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第40話
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コバルトブルーのインクを溶かしたみたいな神秘的な美しい湖。
湖の周りには白樺のような樹皮が白く光る樹々が生い茂っている……。
その木陰の小道をそぞろ歩く俺とダン……。
「疲れませんか、アントン様」
「いや、大丈夫……です……」
百歩譲って、俺が男じゃなく女の子だったら、ある種の心温まる恋物語としてありえる話だったのかもしれない。
――誰にも顧みられない平凡な女の子に、騎士団のトップスターの青年。
それはそれで、少女漫画なんかにありがちの設定だ。
――だが、俺は男だ!!!!!
上司の覚えめでたく、将来の自分の確固たる地位が約束されるなら、喜んで上司の娘を嫁にする男はあまたいるだろう。
だが!!!!
なにが悲しゅうて男を嫁にもらわなきゃならんのだ!?
この世界は、恋愛脳の人間が国民のほぼ100パーセントを占めているため、もちろん同性間の恋愛も、結婚も自由である。
だが、家柄と血筋を重んじる貴族社会において、異性間の結婚はいまだに強く支持されているところだ。
さすがに、同性同士では子供を産むことができないしな!
ただ、やっぱり「好きになっちゃったもんはしょうがないよねー!」的な雰囲気はこちらの国民性として色濃くあるため、
貴族の男同士や女同士の駆け落ちや、二度目の結婚相手にずっと好きだった同性を選ぶ、なんてことは比較的よく聞く話だ。
だが、ダンはもちろん初婚だし、もし俺と結婚するとなればもちろん子供は望めない。
そんなリスクを冒してまで従わなければならないほど、騎士団の上司の命令は絶対なのだろうか!?
――それとも、お母様が想像を絶する超絶クソパワハラ上司なだけ……!?
もし俺との縁談を断ったら、ダンが僻地に飛ばされるだけではなく、一族郎党路頭に迷うようなむごい仕打ちがまっているとか……!?
俺は、ぐっと拳を握り締める。
――ここは、息子の俺がなんとかするしかない。
都合のいいことに、お母様はなんだかんだいって俺には激甘だ。
俺がここでダンを説得し、お母様を説き伏せれば、このとんでもなく愚かな計画をなかったことにできるに違いない!
お母様もこれを機に、パワハラを改め、あるべき良い上司としてのふるまいを学ぶべきだ。
そのうち訴えられたりしたらことだからな! うん!
「ねえ、ダン兄様……」
俺は意を決して、横を歩くダンに声をかける。
「はいっ、アントン様っ」
ああ、どうしてこう、無駄にキラキラしすぎているのだろう、この世界の人間(俺以外!)はっ!!!
「ダン兄様はさ、結婚したら、何人子供が欲しいの?」
「……っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺が子供を産めないことを前提に、『あなたのお相手はもちろん女の子ですよね!?』的な深~~い意味を込めて俺が発した言葉だった……。
――それなのに!
ダンは、一瞬でゆでだこみたいに真っ赤になって、右手と右足が一緒に出る不審者そのものの動きになった。
「あ、アントンさまっ……!! そっ、それはっ、それはっ……、俺と結婚したら、何人子供を作ろうかって、そういう意味ですかっ!?」
――なワケねーだろ! アホか!?
「いや、違うけど……。だって、子供できない……し……」
「おっ、俺、小さいころ祖母に言われて、ずっと座右の銘にしている言葉があるんです!
『心から願えば、叶わないことはない』って!
だからっ、だからっ、俺っ、アントン様となら、騎士団ができるくらい子供を作れる自信がありますっ!」
「はあっ……??」
――やっぱりこいつは本物のバカだった。
その座右の銘、とっても素敵な言葉だが、それは絶対にそういう意味で使うものじゃない!!!
いくら願ったって、世界の理は変えられない!!!
そしてダンはいったい何をそんなに興奮したのか、俺の両肩を掴むと、強引に白樺のような大木の幹に押し付けてきた。
「アントン様っ! 俺っ、うれしいです。
アントン様がそこまで俺との将来のこと、真剣に考えていてくださったなんて!!」
空色の明るい瞳が、俺をのぞき込む。
「は? えっ!? なに?」
――え!? 何これ、俺、迫られてる!? もしかして、ピンチ!?
「俺っ、ずっとアントン様には全然相手にされてないって思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいです!!
やっぱり団長の言うことは正しかったんですね!
アントン様っ! 俺、絶対アントン様を幸せにしてみせますっ!」
鼻息荒いダンが、俺に覆いかぶさってくる。
「ダン兄様、ちょっとっ、いったんちょっと落ち着こう!
