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第48話

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「ダグラス君、さっきカートレット先輩が探してたよ。これ、渡してくれって」
 教室に戻ると、隣の席のグレイから声をかけられ、僕はぎくりとする。

 ――テレンス。
 きっちり封がされたクリーム色の封筒を受け取ると、僕はグレイに向き直った。

「君に、聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい?」
 グレイは小さな瞳をぱちくりさせた。

「前に、僕が君に頼んだことって、一体何?」

「え?」
 虚をつかれたような表情。

 しばらくして、ああ、とグレイは声をあげた。

「ああ、あのこと?」

「うん、詳しいことが思い出せないから教えて欲しいんだ」

 グレイは席に座りなおすと、声をひそめた。

「僕はさ、将来王宮の諜報機関で働きたいと思ってるんだ。それでね、そんな僕を見込んだダグラス君に頼まれて、カートレット先輩と、その妹の動向をしばらく密かに探ってたんだ」

「あの二人を?」
 おだやかではない。

「それで、なんと僕はびっくりな事実を二つ、つかんだんだよね!」
 グレイは口の端をつりあげる。

「それって、どんなこと?」

「一つ目は、カートレット先輩とその妹が二人そろって、王都から離れた町・サパーの精神科の病院に通ってるってこと。もう一つは……」

 人がよさそうだとばかり思っていたグレイは、びっくりするくらい狡猾そうな笑みを浮かべていた。

「……二人が、禁断の関係にあったってこと! 見ちゃったんだよね、二人が物陰に隠れてキスしているところ! 兄妹のキスなんかじゃないよ。唇と唇が重なる恋人のキスだった!」

「……!」
 驚きで言葉が見つからない。

「そのことを知ってからしばらくして、ダグラス君は事故に遭ったんだよ」

「そうなんだ……。教えてくれてありがとう」
 席に着き、呼吸を整えた。動悸が激しい。


 何かが――。
 ずっと、靄がかかってわからなかった何かが、一瞬だけ、見えた気がした。


 僕は机の影に隠すようにして、テレンスからの封筒を開けた。


『ルイへ
しばらく会えなかったから、さみしかっただろう。
放課後、北館の第三倉庫へ、一人で来い。
拒否することは出来ないはずだ。
あの懐中時計の件で話がある。
  テレンス・カートレット』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 北館の奥まったところにある第三倉庫。

辺りにも、人気は無かった。
 木の扉を開けると、湿った空気が身体にまとわりついた。
 室内は薄暗く、ひんやりとしている。
 実験器具や、古い薬品、木箱が無造作に並べられた棚が、並んでいる。

しっかりと閉ざされているカーテンを開けようとした手をつかまれた。

 棚の陰にかくれていたのだろう。対応が一瞬遅れる。

「会いたかったよ……ルイ」
 後ろから抱きしめられ、身体が硬直する。

 ほのかにテレンスの香水が香った。

「っ……」

「どうした? 嬉しくて声もでないか?」

 テレンスは低く笑うと、僕のうなじをゆっくりと舐めた。
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