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第18話
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「ふふふっ、ルイ様ったら、おかしい」
まさに鈴が鳴るように、ころころとアリスは笑った。
「王立学院の帝王……だなんて、そんな子供っぽいこと、男の子たちが勝手に盛り上げっているだけです。帝王なんて大げさなこと言っても結局、剣術部の部長のあだ名みたいなものなんですよ」
「でも、テレンスさんが……」
「負けず嫌いの兄にも困ったものです。でも私は良かったと思ってるんです。ルイ様が兄に勝ってくださって。だって、先輩から聞いたことがあるんですけど、兄って剣術部でも、本当に横暴だったんですって。私、王立学院の嫌われ者の妹なんて嫌ですもの」
「でも、僕だって帝王だったんだろう? 結構疎まれていたんじゃないかな? 今も周りの人から距離を置かれてる気がするし……」
僕が言うと、アリスはとんでもない、と否定する。
「まさか、ルイ様は帝王だからって、それを傘に権力を振るうなんてこと、絶対にありませんでした。たしかに、一部の男子生徒からは一目置かれていました。でも、女の子には優しいし、スマートだし……。憧れられることはあっても、疎まれるなんて絶対にありませんっ!」
頬を紅潮して力説するアリスを見ていると、彼女のことをとても微笑ましく思えてくる。
――ここ数日。
昼休みになると、アリスがランチの入った大きなバスケットを持って教室にやってくるようになった。
二人で連れ立って、学院内のあちこちで一緒に昼食をとっている。
場所を毎日変えるのは、兄のテレンスに見つからないようにするためだと、アリスは説明した。
今日は、校舎からかなり離れた裏庭にある、大きな樹の下の白いベンチに、僕らはいる。
アリスは、春の日だまりのような少女だった。明るくて、柔らかく、そして、優しい。
一定の距離を持って接するクラスメートたちとは違い、僕はアリスといるとリラックスしている自分に気づいた。アリスには、王立学院でのわからないことや、過去の僕についてなど、気負わずに聞くことができる。
アリスについて書かれた、ルイの悪意に満ちたメッセージを思い出す。
――もしかしたら。
あのメッセージ自体が、タチの悪い冗談、または僕への嫌がらせの一環だとしたら……。
アリスに惹かれていたルイ。
たとえ、双子の弟といえども、自分の代わりに彼女を奪われるのが、我慢できなかったとしたら?
謎かけのような、文章の説明もつく。
もともと殺されたというのは嘘で、なにか死に至る病を抱えていたのだとしたら……。
病院で亡くなったという、オスカーの言葉も納得できる。
ルイは、身代わりとなる僕を混乱させ、周りに不信感を抱かせるために、あの遺書を僕に読ませるよう画策したのかもしれない。
これまでに周りから得た情報から推察すると、ルイはそれくらいのことなら平気でやりそうな人間に思える。
――完璧主義で、冷徹で、自己中心的、独善的……。
「でも、ルイ様……、本当に何も覚えていないんですね」
アリスがぱっちりとした目をまたたかせる。
「ごめん……、顔と名前くらいはわかるんだけど、その人と何があったとか、王立学院でのこととか、記憶が混乱して何も思い出せないんだ」
僕の言葉に、アリスはまたクスっと笑った。
「でも、ルイ様には本当に申し訳ないけど、私、この状況にちょっとだけ喜んでるんです。だって、だって……、私っていままで、ルイ様の前でさんざんドジなことや、恥ずかしいことしてきたから……。そのことを忘れていただけるんだったら、本当の私よりもっと素敵な女の子を演じることができるでしょう? だから、これから、私、ルイ様のこと、もっと、もっと……」
何かを訴えるように、僕をうるんだ瞳で見つめる。
「アリスさん……?」
「おやおや、こんなところにいたのかよ。アリス、お前も懲りないな」
「お兄様!」
アリスの顔色が変わる。
