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第22話
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「わぁ! とってもお似合いですわぁ!」
「本当に! サイズもぴったりで!」
「まるでアントンさんのためにあるようなお衣装ですわね!」
――褒められても、ぜんっぜんうれしくないからな!!!
「あの……、こんなつけ毛必要あるんですか?」
ソフィア王女の侍女たちに囲まれた俺は、おずおずと切り出した。
さきほどから、侍女たちによってあれやこれやと着せ替えられ、おさげ髪のつけ毛までつけられた始末である。もちろん、頭には白いレースの飾りもつけられている。
スカートもミニ丈ではなく、エプロンはフリフリしているとはいえ、デザインも色味も落ち着いていて、前世のメイドカフェのイメージよりはかなりマシな印象ではあるが……!!
「なにをおっしゃるんです! とってもお似合いですわ!」
「本当に!どこからどう見ても立派なメイドですわ!」
侍女たちが声をそろえる。
――いや、メイドの服を着れば、誰でも立派なメイドに見えると思いますが!?
っていうか、メイドの服がお似合いって褒めてるの? けなしてるの? どっち!?
「さあ、鏡をご覧ください」
俺は、おっかなびっくり窓辺にある大きな鏡の前に立つ。
「わー!」
――うん。
どっからどうみても、田舎から出てきたばっかりの、どんくさい新人メイドにしか見えん!!!!!
おさげ髪がなんとも芋っぽい感じだ!
「なんて可愛らしいのかしら!! ヴィクトルもきっと喜びますわ!」
目が腐っているのか、頭が弱っているのかわからないソフィア王女が、俺を見て感激したように口に手を当てる。
「……はあ」
もうこうなったら、どうにでもなれ、だ!!!
ヴィクトルと約束した覚えなんて全くないが、乗り掛かった舟だ。立派にメイドとして給仕してやろう。
――だが、アルベルトの反応が心底怖い・・・・!!!
侍女の一人が、紅茶のポットとチョコレートの皿の乗ったワゴンを運んでくる。俺がアルベルトとヴィクトルに提供するためのものだ。
「こちらのお皿がアルベルトさん、こちらのお皿がヴィクトル。くれぐれもお間違いのないように、お願いいたします」
いかにもトロそうなメイドの俺が心配になったのか、ソフィア王女が念を押す。
「はい……」
「ところで、アントンさんは学園をご卒業されたらどうするおつもりなんですか?
やはり、騎士団に?」
ソフィア王女の質問に、俺はとんでもない、と首を振る。
「俺……、私の剣の実力では騎士団なんて入れるはずもありません。それに魔法も使えないので、
卒業したらどこかで文官の職をさがすつもりなんです」
実力どころか、満足に剣も振るえない俺。
取り柄がない俺は、前世と同様に、事務職の口にありつけないかと目論んでいる。
お母様もお父様も、働く必要なんてない、と俺に言ってくれているがそういうわけにもいかない。
二人が元気なうちは、それはそれでアリかもしれないが、もし、アルベルトが騎士団に入って家督を継いで、結婚して子供ができたら、独身無職の俺はかなりの厄介者になるに違いない。
アルベルトに家を追い出されたとき、路頭に迷わないためにも、自分一人生きていくくらいの稼ぎ口は見つけておかないと……!
「それなら、ぜひ卒業したら王宮にいらしてください。
ヴィクトルはアントンさんをとても気に入っているみたいなんです。
ぜひ、ヴィクトルのそばでずっと支えてやっていただけるとありがたいのですが……」
ソフィア王女が懇願するような目を向ける。
――もしやソフィア王女は、俺に王宮での働き口を世話してくれようとしているのか?
王宮なら事務仕事もいっぱいあるだろうし、倒産もない! くいっぱぐれもなさそうだ。
「それは……、もし私で勤まるような仕事があればぜひ!」
願ったり叶ったりの話だ!
「アントンさんでなければ無理な仕事ですわ!」
俺の返事にソフィア王女はぱあっと顔を輝かせた。
――美しい!!!!!
俺がソフィア王女に見惚れていると、部屋に伝令がやってきて侍女と何やら話している。
その侍女が、ソフィア王女にそっと耳打ちした。ソフィア王女はとたんに顔を曇らせた。
「アントンさん! 申し訳ないのですが、急な公務が入ってしまったようですの!
