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第38話

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「はあっ、はあっ……」

 悔しさと羞恥で、頬を涙が伝う。


「やっぱりな……」

「……っ、ああっ」
 つながったまま、上を向かされ、僕はまたうめき声を上げた。

「やっぱりな……、お前は、ルイ・ダグラスじゃない……」
 僕を見下ろすテレンスの、目つきがおかしい。

 明らかに正常な光を失っている。
 病的で、どこか異常な視線。

「わかってたんだ。初めて見たときから。雰囲気を変えたくらいでごまかせると思ったか?
 ……俺が、お前の目を忘れるはずがない」

 テレンスは、ゆっくり僕の首に手を回した。

「俺に復讐しに来たのか?
それとも、今度こそ、俺の手で殺されようとわざわざ出向いてきたのか? ……それなら、願いを叶えてやるよ」

 テレンスの手に力がこもる。

「くっ……、苦しっ……」

「何人、男をくわえ込んだんだ? 誰にやられた? あの男か?
俺のせいか? 俺を恨んでるのか? 俺が、お前を捨てたから……。
わかってるんだ。復讐しに来たんだろう?
でも、それでもいいんだ……、お前に、会えるなら……」

 僕の頬に、しずくが落ちる。

 ――涙?


 テレンスは、泣いていた。


「許してくれ。俺が、お前を……、殺した。すまない。許してくれ。
――ノエル」


「ノエル?」


「今度はちゃんと俺の手で、お前を殺してやる。大丈夫だ。苦しまないようにするから……」

 テレンスは、哀れみと悲しみのこもった瞳で、僕を見ている。
 だが、僕を通して彼が見ているのは、僕ではない別の誰か――。


 首を絞められる。

「くっ……、苦しい……」

「すぐに済むから……、ノエル。そうしたら、俺もお前の後を追う。一人にはさせない」
 テレンスは泣きながら、笑っていた。

「くっ……」

 ――このままでは本当に殺される。
 僕は渾身の力を込めると、テレンスの腹を蹴り上げた。

「っぐ……」
 テレンスの手が緩む。

 その隙に、僕はベッドから抜け出した。

 後ろ手に縛られたままの両手を、テーブルの角に打ち付けて、拘束をゆるめる。何度か激しくたたきつけると、そのまま紐が緩んだ。

 血がにじむ手で、脱がされた衣服を拾い集める。

 そのとき、テーブルの上に置かれた銀の懐中時計が目に入った。
 僕はそれをつかむと、そのまま部屋から飛び出した。


 ――振り返ると、テレンスは、ただベッドの上で呆然としているだけだった。


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