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第14話
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まさか、ルイがそんな酷い仕打ちを……。
テレンスが僕に向ける憎悪の感情の意味がようやくわかった。
ルイは、多くの人の目の前で、テレンスにその尊厳を踏みにじる侮辱的な振る舞いをしたのだ。
テレンスは剣先を僕に向けた。
「お前、雰囲気変わったな。ずいぶん痩せて、髪も伸ばして、まるで、薄幸の美少年みたいに見えるぜ。そうやって、周囲の同情を引く作戦か? でも、俺はだまされない。
もう一度、俺と勝負しろよ。
事故に遭って弱ってるところ悪いが、俺にはお前を思いやる気持ちなんてこれっぽっちも残ってないんでね。ここでは、強者が正義だ。俺が勝って、お前を目の前にひざまづかせてやる」
「……お断りします」
毅然と、僕は言った。
剣術の試合など、僕に出来るはずもない。
それに……、これは挑発だと、僕自身が気づいていた。
「なんだと?」
「僕は一度あなたと戦って勝った。それで充分でしょう?」
心臓は張り裂けそうなほど、激しく脈打っていたが、それを顔に出すわけには行かない。
「怖気づいたか? だが、決闘を申し込まれた者は断ることができない。これも、伝統だぜ」
「そうでしょうか? あなたが言うとおり、僕がこの学校の帝王なのだとしたら、負けたあなたは僕の命令に従わなければいけないはずだ。……決闘は受けない」
「貴様っ……、どこまで俺を侮辱する気だっ!」
殴られる――。
思わず目をつぶったが、こぶしが振り下ろされることは無かった。
「まあ、いいや。今日のところは引き下がってやる。本当に決闘するなら、証人が必要だからな。でも、いつまでも逃げ切れるかな? 俺にはわかってるんだぜ。……お前はもう帝王じゃない。それにしても……さ」
そういって、僕の襟首を掴んで引き寄せる。
「お前……、こんなに綺麗な顔してたっけ? 髪が伸びたせいだけか? ……そっちの気なんて全くないのに、妙にソソられるんだけど……」
そう言って、唇が触れそうなほど、顔を近づけてくる。
僕は歯をかみ締め、耐えた。
テレンスは、ふ……と笑って、手を離した。
「そうだ、そうだ……、この目だよ。この目が見たかったんだ……。俺をもっと憎め、そして蔑めよ。弱りきったお前なんて、叩きのめしても何の意味もないんだからな。
俺とお前、どちらが帝王にふさわしいか、必ず決着をつけてやる」
テレンスはニヤリと笑うと、僕を残し、闘技場から出て行った。
――わからなくなる。
ルイ・ダグラスとは、一体何者なのか?
本当に、ルイは殺されたのか?
なぜ、ルイは、僕へあのような遺書を残したのだろう。
ルイが残したテレンスへの記述からも、ルイがテレンスに対して、何か特別な悪意を抱いていることは、薄々感じていた。
――そして、
テレンス・カートレットもまた、ルイを殺す可能性のある人物として、リストに入れられていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『テレンス・カートレット』
カートレット家の養子。その実態は、当主がカートレット家のメイドに産ませた私生児。18歳までは別の姓を名乗り、母親と暮らしていたが、本妻との間にアリスしか産まれず、アリスの身体も弱かったため、王立学院入学と同時にカートレット家に引き取られた。
自分の能力の低さも省みず、あらゆる面で僕と張り合ってきた。だが所詮は、卑しい血を引く男だ。アリスへの異常ともいえる過保護ぶりも、目に余る。
一度、徹底的に叩きのめしておく必要があるだろう。
身の程知らずの男には、制裁を加える必要がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
テレンスが僕に向ける憎悪の感情の意味がようやくわかった。
ルイは、多くの人の目の前で、テレンスにその尊厳を踏みにじる侮辱的な振る舞いをしたのだ。
テレンスは剣先を僕に向けた。
「お前、雰囲気変わったな。ずいぶん痩せて、髪も伸ばして、まるで、薄幸の美少年みたいに見えるぜ。そうやって、周囲の同情を引く作戦か? でも、俺はだまされない。
もう一度、俺と勝負しろよ。
事故に遭って弱ってるところ悪いが、俺にはお前を思いやる気持ちなんてこれっぽっちも残ってないんでね。ここでは、強者が正義だ。俺が勝って、お前を目の前にひざまづかせてやる」
「……お断りします」
毅然と、僕は言った。
剣術の試合など、僕に出来るはずもない。
それに……、これは挑発だと、僕自身が気づいていた。
「なんだと?」
「僕は一度あなたと戦って勝った。それで充分でしょう?」
心臓は張り裂けそうなほど、激しく脈打っていたが、それを顔に出すわけには行かない。
「怖気づいたか? だが、決闘を申し込まれた者は断ることができない。これも、伝統だぜ」
「そうでしょうか? あなたが言うとおり、僕がこの学校の帝王なのだとしたら、負けたあなたは僕の命令に従わなければいけないはずだ。……決闘は受けない」
「貴様っ……、どこまで俺を侮辱する気だっ!」
殴られる――。
思わず目をつぶったが、こぶしが振り下ろされることは無かった。
「まあ、いいや。今日のところは引き下がってやる。本当に決闘するなら、証人が必要だからな。でも、いつまでも逃げ切れるかな? 俺にはわかってるんだぜ。……お前はもう帝王じゃない。それにしても……さ」
そういって、僕の襟首を掴んで引き寄せる。
「お前……、こんなに綺麗な顔してたっけ? 髪が伸びたせいだけか? ……そっちの気なんて全くないのに、妙にソソられるんだけど……」
そう言って、唇が触れそうなほど、顔を近づけてくる。
僕は歯をかみ締め、耐えた。
テレンスは、ふ……と笑って、手を離した。
「そうだ、そうだ……、この目だよ。この目が見たかったんだ……。俺をもっと憎め、そして蔑めよ。弱りきったお前なんて、叩きのめしても何の意味もないんだからな。
俺とお前、どちらが帝王にふさわしいか、必ず決着をつけてやる」
テレンスはニヤリと笑うと、僕を残し、闘技場から出て行った。
――わからなくなる。
ルイ・ダグラスとは、一体何者なのか?
本当に、ルイは殺されたのか?
なぜ、ルイは、僕へあのような遺書を残したのだろう。
ルイが残したテレンスへの記述からも、ルイがテレンスに対して、何か特別な悪意を抱いていることは、薄々感じていた。
――そして、
テレンス・カートレットもまた、ルイを殺す可能性のある人物として、リストに入れられていた。
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『テレンス・カートレット』
カートレット家の養子。その実態は、当主がカートレット家のメイドに産ませた私生児。18歳までは別の姓を名乗り、母親と暮らしていたが、本妻との間にアリスしか産まれず、アリスの身体も弱かったため、王立学院入学と同時にカートレット家に引き取られた。
自分の能力の低さも省みず、あらゆる面で僕と張り合ってきた。だが所詮は、卑しい血を引く男だ。アリスへの異常ともいえる過保護ぶりも、目に余る。
一度、徹底的に叩きのめしておく必要があるだろう。
身の程知らずの男には、制裁を加える必要がある。
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