68 / 81
第67話
しおりを挟む
「でもそれを見て気を失った私は、まるで何もなかったみたいに、次の日の朝自分のベッドで目覚めたの。まるで魔法にかけられたみたいに……。
しばらくして、ルイ様が事故にあったと聞いた。誰もルイ様が死んだことを知らない。
――そして、あなたがやってきた」
アリスは、僕の瞳をのぞき込む。
「アリスさん……?」
「初めてあなたを見たとき、信じられなかった。
ルイ様の代わりのあなたに、驚いたからじゃない。
その水色の目が、あまりにもノエルさんに似ていたから……。
だからすぐにわかった。
――お兄様が、あなたの瞳にあっという間に引き込まれてしまったことを……
お兄様が、あなたに惹かれてしまったことを……」
カチャリと、乾いた音がする。
アリスが撃鉄を起こしたのだ。
僕に照準を合わせたまま、アリスは数歩さがった。
「せっかく邪魔者がいなくなったのに……、あなたのせいでまたお兄様は狂ってしまった……。かわいそうだけど、生かしてはおけない」
「狂ってるのは、君だよ!」
「そうかもしれないわね。でも、もう戻れない。お兄様は、誰にも渡さない……。
おしゃべりをしすぎたわね。……お別れの時間よ」
「アリスさん、駄目だ!」
身を起こそうとするが、ロープが手足に食い込むだけだった。
「……くっ」
「大丈夫、苦しませたりしない」
こんなところで、終わりを迎えるのか……。
ルイ・ダグラスと全くおなじ轍を踏んで……。
――ディランの顔が浮かぶ。
そして、オスカーのこと……。
「やめなさい。これ以上、愚かなことを繰り返してはいけません」
低く響く美声。
ドアが開け放たれ、長身の男が入ってくる。
「オスカー――!!」
「来ないで!」
アリスは悲鳴のような声をあげた。
「撃つわよ。手を挙げて、動かないで!」
アリスはすばやく、銃口をオスカーに向けた。
さすがに拳銃を手にしているとは思わなかったのだろう。
オスカーは、立ち止まると、ゆっくりと両手を挙げた。
「銃を、捨ててください……」
冷静な表情のまま、オスカーはアリスに近づく。
「嫌よ……、来ないで」
アリスは後ずさる。
「あなたは、ほんとうの意味でルイ・ダグラスを殺してはいない」
はっきりとした口調でオスカーは言った。
「だから、目の前の彼を殺してはいけない……」
「嘘よ! だって、私がルイ様を……」
一瞬、アリスが怯んだすきに、オスカーは彼女に飛びかかった。
「嫌っ、やめて!!」
銃声が2回轟き、銃弾が壁にめり込んだ。
「いやーーーっ!」
オスカーがアリスから銃を取り上げ、扉の向こうに放った。
「いやーーーっ!!」
もう一度、アリスが絶叫する。
しばらくして、彼女はおとなしくなった。
「オスカーっ!」
立ち上がったオスカーは、僕を見た。苦しげな表情だった。
額にかかった黒髪を指で払いのける。
「大丈夫です。気絶しているだけです。
彼女は、ずっと心に闇を抱えていたが、ついにたがが外れてしまった……。ここまで追い込まれていたとは……。元の状態に戻れるかどうか……」
オスカーはベッドに縛り付けられた僕に近づくと、ジャケットのポケットからナイフを取り出す。
「不手際をお詫びいたします。兄のテレンスに関しては、まったくのノーマークでした。こんな状況になっているとは、ディラン様に聞かされるまで知らず……。ルイ様をこのような危険な目に遭わせてしまって申し訳ありません」
僕を縛るロープを切りながら、オスカーは告げる。
「馬車の御者は? テレンスが、馬車を奪って……」
「彼は無事です。縛られて、路地裏に転がされていましたが……。テレンスの仕業だとすぐにはわからず、ここを探し出すのに時間がかかってしまいました……」
拘束が解かれ、僕はベッドから起き上がる。
はだけた僕のシャツのボタンを、オスカーが一つずつとめていく。
「ここはカートレット家の別荘です。今、旦那様とディラン様がこちらに向かっています。迎えの馬車に乗って、すぐに戻ってください。……あとの処理はこちらでいたします」
「あとの処理って……」
「あなたは知る必要のないことです……」
オスカーは目を伏せる。
「なんだよ! 必要のないことって!