ダン兄様は、絶対何か勘違いして……」
その時、俺の視界に、湖面から浮かび上がるとんでもなく怪しげな物体が映った。
湖の周りには白樺のような樹皮が白く光る樹々が生い茂っている……。
その木陰の小道をそぞろ歩く俺とダン……。
「疲れませんか、アントン様」
「いや、大丈夫……です……」
百歩譲って、俺が男じゃなく女の子だったら、ある種の心温まる恋物語としてありえる話だったのかもしれない。
――誰にも顧みられない平凡な女の子に、騎士団のトップスターの青年。
それはそれで、少女漫画なんかにありがちの設定だ。
――だが、俺は男だ!!!!!
上司の覚えめでたく、将来の自分の確固たる地位が約束されるなら、喜んで上司の娘を嫁にする男はあまたいるだろう。
だが!!!!
なにが悲しゅうて男を嫁にもらわなきゃならんのだ!?
この世界は、恋愛脳の人間が国民のほぼ100パーセントを占めているため、もちろん同性間の恋愛も、結婚も自由である。
だが、家柄と血筋を重んじる貴族社会において、異性間の結婚はいまだに強く支持されているところだ。
さすがに、同性同士では子供を産むことができないしな!
ただ、やっぱり「好きになっちゃったもんはしょうがないよねー!」的な雰囲気はこちらの国民性として色濃くあるため、
貴族の男同士や女同士の駆け落ちや、二度目の結婚相手にずっと好きだった同性を選ぶ、なんてことは比較的よく聞く話だ。
だが、ダンはもちろん初婚だし、もし俺と結婚するとなればもちろん子供は望めない。
そんなリスクを冒してまで従わなければならないほど、騎士団の上司の命令は絶対なのだろうか!?
――それとも、お母様が想像を絶する超絶クソパワハラ上司なだけ……!?
もし俺との縁談を断ったら、ダンが僻地に飛ばされるだけではなく、一族郎党路頭に迷うようなむごい仕打ちがまっているとか……!?
俺は、ぐっと拳を握り締める。
――ここは、息子の俺がなんとかするしかない。
都合のいいことに、お母様はなんだかんだいって俺には激甘だ。
俺がここでダンを説得し、お母様を説き伏せれば、このとんでもなく愚かな計画をなかったことにできるに違いない!
お母様もこれを機に、パワハラを改め、あるべき良い上司としてのふるまいを学ぶべきだ。
そのうち訴えられたりしたらことだからな! うん!
「ねえ、ダン兄様……」
俺は意を決して、横を歩くダンに声をかける。
「はいっ、アントン様っ」
ああ、どうしてこう、無駄にキラキラしすぎているのだろう、この世界の人間(俺以外!)はっ!!!
「ダン兄様はさ、結婚したら、何人子供が欲しいの?」
「……っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺が子供を産めないことを前提に、『あなたのお相手はもちろん女の子ですよね!?』的な深~~い意味を込めて俺が発した言葉だった……。
――それなのに!
ダンは、一瞬でゆでだこみたいに真っ赤になって、右手と右足が一緒に出る不審者そのものの動きになった。
「あ、アントンさまっ……!! そっ、それはっ、それはっ……、俺と結婚したら、何人子供を作ろうかって、そういう意味ですかっ!?」
――なワケねーだろ! アホか!?
「いや、違うけど……。だって、子供できない……し……」
「おっ、俺、小さいころ祖母に言われて、ずっと座右の銘にしている言葉があるんです!
『心から願えば、叶わないことはない』って!
だからっ、だからっ、俺っ、アントン様となら、騎士団ができるくらい子供を作れる自信がありますっ!」
「はあっ……??」
――やっぱりこいつは本物のバカだった。
その座右の銘、とっても素敵な言葉だが、それは絶対にそういう意味で使うものじゃない!!!
いくら願ったって、世界の理は変えられない!!!
そしてダンはいったい何をそんなに興奮したのか、俺の両肩を掴むと、強引に白樺のような大木の幹に押し付けてきた。
「アントン様っ! 俺っ、うれしいです。
アントン様がそこまで俺との将来のこと、真剣に考えていてくださったなんて!!」
空色の明るい瞳が、俺をのぞき込む。
「は? えっ!? なに?」
――え!? 何これ、俺、迫られてる!? もしかして、ピンチ!?
「俺っ、ずっとアントン様には全然相手にされてないって思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいです!!
やっぱり団長の言うことは正しかったんですね!
アントン様っ! 俺、絶対アントン様を幸せにしてみせますっ!」
鼻息荒いダンが、俺に覆いかぶさってくる。
「ダン兄様、ちょっとっ、いったんちょっと落ち着こう!
ダン兄様は、絶対何か勘違いして……」
その時、俺の視界に、湖面から浮かび上がるとんでもなく怪しげな物体が映った。
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