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第17話
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ーーええっ!?
アルベルトの腕に抱きしめられ、そのたくましい胸板を頬に感じ、俺はガラにもなくドキドキしてしまう。
ただでさえ同じ人間とは思えないほどの超絶美形なのだ。
ずっと一緒に暮らしてきた兄の俺でさえ、こうやって近づきすぎると、うっかりときめいてしまうほどなのだ。
そんなアルベルトに抱きしめられて、こんな勘違いしそうなせりふをささやかれたら、女の子はもちろんのこと、男だってきっと誰だってきゅんきゅんしてしまうに違いない。
だから、このドキドキは俺のせいじゃなくて、アルベルトのせいなんだ!
決して俺がアルベルトによこしまな感情を抱いているとかそういうことではないっ!
「あの……、アルベルト、俺が悪かった。あやまるよ。これからはアルベルトをちゃんと頼る」
「兄さんっ……!」
だからお願いだからこれ以上耳元でささやかないで……。もうすでに俺のライフはゼロだ……。
アルベルトは、この世界の女の子たちだけじゃなく、兄の心まで奪うつもりなのか……っ!?
「もう、誰のことも頼ったりしないで。俺だけを頼って!」
アルベルトが俺の肩に顔をうずめる。
珍しく甘えたようなそのそぶりに、俺はピンときた。
そうか。アルベルトは幼少期から、俺の魔力を補充し続けてきたのだ。その長年の「役割」を誰かに奪われるのが、なんとなくおもしろくないのだ。
たとえそれが自ら喜んでやっていることでないにしても、今まで自分の「仕事」だと思っていたことを、突然誰かに横取りされていたら、そりゃ不愉快に感じても仕方ないよね!?
前世で働いていた記憶がある俺だが、人のやっている仕事を取る奪うことはいわゆる「ご法度」だったし……。
また、アルベルトは幼いころからふがいない兄の面倒を見続けてきたことにより、俺に対して異様なほど過保護である。
そりゃ確かに、いつ魔力切れで死ぬとも限らない兄がそばにいたら、気が休まる暇がないよな……。
――アルベルトはずっと、俺のこの体質のせいで、俺に振り回され続けてきたんだ……。
俺はアルベルトには心底感謝している。そして心底申し訳なく思っている。
「ごめんな、アルベルト。これからはお前だけを頼りにするよ!」
お前だけ、を特に強調するとアルベルトの気も少しはおさまったのか、俺の背中に回した腕が少し緩む。
俺もアルベルトの背に手をまわして、優しくさすってやる。
「これからは、今まで以上にしっかりと魔力を補充しますね! 絶対!!に、一週間もたせますから!!!
それでも足りなくなるようでしたら、俺が毎週学園まで出向きます!」
そんなことさせられるワケねーだろうがよぉう!!と俺は心の中で叫ぶが、とりあえず頷いておく。
「わかった。もし足りなくなりそうだったら、おまえに連絡するから……」
これからは、なんとしてもなけなしの魔力を無駄遣いしないように心がけよう……。
「あと兄さんの魔力をそぐようなものがいたら俺に報告してください。すぐに対処しますから」
「……うん?」
――対処? 対処ってナニ?
怖すぎて俺は聞けない……。
「約束ですよ……」
アルベルトは俺をさらにぎゅっときつく抱いた。
「約束する……」
アルベルトは俺のにおいをかぐみたいに、俺の肩口に額をぐりぐりと押し付けてくる。
銀色のつややかな髪がさらさらと揺れて、くすぐったい。
こんな風に俺に甘えるアルベルトは、年相応に可愛く見えた……。
しばらくして気が済んだのか、アルベルトはそっと身体を離し、俺を見つめた。
お互いに背中に手をまわしたままなので、抱き合ったまま見つめ合う形になる。
――これって、ちょっと、というか、かなり恋人っぽいくない!?
顔、近いし!!!
「明日、王宮には俺も一緒にいきます。ヴィクトル王子に、いままで兄さんに魔力を補ってもらったお礼もぜひ言いたいですし、これからは必要ないという説明もしないといけませんしね!」
一人でどぎまぎする俺になんか、まるで気づかないアルベルトは、有無を言わせない艶やかな微笑みを浮かべる。
「……そうだね」
まあ、アルベルトがついてくることは初めからわかっていた。心配症のアルベルトが、俺を一人で行かせるはずはないからな。
そして、アルベルトの手が俺の髪を優しく梳き、右耳のピアスに触れた。
その繊細な指先に、俺の身体がぴくっと反応する。
「‥‥…っ!」
「アルベルト、離れなさい!」
厳しい声と同時に、俺はアルベルトから解放された。
振り返ると、険しい表情をしたお母様が立っている。
「あ、お母様、ただいま帰りました」
「お帰りなさい、アントン。さ、こっちに来て。食事の準備ができているのよ」
お母様はにっこり笑うと俺を促す。
お母様と並んで歩く俺に、アルベルトは声をかけてきた。
「ところで、ヴィクトル王子は平気でしたか?」
「は?」
意味が分からず俺は尋ねる。
「兄さんに魔力譲渡をする際、王子には何事もありませんでしたか?」
「たぶん、特になにも……」
たしかに魔力譲渡のあと、いつもヴィクトルは顔が赤くなって息を切らしていたが……。
それは激しいディープキスをしてくるせいなのだろうし……。
「そうですか。それならいいんです。別に」
珍しく歯切れの悪い言い方だったが、そのときの俺はたいして気にも止めていなかった。
アルベルトの腕に抱きしめられ、そのたくましい胸板を頬に感じ、俺はガラにもなくドキドキしてしまう。
ただでさえ同じ人間とは思えないほどの超絶美形なのだ。
ずっと一緒に暮らしてきた兄の俺でさえ、こうやって近づきすぎると、うっかりときめいてしまうほどなのだ。
そんなアルベルトに抱きしめられて、こんな勘違いしそうなせりふをささやかれたら、女の子はもちろんのこと、男だってきっと誰だってきゅんきゅんしてしまうに違いない。
だから、このドキドキは俺のせいじゃなくて、アルベルトのせいなんだ!
