上 下
76 / 81

第75話

しおりを挟む
「ディラン! 会いたかった!」

 路地裏に入って人目がなくなったところで、たまらず僕はディランに抱き着いていた。


「ルイ、悪いな。仕事中だったんだろ」

 ディランが僕を抱きしめ、僕の銀色の髪をかき回す。
 
「大丈夫だよ。でも、どうしたんだ? こっちに戻ってくるのって、あと三日先のはずだっただろ?」

「調査が無事終わったところで、ちょうど船に空きが出てさ! お前に逢いたくて、すぐに飛び乗って戻ってきたんだ!」

 口調から、喜びがあふれ出ている。帰ってきたばかりのディランは、軍服のようなカーキ色のジャケットを着て、さらに日焼けをして逞しくなっていた。


「早く戻ってこれて、よかった!」

 ディランは王立学院卒業後、動物学の研究の職についていた。2か月前から師事していた教授とともに、調査のためジシー大陸に渡っていたのだ。

「二か月も離れ離れだっただろ。もう、今すぐ、お前を抱きたくて、たまんねえ……」
 ディランの吐息に、僕の身体も熱くなった。

「僕も……、早く、ディランと……」

「それに、お前のそばにいられないんじゃ、アイツとの約束、守れないからな……」


 ディランの言葉に、僕は『彼』を思い出した。


「今日から俺、お前んちに厄介になるわ」

「えっ、うちに?」

 ディランの言葉に、僕は驚いて顔を上げた。

「ああ、母さん、新しい恋人ができたみたいでさ。あのアパートメントで3人暮らしってのもちょっとな。伯父さんにも言っといてくれよ。部屋一つ空けといて……、いや、お前の部屋でいいか。デカいサイズのベッド用意しといてくれよ!」

「……もうっ!お父さんもいるのに、そんなこと、できるわけないだろ!」
 思わず赤くなる。

「いいだろ? そろそろ俺たちの関係を、もっとオープンにしとかないと」

 ディランが僕の頬を撫でる。

「今まででもう十分、オープンになってるような気がするけど……」
 僕が口ごもると、

「いや、そういう意味じゃなくってだな……。その、もっと公的な意味で、ちゃんとしたいっつーか……。ま、今日の夜ちゃんと話そう!」
 ディランが快活に笑う。

「うん……」
 若葉色の瞳に見つめられ、胸がいっぱいになる。

 離れていても、いつもディランに支えられている。

 ――僕の、まぶしい恋人。


「ところで、お前、何か変わりはないか?」
 ディランの声のトーンが、急に変わった。

「えっ? 別に。何も変わらないけど……」

「そっか、ならいいや……」
 珍しくディランは言いよどむ。

「なんだよ? 何か気になること?」

「いや、ジシー大陸の有名な呪術師だっていう婆さんにさ……。俺の身に、何かよくない不吉な影が近づいて来てるって言われて……」
 僕は思わずふきだした。

「なに? ディランってそういう占いとか信じるタイプなんだ? ちょっと可愛いところもあるんだね」

「バッ、バカ! そんなんじゃない。なんかちょっと気になったっつーか……」

「でも、気をつけなきゃ。でもその予言のことも心配だし、これから僕と一緒に暮らそう?」
 僕が言うと、

「ああ、そうだな。さっそく今晩、お前のこと、メチャクチャに抱いてやるから……」
 僕の耳たぶをつまんだディランの声に熱がこもる。

「ここで……、そういうこと言うなよ……」
 僕の声にも、熱いため息が混じる。

「……愛してるよ、ルイ」
 低い囁き声に、心が震える。


「僕も、愛してる……ディラン」

 唇が重なった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

俺が勝手に好きな幼なじみに好きって十回言うゲームやらされて抱えてたクソでか感情が暴発した挙げ句、十一回目の好きが不発したクソな件。

かたらぎヨシノリ
BL
幼なじみにクソでか感情を抱く三人のアオハル劇場。 ──────────────── ──────────────── 幼なじみ、美形×平凡、年上×年下、兄の親友×弟←兄、近親相姦、創作BL、オリジナルBL、複数攻3P、三角関係、愛撫 ※以上の要素と軽度の性描写があります。 受 門脇かのん。もうすぐ16歳。高校生。黒髪平凡顔。ちびなのが気になる。短気で口悪い。最近情緒が乱高下気味ですぐ泣く。兄の親友の三好礼二に激重感情拗らせ10年。 攻 三好礼二。17歳。高校生。かのん弄りたのしい俺様王様三好様。顔がいい。目が死んでる。幼なじみ、しのぶの親友。 門脇しのぶ。17歳。高校生。かのん兄。チャラいイケメン。ブラコン。三好の親友。

愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。 獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。 しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。 傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。 蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

童貞が尊ばれる獣人の異世界に召喚されて聖神扱いで神殿に祀られたけど、寝てる間にHなイタズラをされて困ってます。

篠崎笙
BL
四十歳童貞、売れない漫画家だった和久井智紀。流されていた猫を助け、川で転んで溺れ死んだ……はずが、聖神として異世界に召喚された。そこは獣の国で、獣王ヴァルラムのツガイと見込まれた智紀は、寝ている間に身体を慣らされてしまう。 

勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫
BL
【毎日5:50、17:50の二回投稿、本編88話+おまけ1話となります】  厄災・暗黒竜ガークを倒す為に集結した四英傑、勇者ロイク(金髪碧眼)、聖女オリヴィア(白髪)、賢者クロード(黒髪)に主人公の剣聖ファビアン(銀髪)。四人は仲間として固い絆で結ばれていた。  ある日魔物に襲われたロイクを庇ったファビアンが媚薬効果にやられてしまい、二人は深い仲に。最初は無理矢理だったが、次第にロイクに絆されていくファビアン。  苦戦の末、クロードの犠牲と共に厄災を倒した一行。クロードの分も楽しく生きようと決意したファビアンだったが、ロイクは自分ではなくオリヴィアを選び、あっさりと結婚してしまった。傷心の中、両親の墓を建てる為自国に旅立とうと思ったファビアンだったが、なぜかロイクが強引に引き留め幸せに暮らす二人の傍で飼い殺しされる日々。  そんな中、新たに出来た恋人を守る為、剣の道をつき進む。気付けば戦争に巻き込まれ、苦労の末勝利を勝ち取ったファビアンだったが、怪我を負ってしまう。  次々に大切な人を失い生きる気力を失っていたファビアンの前に現れたのは、ロイクとオリヴィアの間に生まれた双子。彼らの優しさに絆され、少しずつ立ち直ったファビアンは、やがて二人の剣術の師匠に。  双子の兄クリストフはロイクと同じ金髪碧眼で、弟のクロイスは金髪と白髪の夫婦から何故か生まれた黒髪。二人のお陰で生きがいを見つけたファビアンだったが、やがて青年となった双子の兄が結婚をすることに。  ファビアンはクリストフの結婚を機に今度こそ国を去ろうとしたのだが、何故か目の前にはクロイスがいて――?  愛する人に早生され続けたファビアンの救済ストーリー。  途中までファビアンには辛いことが起こりますが、最後はハピエンです。 ムーンさんにも掲載中。

処理中です...