上 下
15 / 95

第15話

しおりを挟む
 アルベルトは基本的に喜怒哀楽を顔に出すタイプではない。

 いうなれば、ポーカーフェイス、仏頂面、鉄面皮……。


 だが、この一見穏やかそうな微笑みの裏側から流れ出るただならぬ冷気……。


 これ絶対めちゃくちゃ怒ってるヤツだよね!?



「あ、アルベルト。その手紙はいったい、なん、なの、か、……な?」


 とりあえず状況を把握しなければいけない俺は、ひとつひとつ言葉を選んでアルベルトに問いかけた。

 対応を間違えると、とてもややこしいことになりかねない。



「これは、ソフィア王女から兄さんへの手紙ですよ」


「へっ!? ソフィア王女っ!?」


 予想外の答えに、俺の鼻の穴が思わずふくらんでしまったらしい。


 アルベルトを包む冷気が、また何度か下がった気がした。


「……ええ、ソフィア王女です。兄さんと王女が、手紙のやりとりをされるほどほど親しかったとは知りませんでした」

 や、やばい。アルベルトの額の青筋がぴくぴくと痙攣している……。


 ちなみに俺とソフィア王女は面識はあれど、知り合いというほど親しくもないわけで、何であのソフィア王女から俺にお手紙がくるのか、俺にもさっぱりわからない。

 そして、俺宛の手紙なのに、なぜか当然のようにアルベルトに開封されているのはなぜなのか?

 俺には人権すらないのか・・・?


 だが、俺にとってはソフィア王女からお手紙がくるということは、今をときめく人気アイドルから突然メールがくるようなもの!?

 この世界の男で、あの慈愛に満ちたお美しい王女様にあこがれないヤツなんていない!

 なにがどうなっているのかはさっぱりわからないが、ついに俺にも転生者にありがちな「チートボーナス」が与えられたのか!?

 まったく冴えない俺だが、あの次代の女王には転生者としての俺の何か特別な魅力を感じ取れることができるとか?

 俺は、憮然とした表情のアルベルトから手紙を奪い取ると、鼻息荒く中身を確認した。



 ーーーーーー

 前略、いつも愚弟と親しくしていただきありがとうございます。
 ヴィクトルはああいう性格ですので、親しい友もおらず常々心配しておりましたが、アントンさんのような心優しい方に大変仲良くしていただいていると聞いて、とても安心しております。
 さて、このたび突然お手紙を差し上げましたのは、先日ヴィクトルと約束されたお品を、僭越ながら姉の私がご用意させていただいたからでございます。急で申し訳ないのですが、土曜日のお茶の時間に王宮までお越しいただければ大変うれしく思います。
 首を長くしてお待ちしております。

 かしこ

 ーーーーーー




「??????」

 ってこの手紙、ヴィクトルのことしか書いてなくない? 

 お誘いの文章っぽいけど、俺が明日の土曜日王宮に出向くことは半ば決定事項になっているような雰囲気。

 さすがは王女様! 優しい文面ながらも、そこはかとなく漂う威圧感と王族オーラ!
 下民の俺には断る権利などなく、従うしかないのだろう……。


 そして密かに期待していたウフフ展開が見事にはずれ、俺は静かに落胆した。

 それにしても、読めば読むほど意味不明の内容だ。

 俺はヴィクトルと、いったいなにを約束したというのだろう。あのヴィクトルの性格からして、ヴィクトルが俺と仲良くしているなんて、お姉様に報告するわけがないだろう! 

 それに、そもそも俺とヴィクトルは仲良くなんてしていない!

 たとえ、成り行き上べろちゅーをすることがあったとしても!!!!


 ――ということは、またあの偏屈王子が、あることないこと、姉のソフィア王女に報告したのかもしれない。心優しいソフィア王女のこと、ヴィクトルのことを思ってなにかしてあげようと心を砕いたのかもしれない……。



「あっ、ちょっと!」

 アルベルトは俺からその手紙を取り上げると、その青紫の瞳をすっと細める。


「兄さんが、あのヴィクトル王子と親しくされているなんてちっとも知りませんでした……。
……それで……、約束された内容というのを、聞かせていただけますか?」


 こ、怖い……、怖いよアルベルト!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた

霧乃ふー  短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」 絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。 僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。 だから、僕は思ったのだ。 僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

双子攻略が難解すぎてもうやりたくない

はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。 22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。 脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!! ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話 ⭐︎登場人物⭐︎ 元ストーカーくん(転生者)佐藤翔  主人公 一宮桜  攻略対象1 東雲春馬  攻略対象2 早乙女夏樹  攻略対象3 如月雪成(双子兄)  攻略対象4 如月雪 (双子弟)  元ストーカーくんの兄   佐藤明

処理中です...