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第20話

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「アントン……、凡庸で何の取り柄もない自分が、王族の俺様にふさわしくないとさぞかし思い悩んでいたことだろう。
確かにその通りだが、お前のように貰い手のないものを受け入れてやる慈善もまた、王族の務めというものだ。
安心しろ、俺がお前の将来の面倒を……」


「ちょっ! 聞いてくださいっ!!!!」


 俺は力を振り絞ってヴィクトルの腕の中から逃れると、そのままヴィクトルの顎に頭突きをくらわした。


「ぐむっ!!!」


「殿下! 悠長に遊んでいる場合じゃないんです! アルベルトに俺との魔力譲渡の……、その……、あの方法がバレたら大変なことになるんです!
だから、お願いですから、アルベルトにはあの魔力譲渡の方法を言わないでいただきたいのです!!!」


「なんだと!?」


 顎をさすりながら、ヴィクトルが目を見開く。


「お前が折り入って話したいとわざわざ手紙を書いてきたのは、このことなのか?」

「そうですよ。それ以外に何があるんですかっ!」


 俺の答えに、ヴィクトルは顔をゆがませた。


「ほお……、そういうことだったのか。アントン、お前は、アルベルトに『あの方法』をどうしても知られたくないというんだな」

「その通りです。もしアルベルトにばれてしまったら、ヴィクトル殿下にだって、危険が及ぶかもしれません……」

「よくわかった。……アントン」

 なぜか、ヴィクトルの声が、一段低くなる。


 ――あれ?


「お前は考え違いをしていたようだな? 俺様は初めからお前との口づけのことなど、アルベルトに話すつもりなどなかったというのに……」

 藍色の瞳に浮かぶのは妖しげな光。


「え……、そうだったんですか……」

 ならば俺の取り越し苦労ということか……。心配して損した。


 ――いくらヴィクトルといえども、そこまで愚かではなかったということか。



「だが!」


 ほっとしたのもつかの間。ヴィクトルは俺の顎をいきなり強くつかみ、自分へ向けた。


「たった今、気が変わった!!!」


「ふぇっ!?」


「お前の嫌がる顔がどうしても見たい。だから、お前との毎週の口づけのことを、アルベルトに話すことにする!」



 ――なんでそうなる!?



 俺は、ショックで頭の中が真っ白になった。


 どうしてこう、やることなすこと裏目にでてしまうのか……。


 絶望する俺に、ヴィクトルは藍色の瞳を細め、残忍な笑みを向けてきた。


「だが……、俺にも慈悲の心はある。お前が自分の行動に対して深く反省しているということを俺に示すのであれば、アルベルトに知られたくないというお前の気持ちを尊重してやってもいい」


「本当ですか?」

 一筋の希望を見出した俺は、顔を輝かす……、が……。


 ――こんなときのヴィクトルの提案は俺にとっては良くないことに決まっている。


 しかしほかに方法がないのであれば、俺は従うしかないわけで……。




「俺は、いったいどうすれば……」


 どうせろくなことを言いださないのはわかっていたが、聞かないわけにもいくまい。


「そうだな、たまにはお前のほうから口づけてもらってもいいだろう」


 俺の顎を掴んだまま、ヴィクトルは俺の目を覗き込んだ。


「そして、口づけるときにはこういうんだ……、『ヴィクトル、愛しています』
わかったな!!!」


 ――いったいどんな嫌がらせなんだ!?


 そうか……。さっき、俺の嫌がる顔が見たいとかなんとか言っていたな。そうか、そういうことなんだな。



「もし、嫌だと言ったら……?」


 俺の言葉に、ヴィクトルはフンと鼻を鳴らした。

「聞くまでもないだろう。お前との淫らな口づけのことを、弟のアルベルトに話してやるまでよ!
アルベルトがどんな顔をするか、楽しみだな……」


 ――いや、そんなことしたら絶対、お前の身も危ないんだからな!


「どうするんだ、アントン? やるのか、やらないのか?」


「……やります」


 やればいいんでしょう、やれば!

 ヴィクトルは、にやりと笑うと、俺の目の前で目を閉じた。


 クソっ! キス待ち顔がめちゃくちゃムカつく!!!!!



 俺はヴィクトルの肩に手をかけると、そっと顔を近づけた。


「……セリフを忘れるなよ!」


 目を閉じたまま、ヴィクトルが念を押す。



「わかってます……」


 唇が触れそうな距離に近づき、俺はため息とともに、棒読みで言った。



「愛してます。ヴィクトル……」


 唇が重なる。


 温かい感触に、俺はぎゅっと目を閉じる。



「アントン……っ!」


 ヴィクトルが強い力で俺をかき抱く。




「んっ、あっ、むぅ……っ!」


 当然のように舌が入ってくると同時に、俺はソファの上にヴィクトルに押し倒されていた。

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