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第42話
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「お、俺のシャツを……、アントン様がっ……、しかも下は裸っ!!!!」
「ダン兄様、大丈夫?」
俺は鼻を押さえるダンに、タオル(びしょぬれ)を差し出す。
「あ、アントン様っ、俺に近づいてはいけませんっ!」
タオルを受け取ると、ダンは俺に向かって叫んだ。
「へ?」
何かよくわからないが、俺は言われるがまま、ダンと距離をとる。
小屋の隅っこに縮こまるように座ったダンに、俺は果実酒をコップに注いで差し出した。
「ダン兄様、火からそんなに離れていたら風邪ひくよ。これ、飲んで。温まるから」
「ありがとうございます……」
震える手で受け取るダン。
寒がっている? 具合でも悪いのだろうか? さっきので魔力を使いすぎた?
何かに耐えるように、眉間にしわを寄せ目を閉じるダン。俺にシャツを貸したため、上半身は裸だが、下は濡れたズボンを履いたままだ。
その上半身は鍛え抜かれた騎士の身体そのもので、見るものが息をのむほど均整がとれている。
俺もこんな身体に生まれたかったな……。
火の前に戻ると、俺もコップに果実酒を注ぎ、一口飲む。
――あっま~~!!!
甘すぎる果実酒に眉をひそめながら、俺はゆらゆらと揺れる炎を眺めていた。
「アントン様……」
静かに、ダンが呼びかける。
「なに? ダン兄様」
「さっき言ったこと、俺、本気です」
「……」
俺は肩をピクリと震わせる。
ずぶ濡れで、情緒ある湖畔の小屋に二人きり……。
そして揺らめく炎!!
うわー、はじまっちゃったよ!!!
今日は絶対いいムードにだけはならないようにって、気を使っていたのに、
俺のバカバカバカ!!!
これの雰囲気は……、絶対……。
「お慕いしています、アントン様……」
――キターーーーー!!!
告白キタ!!!!
そりゃそうだよな、今日こそは決めなきゃいけないんだもんな!!
そりゃするよな、告白の一つや二つ!!!
「……」
俺はこの状況をどうやっておチャラけたムードに変えて、ダンの告白を冗談に終わらせるか真剣に考え始める。
「俺は本気ですっ! ずっと前からお慕いしていました!
アントン様、俺と……っ!」
「ちょっ、ちょっと待って! ダン兄様!
ダン兄様は俺のこと好きっていうけどさ、いったいどこが好きなわけ?
ちゃんと俺にわかるように説明してみて!?」
すんでのところで、ダンを止めた俺。
プロポーズだけは絶対に阻止しなければならない!
「どこが、好きか……、ですか?」
ダンは言葉に詰まる。
それもそのはず。ダンはお母様からのいわゆる「絶対の上司命令」で俺となんとしても結婚しなければいけないだけだ。
そこに、俺を好きでいる理由などない!
だから俺は「私のどこが好きなの? 全部言ってくれなきゃわかんな~~い!!!」と扱いに面倒くさい思春期の乙女ばりに鬱陶しい質問でダンを封印してやった。
だが、敵もさるもの…‥‥、
「人を好きになるのに理由なんてありません! 気が付いたら……、アントン様は俺にとって誰よりも大切な人になっていたんです!
――愛しているんですっ、アントン様!」
ダンの真剣な瞳に、俺は絶句する。
愛している、と伝家の宝刀まで持ち出したダン。
――そこまでお母様に追い込まれていたなんて!!!
「ダン兄様、わかったから、もう、無理しなくていいよ。お母様には俺から全部言っておくから」
俺は憐みを込めて、ダンに語りかける。
「無理? 無理とはどういう……!?」
「全部わかってるんだ。お母様に、無理やり俺と結婚するように言いつけられているんだよね。
つらかったよね……。でももう大丈夫。俺からお母様にちゃんと説明するから。
だから、ダン兄様はちゃんと好きな女の子と結婚して……」
「アントン様は全っ然何もわかっていないっ!!!!」
「わあっ!」
突然仁王像のように立ち上がり、激高するダンに、俺は慌てふためく。
「アントン様! 俺はアントン様が好きなんですってば!
俺は、どうしてもっ、アントン様と、結婚したいんですっ!!!!!」
「どうしても……!?」
「どうしていつもそうはぐらかそうとするんですか!?
俺はいつも、真剣にアントン様に向き合ってるつもりです!
好きなんですっ、どうか俺と結婚してくださいっ!!!!」
迫力に気おされる俺……。
結局プロポーズされてしまった……!!
だが、そこまで俺との結婚に固執するダンに、俺は突如としてひらめくものがあった。
――そうか、そうだったんだ。
――どうして今の今まで気づかなかったんだろう。
――俺は、本物のバカだ。
そうだ、良く考えればすぐにわかることじゃないか。
俺と、どうしても結婚したいというダン。
そう、ダンは……、
――お母様のことが、好きだったんだ!!!!!
「ダン兄様、大丈夫?」
俺は鼻を押さえるダンに、タオル(びしょぬれ)を差し出す。
「あ、アントン様っ、俺に近づいてはいけませんっ!」
タオルを受け取ると、ダンは俺に向かって叫んだ。
「へ?」
何かよくわからないが、俺は言われるがまま、ダンと距離をとる。
小屋の隅っこに縮こまるように座ったダンに、俺は果実酒をコップに注いで差し出した。
「ダン兄様、火からそんなに離れていたら風邪ひくよ。これ、飲んで。温まるから」
「ありがとうございます……」
震える手で受け取るダン。
寒がっている? 具合でも悪いのだろうか? さっきので魔力を使いすぎた?
何かに耐えるように、眉間にしわを寄せ目を閉じるダン。俺にシャツを貸したため、上半身は裸だが、下は濡れたズボンを履いたままだ。
その上半身は鍛え抜かれた騎士の身体そのもので、見るものが息をのむほど均整がとれている。
俺もこんな身体に生まれたかったな……。
火の前に戻ると、俺もコップに果実酒を注ぎ、一口飲む。
――あっま~~!!!
甘すぎる果実酒に眉をひそめながら、俺はゆらゆらと揺れる炎を眺めていた。
「アントン様……」
静かに、ダンが呼びかける。
「なに? ダン兄様」
「さっき言ったこと、俺、本気です」
「……」
俺は肩をピクリと震わせる。
ずぶ濡れで、情緒ある湖畔の小屋に二人きり……。
そして揺らめく炎!!
うわー、はじまっちゃったよ!!!
今日は絶対いいムードにだけはならないようにって、気を使っていたのに、
俺のバカバカバカ!!!
これの雰囲気は……、絶対……。
「お慕いしています、アントン様……」
――キターーーーー!!!
告白キタ!!!!
そりゃそうだよな、今日こそは決めなきゃいけないんだもんな!!
そりゃするよな、告白の一つや二つ!!!
「……」
俺はこの状況をどうやっておチャラけたムードに変えて、ダンの告白を冗談に終わらせるか真剣に考え始める。
「俺は本気ですっ! ずっと前からお慕いしていました!
アントン様、俺と……っ!」
「ちょっ、ちょっと待って! ダン兄様!
ダン兄様は俺のこと好きっていうけどさ、いったいどこが好きなわけ?
ちゃんと俺にわかるように説明してみて!?」
すんでのところで、ダンを止めた俺。
プロポーズだけは絶対に阻止しなければならない!
「どこが、好きか……、ですか?」
ダンは言葉に詰まる。
それもそのはず。ダンはお母様からのいわゆる「絶対の上司命令」で俺となんとしても結婚しなければいけないだけだ。
そこに、俺を好きでいる理由などない!
だから俺は「私のどこが好きなの? 全部言ってくれなきゃわかんな~~い!!!」と扱いに面倒くさい思春期の乙女ばりに鬱陶しい質問でダンを封印してやった。
だが、敵もさるもの…‥‥、
「人を好きになるのに理由なんてありません! 気が付いたら……、アントン様は俺にとって誰よりも大切な人になっていたんです!
――愛しているんですっ、アントン様!」
ダンの真剣な瞳に、俺は絶句する。
愛している、と伝家の宝刀まで持ち出したダン。
――そこまでお母様に追い込まれていたなんて!!!
「ダン兄様、わかったから、もう、無理しなくていいよ。お母様には俺から全部言っておくから」
俺は憐みを込めて、ダンに語りかける。
「無理? 無理とはどういう……!?」
「全部わかってるんだ。お母様に、無理やり俺と結婚するように言いつけられているんだよね。
つらかったよね……。でももう大丈夫。俺からお母様にちゃんと説明するから。
だから、ダン兄様はちゃんと好きな女の子と結婚して……」
「アントン様は全っ然何もわかっていないっ!!!!」
「わあっ!」
突然仁王像のように立ち上がり、激高するダンに、俺は慌てふためく。
「アントン様! 俺はアントン様が好きなんですってば!
俺は、どうしてもっ、アントン様と、結婚したいんですっ!!!!!」
「どうしても……!?」
「どうしていつもそうはぐらかそうとするんですか!?
俺はいつも、真剣にアントン様に向き合ってるつもりです!
好きなんですっ、どうか俺と結婚してくださいっ!!!!」
迫力に気おされる俺……。
結局プロポーズされてしまった……!!
だが、そこまで俺との結婚に固執するダンに、俺は突如としてひらめくものがあった。
――そうか、そうだったんだ。
――どうして今の今まで気づかなかったんだろう。
――俺は、本物のバカだ。
そうだ、良く考えればすぐにわかることじゃないか。
俺と、どうしても結婚したいというダン。
そう、ダンは……、
――お母様のことが、好きだったんだ!!!!!
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