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第55話
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この状況が信じられず、ディランの姿を凝視する。
ディランは僕の目の前に立つと、襟元の緑色のシルクのタイを緩めた。
僕の頬をそっと撫でると、ニヤリと笑う。
「歯ア、食いしばれ!」
ディランの拳が、空を切った。
「ぐはあっ!!」
僕に後ろから覆い被さっていたテレンスが、一瞬で消えた。
「このっ、ゲス野郎がっ!」
ディランは床に倒れ込んだテレンスにつかみかかると、さらに数発、テレンスの身体に拳を打ち込んだ。
「っ……、ぐぅっ……」
「おいっ、もう二度とこんなことができないように、お前の、潰して再起不能にやろうか?」
怒りで朱に染まったディランの顔は、悪鬼のように恐ろしい表情をしていた。
「っ……、この野蛮人がっ!」
テレンスがディランにつばを吐く。口の中が切れているのか、血が混じっていた。
テレンスは口を拭うと、冷笑を浮かべる。左頬が赤く、はれ上がっている。
「落ち着けよ、アダム。何を勘違いしてるんだ? 俺は、ルイに誘われただけだぜ。殴るんなら、ルイを殴れよ」
「なんだと……」
ディランは拳を握り締め、テレンスを睨みつける。
「それに……」
テレンスは、あの残忍な笑みを浮かべる。
「コイツは、俺に借りがあるんだ。おもちゃを取られて悔しいのはわかるが、もうルイは俺のもんだぜ。――嘘だと思うんなら、ルイに聞いてみろよ。コイツが自分で選んだんだ。俺に抱かれるのを……。なあ、ルイ」
二人の視線を浴び、僕ははだけさせられたシャツをかきあわせた。
「……」
「ほら、お前の王子様に教えてやれよ。自分から俺に脚を開いたって。自分からねだって俺に突っ込んでもらってたって……」
テレンスは立ち上がって自分の衣服を整えると、脱ぎ捨てられた僕の制服のズボンを拾って、僕に投げつけた。
「本当なのか? ルイ?」
ディランの問いに、僕はうなだれる。
「お前、コイツに脅されてるのか……」
僕はシャツを握り締める。まともにディランを見ることができない。
何も――、弁解することができない。
僕が、自ら選んだことだ。
「残念だったな、コイツは、俺がもらう」
テレンスが僕の髪をつかんで、顔を上向かせる。
「アダムに言ってやれ。お前とより、俺とヤるほうが、よっぽど気持ちよかったって……ぐはっ」
もう一度、ディランの拳が、テレンスの腹をうがった。
「これ以上、ルイを侮辱するんじゃねえ……、殺すぞ」
襟首を掴むと、テレンスを引き寄せ、ぎりぎりと首を締め上げる。
ディランの表情は、本当にテレンスを殺しかねないほど凶悪なものだった。
「……っ、暴力に訴えることしかできないのか? これだから猿は……っ」
「こいつが、進んでお前なんかに抱かれるわけねえ。目を見りゃわかんだよ! 自分から誘ったやつが、こんな顔して男に抱かれるかよっ!」
ディランは、テレンスをつかんだ手を、乱暴に離した。
反動で、テレンスは床に倒れる。
「あの湖でのパーティの後……」
ディランがテレンスを見下ろす。
普段のディランからは想像もできないほど、残忍な表情だった。
「お前の父親のカートレット子爵にに直々に謝られたよ。縛ってバスタブに沈めようとするなんて、おふざけが過ぎたようだな。……お前のことを、これからずっと監視するって言ってたぜ」
「あの男がお前にそんなこと言うはずないっ!」
テレンスが声を荒げる。だがその表情は、青ざめていた。
「お前の精神状態を、しきりに心配してたぜ。お前が学院でおかしなことをしたら、すぐに報告してほしいって言われてるんだ。妹の許婚に、隠れて暴力を振るってるっていったら、お前の親父さん、どう思うだろうな?」
「なにを……、ふざけたことを……」
テレンスの身体が小刻みに震えている。
「嘘だと思うんなら、今からさっそく報告に行こうか? 信じられないなら、見せてやろうか? いつでも訪ねてこられるようにって、紋章入りの紹介状までもらったんだぜ……」
ディランがテレンスに屈みこむ。
「やめろーっ!!」
テレンスは叫ぶと、ディランにつかみかかった。
「お前に何がわかる! ジシー大陸でのうのうと暮らしてたんだろう? 俺がどんな風に生きてきたか、知りもしないくせに!」
ディランにむかって拳を振り上げる。
ディランはそれをかわすと、テレンスの肩を強く押した。
テレンスがよろめき、また倒れる。
「ああ、知らねーよ。お前のことなんか! でもな、俺はルイを守るって決めたんだ。だから――」
言うと、ディランは僕の腕を引っ張って立たせた。
「お前がルイをどうやって脅したのか……、俺はそんなこと興味ねーよ。ただ、今度ルイに手を出したら、お前の命はないと思え、――わかったな」
ドスのきいた声で、茫然とするテレンスに念を押す。
「ディラン……」
「服着たか? 行くぞ」
