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【番外編】
Do Not Disturb【前編】
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番外編です。
時期的には、事件解決後と最終回ラストまでの間に起きた出来事。
隙間ストーリーです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――気づくと、季節は冬になっていた。
あまりにも多くの出来事が、あっという間に僕の前をすり抜けていってしまった。
一人残されたようになってしまった僕は、ただ茫然と日々を送っていた。
「おい、週末、空けとけよ!」
教室の窓から、ぼんやりと外を眺める僕の頭を、ディランが軽く叩く。
「え……、週末?」
「……ったく」
ディランは口をへの字に曲げ、僕を見る。
「あの湖のパーティでもらったホテルの招待券、そろそろ有効期限が切れるんだよ」
「あ、ああ……」
僕は目をそらす。
――ずっとふたをして見ないようにしていた過去を、急にほじくりかえされたような、後味の悪い感情が僕を支配する。
あの夏の終わり――。
僕たちは、何かにとりつかれたかのように、誰かを憎み、誰かを裏切り、誰かを苦しめていた……。
あれからすぐに父は、過去の自分の罪を清算するため、王にすべてを報告し爵位を返還した。事件を起こしたセント・ジョーンズカレッジに対しても、父からビショップ教授の身分回復を申し立てていた。
だが、すでに本人死亡という事案であり、カレッジの関係者からも有益な証言が取れなかったため、王は父が爵位を返還したことを重くとらえ、それ以上事を荒立てることはしなかった。
そして、唯一「処分」として下されたのが、ダグラス家が所有していた領地である、僕がキース・エヴァンズとしてうまれ育ったあの村の没収だった。
ただ、父の強い働きかけで、ビショップ教授のいたカレッジでは、彼の懲戒免職の処分取り消しが行われることになった。
父はすべてを告白する前に、起こしていた事業はすべて整理していたため、周辺に与えた影響は、心配していたほど大きくはなかった。
だが、国の高位貴族のスキャンダルとあって、ゴシップ雑誌や新聞の三面記事を、しばらくの間にぎわせることとなった。
父の過去の罪が公となり、二、三ヶ月の間、屋敷の周りを、腹をすかせたハイエナのような記者たちがうろついていたが、世間では新たな事件や事故が次々と起こり、人々の関心はあっという間に新鮮な話題へ向かっていった。
一方、世間ではそれなりに騒ぎになっていた時期でも、王立学院のクラスメートの対応はいたって冷静だった。
国政をつかさどる大臣たちの子女も通う王立学院では、親の醜聞や失脚はたいしてめずらしくもないこと。
そのたびに、学院生たちは、渦中の生徒を見てみないふりをしてやりすごしてきた。
――そんな環境が、僕にはこれ以上なくありがたかった。
おかげで、辞めなければならないと覚悟していた王立学院も、表面上は平穏に続けることができた。
僕は、剣術部を退部し、自分の殻に閉じこもるように、沈黙を守っていた。
事情を知るディランだけは、常に僕のそばに寄り添い、様々な外的な抑圧から僕を守ってくれていた。
ディランがいなければ、こうして何事もなかったような顔をして、学院に通うまでになることは絶対にできなかっただろう。それほどまでに、僕が心に負った痛手は、深いものだった。
――もうすでに、ディランは僕にとって、なくてはならない存在になっていた。
「お前も、そろそろ前を向いてもいい頃だろ?
それに……」
いつもの紺のウエストコートに、シルクの深緑のタイをしたディランは、その指で僕の唇を一撫でした。
「俺も、もう、待てない」
「ディラン……」
ディランの熱い視線に、僕の心もうずく。
――ディラン。
僕とディランは、精神的には、これ以上なく深く結びついていたが、まだ肉体的なつながりは持っていなかった。
ディランのなかでも、僕と、事件に対して、何らかの線引きがあったのかもしれない。
「いいよ……。行こう。一緒に」
僕はしっかりとディランを見つめ返した。
「そっか……。じゃ、楽しみにしてるぜ」
ディランは照れたように横を向くと、深緑のタイを緩めた。
週末。
ディランが手配した貸馬車が、僕を屋敷まで迎えに来た。
僕は、初めてディランと乗合馬車に乗ったときのことを、なつかしく思い出していた。
そしてそれと同時に、苦い記憶もよみがえる……。
――「彼」に、勝手な行動をしないよう注意されたこと……。
――その「彼」に、僕が強く反発したこと……。
あの時は、辛くて仕方がなかったことも、時がたてばただの思い出になっていることに唖然とする。
現在の父は、今までの自分をあがなうかのように、慈善活動に力を注いでいる。家でもゆっくり出来るようになり、僕との時間も取れるようになった。表情もすっかり穏やかなものになっている。
屋敷には、いまは通いのメイドが何人か来てくれているだけだ。
もう住み込みの使用人たちは、いない。
――もちろん、執事も……。
「オイっ、もっと楽しそうな顔、できないのかよ!」
僕が馬車に乗り込んだところで、ディランが僕に不満をこぼす。ディランはいつもの王立学院で見るような貴族然とした恰好ではなく、シャツにジャケットという「裕福な商家の三男坊」といった表現がぴったりな親しみやすいな服装だった。
背の高いディランに、こげ茶色のジャケットが良く似合っている。少し髪が伸びたディランは、以前より少し優しげな印象になっていた。
「……ごめん」
「言っとくけど、これ、俺たちがする初めてのちゃんとしたデートなんだぜ? 意味わかってんのか?」
「……」
いつものことながら、ディランの直接的なものの言い方に、なんと返事をしていいのか、悩む。
ディランは白い歯を見せて笑うと、僕の肩を抱く。
「さ、出発だ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すごいね、ディラン!」
僕は、海辺にそびえたつ白亜の建物を見上げた。
「……ああ」
最近できたという、貴族の間でも話題のホテル。
何もかもが最新らしく、見たことのないような設備で、もちろん料金もびっくりするくらい高額だ。
貴族の子女とはいえ王立学院の生徒が、おいそれと訪れるような場所ではない。
僕たちは早く着きすぎてしまったようで、大理石造りのホテルの受付では、部屋の準備ができるまで、このホテル自慢の庭園と近隣の森を散策してはどうかと提案された。
「行ってみようよ、ディラン!」
「……」
乗り気な僕とは反対に、なぜかディランの顔は曇った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すごく手入れが行き届いてるね。冬だっていうのに、こんなにいろんな花があるよ。
しかもこんな色合いにデザインできるなんて、びっくりだよ。ねえ、ディラン!」
「……ああ」
――何かがおかしい。
さっきからディランは心ここにあらず、いった様子だった。
これ以上なく意匠がこらされた庭園は、見たこともないほど見事なものだったが、ディランには何も響いていないようだ。
ディランはもともと、あまり花やら庭にはもともと興味はなさそうだったので、こんな反応もしかたないのかと僕はちょっとだけ残念に思う。
「ね、森の方にも行ってみようよ。今珍しい鳥が来てるって、ホテルの人も言ってたし!」
前方に広がる森指差す僕を見て、ディランの顔色が変わる。
「え……、森にまで……」
「いいだろ? 七色に輝く小鳥なんて、きっとディランだって見たことないだろ」
僕は、ディランの手を引く。
――ディランから無言の抵抗を感じる。僕は病院に連れて行ったときのバハティを思い出していた。
僕はゆったりとした足取りで、木々のざわめきや、小鳥のさえずりに耳を澄ませていた。
「ディラン、楽しいね」
「ああ……」
しぶしぶといった形で、僕に従うディランがなんだかおかしく思えてきた。
「……ディラン、本当は全然楽しくなんか、ないんだろ?」
「……っ、ンなことっ、あるかよっ!」
ディランの額には、なぜか冷や汗がにじんでいる。
「へえー。じゃあ、それでもいいけど」
小さく笑って、僕は前を向いた。
「ルイ、あのさ!」
ディランは急に真面目な顔になって、僕をじっとみつめた。
「なに?」
「俺……、めちゃくちゃ緊張してて……、実は昨日は一睡もしてないんだ!」
「は?」
――突然の告白。
「……なんで?」
「なんでって……、そりゃ、お前と、今日……」
ディランのいわんとしていることを悟り、僕の顔も赤くなった。
「そんなの……、大丈夫だよ。だって……」
「全然大丈夫……、じゃねえっ!」
「どうして……?」
「どうしてって……」
ディランは、シュンとして、背を丸めている。
「何も心配いらないって、だって僕は……」
僕はディランの手を取った。
緊張しているというのは本当らしい。ディランの指先はいつもよりずっと冷たかった。
「そりゃ、お前はそうだろうけど、俺は違うんだ!