すごく残念なのですが、あとはお任せしていいかしら?」
「……え、は、はい……」
ってことは、これから男三人でお茶会をしろと!? しかも俺はメイド姿で!
――いったいどんな地獄絵図なんだ!?
とはいえ、ソフィア王女には大切な公務があるのだから致し方ない。
俺は心細い気持ちになりながら、アルベルトとヴィクトルが待ち構えている部屋へと向かう。
ため息をつきながら、自分の押すワゴンを見た俺は、ふと気が付いた。
――このチョコレート、すごくおいしそうじゃね!?
もちろん、メイド役である俺の分のチョコレートはここにはない。
――せっかくだし、ちょっと先に味見しておこうかな!?
アルベルトはどうせ甘いモノはあまり好きではなかったはずだ。アルベルトの皿から、一番きれいな赤いハート型のチョコレートを一つ俺は口に入れた。
――うんまっ!!!!
さすが王宮で提供されるチョコレートだ。きっと原材料からしてなにか違うのだろう。
こんなにおいしいチョコレートは前世でも食べたことがなかった。
俺は、ちらりとヴィクトルの皿にも目をやる。
――うん、二人で数が違うというのもよくないだろう!
というわけで、俺はヴィクトルの皿からも、同じ赤いハート型のチョコレートをパクリと頬張った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「失礼しまーす」
俺はノックをすると、アルベルトとヴィクトルの待つ応接室の扉を開けた。
「お茶をお持ちしましたー!」
「んぐっ!!!!!」
「ぶはっ!!!!!」
対角線上に座り、すでにほかのメイドから供されたお茶を飲んでいたと思われるアルベルトとヴィクトルは、俺の姿を見ると同時に盛大にお茶を噴き出した。
――しっ、失礼なっ!!!
「なっ、なんて恰好をしているんですかっ! 兄さんっ!!!!」
アルベルトが気色ばむ。
「お前っ、よくもまあそんなはしたない恰好で人前に出られたものだな!?」
ヴィクトルも立ち上がって俺に食って掛かる。
――二人とも、口元を拭け!!!!
「本当に! サイズもぴったりで!」
「まるでアントンさんのためにあるようなお衣装ですわね!」
――褒められても、ぜんっぜんうれしくないからな!!!
「あの……、こんなつけ毛必要あるんですか?」
ソフィア王女の侍女たちに囲まれた俺は、おずおずと切り出した。
さきほどから、侍女たちによってあれやこれやと着せ替えられ、おさげ髪のつけ毛までつけられた始末である。もちろん、頭には白いレースの飾りもつけられている。
スカートもミニ丈ではなく、エプロンはフリフリしているとはいえ、デザインも色味も落ち着いていて、前世のメイドカフェのイメージよりはかなりマシな印象ではあるが……!!
「なにをおっしゃるんです! とってもお似合いですわ!」
「本当に!どこからどう見ても立派なメイドですわ!」
侍女たちが声をそろえる。
――いや、メイドの服を着れば、誰でも立派なメイドに見えると思いますが!?
っていうか、メイドの服がお似合いって褒めてるの? けなしてるの? どっち!?
「さあ、鏡をご覧ください」
俺は、おっかなびっくり窓辺にある大きな鏡の前に立つ。
「わー!」
――うん。
どっからどうみても、田舎から出てきたばっかりの、どんくさい新人メイドにしか見えん!!!!!
おさげ髪がなんとも芋っぽい感じだ!
「なんて可愛らしいのかしら!! ヴィクトルもきっと喜びますわ!」
目が腐っているのか、頭が弱っているのかわからないソフィア王女が、俺を見て感激したように口に手を当てる。
「……はあ」
もうこうなったら、どうにでもなれ、だ!!!
ヴィクトルと約束した覚えなんて全くないが、乗り掛かった舟だ。立派にメイドとして給仕してやろう。
――だが、アルベルトの反応が心底怖い・・・・!!!
侍女の一人が、紅茶のポットとチョコレートの皿の乗ったワゴンを運んでくる。俺がアルベルトとヴィクトルに提供するためのものだ。
「こちらのお皿がアルベルトさん、こちらのお皿がヴィクトル。くれぐれもお間違いのないように、お願いいたします」
いかにもトロそうなメイドの俺が心配になったのか、ソフィア王女が念を押す。
「はい……」
「ところで、アントンさんは学園をご卒業されたらどうするおつもりなんですか?
