【完結】前世の記憶が転生先で全く役に立たないのだが?! ~逆チートの俺が異世界で生き延びる方法~

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
22 / 95

第22話

しおりを挟む
「わぁ! とってもお似合いですわぁ!」

「本当に! サイズもぴったりで!」

「まるでアントンさんのためにあるようなお衣装ですわね!」


 ――褒められても、ぜんっぜんうれしくないからな!!!


「あの……、こんなつけ毛必要あるんですか?」

 ソフィア王女の侍女たちに囲まれた俺は、おずおずと切り出した。

 さきほどから、侍女たちによってあれやこれやと着せ替えられ、おさげ髪のつけ毛までつけられた始末である。もちろん、頭には白いレースの飾りもつけられている。
 
 スカートもミニ丈ではなく、エプロンはフリフリしているとはいえ、デザインも色味も落ち着いていて、前世のメイドカフェのイメージよりはかなりマシな印象ではあるが……!!

「なにをおっしゃるんです! とってもお似合いですわ!」

「本当に!どこからどう見ても立派なメイドですわ!」

 侍女たちが声をそろえる。


 ――いや、メイドの服を着れば、誰でも立派なメイドに見えると思いますが!?


 っていうか、メイドの服がお似合いって褒めてるの? けなしてるの? どっち!?



「さあ、鏡をご覧ください」

 俺は、おっかなびっくり窓辺にある大きな鏡の前に立つ。


「わー!」


 ――うん。


 どっからどうみても、田舎から出てきたばっかりの、どんくさい新人メイドにしか見えん!!!!!

 おさげ髪がなんとも芋っぽい感じだ!



「なんて可愛らしいのかしら!! ヴィクトルもきっと喜びますわ!」


 目が腐っているのか、頭が弱っているのかわからないソフィア王女が、俺を見て感激したように口に手を当てる。


「……はあ」

 もうこうなったら、どうにでもなれ、だ!!!

 ヴィクトルと約束した覚えなんて全くないが、乗り掛かった舟だ。立派にメイドとして給仕してやろう。


 ――だが、アルベルトの反応が心底怖い・・・・!!!


 侍女の一人が、紅茶のポットとチョコレートの皿の乗ったワゴンを運んでくる。俺がアルベルトとヴィクトルに提供するためのものだ。

「こちらのお皿がアルベルトさん、こちらのお皿がヴィクトル。くれぐれもお間違いのないように、お願いいたします」

 いかにもトロそうなメイドの俺が心配になったのか、ソフィア王女が念を押す。

「はい……」

「ところで、アントンさんは学園をご卒業されたらどうするおつもりなんですか?
やはり、騎士団に?」
 
 ソフィア王女の質問に、俺はとんでもない、と首を振る。

「俺……、私の剣の実力では騎士団なんて入れるはずもありません。それに魔法も使えないので、
卒業したらどこかで文官の職をさがすつもりなんです」

 実力どころか、満足に剣も振るえない俺。

 取り柄がない俺は、前世と同様に、事務職の口にありつけないかと目論んでいる。

 お母様もお父様も、働く必要なんてない、と俺に言ってくれているがそういうわけにもいかない。

 二人が元気なうちは、それはそれでアリかもしれないが、もし、アルベルトが騎士団に入って家督を継いで、結婚して子供ができたら、独身無職の俺はかなりの厄介者になるに違いない。

 アルベルトに家を追い出されたとき、路頭に迷わないためにも、自分一人生きていくくらいの稼ぎ口は見つけておかないと……!


「それなら、ぜひ卒業したら王宮にいらしてください。
ヴィクトルはアントンさんをとても気に入っているみたいなんです。
ぜひ、ヴィクトルのそばでずっと支えてやっていただけるとありがたいのですが……」

 ソフィア王女が懇願するような目を向ける。


 ――もしやソフィア王女は、俺に王宮での働き口を世話してくれようとしているのか?

 王宮なら事務仕事もいっぱいあるだろうし、倒産もない! くいっぱぐれもなさそうだ。



「それは……、もし私で勤まるような仕事があればぜひ!」

 願ったり叶ったりの話だ!