だって、ずっと、ずっと、おかしくなるくらいお前のことを……!
なにもかも、ずっと俺は、心配してて……、もし、お前に嫌われたら、俺は……」
すがるように僕を見つめるディランに、僕は噴き出してしまった。
「ははっ、ディランが、そんなこと考えてたなんて……。思いもよらなかったよ!」
「……やっと、笑ったな……」
僕を見て、ディランが微笑む。
「ディラン……」
「あんま心配させんな! お前には、いつも笑ってて欲しいんだよ!」
隣に座る僕の頭に手を置き、髪をかき回す。
「ディラン……、ごめん……」
僕はディランの若葉色の瞳を覗き込んだ。
「あー、でもヤバい。緊張しすぎて、なんか吐きそう」
ディランの顔は青い。本気で具合が悪そうだ。
僕はディランの背を撫でた。
「じゃあ森の散策は後回しにして、ホテルで先にちょっと休む? もうそろそろ部屋の用意もできてるんじゃないかな?」
「ああ……そうしよう……」
ディランは自分の前髪を手で乱すと、ぎゅっと僕の手を握りしめた。
――数時間後、僕はこの選択を本気で後悔することになる。
時期的には、事件解決後と最終回ラストまでの間に起きた出来事。
隙間ストーリーです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――気づくと、季節は冬になっていた。
あまりにも多くの出来事が、あっという間に僕の前をすり抜けていってしまった。
一人残されたようになってしまった僕は、ただ茫然と日々を送っていた。
「おい、週末、空けとけよ!」
教室の窓から、ぼんやりと外を眺める僕の頭を、ディランが軽く叩く。
「え……、週末?」
「……ったく」
ディランは口をへの字に曲げ、僕を見る。
「あの湖のパーティでもらったホテルの招待券、そろそろ有効期限が切れるんだよ」
「あ、ああ……」
僕は目をそらす。
――ずっとふたをして見ないようにしていた過去を、急にほじくりかえされたような、後味の悪い感情が僕を支配する。
あの夏の終わり――。
僕たちは、何かにとりつかれたかのように、誰かを憎み、誰かを裏切り、誰かを苦しめていた……。
あれからすぐに父は、過去の自分の罪を清算するため、王にすべてを報告し爵位を返還した。事件を起こしたセント・ジョーンズカレッジに対しても、父からビショップ教授の身分回復を申し立てていた。
だが、すでに本人死亡という事案であり、カレッジの関係者からも有益な証言が取れなかったため、王は父が爵位を返還したことを重くとらえ、それ以上事を荒立てることはしなかった。
そして、唯一「処分」として下されたのが、ダグラス家が所有していた領地である、僕がキース・エヴァンズとしてうまれ育ったあの村の没収だった。
ただ、父の強い働きかけで、ビショップ教授のいたカレッジでは、彼の懲戒免職の処分取り消しが行われることになった。
父はすべてを告白する前に、起こしていた事業はすべて整理していたため、周辺に与えた影響は、心配していたほど大きくはなかった。
だが、国の高位貴族のスキャンダルとあって、ゴシップ雑誌や新聞の三面記事を、しばらくの間にぎわせることとなった。
父の過去の罪が公となり、二、三ヶ月の間、屋敷の周りを、腹をすかせたハイエナのような記者たちがうろついていたが、世間では新たな事件や事故が次々と起こり、人々の関心はあっという間に新鮮な話題へ向かっていった。
一方、世間ではそれなりに騒ぎになっていた時期でも、王立学院のクラスメートの対応はいたって冷静だった。
国政をつかさどる大臣たちの子女も通う王立学院では、親の醜聞や失脚はたいしてめずらしくもないこと。
そのたびに、学院生たちは、渦中の生徒を見てみないふりをしてやりすごしてきた。
