上 下
16 / 95

第16話

しおりを挟む
「兄さん、何を黙っているんです? 適当にごまかそうとしても無駄ですからね!」

 冷え冷えとしたアルベルトを包むオーラに、俺の背筋は凍り付く。


 だが、その答えについては、俺にとっても謎なワケで……。

 俺はなけなしの頭脳をフル回転させる。


 ――約束、ヴィクトル、約束、ヴィクトル、約束……。


 そのとき俺のへっぽこ頭脳は突然ひらめいた。


「そうだ、きっとクッキーだ!」

「クッキー、ですか?」

 アルベルトは怪訝そうに眉根を寄せた。


「そうなんだ。いつもヴィクトルにお気に入りの店のクッキーを渡してるんだけど、毎回ヴィクトルが独り占めするんだ! だから、きっとソフィア王女が、それを気にかけてくれて、俺に今までの分のクッキーを用意してくれるんじゃないかな?」


「へえ、そうなんですね。……いつも、ヴィクトルに、お気に入りの、クッキーを!」


 一つ一つわざと大きな声で、言葉を区切ってアルベルトが念を押す。



「あっ、その、えーっと……」


「本当に仲がいいんですね。呼び捨ての仲で、それでいてお気に入りの店のクッキーをいつも、プレゼントしてあげているとは!
……弟の俺には、おみやげの一つも、ないというのに!」


 アルベルトの背後から、青い焔が見える気がした。



 や、やばい! 墓穴を掘ったか!!?



 そのとき俺は、ヴィクトルの機嫌をとることばかりに気を取られ、肝心のアルベルトをおざなりにしてきたことを痛烈に後悔した。


 ――そうだよ。なんで今までアルベルトにも買ってこなかったんだ!? バカバカ、俺の馬鹿!!! 

 「付け届け」はお付き合いの基本だというのに!!



「ひっ! ご、ごめん。アルベルトは甘いもの苦手だと思ってたから。俺が気がきかなくてごめん! そんなにクッキーがほしかったんなら、こんどちゃんと買ってくるから」

「そういうことを言ってるんじゃないんですっ!」


 アルベルトの剣幕に、思わず俺は後ずさった。


「まず、ヴィクトル王子には近づくな、と入学前からあれほど言っていたと思うのですが、兄さんはすっかり忘れられているようですね。俺の言ったことなど、覚えているほどの価値もないということでしょうか?」


 アルベルトはじわじわと俺を責めてくる。

 壁がわに追い詰められ、完全に逃げ場のない俺。


「ち、違うんだ、アルベルト! もちろん、覚えていたよ! ただ、これは……、これは、しょうがないというか、そう、不可抗力! 不可抗力の結果なんだ!」


「……へえ、不可抗力で、兄さんはヴィクトル王子を、呼び捨てにして、クッキーをいつもプレゼントされるほど大変仲良くされてれている、というわけなのですね。それがどういう不可抗力なのか、俺にもわかるように説明してもらえますよね?」


 アルベルトの手の中で、手紙がぐしゃりと音をたてて握りつぶされる。



 ――これは、あれだよね。絶対、絶対アカンやつだ。答えによっては、俺もヴィクトルもこの世から消されてしまうような案件だ!


 なにかいい言い訳を考えるが、いかんせん凡庸な俺の脳味噌では、頭脳明晰なアルベルトを納得させるだけの嘘は思いつかない。


 生半可な嘘では、アルベルトの疑念をさらに深めるだけの結果になるに違いない。


 こうなったら、ある程度は本当のことを話すしかないと、俺は腹をくくった。



「ちゃんと話す! ちゃんと話すから!! アルベルト、怒らないで聞いてほしいんだ!」」



 ――もうすでに十分怒ってらっしゃいますけどね!?


 神妙な俺の顔つきに、アルベルトはしぶしぶと言った感じで頷いた。



・・・・・・・・・・

 俺は観念して説明した。

 学園で魔力切れを起こして死にかけたこと。そしてそれを救ったのがヴィクトルだったこと。それ以来、定期的にヴィクトルから魔力の補充を受けていること……。


 もちろん、魔力譲渡の手段がべろちゅーだということは、巧妙に伏せておいた。だって、兄としてめちゃくちゃ恥ずかしいし、これだけは絶対に言ってはいけないと、俺の本能が告げていた。



「……どうして、今まで俺に何も言ってくれなかったんですか」

 猛烈な説教タイムが始まると覚悟していたのだが、アルベルトは俺の予想に反して、苦渋に満ちた顔をしていた。



「いや、それは、その、なんというか毎週毎週魔力譲渡してもらってるのに、それで足りなかったなんて言い出しづらくて……」


「兄さんにとって、そんなに俺は信用がありませんか?
俺はショックです……。あのヴィクトル王子を頼らなければならないほど、俺からの魔力譲渡を嫌がっていたなんて」

「ちがう、ちがうって!」

 俺は全力で否定する。誰がうれしくて、あのヴィクトルからの屈辱タイムを毎週耐えているというのだ!
 
「俺はっ! おまえからの魔力譲渡がいやなワケじゃない! 俺だって好き好んでヴィクトル王子から譲渡されてるわけじゃないんだ! これはどうしようもなく、というか、ほかに方法がなかっただけであって……」


「だったら、どうして……! 言ってくれれば済む話じゃないですか!」


「だって、俺、いやだったんだ。これ以上アルベルトに迷惑かけたくなくて。
俺、ただでさえ弟のおまえのお荷物なのに、これ上負担をかけたくなかったんだ……」


「兄さんが俺の負担だったことなんて、一度もないっ!」


 アルベルトは叫ぶように言うと、俺を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。



「もっと、俺を頼ってください。兄さんがほかの誰かを頼るのは、我慢できない! 兄さんがほかの誰かに守られるなんて、絶対にいやなんです!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄2人からどうにかして処女を守りたいけどどうしたものか

たかし
BL
完璧イケメンの兄×2に処女を狙われてるんですけど、回避する方法を誰か知りませんかね?! 親同士の再婚で義兄弟になるとかいうありがちなストーリーのせいで、迫る変態完璧兄貴2人と男前で口の悪い弟のケツ穴攻防戦が今、始まる___________ まぁ、ざっくり言ってコメディです 多分エロも入ります。多分てか絶対。 題名からしてもう頭悪いよね。 ちょっとしてからエロが加速し始めるんじゃないかな(適当) あ、リクエストかなんかあればどうぞ〜 採用するかはなんとも言えません(笑) 最後にカメ更新宣言しときます( ✌︎'ω')✌︎ *追記* めちゃくちゃギャグテイストです。 キャラがふわふわしとるわ。 なんか…その……あの、じわじわ開発されてく感じ。うん。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?

藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。 悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥ すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。 男性妊娠可能な世界です。 魔法は昔はあったけど今は廃れています。 独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥ 大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。 R4.2.19 12:00完結しました。 R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。 お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。 多分10話くらい? 2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

処理中です...