僕は、殺されそうになったんだぞ! ルイと同じように……。
お前たちは何もかも知っていて……、僕を……」
僕はオスカーをにらみつけた。
「すべては、あなたを守るためにしたことです。お許しください……」
オスカーの顔は蒼白だった。
「オスカー……、どうし……」
オスカーの足下に、血だまりができている。
僕はオスカーのジャケットをめくった。
白いシャツが、鮮血で真紅に染まっていた。
しばらくして、ルイ様が事故にあったと聞いた。誰もルイ様が死んだことを知らない。
――そして、あなたがやってきた」
アリスは、僕の瞳をのぞき込む。
「アリスさん……?」
「初めてあなたを見たとき、信じられなかった。
ルイ様の代わりのあなたに、驚いたからじゃない。
その水色の目が、あまりにもノエルさんに似ていたから……。
だからすぐにわかった。
――お兄様が、あなたの瞳にあっという間に引き込まれてしまったことを……
お兄様が、あなたに惹かれてしまったことを……」
カチャリと、乾いた音がする。
アリスが撃鉄を起こしたのだ。
僕に照準を合わせたまま、アリスは数歩さがった。
「せっかく邪魔者がいなくなったのに……、あなたのせいでまたお兄様は狂ってしまった……。かわいそうだけど、生かしてはおけない」
「狂ってるのは、君だよ!」
「そうかもしれないわね。でも、もう戻れない。お兄様は、誰にも渡さない……。
おしゃべりをしすぎたわね。……お別れの時間よ」
「アリスさん、駄目だ!」
身を起こそうとするが、ロープが手足に食い込むだけだった。
「……くっ」
「大丈夫、苦しませたりしない」
こんなところで、終わりを迎えるのか……。
ルイ・ダグラスと全くおなじ轍を踏んで……。
――ディランの顔が浮かぶ。
そして、オスカーのこと……。
「やめなさい。これ以上、愚かなことを繰り返してはいけません」
低く響く美声。
ドアが開け放たれ、長身の男が入ってくる。
「オスカー――!!」
「来ないで!」
アリスは悲鳴のような声をあげた。
「撃つわよ。手を挙げて、動かないで!」
アリスはすばやく、銃口をオスカーに向けた。
さすがに拳銃を手にしているとは思わなかったのだろう。
オスカーは、立ち止まると、ゆっくりと両手を挙げた。
「銃を、捨ててください……」
冷静な表情のまま、オスカーはアリスに近づく。
「嫌よ……、来ないで」
アリスは後ずさる。
「あなたは、ほんとうの意味でルイ・ダグラスを殺してはいない」
はっきりとした口調でオスカーは言った。
「だから、目の前の彼を殺してはいけない……」
「嘘よ! だって、私がルイ様を……」
一瞬、アリスが怯んだすきに、オスカーは彼女に飛びかかった。
「嫌っ、やめて!!」
銃声が2回轟き、銃弾が壁にめり込んだ。
「いやーーーっ!」
オスカーがアリスから銃を取り上げ、扉の向こうに放った。
「いやーーーっ!!」
もう一度、アリスが絶叫する。
しばらくして、彼女はおとなしくなった。
「オスカーっ!」
立ち上がったオスカーは、僕を見た。苦しげな表情だった。
額にかかった黒髪を指で払いのける。
「大丈夫です。気絶しているだけです。
彼女は、ずっと心に闇を抱えていたが、ついにたがが外れてしまった……。ここまで追い込まれていたとは……。元の状態に戻れるかどうか……」
オスカーはベッドに縛り付けられた僕に近づくと、ジャケットのポケットからナイフを取り出す。
「不手際をお詫びいたします。兄のテレンスに関しては、まったくのノーマークでした。こんな状況になっているとは、ディラン様に聞かされるまで知らず……。ルイ様をこのような危険な目に遭わせてしまって申し訳ありません」
僕を縛るロープを切りながら、オスカーは告げる。
「馬車の御者は? テレンスが、馬車を奪って……」
「彼は無事です。縛られて、路地裏に転がされていましたが……。テレンスの仕業だとすぐにはわからず、ここを探し出すのに時間がかかってしまいました……」
拘束が解かれ、僕はベッドから起き上がる。
はだけた僕のシャツのボタンを、オスカーが一つずつとめていく。
「ここはカートレット家の別荘です。今、旦那様とディラン様がこちらに向かっています。迎えの馬車に乗って、すぐに戻ってください。……あとの処理はこちらでいたします」
「あとの処理って……」
「あなたは知る必要のないことです……」
オスカーは目を伏せる。
「なんだよ! 必要のないことって!
