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第36話 〜エリアスside〜
しおりを挟む――ここまでくれば、完全に呪いだ。
――アントンは、呪われているんだ……。
――アルベルト、恐るべし!!!!
あの取り澄ました美貌を思い出し、エリアスは胸糞が悪くなる。
長めに伸ばした銀髪で隠しているつもりかもしれないが、ちょっとしたしぐさや、風が吹いて髪がなびけばすぐにわかる。
――左耳につけた、アントンとおそろいの青紫の魔石。
その意味するところは、一つ。
『兄さんは、俺のもの』
――ああ、なんてウザイヤツなんだ! 匂わせ、最っっっ低!!!!
エリアスは歯ぎしりする。
ちなみに、対のピアスを二人で分け合うのは、貴族だけではなく、町民の若者にもおなじみの恋人たちのサインだ。
――アルベルトは、何も知らないアントンをだまくらかして、あのピアスを無理やりにつけたに違いない!!!
――アントン、僕がアルベルトの呪いから救ってあげるからね!
エリアスは決意を胸にすると、自らの魔力で自身に結界を張る。
――これでしばらくは大丈夫だ。
魔石が壊れてしまわないように、自らの魔力で補いながら、エリアスは浴槽に足をつける。
「……っ!!!!!」
湯に触れたところから、ビリビリと電気を流されたような痛みが走る。
――くそっ、雷属性め!!!
エリアスは、貴族に比較的多いとされる水属性。最悪なことに、アルベルトの雷属性にはめっぽう弱い属性だ!!
――だからあいつは嫌いなんだ!!!
アントンと一緒に風呂に入るたびに耐え抜いてきたこの痛みだが、今日は特につらい。
うっかりすると魂を抜かれてしまいそうになるレベルの電流だ。
――今日の僕の魔石の力は、いつもよりずっと強いはずなのに、どうして!?
「エリアス、どうしたの? 顔色悪いよ?」
上気した頬のアントンに言われてはっとする。裸の肩がいつもよりぐっと艶めかしい。
――もしかして、アントンはすでにアルベルトと肉体的繋がりが!!???
守護の魔石の力を最大限に高めるには、対象者と身体のつながりを持つのが一番だ。
アルベルトとアントンの魔石は対になっているはずだから、二人の精神と肉体がつながればその守護……、いや呪いはレベルMAXとなってしまう!!
――いや、まさか、アントンに限って……! だが、あの鉄面皮が無理やりアントンを手籠めにするということは十分ありうる!!!
『兄さん、さあ、力を抜いて……。俺のを全部飲み込むんだよ…‥、ああ、いい子だね、兄さんの中、すごくいいっ……』
『アルベルト、駄目っ!! 俺たち兄弟なのにっ、……こんなことっ! ああっ、でもっ、すごいっ、アルベルトっ! ああっ……、もっと深くっ……!』
すでにアルベルトと関係を持ってしまったかもしれないと考えたエリアスは、うっかり二人の交合を鮮明に想像してしまい、青ざめる。
――嫌だっ! 僕のアントンを汚すなっ! あの冷徹魔獣めがっ!!!
エリアスはその場で思わず立ち上がった。
「エリアス!? 大丈夫なのか? 具合が悪いのか?」
アントンが目を丸くする。
――ヤバい。魔力の維持すら危うくなり、うっかり僕のエクスカリバーにかけた魔法が解けてしまうところだった!
エリアスは、慌ててまた湯舟に沈み込む。と、とたんに体中を強力な電流が駆け巡り、気が遠くなりかける。
――なんだよっ、この拷問はっ!!
エリアスは涙目になる。
――このままじゃアントンを犯るどころか、僕のエクスカリバーが再起不能になってしまう!!!
「ははっ……、大丈夫……、大丈夫だよ……、アントン。
ほら、虹色の滝の魔法を見せて……、あげ……る……」
なんとか気を取り直そうとするが、もうすでにエリアスの身体には魔力も体力もほとんど残っていなかった。
エリアスは力尽き、そのまま湯舟の中に沈み込んでしまった。
「エリアスっ!? おいっ、エリアスっ!?」
湯の中で、愛しい人が自分の名前を呼ぶのを、エリアスは不思議な気持ちで聞いていた。
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