やはり、騎士団に?」
ソフィア王女の質問に、俺はとんでもない、と首を振る。
「俺……、私の剣の実力では騎士団なんて入れるはずもありません。それに魔法も使えないので、
卒業したらどこかで文官の職をさがすつもりなんです」
実力どころか、満足に剣も振るえない俺。
取り柄がない俺は、前世と同様に、事務職の口にありつけないかと目論んでいる。
お母様もお父様も、働く必要なんてない、と俺に言ってくれているがそういうわけにもいかない。
二人が元気なうちは、それはそれでアリかもしれないが、もし、アルベルトが騎士団に入って家督を継いで、結婚して子供ができたら、独身無職の俺はかなりの厄介者になるに違いない。
アルベルトに家を追い出されたとき、路頭に迷わないためにも、自分一人生きていくくらいの稼ぎ口は見つけておかないと……!
「それなら、ぜひ卒業したら王宮にいらしてください。
ヴィクトルはアントンさんをとても気に入っているみたいなんです。
ぜひ、ヴィクトルのそばでずっと支えてやっていただけるとありがたいのですが……」
ソフィア王女が懇願するような目を向ける。
――もしやソフィア王女は、俺に王宮での働き口を世話してくれようとしているのか?
王宮なら事務仕事もいっぱいあるだろうし、倒産もない! くいっぱぐれもなさそうだ。
「それは……、もし私で勤まるような仕事があればぜひ!」
願ったり叶ったりの話だ!
「アントンさんでなければ無理な仕事ですわ!」
俺の返事にソフィア王女はぱあっと顔を輝かせた。
――美しい!!!!!
俺がソフィア王女に見惚れていると、部屋に伝令がやってきて侍女と何やら話している。
その侍女が、ソフィア王女にそっと耳打ちした。ソフィア王女はとたんに顔を曇らせた。
「アントンさん! 申し訳ないのですが、急な公務が入ってしまったようですの!
すごく残念なのですが、あとはお任せしていいかしら?」
「……え、は、はい……」
ってことは、これから男三人でお茶会をしろと!? しかも俺はメイド姿で!
――いったいどんな地獄絵図なんだ!?
とはいえ、ソフィア王女には大切な公務があるのだから致し方ない。
俺は心細い気持ちになりながら、アルベルトとヴィクトルが待ち構えている部屋へと向かう。
ため息をつきながら、自分の押すワゴンを見た俺は、ふと気が付いた。
――このチョコレート、すごくおいしそうじゃね!?
もちろん、メイド役である俺の分のチョコレートはここにはない。
――せっかくだし、ちょっと先に味見しておこうかな!?
アルベルトはどうせ甘いモノはあまり好きではなかったはずだ。アルベルトの皿から、一番きれいな赤いハート型のチョコレートを一つ俺は口に入れた。
――うんまっ!!!!
さすが王宮で提供されるチョコレートだ。きっと原材料からしてなにか違うのだろう。
こんなにおいしいチョコレートは前世でも食べたことがなかった。
俺は、ちらりとヴィクトルの皿にも目をやる。
――うん、二人で数が違うというのもよくないだろう!
というわけで、俺はヴィクトルの皿からも、同じ赤いハート型のチョコレートをパクリと頬張った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「失礼しまーす」
俺はノックをすると、アルベルトとヴィクトルの待つ応接室の扉を開けた。
「お茶をお持ちしましたー!」
「んぐっ!!!!!」
「ぶはっ!!!!!」
対角線上に座り、すでにほかのメイドから供されたお茶を飲んでいたと思われるアルベルトとヴィクトルは、俺の姿を見ると同時に盛大にお茶を噴き出した。
――しっ、失礼なっ!!!
「なっ、なんて恰好をしているんですかっ! 兄さんっ!!!!」
アルベルトが気色ばむ。
「お前っ、よくもまあそんなはしたない恰好で人前に出られたものだな!?」
ヴィクトルも立ち上がって俺に食って掛かる。
――二人とも、口元を拭け!!!!
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