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第11話
しおりを挟む木曜日は平穏無事にすぎるはず、だった……。
だった……のに……。
朝目覚めるとすぐ、寮の自室に一通の手紙が届いているのに気がついた。
嫌な予感に、俺の鼓動が早くなる。
それはおそらく魔力で飛ばされてきた手紙で、黒い封筒に入っていた。
もちろん送り主の名前などない。そして、そこに書かれていることは読まずともわかっていた。
――お前は調子に乗りすぎている! いい気になるな!
――お前のような劣悪な存在が、あの方のそばにいるなんて汚らわしい!
――あの方から離れろ! 近寄るな!
――この学園から出ていけ!
罵詈雑言のオンパレード。俺に対しての嫌悪と敵意をむき出しにした内容。
俺が手紙の中身を読み終えたとたん、その手紙は封筒ごと灰になって消滅した。
かなり魔力が高い生徒が、俺に送り付けているに違いない。
教師に訴えたりされないように、証拠を残さないよう魔法をかけているのだ。
おそらくエリアスの熱心な信奉者なのだろう。エリアスはその美しい外見と高い魔力から、学園内でも男女問わずたくさんの生徒から憧れられるカリスマ的存在だ。
そんなエリアスのそばに、俺みたいな何のとりえもない、親の力だけでこの学園にいるような生徒がいるのがきっと我慢ならないのだろう。
だが……。
いったい誰がこんな悪意を俺に向けているんだろう。クラスメート? この学園の名前も知らない誰か?
相手は俺のことを知っているのに、俺はその悪意を向けてくるやつのことを何も知らない。
まだ、面と向かって言われた方が、何とか耐えられた。
俺は胃のあたりがぎゅっと痛くなり、呼吸が荒くなるのを感じた。
――駄目だ、また無駄に魔力を消耗してる……。
生まれつき、ちょっとしか蓄えられない、俺の魔力の器……。
そういえば、魔力切れを学園で初めて起こしたあの時も、今日みたいに寮の自室にこんな黒い封筒が届いたんだ……。
悪いことは重なって起こるらしい。
いつものように、アデラとエリアスとともに昼食を終えた俺は、カフェテリアから教室へと向かっていた。
その時、小さなつむじ風が俺の横を通り過ぎた。
――下賤の者のくせに、偉そうにふるまうなよ?
――汚らわしい存在め!
――お前はこの学園の恥さらしだ!
耳元でささやかれたみたいに、脳内に響いてくる。
また魔法を使った嫌がらせだ。
聞き覚えのない声色。……おそらく声も魔法で変えている。
俺は振り返るが、周りは俺と同じように教室へと向かう生徒たちばかりだ……。
誰だ? 一体誰が!?
また脈が速くなっていくのがわかる。
――俺だって望んでこの学園にいるわけじゃない。
――自分が貴族の身分にふさわしくないことは十分わかっている。
――だからといって俺にどうしろというんだ!?
その後教室に戻った俺は上の空で、授業の内容もほとんど頭に入ってこなかった。
放課後、重く沈み込むような身体を抱えながら、寮へを向かう道すがら……、
「アーントンっ!」
底抜けに明るい声に呼び止められる。
「エリアス……」
光り輝くような金髪の美少年がニコニコとほほ笑んでいる。
「どうしたの? 顔色がすごく悪いよ」
小首をかしげるその可愛らしい顔を目の前にした俺は、なぜか泣きそうになった。
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