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第39話
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というのも……。
「さあ、アントン! 早く朝食を済ませてしまって。
ダンも一緒に食べるでしょう? さ、アントンの隣に座って!」
満面の笑みのお母様が、意味ありげにダンに目配せしている。
「はいっ、失礼します。
アントン様、私がパンをお取りしますね!
二つでいいですか?」
「うん……、ありがとう」
理解したとばかりに、俺の隣にさっそく腰掛け、甲斐甲斐しく世話を焼き始めるダン……。
「本当に二人は仲良しね。
やっぱり、ダンがいてくれると助かるわ。昔からアントンにはダンがいてくれないと駄目ね」
「……」
俺は、上機嫌で俺とダンを見比べるお母様を、うらめしげに見上げる。
やっぱり今日も大変な一日になりそうだ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「本当にいいお天気ね~! 湖についたらちょっと散歩をして、お弁当を食べましょう!」
「ピクニックにもってこいのお天気ですね! 俺もとても楽しみです!」
「……」
ここは馬車の中。テンション高めのお母様とダンに比べ、俺はさっきからだんまりを決め込んでいる。
ソールバルグ家から、馬車で小一時間ほどいったところに、貴族たちにはそこそこ有名な湖がある。
正式名称は「メルスタ湖」なのだが、その別名は「恋人たちの湖」――!!!
そう、そこは恋人たちが訪れ、愛を誓い合うと二人は永遠に結ばれるというジンクスで有名な場所なのだ!
そんなところに、お母様がダンを呼び寄せて、俺とピクニックに向かわせる理由はただ一つ――!!!
――お母様は、どうやら俺とダンをくっつけようとしているらしい!!!
ダンは、騎士団に入団する前のお母様のいわゆる「弟子」扱いになった12,3歳の頃から俺の子守代わりとしてこき使われてきた。
ダンは6人兄弟の長子ということもあり、もともと子どもの扱いにも慣れていて、とても面倒見がいい。
鬼ごっこやかくれんぼに付き合ってくれたり、釣りや狩りを教えてくれたり、俺も昔からすごくなついていたし、今だって人間的にとても好きだし、素晴らしい好青年だと思う。
だが!!!
それとこれとは話は別だ。
強く、優しく、美しい騎士団長のお母様だが、一つ大きな欠点を抱えていた。
そう、それは……、
――究極のパワハラ上司だったということ!!!!
そして、ひどいことに、第一騎士団は、魔法も剣も得意な者が所属する第二騎士団と違い、「魔法がなんぼのもんじゃい! こちとら力がすべてじゃい!!」とばかりに「剣の腕前」だけがものをいう、ゴリゴリの体育会系気質。
上下関係が鬼のように厳しく、上司の言うことは絶対!!!
だが、いくら俺に縁談がないからって、自分の部下(しかも男!)を自分の息子にあてがうか?
そして、それを上司の命令として当然のごとく受け入れるのか? そこに自分の意志はないのか?
バカか? 本物のバカなのか!?
俺はにこにこと微笑んでいるダンに、憐れみの視線を向ける。
――なんて気の毒な男!
国中の女の子たちにキャーキャーいわれて、付き合い放題、よりどりみどり、――いわゆる「入れ喰い」状態だというのに、お母様の部下だったばかりになんの取り柄もない上司の子供(しかも男!)を受け入れなければならない悲しみはいかばかりだろう。
「アントン様、これっ、あのっ、プレゼントですっ!!」
俺の視線に気づいたダンが、頬を赤らめながら、赤いリボンが掛けられた小箱を差し出してくる。
「あ、ありがとう……、ございます……」
箱の大きさからいって、なにかアクセサリー的なもの??
ダンの代わりに、お母様が買い求めたものという可能性もかなり高い。
まさか、エンゲージリングではあるまいな!?と、おっかなびっくり受け取った俺は青ざめる。
いや、まさか!? ムードもへったくれもないが、でも体育会系のダンなら、ありえる!?
