17 / 95
第17話
しおりを挟む
ーーええっ!?
アルベルトの腕に抱きしめられ、そのたくましい胸板を頬に感じ、俺はガラにもなくドキドキしてしまう。
ただでさえ同じ人間とは思えないほどの超絶美形なのだ。
ずっと一緒に暮らしてきた兄の俺でさえ、こうやって近づきすぎると、うっかりときめいてしまうほどなのだ。
そんなアルベルトに抱きしめられて、こんな勘違いしそうなせりふをささやかれたら、女の子はもちろんのこと、男だってきっと誰だってきゅんきゅんしてしまうに違いない。
だから、このドキドキは俺のせいじゃなくて、アルベルトのせいなんだ!
決して俺がアルベルトによこしまな感情を抱いているとかそういうことではないっ!
「あの……、アルベルト、俺が悪かった。あやまるよ。これからはアルベルトをちゃんと頼る」
「兄さんっ……!」
だからお願いだからこれ以上耳元でささやかないで……。もうすでに俺のライフはゼロだ……。
アルベルトは、この世界の女の子たちだけじゃなく、兄の心まで奪うつもりなのか……っ!?
「もう、誰のことも頼ったりしないで。俺だけを頼って!」
アルベルトが俺の肩に顔をうずめる。
珍しく甘えたようなそのそぶりに、俺はピンときた。
そうか。アルベルトは幼少期から、俺の魔力を補充し続けてきたのだ。その長年の「役割」を誰かに奪われるのが、なんとなくおもしろくないのだ。
たとえそれが自ら喜んでやっていることでないにしても、今まで自分の「仕事」だと思っていたことを、突然誰かに横取りされていたら、そりゃ不愉快に感じても仕方ないよね!?
前世で働いていた記憶がある俺だが、人のやっている仕事を取る奪うことはいわゆる「ご法度」だったし……。
また、アルベルトは幼いころからふがいない兄の面倒を見続けてきたことにより、俺に対して異様なほど過保護である。
そりゃ確かに、いつ魔力切れで死ぬとも限らない兄がそばにいたら、気が休まる暇がないよな……。
――アルベルトはずっと、俺のこの体質のせいで、俺に振り回され続けてきたんだ……。
俺はアルベルトには心底感謝している。そして心底申し訳なく思っている。
「ごめんな、アルベルト。これからはお前だけを頼りにするよ!」
お前だけ、を特に強調するとアルベルトの気も少しはおさまったのか、俺の背中に回した腕が少し緩む。
俺もアルベルトの背に手をまわして、優しくさすってやる。
「これからは、今まで以上にしっかりと魔力を補充しますね! 絶対!!に、一週間もたせますから!!!
それでも足りなくなるようでしたら、俺が毎週学園まで出向きます!」
そんなことさせられるワケねーだろうがよぉう!!と俺は心の中で叫ぶが、とりあえず頷いておく。
「わかった。もし足りなくなりそうだったら、おまえに連絡するから……」
これからは、なんとしてもなけなしの魔力を無駄遣いしないように心がけよう……。
「あと兄さんの魔力をそぐようなものがいたら俺に報告してください。すぐに対処しますから」
「……うん?」
――対処? 対処ってナニ?
怖すぎて俺は聞けない……。
「約束ですよ……」
アルベルトは俺をさらにぎゅっときつく抱いた。
「約束する……」
アルベルトは俺のにおいをかぐみたいに、俺の肩口に額をぐりぐりと押し付けてくる。
銀色のつややかな髪がさらさらと揺れて、くすぐったい。
こんな風に俺に甘えるアルベルトは、年相応に可愛く見えた……。
しばらくして気が済んだのか、アルベルトはそっと身体を離し、俺を見つめた。
お互いに背中に手をまわしたままなので、抱き合ったまま見つめ合う形になる。
――これって、ちょっと、というか、かなり恋人っぽいくない!?
顔、近いし!!!