「アントンさんでなければ無理な仕事ですわ!」

 俺の返事にソフィア王女はぱあっと顔を輝かせた。


 ――美しい!!!!!


 俺がソフィア王女に見惚れていると、部屋に伝令がやってきて侍女と何やら話している。


 その侍女が、ソフィア王女にそっと耳打ちした。ソフィア王女はとたんに顔を曇らせた。


「アントンさん! 申し訳ないのですが、急な公務が入ってしまったようですの!
すごく残念なのですが、あとはお任せしていいかしら?」


「……え、は、はい……」


 ってことは、これから男三人でお茶会をしろと!? しかも俺はメイド姿で!


 ――いったいどんな地獄絵図なんだ!?



 とはいえ、ソフィア王女には大切な公務があるのだから致し方ない。
 
 俺は心細い気持ちになりながら、アルベルトとヴィクトルが待ち構えている部屋へと向かう。



 ため息をつきながら、自分の押すワゴンを見た俺は、ふと気が付いた。


 ――このチョコレート、すごくおいしそうじゃね!?


 もちろん、メイド役である俺の分のチョコレートはここにはない。


 ――せっかくだし、ちょっと先に味見しておこうかな!?


 アルベルトはどうせ甘いモノはあまり好きではなかったはずだ。アルベルトの皿から、一番きれいな赤いハート型のチョコレートを一つ俺は口に入れた。


 ――うんまっ!!!!



 さすが王宮で提供されるチョコレートだ。きっと原材料からしてなにか違うのだろう。

 こんなにおいしいチョコレートは前世でも食べたことがなかった。


 俺は、ちらりとヴィクトルの皿にも目をやる。


 ――うん、二人で数が違うというのもよくないだろう! 


 というわけで、俺はヴィクトルの皿からも、同じ赤いハート型のチョコレートをパクリと頬張った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「失礼しまーす」

 俺はノックをすると、アルベルトとヴィクトルの待つ応接室の扉を開けた。


「お茶をお持ちしましたー!」


「んぐっ!!!!!」

「ぶはっ!!!!!」


 対角線上に座り、すでにほかのメイドから供されたお茶を飲んでいたと思われるアルベルトとヴィクトルは、俺の姿を見ると同時に盛大にお茶を噴き出した。


 ――しっ、失礼なっ!!!



「なっ、なんて恰好をしているんですかっ! 兄さんっ!!!!」

 アルベルトが気色ばむ。



「お前っ、よくもまあそんなはしたない恰好で人前に出られたものだな!?」

 ヴィクトルも立ち上がって俺に食って掛かる。



 ――二人とも、口元を拭け!!!!



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

セントアール魔法学院~大好きな義兄との学院生活かと思いきや何故だかイケメンがちょっかいかけてきます~

カニ蒲鉾
BL
『ラウ…かわいい僕のラウル…この身体の事は絶対に知られてはいけない僕とラウル二人だけの秘密』 『は、い…誰にも――』    この国には魔力を持つ男が通うことを義務付けられた全寮制魔法学校が存在する。そこに新入生として入学したラウルは離れ離れになっていた大好きで尊敬する義兄リカルドと再び一緒の空間で生活できることだけを楽しみにドキドキワクワク胸を膨らませていた。そんなラウルに待つ、新たな出会いと自分の身体そして出生の秘密とは――  圧倒的光の元気っ子ラウルに、性格真反対のイケメン二人が溺愛執着する青春魔法学園ファンタジー物語 (受)ラウル・ラポワント《1年生》 リカ様大好き元気っ子、圧倒的光 (攻)リカルド・ラポワント《3年生》 優しいお義兄様、溺愛隠れ執着系、策略家 (攻)アルフレッド・プルースト《3年生》 ツンデレ俺様、素行不良な学年1位 (友)レオンハルト・プルースト《1年生》 爽やかイケメン、ラウルの初友達、アルの従兄弟

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

処理中です...