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第7話
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水曜日はいろんな意味で憂鬱だ。
まずは、午後からの「探求の時間」という名の先生方のおさぼりタイム。
この時間は、生徒各自が自分の能力の追求と探求を目指し、グループワーク的な学習を行う時間となっていた。
魔力が高いものは、その同志たちが集まって魔法研究に興じ、腕に覚えのある者たちは剣術の稽古、もしくは練習試合など……。
そのほかにもいろいろなグループがあるらしいのだがいかんせんクラスで浮きっぱなしの俺は、どのグループにも入れてもらえていない。
先生に相談したところ「一緒にやるものがいないなら、とりあえず図書館で自習でもしてみたら?」となんともおよび腰な回答だった。
とにかく、この時間は生徒個人の自主性に任せているので教師の貴重な(休み)時間を邪魔するなということらしい。
この時間になるたび、俺には友達がいないのだという事実を突きつけられ、なんとなくおもだるーい気持ちになる。
いつもは強がっているつもりだが、やはり仲間がいないというのは学園生活においてつらい状況だ。
一人で自習するのも、罰ゲームみたいでなんとなく嫌だ。
精神を削られた気持ちになりつつも、俺はひっそりといつもの場所へと向かう。
――だがそこには、違う意味での「憂鬱」が待っている。
俺はとぼとぼと、学園の中庭にある温室に向かった。
温室は、年中美しい花であふれていた。
その最奥にある、恋人たちの逢引につかうのにぴったりな白い木のベンチに、その男は悠然と座っていた。
「遅かったな。愚民の分際で、俺様を待たせるとはいい度胸だ」
「……申し訳ありません。ヴィクトル殿下」
俺は恭しく頭を下げた。
何を隠そう、目の前で堂々と俺を見下すお方は、この国の王子、ヴィクトル殿下様なのだ。
ヴィクトルは、濃い藍色の瞳と髪を持っている。
初めて見たときに、室内だったせいもあり、黒髪の俺と同じ髪色だと感ちがいした俺は、同族を見つけたうれしさに思わず声をかけてしまった。
……が、案の定、
『藍色と黒の区別もつかないのか? お前は馬鹿か? お前のような下賤の者と、王族の俺を一緒にするな! この羽虫め!』
とののしられたのは、今となってはいい思い出だ。
藍色とは、古代から王族に伝わる由緒正しい色で、王族以外にこの色は出現しない、らしい……。
確かに、この国の女王のセシリア様も、王女のソフィア様も、そろって藍色の髪に、藍色の瞳をしている。
「二人のときは殿下はいらん、ヴィクトルと呼べ!」
「はい、ヴィクトル様……」
「アントン、貴様ァっ! 毎回毎回俺様を愚弄しているのか!? 呼び捨てでいいっ! と言っているのだ。
この王族の俺様がっ!」
「はい……、ヴィクトル……」
このたいそう面倒くさいこの男は、俺と同じ16歳。
傲慢で横柄で、高飛車で、残念な王子として名を馳せている。
黙っていれば相当の美男子であるのだが、その高すぎる自尊心とすべての生徒を見下す傲慢さが、すでに外見ににじみでてしまっている。
ヴィクトル自身は、魔力もそこそこ高いし、剣の腕だって悪くない。勉学だってそれなりにこなしていて、総じて優秀な王子なのだが、いかんせんその姉のソフィア王女の存在が悪かった。
ソフィア王女は見目麗しく、頭脳もとびぬけて明晰、何事も完璧かつ鮮やかにこなし、すべてにおいて最優秀賞! そして民を愛する広い心と慈愛に満ちた精神を持つ、なんというか聖女様のような存在なのだ。
幼いころから、優秀すぎる姉と常に比べられ、残念な弟扱いされてきたヴィクトルがここまでねじくれてしまったとして、誰も彼を責めることはできないだろう。
「まったく、羽虫の分際で、俺の時間を奪うとは、一度思い知らしてやるべきだな……」
ぶつぶつと文句を言い続けるヴィクトルの隣に、俺は腰掛けた。
「あの……、よかったらどうぞ」
俺はいつものように、ヴィクトルの機嫌を取るためのクッキーの包みを差し出した。
アデラに頼んで買ってきてもらったもので、城下町でも人気の店のものだ。
「ふん、羽虫にしては気が利くな」
どこまでも素直でないヴィクトルだが、甘いものが何より好きなのはすでにリサーチ済みだ。
「いつもお世話になっているので、ほんのお礼の気持ちです」
「……お前にそんな殊勝な気持ちがあったとはな」