「明日、王宮には俺も一緒にいきます。ヴィクトル王子に、いままで兄さんに魔力を補ってもらったお礼もぜひ言いたいですし、これからは必要ないという説明もしないといけませんしね!」
一人でどぎまぎする俺になんか、まるで気づかないアルベルトは、有無を言わせない艶やかな微笑みを浮かべる。
「……そうだね」
まあ、アルベルトがついてくることは初めからわかっていた。心配症のアルベルトが、俺を一人で行かせるはずはないからな。
そして、アルベルトの手が俺の髪を優しく梳き、右耳のピアスに触れた。
その繊細な指先に、俺の身体がぴくっと反応する。
「‥‥…っ!」
「アルベルト、離れなさい!」
厳しい声と同時に、俺はアルベルトから解放された。
振り返ると、険しい表情をしたお母様が立っている。
「あ、お母様、ただいま帰りました」
「お帰りなさい、アントン。さ、こっちに来て。食事の準備ができているのよ」
お母様はにっこり笑うと俺を促す。
お母様と並んで歩く俺に、アルベルトは声をかけてきた。
「ところで、ヴィクトル王子は平気でしたか?」
「は?」
意味が分からず俺は尋ねる。
「兄さんに魔力譲渡をする際、王子には何事もありませんでしたか?」
「たぶん、特になにも……」
たしかに魔力譲渡のあと、いつもヴィクトルは顔が赤くなって息を切らしていたが……。
それは激しいディープキスをしてくるせいなのだろうし……。
「そうですか。それならいいんです。別に」
珍しく歯切れの悪い言い方だったが、そのときの俺はたいして気にも止めていなかった。
アルベルトの腕に抱きしめられ、そのたくましい胸板を頬に感じ、俺はガラにもなくドキドキしてしまう。
ただでさえ同じ人間とは思えないほどの超絶美形なのだ。
ずっと一緒に暮らしてきた兄の俺でさえ、こうやって近づきすぎると、うっかりときめいてしまうほどなのだ。
そんなアルベルトに抱きしめられて、こんな勘違いしそうなせりふをささやかれたら、女の子はもちろんのこと、男だってきっと誰だってきゅんきゅんしてしまうに違いない。
だから、このドキドキは俺のせいじゃなくて、アルベルトのせいなんだ!
決して俺がアルベルトによこしまな感情を抱いているとかそういうことではないっ!
「あの……、アルベルト、俺が悪かった。あやまるよ。これからはアルベルトをちゃんと頼る」
「兄さんっ……!」
だからお願いだからこれ以上耳元でささやかないで……。もうすでに俺のライフはゼロだ……。
アルベルトは、この世界の女の子たちだけじゃなく、兄の心まで奪うつもりなのか……っ!?
「もう、誰のことも頼ったりしないで。俺だけを頼って!」
アルベルトが俺の肩に顔をうずめる。
珍しく甘えたようなそのそぶりに、俺はピンときた。
そうか。アルベルトは幼少期から、俺の魔力を補充し続けてきたのだ。その長年の「役割」を誰かに奪われるのが、なんとなくおもしろくないのだ。
たとえそれが自ら喜んでやっていることでないにしても、今まで自分の「仕事」だと思っていたことを、突然誰かに横取りされていたら、そりゃ不愉快に感じても仕方ないよね!?
前世で働いていた記憶がある俺だが、人のやっている仕事を取る奪うことはいわゆる「ご法度」だったし……。
また、アルベルトは幼いころからふがいない兄の面倒を見続けてきたことにより、俺に対して異様なほど過保護である。
そりゃ確かに、いつ魔力切れで死ぬとも限らない兄がそばにいたら、気が休まる暇がないよな……。
――アルベルトはずっと、俺のこの体質のせいで、俺に振り回され続けてきたんだ……。
俺はアルベルトには心底感謝している。そして心底申し訳なく思っている。
「ごめんな、アルベルト。これからはお前だけを頼りにするよ!」
お前だけ、を特に強調するとアルベルトの気も少しはおさまったのか、俺の背中に回した腕が少し緩む。
俺もアルベルトの背に手をまわして、優しくさすってやる。
「これからは、今まで以上にしっかりと魔力を補充しますね! 絶対!!に、一週間もたせますから!!!
