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第24話
しおりを挟む――身体が、熱い。
頭が重くてだるくて、意識の奥に沈み込んでしまいそうになる。
誰かが、呼ぶ声がする。
――……、さん、兄さん……、
「兄さん!」
「わあっ!」
誰かに腕をつかまれて、無理やり引きずりあげられたような感覚がして、俺は目を覚ました。
「大丈夫ですか? かなりうなされていましたが……」
アルベルトが、心配そうな顔をして俺をのぞき込んでいる。
「ああ……、アルベルト…‥、ここは?」
見慣れない天井。それなりに広い部屋には分厚いカーテンが引かれていて、中は薄暗い。
俺は清潔なベッドに寝かされていた。
「城下町の宿屋です。すみません、急いで休める場所がここしかなくて……」
アルベルトは俺の額に手を当てた。
「……っ」
なぜか、アルベルトに触れられた場所がすごく……。
「まだ熱いですね」
「……俺、どうして、ここに……?」
「お茶会に出されたチョコレートに、薬が仕込まれていたんです。
俺に出された皿には催淫剤、ヴィクトル王子の皿には強力な魔力抑制剤と睡眠剤が……」
アルベルトは眉間にしわを寄せる。
自分の姿を確認すると、つけ毛は外され、襟元を緩められてはいたが、メイド服のままの姿だった。
「あの、俺っ、二人の皿を間違えて出しちゃったんだ」
「ああ、それで……、納得がいきました。俺の魔力を封じて眠らせている間に、ヴィクトル王子に兄さんを……」
アルベルトの青紫の瞳がぎらりと光る。
――怖っ!!!
「兄さんが食べたのはどちらですか?」
アルベルトの質問に、俺は顔を青くする。
「両方……、どっちの皿からも一つずつ」
俺の答えに、アルベルトは深いため息をつく。
「それは厄介なことになりましたね……」
「アルベルト、俺、頭が重くてだるくて……、それから身体もなんかむずむずして……、熱くて……っ!」
アルベルトは立ち上がると、俺にガラス瓶に入った液体を持ってきて、俺に差し出した。
「とりあえず、睡眠剤の解毒薬です。残念ながら、催淫剤の解毒薬は町では手に入りませんでした。
でも、これで少しは身体が楽になるはずです」
アルベルトは俺を起き上がらせ、瓶の栓を抜くと、俺の口元に持ってきてくれる。
だが、飲み込もうとしても、液体が唇の端からこぼれ落ちてしまう。
「ごめ…‥っ、俺……、身体に全然力が……」
「仕方ないですね……。兄さん、少し我慢して……」
アルベルトは言うと、瓶の中身をあおった。
そして……、
俺を引き寄せると、そのまま俺に口移しで薬を飲ませた。
「……んうっ……」
冷たい液体が、アルベルトの唇から流し込まれる。
アルベルトの唇にふさがれていたせいで、今度はうまく薬を飲み込むことができた。
「もう一回、いいですか?」
俺の返事を待たずに、アルベルトはもう一度薬瓶をあおる。
「……っ!!!!」
――嘘だ!
アルベルトと俺がキスしてるなんて!
アルベルトの唇はひんやりとつめたくて、柔らかくて、触れていてとても気持ちよかった。
「うまく飲み込めましたか?」
唇が離れると、アルベルトが俺の目をのぞき込む。
その瞳の美しさに、俺は身体の奥底がズキンっと疼くのを感じた。
「アルベルト……っ!」
俺は、アルベルトにすがりついていた。
「兄さん、どうしました? まだ、つらいですか?」
はあはあと息を荒くする俺と違って、いたって冷静なアルベルト。
――わかってる。薬が飲み込めない俺に、仕方なく口移しで飲ませたことくらい……。
でも……!!
「苦しいっ……、アルベルト……っ」
俺はアルベルトの肩口に顔をうずめる。
アルベルトは、あやすように俺の背中を撫でてくれた。
「大丈夫、もう少しで落ち着きます……」
だが、耳元でアルベルトの低い声を聞いただけで、また俺の心臓が大きく跳ね上がった。
「アルベルト……、俺を見て……」
俺はアルベルトを見上げる。
「兄さん?」
アルベルトの瞳が俺を映している。
――もう我慢できない!!!!
「キス、したい」
「は?」
アルベルトが眉根を寄せる。
「もう一回、キスして、お願い、アルベルト」
俺は、ねだるようにアルベルトの首に両手をまわす。
「兄さんっ!? 兄さんはいま薬のせいで……っ!!!!」
拒もうとするアルベルトの口を、俺は自分の唇でふさいだ。
「……っ!!!」
「アルベルト……っ!」
「兄さんっ……!」
――アルベルトの身体から力が抜ける……、と同時に、今度は俺はアルベルトにきつく抱きしめられていた。
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