テレンス・カートレットが、二人の男を引き連れて、こちらに向かってくる。
まさに鈴が鳴るように、ころころとアリスは笑った。
「王立学院の帝王……だなんて、そんな子供っぽいこと、男の子たちが勝手に盛り上げっているだけです。帝王なんて大げさなこと言っても結局、剣術部の部長のあだ名みたいなものなんですよ」
「でも、テレンスさんが……」
「負けず嫌いの兄にも困ったものです。でも私は良かったと思ってるんです。ルイ様が兄に勝ってくださって。だって、先輩から聞いたことがあるんですけど、兄って剣術部でも、本当に横暴だったんですって。私、王立学院の嫌われ者の妹なんて嫌ですもの」
「でも、僕だって帝王だったんだろう? 結構疎まれていたんじゃないかな? 今も周りの人から距離を置かれてる気がするし……」
僕が言うと、アリスはとんでもない、と否定する。
「まさか、ルイ様は帝王だからって、それを傘に権力を振るうなんてこと、絶対にありませんでした。たしかに、一部の男子生徒からは一目置かれていました。でも、女の子には優しいし、スマートだし……。憧れられることはあっても、疎まれるなんて絶対にありませんっ!」
頬を紅潮して力説するアリスを見ていると、彼女のことをとても微笑ましく思えてくる。
――ここ数日。
昼休みになると、アリスがランチの入った大きなバスケットを持って教室にやってくるようになった。
二人で連れ立って、学院内のあちこちで一緒に昼食をとっている。
場所を毎日変えるのは、兄のテレンスに見つからないようにするためだと、アリスは説明した。
今日は、校舎からかなり離れた裏庭にある、大きな樹の下の白いベンチに、僕らはいる。
アリスは、春の日だまりのような少女だった。明るくて、柔らかく、そして、優しい。
一定の距離を持って接するクラスメートたちとは違い、僕はアリスといるとリラックスしている自分に気づいた。アリスには、王立学院でのわからないことや、過去の僕についてなど、気負わずに聞くことができる。
アリスについて書かれた、ルイの悪意に満ちたメッセージを思い出す。
――もしかしたら。
あのメッセージ自体が、タチの悪い冗談、または僕への嫌がらせの一環だとしたら……。
アリスに惹かれていたルイ。
たとえ、双子の弟といえども、自分の代わりに彼女を奪われるのが、我慢できなかったとしたら?
謎かけのような、文章の説明もつく。
もともと殺されたというのは嘘で、なにか死に至る病を抱えていたのだとしたら……。
病院で亡くなったという、オスカーの言葉も納得できる。
ルイは、身代わりとなる僕を混乱させ、周りに不信感を抱かせるために、あの遺書を僕に読ませるよう画策したのかもしれない。
これまでに周りから得た情報から推察すると、ルイはそれくらいのことなら平気でやりそうな人間に思える。
――完璧主義で、冷徹で、自己中心的、独善的……。
「でも、ルイ様……、本当に何も覚えていないんですね」
アリスがぱっちりとした目をまたたかせる。
「ごめん……、顔と名前くらいはわかるんだけど、その人と何があったとか、王立学院でのこととか、記憶が混乱して何も思い出せないんだ」
僕の言葉に、アリスはまたクスっと笑った。
「でも、ルイ様には本当に申し訳ないけど、私、この状況にちょっとだけ喜んでるんです。だって、だって……、私っていままで、ルイ様の前でさんざんドジなことや、恥ずかしいことしてきたから……。そのことを忘れていただけるんだったら、本当の私よりもっと素敵な女の子を演じることができるでしょう? だから、これから、私、ルイ様のこと、もっと、もっと……」
何かを訴えるように、僕をうるんだ瞳で見つめる。
「アリスさん……?」
「おやおや、こんなところにいたのかよ。アリス、お前も懲りないな」
「お兄様!」
アリスの顔色が変わる。
テレンス・カートレットが、二人の男を引き連れて、こちらに向かってくる。
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