上 下
11 / 95

第11話

しおりを挟む
 
 木曜日は平穏無事にすぎるはず、だった……。

 だった……のに……。


 朝目覚めるとすぐ、寮の自室に一通の手紙が届いているのに気がついた。

 嫌な予感に、俺の鼓動が早くなる。

 それはおそらく魔力で飛ばされてきた手紙で、黒い封筒に入っていた。
 
 もちろん送り主の名前などない。そして、そこに書かれていることは読まずともわかっていた。


  ――お前は調子に乗りすぎている! いい気になるな!

 ――お前のような劣悪な存在が、あの方のそばにいるなんて汚らわしい!

 ――あの方から離れろ! 近寄るな!

 ――この学園から出ていけ!


 罵詈雑言のオンパレード。俺に対しての嫌悪と敵意をむき出しにした内容。

 俺が手紙の中身を読み終えたとたん、その手紙は封筒ごと灰になって消滅した。

 かなり魔力が高い生徒が、俺に送り付けているに違いない。

 教師に訴えたりされないように、証拠を残さないよう魔法をかけているのだ。


 おそらくエリアスの熱心な信奉者なのだろう。エリアスはその美しい外見と高い魔力から、学園内でも男女問わずたくさんの生徒から憧れられるカリスマ的存在だ。

 そんなエリアスのそばに、俺みたいな何のとりえもない、親の力だけでこの学園にいるような生徒がいるのがきっと我慢ならないのだろう。

 だが……。

 いったい誰がこんな悪意を俺に向けているんだろう。クラスメート? この学園の名前も知らない誰か?

 相手は俺のことを知っているのに、俺はその悪意を向けてくるやつのことを何も知らない。


 まだ、面と向かって言われた方が、何とか耐えられた。


 俺は胃のあたりがぎゅっと痛くなり、呼吸が荒くなるのを感じた。



 ――駄目だ、また無駄に魔力を消耗してる……。


 生まれつき、ちょっとしか蓄えられない、俺の魔力の器……。


 
 そういえば、魔力切れを学園で初めて起こしたあの時も、今日みたいに寮の自室にこんな黒い封筒が届いたんだ……。





 悪いことは重なって起こるらしい。



 いつものように、アデラとエリアスとともに昼食を終えた俺は、カフェテリアから教室へと向かっていた。

 その時、小さなつむじ風が俺の横を通り過ぎた。



 ――下賤の者のくせに、偉そうにふるまうなよ?


 ――汚らわしい存在め!


 ――お前はこの学園の恥さらしだ!



 耳元でささやかれたみたいに、脳内に響いてくる。

 また魔法を使った嫌がらせだ。

 聞き覚えのない声色。……おそらく声も魔法で変えている。

 俺は振り返るが、周りは俺と同じように教室へと向かう生徒たちばかりだ……。

 誰だ? 一体誰が!?


 また脈が速くなっていくのがわかる。


 ――俺だって望んでこの学園にいるわけじゃない。

 ――自分が貴族の身分にふさわしくないことは十分わかっている。

 ――だからといって俺にどうしろというんだ!?



 その後教室に戻った俺は上の空で、授業の内容もほとんど頭に入ってこなかった。


 放課後、重く沈み込むような身体を抱えながら、寮へを向かう道すがら……、


「アーントンっ!」


 底抜けに明るい声に呼び止められる。


「エリアス……」


 光り輝くような金髪の美少年がニコニコとほほ笑んでいる。



「どうしたの? 顔色がすごく悪いよ」



 小首をかしげるその可愛らしい顔を目の前にした俺は、なぜか泣きそうになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた

霧乃ふー  短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」 絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。 僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。 だから、僕は思ったのだ。 僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

処理中です...