「あら、よかったわねー、アントン、さっそく開けてみたら?」
お母様が催促する。
俺がリボンをとくと、小箱には真っ赤な一粒の宝石がついたピアスが入っていた。
「あらー! 素敵じゃない!! さっそくつけてみたら、アントン!」
「え、でも……」
俺の右耳には、すでにアルベルトからもらったピアスがある。
「早く、つけて見せて! せっかくもらったのに、つけないのはマナー違反だわ!」」
お母様が睨みをきかせてくる。
「でも……、これはお守り代わりだから外しちゃ駄目だって、アルベルトが……」
「それは、学校での話でしょ!? ここにはお母様もダンもいるのに、お守りなんて必要ないわ。
さあ、早く!」
そこまで言われて俺も反論できず、しぶしぶピアスを外す。
「そのピアスはお母様が預かっておくわね」
手を差し出すお母様に、俺は首を振る。
「なくすといけないので、胸ポケットにしまっておきます」
「そう……」
もらった赤いピアスをつけると、お母様もダンも満足げな表情になった。
「すっごくよく似合うわ~! やっぱりアントンには青紫より、赤が似合うわね!」
――やっぱりお母様が一枚噛んでるな……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして湖に到着したところで、お母様がわざとらしく声を上げた。
「あら、いっけなーい!!
お母様ったら、騎士団からの大事な連絡がくるのを忘れていたわ! もう一度屋敷に戻ってからくるから、それまで二人で楽しんでいてね!」
「それはいけませんね! アントン様のことはこの私にお任せください」
「あと、とっておきの果実酒がバスケットに入っているから、二人で飲んでおいてね。すごく美味しいのよ~!」
「承知しました!」
ダンが荷物を下ろすと、お母様は慌てた素振りでまた馬車に乗り込み去っていく……。
「……」
取ってつけたような小芝居につきあわされる俺。
――はいはい、わかっていましたよ。最初から俺とダンをふたりきりにする計画ですよね!?
となりでゴクリとつばを飲み込む音が聞こえる。
――ダン、気の毒なダン……。
きっと、『今日こそは決めろ』とお母様に激しい圧をかけられているに違いない。
「で、では参りましょうか? アントン様……っ」
こころなしか、ダンの笑顔が引きつって見える。
「うん……」
き、気まずいっ!!!!!
「さあ、アントン! 早く朝食を済ませてしまって。
ダンも一緒に食べるでしょう? さ、アントンの隣に座って!」
満面の笑みのお母様が、意味ありげにダンに目配せしている。
「はいっ、失礼します。
アントン様、私がパンをお取りしますね!
二つでいいですか?」
「うん……、ありがとう」
理解したとばかりに、俺の隣にさっそく腰掛け、甲斐甲斐しく世話を焼き始めるダン……。
「本当に二人は仲良しね。
やっぱり、ダンがいてくれると助かるわ。昔からアントンにはダンがいてくれないと駄目ね」
「……」
俺は、上機嫌で俺とダンを見比べるお母様を、うらめしげに見上げる。
やっぱり今日も大変な一日になりそうだ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「本当にいいお天気ね~! 湖についたらちょっと散歩をして、お弁当を食べましょう!」
「ピクニックにもってこいのお天気ですね! 俺もとても楽しみです!」
「……」
ここは馬車の中。テンション高めのお母様とダンに比べ、俺はさっきからだんまりを決め込んでいる。
ソールバルグ家から、馬車で小一時間ほどいったところに、貴族たちにはそこそこ有名な湖がある。
正式名称は「メルスタ湖」なのだが、その別名は「恋人たちの湖」――!!!
そう、そこは恋人たちが訪れ、愛を誓い合うと二人は永遠に結ばれるというジンクスで有名な場所なのだ!
そんなところに、お母様がダンを呼び寄せて、俺とピクニックに向かわせる理由はただ一つ――!!!
――お母様は、どうやら俺とダンをくっつけようとしているらしい!!!
ダンは、騎士団に入団する前のお母様のいわゆる「弟子」扱いになった12,3歳の頃から俺の子守代わりとしてこき使われてきた。
ダンは6人兄弟の長子ということもあり、もともと子どもの扱いにも慣れていて、とても面倒見がいい。
鬼ごっこやかくれんぼに付き合ってくれたり、釣りや狩りを教えてくれたり、俺も昔からすごくなついていたし、今だって人間的にとても好きだし、素晴らしい好青年だと思う。
だが!!!