僕は、殺されそうになったんだぞ! ルイと同じように……。
お前たちは何もかも知っていて……、僕を……」
僕はオスカーをにらみつけた。
「すべては、あなたを守るためにしたことです。お許しください……」
オスカーの顔は蒼白だった。
「オスカー……、どうし……」
オスカーの足下に、血だまりができている。
僕はオスカーのジャケットをめくった。
白いシャツが、鮮血で真紅に染まっていた。
235
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!
迷路を跳ぶ狐
BL
森の中の小さな領地の弱小貴族の僕は、領主の息子として生まれた。だけど両親は可愛い兄弟たちに夢中で、いつも邪魔者扱いされていた。
なんとか認められたくて、魔法や剣技、領地経営なんかも学んだけど、何が起これば全て僕が悪いと言われて、激しい折檻を受けた。
そんな家族は領地で好き放題に搾取して、領民を襲う魔物は放置。そんなことをしているうちに、悪事がバレそうになって、全ての悪評を僕に押し付けて逃げた。
それどころか、家族を逃す交換条件として領主の代わりになった男たちに、僕は毎日奴隷として働かされる日々……
暗い地下に閉じ込められては鞭で打たれ、拷問され、仕事を押し付けられる毎日を送っていたある日、僕の前に、竜が現れる。それはかつて僕が、悪事を働く竜と間違えて、背後から襲いかかった竜の王子だった。
あの時のことを思い出して、跪いて謝る僕の手を、王子は握って立たせる。そして、僕にずっと会いたかったと言い出した。え…………? なんで?
二話目まで胸糞注意。R18は保険です。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
騎士団やめたら溺愛生活
愛生
BL
一途な攻め(黒髪黒目)×強気で鈍感な受け(銀髪紫目) 幼なじみの騎士ふたりの溺愛もの
孤児院で一緒に育ったアイザックとリアン。二人は16歳で騎士団の試験に合格し、騎士団の一員として働いていた。
ところが、リアンは盗賊団との戦闘で負傷し、騎士団を退団することになった。そこからアイザックと二人だけの生活が始まる。
無愛想なアイザックは、子どもの頃からリアンにだけ懐いていた。アイザックを弟のように可愛がるリアンだが、アイザックはずっとリアンのことが好きだった。
アイザックに溺愛されるうちに、リアンの気持ちも次第に変わっていく。
設定はゆるく、近代ヨーロッパ風の「剣と魔法の世界」ですが、魔法はほぼ出てきません。エロも少な目で会話とストーリー重視です。
過激表現のある頁に※
エブリスタに掲載したものを修正して掲載
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》
クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。
そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。
アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。
その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。
サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。
一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。
R18は多分なるからつけました。
2020年10月18日、題名を変更しました。
『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。
前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。
櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。
でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!?
そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。
その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない!
なので、全力で可愛がる事にします!
すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──?
【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる