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第44話

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「んーーっ、んーーっ!」
 ハンターが、身体を激しく床に打ち付けている。さきほど暴言を吐いたことで、オスカーに猿轡をかまされているため、言葉は出ない。

「まったく、うるさい犬だ。集中できない。……少し黙らせましょう」

 僕の上から身を起こそうとする、オスカーのシャツをつかんだ。

「やめろっ」
 これ以上ハンターに危害を加えさせるわけにはいかない。

 僕は、オスカーの身体にしがみついた。


「やめないで……、お願い……」

 オスカーの瞳に欲望の色が宿る。


「本当に、甘えるのが上手になりましたね。それとも……天性のものでしょうか?」

「オスカー、来て……」
 僕はオスカーのシャツのボタンをはずす。

「ぐうっ……」
 ハンターがうめいている。

 僕はオスカーの首に、腕を絡め、顔を近づけるとゆっくりと口付けた。

「んっ……」
 熱い舌が、差し込まれる。

ハンターが、近くのテーブルを、縛られた足で蹴り倒した。
僕が顔を向けると、血走った目でこちらをにらんでくる。
必死の形相。今すぐ行為をやめろと、全身で訴えてくる。

――でも……。


 ハンターを助けるためだったら、喜んでこの身体を差し出す。


 目を閉じて想像する。
 ここには、ハンターなんていない。
 何も、聞こえない。


 ――ここは、あのダグラスの屋敷だ。
 ――僕の身体を愛撫するのは、美しい執事。
 ――いつも行われてきた、日常的な行為。


 何も、悲しくなんてない。
 ずっと受け入れてきた、オスカーとの快楽のひととき……。


「ルイ様……」

「オスカーっ……」
 息が上がっていく。

 オスカーの身体に、舌を這わせる。

「前みたいに……、できますね」
 僕はうなずき、そっとオスカー自身を口に含む。

「……っ」
 テレンスにされたときのように、大きく動いてやると、オスカーがビクンと反応する。

「……はっ、ルイ様っ……」

「もっと、して欲しい?」
 ちろちろと舌で舐めながらオスカーを見上げると、彼は苦しげに眉根を寄せた。

「あなたはっ……、本当に……」
 言うとオスカーは、僕の口から己を引き抜き、妖しく僕を見た。

「よく見えるように、ルイ様に上になっていただきましょう……。さあ、来てください」
 僕を自分の身体の上に、引き寄せた。

「あっ……」
 後ろに、熱くて固いものが当てられる。

「そう、そのまま、ゆっくり、腰を落として」

「やっ……、嫌だっ……っ!」

 腰を強くつかまれ、ズブズブとオスカー自身を埋め込まれていく。

「いいですよ。ほら、……、嬉しそうに私を飲み込んでいきますよ……」

「ちがうっ、あっ、あっ、はあっ」
 苦しさだけではない。僕の身体を貫くのは、言葉にできないほどの快感。

 突き上げられると、何も考えられなくなる。

「あっ、オスカーっ……」
 甘くねだる声で、彼を呼んでしまう。


「……ワード君、よく見ておきなさい。これが、ルイ様の真の姿だ」


 ――オスカーの声に、僕は現実に引き戻される。


 オスカーとの淫らな交わり……。

「たまらない……。溺れてしまいそうだ……」

「あっ、ああっ、んっ……」


 ハンターが、見ている。

 僕らを……、
 オスカーに抱かれて悦ぶ僕を……



 侮蔑で、顔を歪ませて……。


 ――ハンター。


 ――僕らは……、


 もう、終わりだ……。
 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 拘束を解かれたハンターは、もう抵抗もしなかった。
 涙の残る頬を拳でぬぐうと、ふらふらと立ち上がる。

「これで、わかったでしょう」

「……ははっ、あはははっ!」
 オスカーの言葉に、ハンターは気が触れたように腹を抱えて低く笑い出した。

「……ハンター?」

「ああ……、これでなにもかもわかったよ……。俺の好きだったキース・エヴァンズは、もうどこにもいない……」

「ハンター!」

「お前は、一体、誰なんだ? たしかに、キースに良く似てる。良く似てるけど、お前はキースじゃない!  こんなヤツを、俺は知らない。……お前は誰だ!?」
 鋭く光るまなざしを僕に向ける。


「僕は……、僕は……」

絶望で、目の前が暗くなる。

――ハンターまでも、僕を見放した。


「さあ、これでワード君も踏ん切りがついた。お互い、相手に幻想を抱いていたのでしょう。現実はいつも残酷なものです」

 ハンターは、鞄を背中に担ぐと、僕を振り返った。

「帰らせてもらうよ。じゃあな、さよならだ。
でも……、最後にこれだけは言っとく。
俺は、本当にキースを好きだった……。
心の底から、愛してたんだ!」

 目を細めて僕を見る。

「じゃあな……、元気でいろよ」

「ハンター! 行かないでっ」

 ハンターは振り返ることなく、扉を閉めた。

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