それとこれとは話は別だ。
強く、優しく、美しい騎士団長のお母様だが、一つ大きな欠点を抱えていた。
そう、それは……、
――究極のパワハラ上司だったということ!!!!
そして、ひどいことに、第一騎士団は、魔法も剣も得意な者が所属する第二騎士団と違い、「魔法がなんぼのもんじゃい! こちとら力がすべてじゃい!!」とばかりに「剣の腕前」だけがものをいう、ゴリゴリの体育会系気質。
上下関係が鬼のように厳しく、上司の言うことは絶対!!!
だが、いくら俺に縁談がないからって、自分の部下(しかも男!)を自分の息子にあてがうか?
そして、それを上司の命令として当然のごとく受け入れるのか? そこに自分の意志はないのか?
バカか? 本物のバカなのか!?
俺はにこにこと微笑んでいるダンに、憐れみの視線を向ける。
――なんて気の毒な男!
国中の女の子たちにキャーキャーいわれて、付き合い放題、よりどりみどり、――いわゆる「入れ喰い」状態だというのに、お母様の部下だったばかりになんの取り柄もない上司の子供(しかも男!)を受け入れなければならない悲しみはいかばかりだろう。
「アントン様、これっ、あのっ、プレゼントですっ!!」
俺の視線に気づいたダンが、頬を赤らめながら、赤いリボンが掛けられた小箱を差し出してくる。
「あ、ありがとう……、ございます……」
箱の大きさからいって、なにかアクセサリー的なもの??
ダンの代わりに、お母様が買い求めたものという可能性もかなり高い。
まさか、エンゲージリングではあるまいな!?と、おっかなびっくり受け取った俺は青ざめる。
いや、まさか!? ムードもへったくれもないが、でも体育会系のダンなら、ありえる!?
「あら、よかったわねー、アントン、さっそく開けてみたら?」
お母様が催促する。
俺がリボンをとくと、小箱には真っ赤な一粒の宝石がついたピアスが入っていた。
「あらー! 素敵じゃない!! さっそくつけてみたら、アントン!」
「え、でも……」
俺の右耳には、すでにアルベルトからもらったピアスがある。
「早く、つけて見せて! せっかくもらったのに、つけないのはマナー違反だわ!」」
お母様が睨みをきかせてくる。
「でも……、これはお守り代わりだから外しちゃ駄目だって、アルベルトが……」
「それは、学校での話でしょ!? ここにはお母様もダンもいるのに、お守りなんて必要ないわ。
さあ、早く!」
そこまで言われて俺も反論できず、しぶしぶピアスを外す。
「そのピアスはお母様が預かっておくわね」
手を差し出すお母様に、俺は首を振る。
「なくすといけないので、胸ポケットにしまっておきます」
「そう……」
もらった赤いピアスをつけると、お母様もダンも満足げな表情になった。
「すっごくよく似合うわ~! やっぱりアントンには青紫より、赤が似合うわね!」
――やっぱりお母様が一枚噛んでるな……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして湖に到着したところで、お母様がわざとらしく声を上げた。
「あら、いっけなーい!!
お母様ったら、騎士団からの大事な連絡がくるのを忘れていたわ! もう一度屋敷に戻ってからくるから、それまで二人で楽しんでいてね!」
「それはいけませんね! アントン様のことはこの私にお任せください」
「あと、とっておきの果実酒がバスケットに入っているから、二人で飲んでおいてね。すごく美味しいのよ~!」
「承知しました!」
ダンが荷物を下ろすと、お母様は慌てた素振りでまた馬車に乗り込み去っていく……。
「……」
取ってつけたような小芝居につきあわされる俺。
――はいはい、わかっていましたよ。最初から俺とダンをふたりきりにする計画ですよね!?
となりでゴクリとつばを飲み込む音が聞こえる。
――ダン、気の毒なダン……。
きっと、『今日こそは決めろ』とお母様に激しい圧をかけられているに違いない。
「で、では参りましょうか? アントン様……っ」
こころなしか、ダンの笑顔が引きつって見える。
「うん……」
き、気まずいっ!!!!!
応援ありがとうございます!
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