言いながらも、すでに3枚目のクッキーをほおばっている。
俺と分け合おうという気は全くないらしい。
まずは、午後からの「探求の時間」という名の先生方のおさぼりタイム。
この時間は、生徒各自が自分の能力の追求と探求を目指し、グループワーク的な学習を行う時間となっていた。
魔力が高いものは、その同志たちが集まって魔法研究に興じ、腕に覚えのある者たちは剣術の稽古、もしくは練習試合など……。
そのほかにもいろいろなグループがあるらしいのだがいかんせんクラスで浮きっぱなしの俺は、どのグループにも入れてもらえていない。
先生に相談したところ「一緒にやるものがいないなら、とりあえず図書館で自習でもしてみたら?」となんともおよび腰な回答だった。
とにかく、この時間は生徒個人の自主性に任せているので教師の貴重な(休み)時間を邪魔するなということらしい。
この時間になるたび、俺には友達がいないのだという事実を突きつけられ、なんとなくおもだるーい気持ちになる。
いつもは強がっているつもりだが、やはり仲間がいないというのは学園生活においてつらい状況だ。
一人で自習するのも、罰ゲームみたいでなんとなく嫌だ。
精神を削られた気持ちになりつつも、俺はひっそりといつもの場所へと向かう。
――だがそこには、違う意味での「憂鬱」が待っている。
俺はとぼとぼと、学園の中庭にある温室に向かった。
温室は、年中美しい花であふれていた。
その最奥にある、恋人たちの逢引につかうのにぴったりな白い木のベンチに、その男は悠然と座っていた。
「遅かったな。愚民の分際で、俺様を待たせるとはいい度胸だ」
「……申し訳ありません。ヴィクトル殿下」
俺は恭しく頭を下げた。
何を隠そう、目の前で堂々と俺を見下すお方は、この国の王子、ヴィクトル殿下様なのだ。
ヴィクトルは、濃い藍色の瞳と髪を持っている。
初めて見たときに、室内だったせいもあり、黒髪の俺と同じ髪色だと感ちがいした俺は、同族を見つけたうれしさに思わず声をかけてしまった。
……が、案の定、
『藍色と黒の区別もつかないのか? お前は馬鹿か? お前のような下賤の者と、王族の俺を一緒にするな! この羽虫め!』
とののしられたのは、今となってはいい思い出だ。
藍色とは、古代から王族に伝わる由緒正しい色で、王族以外にこの色は出現しない、らしい……。
確かに、この国の女王のセシリア様も、王女のソフィア様も、そろって藍色の髪に、藍色の瞳をしている。
「二人のときは殿下はいらん、ヴィクトルと呼べ!」
「はい、ヴィクトル様……」
「アントン、貴様ァっ! 毎回毎回俺様を愚弄しているのか!? 呼び捨てでいいっ! と言っているのだ。
この王族の俺様がっ!」
「はい……、ヴィクトル……」
このたいそう面倒くさいこの男は、俺と同じ16歳。
傲慢で横柄で、高飛車で、残念な王子として名を馳せている。
黙っていれば相当の美男子であるのだが、その高すぎる自尊心とすべての生徒を見下す傲慢さが、すでに外見ににじみでてしまっている。
ヴィクトル自身は、魔力もそこそこ高いし、剣の腕だって悪くない。勉学だってそれなりにこなしていて、総じて優秀な王子なのだが、いかんせんその姉のソフィア王女の存在が悪かった。
ソフィア王女は見目麗しく、頭脳もとびぬけて明晰、何事も完璧かつ鮮やかにこなし、すべてにおいて最優秀賞! そして民を愛する広い心と慈愛に満ちた精神を持つ、なんというか聖女様のような存在なのだ。
幼いころから、優秀すぎる姉と常に比べられ、残念な弟扱いされてきたヴィクトルがここまでねじくれてしまったとして、誰も彼を責めることはできないだろう。
「まったく、羽虫の分際で、俺の時間を奪うとは、一度思い知らしてやるべきだな……」
ぶつぶつと文句を言い続けるヴィクトルの隣に、俺は腰掛けた。
「あの……、よかったらどうぞ」
俺はいつものように、ヴィクトルの機嫌を取るためのクッキーの包みを差し出した。
アデラに頼んで買ってきてもらったもので、城下町でも人気の店のものだ。
「ふん、羽虫にしては気が利くな」
どこまでも素直でないヴィクトルだが、甘いものが何より好きなのはすでにリサーチ済みだ。
「いつもお世話になっているので、ほんのお礼の気持ちです」
「……お前にそんな殊勝な気持ちがあったとはな」
言いながらも、すでに3枚目のクッキーをほおばっている。
俺と分け合おうという気は全くないらしい。
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