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第59話
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――身体が重い。
寝返りを打つと、温かい何かにぶつかる。
手足を伸ばそうとするが、何かに拘束されているかのように、動かない。
小さくうめき、目を開ける。
「おはよ」
「わーっ!」
至近距離にディランの顔があり、僕は思わず叫んだ。
ディランに抱きかかえられるような体勢に気づき、身体中が熱くなる。
「なんだよ……、こっちがびっくりするだろ」
ディランはベッドから起き上がると、大きく伸びをした。
パジャマを着ているはずのディランの上半身は、なぜか裸だった。
「あー、よく寝た」
「何で、何で、何で……」
オスカーの執務室から戻ったあと、軽くシャワーを浴びてからベッドに入った。そのときは、ディランは確かにソファで眠っていたはずだ。
「あー、悪い、夜中に寝ぼけてベッドに寝ちまったわ。自分の家と勘違いしたのかな?」
僕と一緒のベッドに寝ていたことなど、さして気にする風でもなく、ディランは首をまわした。
「朝メシ、なんだろうな?」
ディランはご機嫌な様子で、ソファにかけられていたパジャマを羽織る。
「おはようございます」
しばらくして、オスカーが部屋に入ってくる。
昨夜のことを思い出し、僕はオスカーの顔をまともに見ることができない。
「おはよう」
ディランがオスカーを振り返る。
「ディラン様、お召し物を洗濯しておきました」
「おお、悪いな」
オスカーは、ちらりと僕のベッドを見た。
「昨夜は、良くお休みになられましたか?」
「ああ、ソファで充分だったぜ」
ディランの返事に、オスカーは微笑を浮かべる。
「それは良かったです。ですが、もし次にこちらにお泊まりになる際は、ぜひゲストルームをご利用くださいませ」
「……ま、考えとく」
ディランの答えに、オスカーは一瞬表情を無くす。
「朝食をご用意しております。お二人とも、お着替えが済みましたらダイニングルームへどうぞ」
オスカーが僕に向けた笑みは、いつもと全く変わらないものだった。
それから、ディランは王立学院でも常に僕のそばにいるようになった。昼休みはもちろん、毎度当たり前のように僕のクラスに居座るものだから、すっかりディランは僕のクラスメートとも顔なじみになってしまったようだ。
ディランは不思議な人間だと、つくづく思う。
圧倒的な存在感を持っているが、決して押しつけがましくなく、周りにもあっという間に溶け込んでしまう。
はじめは警戒していたクラスメートたちも、今ではディランと軽口をたたくほどになっている。それにつられるように僕も、今までどこかよそよそしかった彼らと、親しくなっていった。
ディランと過ごす生活は、すべてが輝くような、驚きと明るさに満ちていた。
こんな日々がずっと続けばいい――。
ディランと笑い合う教室で、僕は思う。
だが――、
ルイ・ダグラスが、誰かに殺されたという事実は、決して落ちることのない染みとして、僕の心にこびりついていた。
そして、その容疑者の一人として、ディランや、オスカーの名前が浮かんでいることも――。
寝返りを打つと、温かい何かにぶつかる。
手足を伸ばそうとするが、何かに拘束されているかのように、動かない。
小さくうめき、目を開ける。
「おはよ」
「わーっ!」
至近距離にディランの顔があり、僕は思わず叫んだ。
ディランに抱きかかえられるような体勢に気づき、身体中が熱くなる。
「なんだよ……、こっちがびっくりするだろ」
ディランはベッドから起き上がると、大きく伸びをした。
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「あー、よく寝た」
「何で、何で、何で……」
オスカーの執務室から戻ったあと、軽くシャワーを浴びてからベッドに入った。そのときは、ディランは確かにソファで眠っていたはずだ。
「あー、悪い、夜中に寝ぼけてベッドに寝ちまったわ。自分の家と勘違いしたのかな?」
僕と一緒のベッドに寝ていたことなど、さして気にする風でもなく、ディランは首をまわした。
「朝メシ、なんだろうな?」
ディランはご機嫌な様子で、ソファにかけられていたパジャマを羽織る。
「おはようございます」
しばらくして、オスカーが部屋に入ってくる。
昨夜のことを思い出し、僕はオスカーの顔をまともに見ることができない。
「おはよう」
ディランがオスカーを振り返る。
「ディラン様、お召し物を洗濯しておきました」
「おお、悪いな」
オスカーは、ちらりと僕のベッドを見た。
「昨夜は、良くお休みになられましたか?」
「ああ、ソファで充分だったぜ」
ディランの返事に、オスカーは微笑を浮かべる。
「それは良かったです。ですが、もし次にこちらにお泊まりになる際は、ぜひゲストルームをご利用くださいませ」
「……ま、考えとく」
ディランの答えに、オスカーは一瞬表情を無くす。
「朝食をご用意しております。お二人とも、お着替えが済みましたらダイニングルームへどうぞ」
オスカーが僕に向けた笑みは、いつもと全く変わらないものだった。
それから、ディランは王立学院でも常に僕のそばにいるようになった。昼休みはもちろん、毎度当たり前のように僕のクラスに居座るものだから、すっかりディランは僕のクラスメートとも顔なじみになってしまったようだ。
ディランは不思議な人間だと、つくづく思う。
圧倒的な存在感を持っているが、決して押しつけがましくなく、周りにもあっという間に溶け込んでしまう。
はじめは警戒していたクラスメートたちも、今ではディランと軽口をたたくほどになっている。それにつられるように僕も、今までどこかよそよそしかった彼らと、親しくなっていった。
ディランと過ごす生活は、すべてが輝くような、驚きと明るさに満ちていた。
こんな日々がずっと続けばいい――。
ディランと笑い合う教室で、僕は思う。
だが――、
ルイ・ダグラスが、誰かに殺されたという事実は、決して落ちることのない染みとして、僕の心にこびりついていた。
そして、その容疑者の一人として、ディランや、オスカーの名前が浮かんでいることも――。
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