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第41話

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 あ、あれは……、

 ――ドラゴン!!??

 氷でできていると思われるその物体は、かろうじてドラゴンのような形をしているが……。

「あ、ほらっ!
ダン兄様っ! 湖から氷のドラゴンがっ!」

 俺が示すと、ダンは湖を振り返る。

「……!!!!」

 一瞬遠い目になるダンだが、そこは第一騎士団の副団長、すぐにその瞳に力を戻した。

「アントン様っ、俺に任せてください!
あの凶暴なドラゴンは俺が退治しますっ!!!」

 ダンは、素早く腰の剣を抜く。

「……うん、ありがとう」

 俺は生暖かい目でダンを見守る。

 だって……、


 ――あれって絶対、お母様が魔法で作ったドラゴンもどきですよね!?


 ちなみにお母様は、氷属性という比較的貴重な属性を持ちながらも、幼いころから剣の鍛錬に明け暮れていたため、
あまり魔法が得意ではない……、というかはっきりいってしまうと、魔法に関してはかなりポンコツだ。

 俺は、湖から出てきてゆらゆらと揺れている、巨大なドラゴンもどきを見て思わず虚無の表情になる。

 ――危険性は全然なさそう!!

 見ようによってはドラゴンに見えなくもないが、どちらかというとあのネッシーに近い感じ……。

 ファンシーグッズ大好きなお母様が作成しただけあって、つぶらな瞳がゆるキャラっぽくて可愛い! ぜひもうちょっと近くで見てみたい!

 でも苦手な魔法でがんばって作ったお母様がかわいそうだから、とりあえず怖がってあげなきゃ!!

「ダン、危ないから気を付けてね! わー、大変! こっちに向かってくるよ~」

 棒読みで俺が言うと、ダンはうなずき俺を身体の後ろに隠した。

「アントン様、安心してください! アントン様は俺が守りますっ!」

 ――うん、全然大丈夫だけどね!?


 とりあえず訳のわからない興奮状態から、ダンは正常に戻ったようだ。危機は脱した。

 それにしても、お母様ったら、まだこの近くにいるんだな! 

 ――氷のドラゴンに俺を襲わせて、ダンに窮地を救わせる。


 『アントン様、もう大丈夫ですよ! ドラゴンはこの私が退治しました!』

 『ありがとう! ダン兄様、素敵っ!!! 好きっ!!!』



 ――ってなるか、ボケー!!!!


 周りを見渡すが、お母様の姿はどこにも見えない。




 そうこうしているうちに、どんどん俺たちに近づいてくるドラゴン。

 だが、そのあまりの可愛さに、俺は思わず顔がにやけそうになるのをこらえるのに必死だ。


「俺があの氷のドラゴンを、炎で焼き切りますっ!」


 そう言うダンは、火属性。そしてお母様と同様に、今まで剣の鍛錬にのみ力を注いできたせいで、魔法があまりお得意ではない……。


 ――ええっ、そんなことしたらっ!! あの可愛いネッシードラゴンちゃんが消えちゃうじゃないか!!

 うろたえる俺など気にもとめず、ダンは自身の剣に魔力を込めると、氷のドラゴン(っぽいもの)に渾身の力を込めて振り下ろした。

「消え失せろ! 獰猛なドラゴンよ!!!」

 剣の先からは、猛烈な勢いの火炎が噴き出される。


 
 ――わー、すご~い! ダン兄様、かっこいい~!(棒)


 ぷきゅぅうううううと大きなバルーンがしぼむときみたいな音を出して、ネッシードラゴンちゃんはその巨大な身体から、水を噴き出し始めた。


 ――あーあ、かわいそう……。

 と思ったのもつかの間、そのネッシードラゴンちゃんから俺たちに向かって、身体から溶け出した猛烈な勢いの水流が襲ってくる。

「うわあああああ!!!!」

 どっちかっていうと、こっちのほうが大惨事だぁっ!!!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「申し訳ありませんっ! アントンさまっ!!」

 全身ずぶぬれとなったダンが、土下座しそうな勢いで謝ってくる。


「大丈夫、大丈夫だから」

 俺はなんとかダンをなだめると、同じくずぶぬれになった衣服を脱いでいった。


「!!!!!!!!!!」



 ここは、湖畔に建っているこじんまりとした丸太小屋。

 おそらくこの湖で愛を誓った恋人たちが、興奮冷めやらないうちにここで愛の営みを……ってそんなことはどうでもいいっ!

 ネッシードラゴンちゃんの被害により、荷物も含め全身水浸しになった俺たちは、とりあえずここに避難して、服を乾かすことにした。

 火属性のダンが「俺が一気に炎の魔法で全身を乾かしますっ!」とかっこよく宣言してくれたが、俺は丁重に断った。

 火力の調節がいまいち不得意なダンに、全身丸焦げにされたらたまらない!

 
 ダンには魔法でたき火を起こしてもらうだけにして、その火で衣服が乾くのを待つことにした。
 
 バスケットに入っていたサンドイッチやお菓子類は全滅だが、お母様オススメの果実酒やフルーツは被害を免れているのでそれをいただきながら時間をつぶすこととしよう。

 そのうち近くにいるはずのお母様も、心配して戻ってくるかもしれないし……。


「あ、アントンさまっ! こ、これを着てくださいっ!」

 ダンが頭を下げて、俺を見ないようにしながら、自分のシャツを両手で掲げてくる。

「あ、ありがとう……?」

「そんな恰好をされては目のやり場に困りますっ! これ、俺がさっき魔法で乾かしたんで、着ていただいて大丈夫です。……ちょっと裾は焦げてますが……」


 ――やっぱり焦がすんだな……。よかった頼まなくて……。


 俺はちょっと焦げ臭いにおいの漂う、ダンの大きな白いシャツを羽織った。
 たしかに、パンツ一丁よりもだいぶ温かい!

 ダンと俺では体格にかなりの差があるので、俺はまるで膝上丈のワンピースを着ているような感じになった。

 この際パンツも乾かしてしまおうと、俺はシャツのボタンを全部止めると、パンツも脱いでしまう。


「あ、あ、あ、アントン様っ!!!!!!!」


「あれ、ダン兄様、鼻血がでてるよ?」




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