――そんな環境が、僕にはこれ以上なくありがたかった。
おかげで、辞めなければならないと覚悟していた王立学院も、表面上は平穏に続けることができた。
僕は、剣術部を退部し、自分の殻に閉じこもるように、沈黙を守っていた。
事情を知るディランだけは、常に僕のそばに寄り添い、様々な外的な抑圧から僕を守ってくれていた。
ディランがいなければ、こうして何事もなかったような顔をして、学院に通うまでになることは絶対にできなかっただろう。それほどまでに、僕が心に負った痛手は、深いものだった。
――もうすでに、ディランは僕にとって、なくてはならない存在になっていた。
「お前も、そろそろ前を向いてもいい頃だろ?
それに……」
いつもの紺のウエストコートに、シルクの深緑のタイをしたディランは、その指で僕の唇を一撫でした。
「俺も、もう、待てない」
「ディラン……」
ディランの熱い視線に、僕の心もうずく。
――ディラン。
僕とディランは、精神的には、これ以上なく深く結びついていたが、まだ肉体的なつながりは持っていなかった。
ディランのなかでも、僕と、事件に対して、何らかの線引きがあったのかもしれない。
「いいよ……。行こう。一緒に」
僕はしっかりとディランを見つめ返した。
「そっか……。じゃ、楽しみにしてるぜ」
ディランは照れたように横を向くと、深緑のタイを緩めた。
週末。
ディランが手配した貸馬車が、僕を屋敷まで迎えに来た。
僕は、初めてディランと乗合馬車に乗ったときのことを、なつかしく思い出していた。
そしてそれと同時に、苦い記憶もよみがえる……。
――「彼」に、勝手な行動をしないよう注意されたこと……。
――その「彼」に、僕が強く反発したこと……。
あの時は、辛くて仕方がなかったことも、時がたてばただの思い出になっていることに唖然とする。
現在の父は、今までの自分をあがなうかのように、慈善活動に力を注いでいる。家でもゆっくり出来るようになり、僕との時間も取れるようになった。表情もすっかり穏やかなものになっている。
屋敷には、いまは通いのメイドが何人か来てくれているだけだ。
もう住み込みの使用人たちは、いない。
――もちろん、執事も……。
「オイっ、もっと楽しそうな顔、できないのかよ!」
僕が馬車に乗り込んだところで、ディランが僕に不満をこぼす。ディランはいつもの王立学院で見るような貴族然とした恰好ではなく、シャツにジャケットという「裕福な商家の三男坊」といった表現がぴったりな親しみやすいな服装だった。
背の高いディランに、こげ茶色のジャケットが良く似合っている。少し髪が伸びたディランは、以前より少し優しげな印象になっていた。
「……ごめん」
「言っとくけど、これ、俺たちがする初めてのちゃんとしたデートなんだぜ? 意味わかってんのか?」
「……」
いつものことながら、ディランの直接的なものの言い方に、なんと返事をしていいのか、悩む。
ディランは白い歯を見せて笑うと、僕の肩を抱く。
「さ、出発だ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すごいね、ディラン!」
僕は、海辺にそびえたつ白亜の建物を見上げた。
「……ああ」
最近できたという、貴族の間でも話題のホテル。
何もかもが最新らしく、見たことのないような設備で、もちろん料金もびっくりするくらい高額だ。
貴族の子女とはいえ王立学院の生徒が、おいそれと訪れるような場所ではない。
僕たちは早く着きすぎてしまったようで、大理石造りのホテルの受付では、部屋の準備ができるまで、このホテル自慢の庭園と近隣の森を散策してはどうかと提案された。
「行ってみようよ、ディラン!」
