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第28話
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湖を会場に開かれるパーティに出るという僕に、オスカーはやはり難色を示した。
「なぜわざわざ、カートレット子爵様のお屋敷の湖で?」
「さあ、よくわからないけど、趣向を変えたいとか、言ってた」
「お召し物ははご用意いたしますが、あまり人前に肌をさらされないほうがよろしいかと。裸になると、体つきの差が、目に付きますから……」
そう言って僕の背中に触れる。
「わかってる。人前で服を脱いだりしない。もともと湖に入るつもりはないし」
「かしこまりました。それなりのものをご用意いたしましょう」
「オスカー……、ルイとテレンス・カートレットは、仲が悪かったのかな?」
クローゼットの中を確認するオスカーに、僕はさりげなく聞いた。
「そうですね……、たしかテレンス様は、ルイ様とアリス様のご婚約に、かなり強硬に反対されていた、と伺ったことがあります」
ルイの残したメッセージにも、テレンスのアリスへの執着について書いてあった。
「テレンス様は、ルイ様に対して、かなりコンプレックスを抱いていた……とも。テレンス様がカートレット家に入られた経緯も、特殊なご事情があったようです。テレンス様は、親族の中でもかなり冷遇されていたので、ご苦労も多かったと存じます」
妾の子として育ったテレンス。
光の中だけを歩いてきたようなルイに対して、相当屈折した感情を抱いていたのだろうか?
「それはそうと、ルイ様。今日はどこに寄られたんですか? いつもの迎えのものが心配していましたが……」
机に向かい、算術の課題に頭を悩ませている僕に、オスカーは声をかけた。
「ああ……、王都の図書館に行ってたんだ。学院の図書館にはない資料で、調べたいことがあって……」
用意していた答えを、僕は口にする。
オスカーは僕のわきに立ち、開かれているノートを一瞥する。
「お一人で、ですか?」
探るような視線。僕はわざと目をそらした。
「クラスメートとだよ。グレイっていう。……ほら、休んでいた時にノートをとっていてくれた……」
「そうですか。すっかり王立学院生活にも溶け込まれているようで何よりです」
オスカーは言うと、解答の導き方をすらすらと僕に示す。
「あ……、そうか……」
僕は、ノートに解答を記す。
「ルイ様……、もし帰りにどこか寄られることがあっても、馬車を呼びつけていただいてかまいません」
「でも……、どれくらい時間がかかるかわからなかったし……」
「彼はそれが仕事です。たとえ何時間待たせたとしても、ルイ様が気に掛ける必要はまったくありません」
「でも……」
「あまり勝手に出歩かれますと、こちらが心配します。今後、移動には、全てダグラス家の専用の馬車をお使いください」
有無を言わせない、オスカーの強い視線。
ディランの言葉を思い出していた。
『――お前……、もしかして閉じ込められてんのか?』
湖を会場に開かれるパーティに出るという僕に、オスカーはやはり難色を示した。
「なぜわざわざ、カートレット子爵様のお屋敷の湖で?」
「さあ、よくわからないけど、趣向を変えたいとか、言ってた」
「お召し物ははご用意いたしますが、あまり人前に肌をさらされないほうがよろしいかと。裸になると、体つきの差が、目に付きますから……」
そう言って僕の背中に触れる。
「わかってる。人前で服を脱いだりしない。もともと湖に入るつもりはないし」
「かしこまりました。それなりのものをご用意いたしましょう」
「オスカー……、ルイとテレンス・カートレットは、仲が悪かったのかな?」
クローゼットの中を確認するオスカーに、僕はさりげなく聞いた。
「そうですね……、たしかテレンス様は、ルイ様とアリス様のご婚約に、かなり強硬に反対されていた、と伺ったことがあります」
ルイの残したメッセージにも、テレンスのアリスへの執着について書いてあった。
「テレンス様は、ルイ様に対して、かなりコンプレックスを抱いていた……とも。テレンス様がカートレット家に入られた経緯も、特殊なご事情があったようです。テレンス様は、親族の中でもかなり冷遇されていたので、ご苦労も多かったと存じます」
妾の子として育ったテレンス。
光の中だけを歩いてきたようなルイに対して、相当屈折した感情を抱いていたのだろうか?
「それはそうと、ルイ様。今日はどこに寄られたんですか? いつもの迎えのものが心配していましたが……」
机に向かい、算術の課題に頭を悩ませている僕に、オスカーは声をかけた。
「ああ……、王都の図書館に行ってたんだ。学院の図書館にはない資料で、調べたいことがあって……」
用意していた答えを、僕は口にする。
オスカーは僕のわきに立ち、開かれているノートを一瞥する。
「お一人で、ですか?」
探るような視線。僕はわざと目をそらした。
「クラスメートとだよ。グレイっていう。……ほら、休んでいた時にノートをとっていてくれた……」
「そうですか。すっかり王立学院生活にも溶け込まれているようで何よりです」
オスカーは言うと、解答の導き方をすらすらと僕に示す。
「あ……、そうか……」
僕は、ノートに解答を記す。
「ルイ様……、もし帰りにどこか寄られることがあっても、馬車を呼びつけていただいてかまいません」
「でも……、どれくらい時間がかかるかわからなかったし……」
「彼はそれが仕事です。たとえ何時間待たせたとしても、ルイ様が気に掛ける必要はまったくありません」
「でも……」
「あまり勝手に出歩かれますと、こちらが心配します。今後、移動には、全てダグラス家の専用の馬車をお使いください」
有無を言わせない、オスカーの強い視線。
ディランの言葉を思い出していた。
『――お前……、もしかして閉じ込められてんのか?』
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