僕を振り返るディラン。
何もかもが、まぶしすぎる。
――強い力で、彼に惹きつけられる。
ディランは僕の目の前に立つと、襟元の緑色のシルクのタイを緩めた。
僕の頬をそっと撫でると、ニヤリと笑う。
「歯ア、食いしばれ!」
ディランの拳が、空を切った。
「ぐはあっ!!」
僕に後ろから覆い被さっていたテレンスが、一瞬で消えた。
「このっ、ゲス野郎がっ!」
ディランは床に倒れ込んだテレンスにつかみかかると、さらに数発、テレンスの身体に拳を打ち込んだ。
「っ……、ぐぅっ……」
「おいっ、もう二度とこんなことができないように、お前の、潰して再起不能にやろうか?」
怒りで朱に染まったディランの顔は、悪鬼のように恐ろしい表情をしていた。
「っ……、この野蛮人がっ!」
テレンスがディランにつばを吐く。口の中が切れているのか、血が混じっていた。
テレンスは口を拭うと、冷笑を浮かべる。左頬が赤く、はれ上がっている。
「落ち着けよ、アダム。何を勘違いしてるんだ? 俺は、ルイに誘われただけだぜ。殴るんなら、ルイを殴れよ」
「なんだと……」
ディランは拳を握り締め、テレンスを睨みつける。
「それに……」
テレンスは、あの残忍な笑みを浮かべる。
「コイツは、俺に借りがあるんだ。おもちゃを取られて悔しいのはわかるが、もうルイは俺のもんだぜ。――嘘だと思うんなら、ルイに聞いてみろよ。コイツが自分で選んだんだ。俺に抱かれるのを……。なあ、ルイ」
二人の視線を浴び、僕ははだけさせられたシャツをかきあわせた。
「……」
「ほら、お前の王子様に教えてやれよ。自分から俺に脚を開いたって。自分からねだって俺に突っ込んでもらってたって……」
テレンスは立ち上がって自分の衣服を整えると、脱ぎ捨てられた僕の制服のズボンを拾って、僕に投げつけた。
「本当なのか? ルイ?」
ディランの問いに、僕はうなだれる。
「お前、コイツに脅されてるのか……」
僕はシャツを握り締める。まともにディランを見ることができない。
何も――、弁解することができない。
僕が、自ら選んだことだ。
「残念だったな、コイツは、俺がもらう」
テレンスが僕の髪をつかんで、顔を上向かせる。
「アダムに言ってやれ。お前とより、俺とヤるほうが、よっぽど気持ちよかったって……ぐはっ」
もう一度、ディランの拳が、テレンスの腹をうがった。
「これ以上、ルイを侮辱するんじゃねえ……、殺すぞ」
襟首を掴むと、テレンスを引き寄せ、ぎりぎりと首を締め上げる。
ディランの表情は、本当にテレンスを殺しかねないほど凶悪なものだった。
「……っ、暴力に訴えることしかできないのか? これだから猿は……っ」
「こいつが、進んでお前なんかに抱かれるわけねえ。目を見りゃわかんだよ! 自分から誘ったやつが、こんな顔して男に抱かれるかよっ!」
ディランは、テレンスをつかんだ手を、乱暴に離した。
反動で、テレンスは床に倒れる。
「あの湖でのパーティの後……」
ディランがテレンスを見下ろす。
普段のディランからは想像もできないほど、残忍な表情だった。
「お前の父親のカートレット子爵にに直々に謝られたよ。縛ってバスタブに沈めようとするなんて、おふざけが過ぎたようだな。……お前のことを、これからずっと監視するって言ってたぜ」
「あの男がお前にそんなこと言うはずないっ!」
テレンスが声を荒げる。だがその表情は、青ざめていた。
「お前の精神状態を、しきりに心配してたぜ。お前が学院でおかしなことをしたら、すぐに報告してほしいって言われてるんだ。妹の許婚に、隠れて暴力を振るってるっていったら、お前の親父さん、どう思うだろうな?」
「なにを……、ふざけたことを……」
テレンスの身体が小刻みに震えている。
「嘘だと思うんなら、今からさっそく報告に行こうか? 信じられないなら、見せてやろうか? いつでも訪ねてこられるようにって、紋章入りの紹介状までもらったんだぜ……」
ディランがテレンスに屈みこむ。
「やめろーっ!!」
テレンスは叫ぶと、ディランにつかみかかった。
「お前に何がわかる! ジシー大陸でのうのうと暮らしてたんだろう? 俺がどんな風に生きてきたか、知りもしないくせに!」
ディランにむかって拳を振り上げる。
ディランはそれをかわすと、テレンスの肩を強く押した。
テレンスがよろめき、また倒れる。
「ああ、知らねーよ。お前のことなんか! でもな、俺はルイを守るって決めたんだ。だから――」
言うと、ディランは僕の腕を引っ張って立たせた。
「お前がルイをどうやって脅したのか……、俺はそんなこと興味ねーよ。ただ、今度ルイに手を出したら、お前の命はないと思え、――わかったな」
ドスのきいた声で、茫然とするテレンスに念を押す。
「ディラン……」
「服着たか? 行くぞ」
僕を振り返るディラン。
何もかもが、まぶしすぎる。
――強い力で、彼に惹きつけられる。
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