決して俺がアルベルトによこしまな感情を抱いているとかそういうことではないっ!
「あの……、アルベルト、俺が悪かった。あやまるよ。これからはアルベルトをちゃんと頼る」
「兄さんっ……!」
だからお願いだからこれ以上耳元でささやかないで……。もうすでに俺のライフはゼロだ……。
アルベルトは、この世界の女の子たちだけじゃなく、兄の心まで奪うつもりなのか……っ!?
「もう、誰のことも頼ったりしないで。俺だけを頼って!」
アルベルトが俺の肩に顔をうずめる。
珍しく甘えたようなそのそぶりに、俺はピンときた。
そうか。アルベルトは幼少期から、俺の魔力を補充し続けてきたのだ。その長年の「役割」を誰かに奪われるのが、なんとなくおもしろくないのだ。
たとえそれが自ら喜んでやっていることでないにしても、今まで自分の「仕事」だと思っていたことを、突然誰かに横取りされていたら、そりゃ不愉快に感じても仕方ないよね!?
前世で働いていた記憶がある俺だが、人のやっている仕事を取る奪うことはいわゆる「ご法度」だったし……。
また、アルベルトは幼いころからふがいない兄の面倒を見続けてきたことにより、俺に対して異様なほど過保護である。
そりゃ確かに、いつ魔力切れで死ぬとも限らない兄がそばにいたら、気が休まる暇がないよな……。
――アルベルトはずっと、俺のこの体質のせいで、俺に振り回され続けてきたんだ……。
俺はアルベルトには心底感謝している。そして心底申し訳なく思っている。
「ごめんな、アルベルト。これからはお前だけを頼りにするよ!」
お前だけ、を特に強調するとアルベルトの気も少しはおさまったのか、俺の背中に回した腕が少し緩む。
俺もアルベルトの背に手をまわして、優しくさすってやる。
「これからは、今まで以上にしっかりと魔力を補充しますね! 絶対!!に、一週間もたせますから!!!
それでも足りなくなるようでしたら、俺が毎週学園まで出向きます!」
そんなことさせられるワケねーだろうがよぉう!!と俺は心の中で叫ぶが、とりあえず頷いておく。
「わかった。もし足りなくなりそうだったら、おまえに連絡するから……」
これからは、なんとしてもなけなしの魔力を無駄遣いしないように心がけよう……。
「あと兄さんの魔力をそぐようなものがいたら俺に報告してください。すぐに対処しますから」
「……うん?」
――対処? 対処ってナニ?
怖すぎて俺は聞けない……。
「約束ですよ……」
アルベルトは俺をさらにぎゅっときつく抱いた。
「約束する……」
アルベルトは俺のにおいをかぐみたいに、俺の肩口に額をぐりぐりと押し付けてくる。
銀色のつややかな髪がさらさらと揺れて、くすぐったい。
こんな風に俺に甘えるアルベルトは、年相応に可愛く見えた……。
しばらくして気が済んだのか、アルベルトはそっと身体を離し、俺を見つめた。
お互いに背中に手をまわしたままなので、抱き合ったまま見つめ合う形になる。
――これって、ちょっと、というか、かなり恋人っぽいくない!?
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「明日、王宮には俺も一緒にいきます。ヴィクトル王子に、いままで兄さんに魔力を補ってもらったお礼もぜひ言いたいですし、これからは必要ないという説明もしないといけませんしね!」
一人でどぎまぎする俺になんか、まるで気づかないアルベルトは、有無を言わせない艶やかな微笑みを浮かべる。
「……そうだね」
まあ、アルベルトがついてくることは初めからわかっていた。心配症のアルベルトが、俺を一人で行かせるはずはないからな。
そして、アルベルトの手が俺の髪を優しく梳き、右耳のピアスに触れた。
その繊細な指先に、俺の身体がぴくっと反応する。
「‥‥…っ!」
「アルベルト、離れなさい!」
厳しい声と同時に、俺はアルベルトから解放された。
振り返ると、険しい表情をしたお母様が立っている。
「あ、お母様、ただいま帰りました」
「お帰りなさい、アントン。さ、こっちに来て。食事の準備ができているのよ」
お母様はにっこり笑うと俺を促す。
お母様と並んで歩く俺に、アルベルトは声をかけてきた。
「ところで、ヴィクトル王子は平気でしたか?」
「は?」
意味が分からず俺は尋ねる。
「兄さんに魔力譲渡をする際、王子には何事もありませんでしたか?」
「たぶん、特になにも……」
たしかに魔力譲渡のあと、いつもヴィクトルは顔が赤くなって息を切らしていたが……。
それは激しいディープキスをしてくるせいなのだろうし……。
「そうですか。それならいいんです。別に」
珍しく歯切れの悪い言い方だったが、そのときの俺はたいして気にも止めていなかった。
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