それでも足りなくなるようでしたら、俺が毎週学園まで出向きます!」
そんなことさせられるワケねーだろうがよぉう!!と俺は心の中で叫ぶが、とりあえず頷いておく。
「わかった。もし足りなくなりそうだったら、おまえに連絡するから……」
これからは、なんとしてもなけなしの魔力を無駄遣いしないように心がけよう……。
「あと兄さんの魔力をそぐようなものがいたら俺に報告してください。すぐに対処しますから」
「……うん?」
――対処? 対処ってナニ?
怖すぎて俺は聞けない……。
「約束ですよ……」
アルベルトは俺をさらにぎゅっときつく抱いた。
「約束する……」
アルベルトは俺のにおいをかぐみたいに、俺の肩口に額をぐりぐりと押し付けてくる。
銀色のつややかな髪がさらさらと揺れて、くすぐったい。
こんな風に俺に甘えるアルベルトは、年相応に可愛く見えた……。
しばらくして気が済んだのか、アルベルトはそっと身体を離し、俺を見つめた。
お互いに背中に手をまわしたままなので、抱き合ったまま見つめ合う形になる。
――これって、ちょっと、というか、かなり恋人っぽいくない!?
顔、近いし!!!
「明日、王宮には俺も一緒にいきます。ヴィクトル王子に、いままで兄さんに魔力を補ってもらったお礼もぜひ言いたいですし、これからは必要ないという説明もしないといけませんしね!」
一人でどぎまぎする俺になんか、まるで気づかないアルベルトは、有無を言わせない艶やかな微笑みを浮かべる。
「……そうだね」
まあ、アルベルトがついてくることは初めからわかっていた。心配症のアルベルトが、俺を一人で行かせるはずはないからな。
そして、アルベルトの手が俺の髪を優しく梳き、右耳のピアスに触れた。
その繊細な指先に、俺の身体がぴくっと反応する。
「‥‥…っ!」
「アルベルト、離れなさい!」
厳しい声と同時に、俺はアルベルトから解放された。
振り返ると、険しい表情をしたお母様が立っている。
「あ、お母様、ただいま帰りました」
「お帰りなさい、アントン。さ、こっちに来て。食事の準備ができているのよ」
お母様はにっこり笑うと俺を促す。
お母様と並んで歩く俺に、アルベルトは声をかけてきた。
「ところで、ヴィクトル王子は平気でしたか?」
「は?」
意味が分からず俺は尋ねる。
「兄さんに魔力譲渡をする際、王子には何事もありませんでしたか?」
「たぶん、特になにも……」
たしかに魔力譲渡のあと、いつもヴィクトルは顔が赤くなって息を切らしていたが……。
それは激しいディープキスをしてくるせいなのだろうし……。
「そうですか。それならいいんです。別に」
珍しく歯切れの悪い言い方だったが、そのときの俺はたいして気にも止めていなかった。
257
お気に入りに追加
2,605
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。
浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。
既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公
”ヴィンセント”だと判明。
そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?!
次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。
だがそんな俺の前に大きな壁が!
このままでは原作通り殺されてしまう。
どうにかして乗り越えなければ!
妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___
ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄
※固定CP
※投稿不定期
※初めの方はヤンデレ要素少なめ
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
ある日、人気俳優の弟になりました。2
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
BLゲームの世界に転生!~って、あれ。もしかして僕は嫌われ者の闇属性!?~
七海咲良
BL
「おぎゃー!」と泣きながら生まれてきた僕。手足はうまく動かせないのに妙に頭がさえているなと思っていたが、今世の兄の名前を聞いてようやく気付いた。
あ、ここBLゲームの世界だ……!! しかも僕は5歳でお役御免の弟!? 僕、がんばって死なないように動きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる