24 / 95
第24話
しおりを挟む――身体が、熱い。
頭が重くてだるくて、意識の奥に沈み込んでしまいそうになる。
誰かが、呼ぶ声がする。
――……、さん、兄さん……、
「兄さん!」
「わあっ!」
誰かに腕をつかまれて、無理やり引きずりあげられたような感覚がして、俺は目を覚ました。
「大丈夫ですか? かなりうなされていましたが……」
アルベルトが、心配そうな顔をして俺をのぞき込んでいる。
「ああ……、アルベルト…‥、ここは?」
見慣れない天井。それなりに広い部屋には分厚いカーテンが引かれていて、中は薄暗い。
俺は清潔なベッドに寝かされていた。
「城下町の宿屋です。すみません、急いで休める場所がここしかなくて……」
アルベルトは俺の額に手を当てた。
「……っ」
なぜか、アルベルトに触れられた場所がすごく……。
「まだ熱いですね」
「……俺、どうして、ここに……?」
「お茶会に出されたチョコレートに、薬が仕込まれていたんです。
俺に出された皿には催淫剤、ヴィクトル王子の皿には強力な魔力抑制剤と睡眠剤が……」
アルベルトは眉間にしわを寄せる。
自分の姿を確認すると、つけ毛は外され、襟元を緩められてはいたが、メイド服のままの姿だった。
「あの、俺っ、二人の皿を間違えて出しちゃったんだ」
「ああ、それで……、納得がいきました。俺の魔力を封じて眠らせている間に、ヴィクトル王子に兄さんを……」
アルベルトの青紫の瞳がぎらりと光る。
――怖っ!!!
「兄さんが食べたのはどちらですか?」
アルベルトの質問に、俺は顔を青くする。
「両方……、どっちの皿からも一つずつ」
俺の答えに、アルベルトは深いため息をつく。
「それは厄介なことになりましたね……」
「アルベルト、俺、頭が重くてだるくて……、それから身体もなんかむずむずして……、熱くて……っ!」
アルベルトは立ち上がると、俺にガラス瓶に入った液体を持ってきて、俺に差し出した。
「とりあえず、睡眠剤の解毒薬です。残念ながら、催淫剤の解毒薬は町では手に入りませんでした。
でも、これで少しは身体が楽になるはずです」
アルベルトは俺を起き上がらせ、瓶の栓を抜くと、俺の口元に持ってきてくれる。
だが、飲み込もうとしても、液体が唇の端からこぼれ落ちてしまう。
「ごめ…‥っ、俺……、身体に全然力が……」
「仕方ないですね……。兄さん、少し我慢して……」
アルベルトは言うと、瓶の中身をあおった。
そして……、
俺を引き寄せると、そのまま俺に口移しで薬を飲ませた。
「……んうっ……」
冷たい液体が、アルベルトの唇から流し込まれる。
アルベルトの唇にふさがれていたせいで、今度はうまく薬を飲み込むことができた。
「もう一回、いいですか?」
俺の返事を待たずに、アルベルトはもう一度薬瓶をあおる。
「……っ!!!!」
――嘘だ!
アルベルトと俺がキスしてるなんて!
アルベルトの唇はひんやりとつめたくて、柔らかくて、触れていてとても気持ちよかった。
「うまく飲み込めましたか?」
唇が離れると、アルベルトが俺の目をのぞき込む。
その瞳の美しさに、俺は身体の奥底がズキンっと疼くのを感じた。
「アルベルト……っ!」
俺は、アルベルトにすがりついていた。
「兄さん、どうしました? まだ、つらいですか?」
はあはあと息を荒くする俺と違って、いたって冷静なアルベルト。
――わかってる。薬が飲み込めない俺に、仕方なく口移しで飲ませたことくらい……。
でも……!!
「苦しいっ……、アルベルト……っ」
俺はアルベルトの肩口に顔をうずめる。
アルベルトは、あやすように俺の背中を撫でてくれた。
「大丈夫、もう少しで落ち着きます……」
だが、耳元でアルベルトの低い声を聞いただけで、また俺の心臓が大きく跳ね上がった。
「アルベルト……、俺を見て……」
俺はアルベルトを見上げる。
「兄さん?」
アルベルトの瞳が俺を映している。
――もう我慢できない!!!!
「キス、したい」
「は?」
アルベルトが眉根を寄せる。
「もう一回、キスして、お願い、アルベルト」
俺は、ねだるようにアルベルトの首に両手をまわす。
「兄さんっ!? 兄さんはいま薬のせいで……っ!!!!」
拒もうとするアルベルトの口を、俺は自分の唇でふさいだ。
「……っ!!!」
「アルベルト……っ!」
「兄さんっ……!」
――アルベルトの身体から力が抜ける……、と同時に、今度は俺はアルベルトにきつく抱きしめられていた。
318
お気に入りに追加
2,636
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
セントアール魔法学院~大好きな義兄との学院生活かと思いきや何故だかイケメンがちょっかいかけてきます~
カニ蒲鉾
BL
『ラウ…かわいい僕のラウル…この身体の事は絶対に知られてはいけない僕とラウル二人だけの秘密』
『は、い…誰にも――』
この国には魔力を持つ男が通うことを義務付けられた全寮制魔法学校が存在する。そこに新入生として入学したラウルは離れ離れになっていた大好きで尊敬する義兄リカルドと再び一緒の空間で生活できることだけを楽しみにドキドキワクワク胸を膨らませていた。そんなラウルに待つ、新たな出会いと自分の身体そして出生の秘密とは――
圧倒的光の元気っ子ラウルに、性格真反対のイケメン二人が溺愛執着する青春魔法学園ファンタジー物語
(受)ラウル・ラポワント《1年生》
リカ様大好き元気っ子、圧倒的光
(攻)リカルド・ラポワント《3年生》
優しいお義兄様、溺愛隠れ執着系、策略家
(攻)アルフレッド・プルースト《3年生》
ツンデレ俺様、素行不良な学年1位
(友)レオンハルト・プルースト《1年生》
爽やかイケメン、ラウルの初友達、アルの従兄弟
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる