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第40話
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半時間ほど、無言で山道を歩き続けた。
隣町までは馬車でも一時間以上かかる。徒歩なら、数時間以上だろう。
僕の疲労はピークに達していた。
「ハンター、どうしたんだよ? 一体どこに行くんだ?」
僕はたまらず、ハンターの背中に声をかける。
ハンターは振り向き、僕を見た。
「キース……、お前、見えるようになったんだな……よかったな」
微笑みは、どこか寂しげに見えた。
「さすがに、歩き通しはキツいな。できるだけ早く、村から離れたかったんだけど、ここまでくればさすがに大丈夫か……。キース、ちょっと休むぞ」
歩いてきた山道から馬車道に抜けると、3階建ての薄汚れた建物があった。
「ここ……」
「連れ込み宿だ。町の奴らがよく使ってるところだ。ちょうどいい、ここで休もう」
「うん……」
うつむくようにして、ハンターについて行く。
ハンターは、臆することなく、手続きを済ませると宿の部屋に入っていった。
「ハンター、こういうとこ、良く来てるの?」
僕が聞くと、ハンターは顔を真っ赤にした。
「馬鹿! 来るわけないだろ! 俺には、お前がいるってのに……」
胸がいっぱいになる。
――ハンターがいる。
ハンターが、僕の目の前にいる!
部屋は、寝具類がけばけばしいピンク色であることをのぞけば、ごく普通の寝室のように見えた。
ハンターは荷物を下ろすと、テーブルのポットから水を注いだ。
「疲れただろ」
「ううん、大丈夫」
僕はベッドに腰掛ける。
ハンターから水を受け取ると、僕は一気に飲み干した。のどがからからに乾いていたことに気づく。
「キース……」
ハンターが、僕を見ていた。
「本物……なんだな?」
「うん……」
目の前のハンターは、10歳だったころの面影を残しながらも、精悍な大人の男に成長していた。
「キース……」
ハンターは僕の頬に手を添える。
「会いたかった、ごめんね。ずっとあのまま連絡もしないで」
「いいんだ。良かった……、良かった、生きててくれて」
僕はハンターに抱きしめられていた。
懐かしい、ハンターの匂い。
――ずっと、会いたかった。
「あの村は、おかしい」
僕から身を離すと、ハンターは言った。
「え……?」
「キースがいなくなって、俺はキースのことずっと探してたんだ。でも、日にちが経つにつれ、だんだん村のやつらは、キースがこの村にいたことを否定するようになった」
ハンターの言葉に、オスカーから聞かされた村の秘密を思い出した。
「今では、小さいガキですら、キースのことを知らなかったふりしてる。そんなはずはないんだ。それなのに、みんなから、俺の記憶がおかしいみたいに言われる。キース・エヴァンズなんて人間は最初からあの村にはいなかったんだって。俺の妄想が作り出した、頭の中にしかいない想像の友達だって……、教会の牧師様にもそう言われた」
「牧師様も……」
村ぐるみで僕という存在を秘匿していたというのは、本当だったのだ。
「そんなはずはないって、お前んちでお前がいた痕跡も探したんだ……。でも、なにもみつからなかった。お前がいたはずの部屋は、物置になってて、お前の服も、荷物も、なにもかもすっかりなくなっていたんだ!」
「そんな……」
もう戻る場所はない……、そう言ったオスカーの言葉に間違いは無かった。
キース・エヴァンズがいたという証拠は、もうすべて消滅させられているのだろう。
「俺自身、もう、何も信じられなくなってたんだ。もしかしたら、本当にキースはいなかったんじゃないかって……でも……」
ハンターが近づき、僕の額に自分の額をあてる。
「こうやって、戻ってきてくれた……。やっぱり、キースはいたんだ。俺の大事な、キースは、ちゃんと存在した……」
「ハンター、僕も、ずっと、ずっと会いたかった」
唇が、重なる。
温かくて懐かしい、ハンターの体温。
「なあ、キース。一緒に、シャワーを浴びよう……」
ハンターが、かすれた声で耳元で囁いた。
隣町までは馬車でも一時間以上かかる。徒歩なら、数時間以上だろう。
僕の疲労はピークに達していた。
「ハンター、どうしたんだよ? 一体どこに行くんだ?」
僕はたまらず、ハンターの背中に声をかける。
ハンターは振り向き、僕を見た。
「キース……、お前、見えるようになったんだな……よかったな」
微笑みは、どこか寂しげに見えた。
「さすがに、歩き通しはキツいな。できるだけ早く、村から離れたかったんだけど、ここまでくればさすがに大丈夫か……。キース、ちょっと休むぞ」
歩いてきた山道から馬車道に抜けると、3階建ての薄汚れた建物があった。
「ここ……」
「連れ込み宿だ。町の奴らがよく使ってるところだ。ちょうどいい、ここで休もう」
「うん……」
うつむくようにして、ハンターについて行く。
ハンターは、臆することなく、手続きを済ませると宿の部屋に入っていった。
「ハンター、こういうとこ、良く来てるの?」
僕が聞くと、ハンターは顔を真っ赤にした。
「馬鹿! 来るわけないだろ! 俺には、お前がいるってのに……」
胸がいっぱいになる。
――ハンターがいる。
ハンターが、僕の目の前にいる!
部屋は、寝具類がけばけばしいピンク色であることをのぞけば、ごく普通の寝室のように見えた。
ハンターは荷物を下ろすと、テーブルのポットから水を注いだ。
「疲れただろ」
「ううん、大丈夫」
僕はベッドに腰掛ける。
ハンターから水を受け取ると、僕は一気に飲み干した。のどがからからに乾いていたことに気づく。
「キース……」
ハンターが、僕を見ていた。
「本物……なんだな?」
「うん……」
目の前のハンターは、10歳だったころの面影を残しながらも、精悍な大人の男に成長していた。
「キース……」
ハンターは僕の頬に手を添える。
「会いたかった、ごめんね。ずっとあのまま連絡もしないで」
「いいんだ。良かった……、良かった、生きててくれて」
僕はハンターに抱きしめられていた。
懐かしい、ハンターの匂い。
――ずっと、会いたかった。
「あの村は、おかしい」
僕から身を離すと、ハンターは言った。
「え……?」
「キースがいなくなって、俺はキースのことずっと探してたんだ。でも、日にちが経つにつれ、だんだん村のやつらは、キースがこの村にいたことを否定するようになった」
ハンターの言葉に、オスカーから聞かされた村の秘密を思い出した。
「今では、小さいガキですら、キースのことを知らなかったふりしてる。そんなはずはないんだ。それなのに、みんなから、俺の記憶がおかしいみたいに言われる。キース・エヴァンズなんて人間は最初からあの村にはいなかったんだって。俺の妄想が作り出した、頭の中にしかいない想像の友達だって……、教会の牧師様にもそう言われた」
「牧師様も……」
村ぐるみで僕という存在を秘匿していたというのは、本当だったのだ。
「そんなはずはないって、お前んちでお前がいた痕跡も探したんだ……。でも、なにもみつからなかった。お前がいたはずの部屋は、物置になってて、お前の服も、荷物も、なにもかもすっかりなくなっていたんだ!」
「そんな……」
もう戻る場所はない……、そう言ったオスカーの言葉に間違いは無かった。
キース・エヴァンズがいたという証拠は、もうすべて消滅させられているのだろう。
「俺自身、もう、何も信じられなくなってたんだ。もしかしたら、本当にキースはいなかったんじゃないかって……でも……」
ハンターが近づき、僕の額に自分の額をあてる。
「こうやって、戻ってきてくれた……。やっぱり、キースはいたんだ。俺の大事な、キースは、ちゃんと存在した……」
「ハンター、僕も、ずっと、ずっと会いたかった」
唇が、重なる。
温かくて懐かしい、ハンターの体温。
「なあ、キース。一緒に、シャワーを浴びよう……」
ハンターが、かすれた声で耳元で囁いた。
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