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第31話
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今日は水曜日。
アルベルトの言葉通り、俺の身体には魔力がまだ十分残っている……気がする。
なにしろ魔力をためる器が器だけに、有り余るほどのみなぎる魔力!!みたいな感覚を経験したことがないからよくわからないのだが……。
弟のアルベルトからの言いつけを忠実に守る兄の俺は、もうどんなことがあってもヴィクトルからは魔力譲渡は受けないと心に決めていた。
だから、魔力をもらう必要がなくなった今、俺とヴィクトルは何の関係もない赤の他人、通りすがりの人間と何ら変わりない……。
だが、そんな俺の決意をあざ笑うかのように、事件は起こった。
「おい、アントン・ソールバルグはいるか?」
いつもの『探求の時間』が始まる前の休み時間。
図書館にでも行こうかと荷物をまとめていた俺に、予期せぬ訪問者があった。
俺は教室の入り口に目を向ける。
――あれは……、誰だっけ!?
服装から、かなりの上位貴族であることが見て取れる。金茶の髪に、薄灰色の瞳。斜めに流した髪型が嫌味っぽく……、そうだ! ヴィクトルの取り巻きの一人だ!
「なんでしょうか?」
嫌な予感がしながらも、俺はその男に近づく。
俺を見ると、その取り巻きの男はフンっ、と思いっきり俺をバカにした態度になった。
「おいっ、お前っ! ヴィクトル殿下からお手紙だ! お前ごときが殿下からお手紙を賜るとは、おこがましいことこの上ない!!! せいぜい心して読めよっ!」
俺に手紙を押し付けると、その男はガニ股で偉そうに去っていった。
――取り巻きをしていると、おのずとボスに似てくるのだろうか……?
げんなりしながら、俺は手紙を開いた。
『いつもの時刻、いつもの場所にて待つ。重要な話がある。来なければあの事を弟にばらす』
「!!!!!!!!」
――脅迫かよ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺が中庭の温室に足を踏み入れると、そこにはすでにヴィクトルの姿があった。
ヴィクトルはいつものベンチに、いつものように悠然と腰掛けていた。
「遅い!」
――呼びつけておいて、一言目がこれなのだから、本当に嫌になる。
「殿下……、お話とはなんでしょうか? 俺、もう魔力譲渡は……」
ややこしいことになる前に、すぐに立ち去りたい俺は、ヴィクトルから距離を取る。
「わかっている。それとは別の重要な話だ」
ヴィクトルは、俺にベンチの隣に座るように促す。
俺はあきらめて、そこに腰を下ろした。
「実は……、お前に話しておかなければならないことがある」
ヴィクトルは重苦しい調子で切り出した。
――いつものヴィクトルとは雰囲気が違う……。
「殿下……、俺……」
「アントンっ! 俺は不治の病に冒されているんだっ!!!!」
――な、ん、で、す、と!!??
ヴィクトルは、苦しげに眉根を寄せると、胸元をギュッと握りしめた。
――ええっ、なんで? なんでそんな大事を、いきなり『羽虫』の俺に告白してくるの?
俺はいったいどう対応すればいいの?
とりあえず、励ましておけばいいのか!?
「で、殿下……、あまり落ち込まないで……」
「で、その病を克服するためには、愚民のお前の強力が、どうしても必要になるのだ!!!!」
ヴィクトルは、俺の両手を取り、真剣な眼差しを向けてきた。
――な、ん、で、そ、う、な、る!?
「俺の、協力!?」
「協力してくれるな? アントン!」
藍色の瞳が、期待に満ちて俺を見つめてくる。
一応知人であるヴィクトルの有事に、手を貸さないというのも心が痛む。
しかし、それ以上に今までのヴィクトルの言動から、若干の胡散臭さも感じているのは事実だ。
「……」
「まさか、あれだけ王族の俺様に世話になっておいて、いざ、俺が困っているときには手を差し伸べないほどお前は薄情なやつだったのか!?」
ぐぐっとヴィクトルが迫る。
「いえ、決してそういうわけでは……」
「俺の周りには、お前のように魔力がほとんどない出来損ないはいない。だから、愚民のお前にしか頼めないことなんだ!」
――さりげなく、けなされている俺。しかし……、
「俺にしかできない、ということであれば、協力、します……」
確かにヴィクトルには、命を助けてもらった恩がある。困ったときにはお互い様。ギブアンドテイク。
これ以上、例の件でヴィクトルに脅されないためにも、ここで恩を売っておくのは得策かもしれない……。
「――そう言ってくれると信じていたぞ。アントン」
ヴィクトルがニヤリと笑う。
藍色の瞳が、妖しげにきらめいた。
アルベルトの言葉通り、俺の身体には魔力がまだ十分残っている……気がする。
なにしろ魔力をためる器が器だけに、有り余るほどのみなぎる魔力!!みたいな感覚を経験したことがないからよくわからないのだが……。
弟のアルベルトからの言いつけを忠実に守る兄の俺は、もうどんなことがあってもヴィクトルからは魔力譲渡は受けないと心に決めていた。
だから、魔力をもらう必要がなくなった今、俺とヴィクトルは何の関係もない赤の他人、通りすがりの人間と何ら変わりない……。
だが、そんな俺の決意をあざ笑うかのように、事件は起こった。
「おい、アントン・ソールバルグはいるか?」
いつもの『探求の時間』が始まる前の休み時間。
図書館にでも行こうかと荷物をまとめていた俺に、予期せぬ訪問者があった。
俺は教室の入り口に目を向ける。
――あれは……、誰だっけ!?
服装から、かなりの上位貴族であることが見て取れる。金茶の髪に、薄灰色の瞳。斜めに流した髪型が嫌味っぽく……、そうだ! ヴィクトルの取り巻きの一人だ!
「なんでしょうか?」
嫌な予感がしながらも、俺はその男に近づく。
俺を見ると、その取り巻きの男はフンっ、と思いっきり俺をバカにした態度になった。
「おいっ、お前っ! ヴィクトル殿下からお手紙だ! お前ごときが殿下からお手紙を賜るとは、おこがましいことこの上ない!!! せいぜい心して読めよっ!」
俺に手紙を押し付けると、その男はガニ股で偉そうに去っていった。
――取り巻きをしていると、おのずとボスに似てくるのだろうか……?
げんなりしながら、俺は手紙を開いた。
『いつもの時刻、いつもの場所にて待つ。重要な話がある。来なければあの事を弟にばらす』
「!!!!!!!!」
――脅迫かよ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺が中庭の温室に足を踏み入れると、そこにはすでにヴィクトルの姿があった。
ヴィクトルはいつものベンチに、いつものように悠然と腰掛けていた。
「遅い!」
――呼びつけておいて、一言目がこれなのだから、本当に嫌になる。
「殿下……、お話とはなんでしょうか? 俺、もう魔力譲渡は……」
ややこしいことになる前に、すぐに立ち去りたい俺は、ヴィクトルから距離を取る。
「わかっている。それとは別の重要な話だ」
ヴィクトルは、俺にベンチの隣に座るように促す。
俺はあきらめて、そこに腰を下ろした。
「実は……、お前に話しておかなければならないことがある」
ヴィクトルは重苦しい調子で切り出した。
――いつものヴィクトルとは雰囲気が違う……。
「殿下……、俺……」
「アントンっ! 俺は不治の病に冒されているんだっ!!!!」
――な、ん、で、す、と!!??
ヴィクトルは、苦しげに眉根を寄せると、胸元をギュッと握りしめた。
――ええっ、なんで? なんでそんな大事を、いきなり『羽虫』の俺に告白してくるの?
俺はいったいどう対応すればいいの?
とりあえず、励ましておけばいいのか!?
「で、殿下……、あまり落ち込まないで……」
「で、その病を克服するためには、愚民のお前の強力が、どうしても必要になるのだ!!!!」
ヴィクトルは、俺の両手を取り、真剣な眼差しを向けてきた。
――な、ん、で、そ、う、な、る!?
「俺の、協力!?」
「協力してくれるな? アントン!」
藍色の瞳が、期待に満ちて俺を見つめてくる。
一応知人であるヴィクトルの有事に、手を貸さないというのも心が痛む。
しかし、それ以上に今までのヴィクトルの言動から、若干の胡散臭さも感じているのは事実だ。
「……」
「まさか、あれだけ王族の俺様に世話になっておいて、いざ、俺が困っているときには手を差し伸べないほどお前は薄情なやつだったのか!?」
ぐぐっとヴィクトルが迫る。
「いえ、決してそういうわけでは……」
「俺の周りには、お前のように魔力がほとんどない出来損ないはいない。だから、愚民のお前にしか頼めないことなんだ!」
――さりげなく、けなされている俺。しかし……、
「俺にしかできない、ということであれば、協力、します……」
確かにヴィクトルには、命を助けてもらった恩がある。困ったときにはお互い様。ギブアンドテイク。
これ以上、例の件でヴィクトルに脅されないためにも、ここで恩を売っておくのは得策かもしれない……。
「――そう言ってくれると信じていたぞ。アントン」
ヴィクトルがニヤリと笑う。
藍色の瞳が、妖しげにきらめいた。
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