「……」
乗り気な僕とは反対に、なぜかディランの顔は曇った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すごく手入れが行き届いてるね。冬だっていうのに、こんなにいろんな花があるよ。
しかもこんな色合いにデザインできるなんて、びっくりだよ。ねえ、ディラン!」
「……ああ」
――何かがおかしい。
さっきからディランは心ここにあらず、いった様子だった。
これ以上なく意匠がこらされた庭園は、見たこともないほど見事なものだったが、ディランには何も響いていないようだ。
ディランはもともと、あまり花やら庭にはもともと興味はなさそうだったので、こんな反応もしかたないのかと僕はちょっとだけ残念に思う。
「ね、森の方にも行ってみようよ。今珍しい鳥が来てるって、ホテルの人も言ってたし!」
前方に広がる森指差す僕を見て、ディランの顔色が変わる。
「え……、森にまで……」
「いいだろ? 七色に輝く小鳥なんて、きっとディランだって見たことないだろ」
僕は、ディランの手を引く。
――ディランから無言の抵抗を感じる。僕は病院に連れて行ったときのバハティを思い出していた。
僕はゆったりとした足取りで、木々のざわめきや、小鳥のさえずりに耳を澄ませていた。
「ディラン、楽しいね」
「ああ……」
しぶしぶといった形で、僕に従うディランがなんだかおかしく思えてきた。
「……ディラン、本当は全然楽しくなんか、ないんだろ?」
「……っ、ンなことっ、あるかよっ!」
ディランの額には、なぜか冷や汗がにじんでいる。
「へえー。じゃあ、それでもいいけど」
小さく笑って、僕は前を向いた。
「ルイ、あのさ!」
ディランは急に真面目な顔になって、僕をじっとみつめた。
「なに?」
「俺……、めちゃくちゃ緊張してて……、実は昨日は一睡もしてないんだ!」
「は?」
――突然の告白。
「……なんで?」
「なんでって……、そりゃ、お前と、今日……」
ディランのいわんとしていることを悟り、僕の顔も赤くなった。
「そんなの……、大丈夫だよ。だって……」
「全然大丈夫……、じゃねえっ!」
「どうして……?」
「どうしてって……」
ディランは、シュンとして、背を丸めている。
「何も心配いらないって、だって僕は……」
僕はディランの手を取った。
緊張しているというのは本当らしい。ディランの指先はいつもよりずっと冷たかった。
「そりゃ、お前はそうだろうけど、俺は違うんだ!
だって、ずっと、ずっと、おかしくなるくらいお前のことを……!
なにもかも、ずっと俺は、心配してて……、もし、お前に嫌われたら、俺は……」
すがるように僕を見つめるディランに、僕は噴き出してしまった。
「ははっ、ディランが、そんなこと考えてたなんて……。思いもよらなかったよ!」
「……やっと、笑ったな……」
僕を見て、ディランが微笑む。
「ディラン……」
「あんま心配させんな! お前には、いつも笑ってて欲しいんだよ!」
隣に座る僕の頭に手を置き、髪をかき回す。
「ディラン……、ごめん……」
僕はディランの若葉色の瞳を覗き込んだ。
「あー、でもヤバい。緊張しすぎて、なんか吐きそう」
ディランの顔は青い。本気で具合が悪そうだ。
僕はディランの背を撫でた。
「じゃあ森の散策は後回しにして、ホテルで先にちょっと休む? もうそろそろ部屋の用意もできてるんじゃないかな?」
「ああ……そうしよう……」
ディランは自分の前髪を手で乱すと、ぎゅっと僕の手を握りしめた。
――数時間後、僕はこの選択を本気で後悔することになる。
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