捕まえると、ダンは俺の首筋に顔をうずめた。


「アントン様っ、アントン様っ! 俺は構いませんっ!
あなたの心に、別の誰かがいたとしても!!」


「ぎゃあああああ!!! 何っ!? 一体何の話っ!?」

 ダンは、俺が着ているシャツの裾から、その大きな手を滑り込ませる。


 裸の胸を、腹を、ダンの熱い手のひらが這いまわる。

「アントン様っ……、ああっ……、アントン様っ!! こうしてずっと触れたかった!」


「ひゃあああああっ! ダン兄様っ、やめてっ! 離してっ!!!」

 シャツの下はもちろん素っ裸! さっきパンツまで脱いでしまったことが、猛烈に悔やまれる。


「アントン様っ、ああ、すべすべして気持ちいい……。ああ、どこもかしこも、なんて手触りだっ……!」

 ダンは俺の背後からうなじをクンクンしながら、両手で俺の身体を撫でまわしている。


「やだっ! 離して、ダン兄様っ! やだっ!!!!」

 俺は、あまりの気持ち悪さに、なんとか逃れようと身をよじるが、やはり大人の男に力でかなうはずがない。


「アントン様……、俺が、気持ちよくしてあげます。何もかも、忘れさせてあげますから……」

 そう言うとダンは、縮こまった俺自身をぎゅっと握りこんできた。

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