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第三章〜Another end〜
教訓は心にしっかり刻みますね♪
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2/16はシリウスの誕生日!ということでゲリラ更新させていただきました( ˊᗜˋ)(ˊᗜˋ)(ˊᗜˋ )
﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌ ﹌
「…アイリス、お帰りなさい」
「お養母様?ただいま帰りましたっ!」
リュークのエスコートで馬車を降りると、出迎えに来てくれていたお養母様…リラニア・ペルージャン公爵夫人が私を優しく抱きしめてくれる。
リラニアはモカブラウンの髪を貴族女性にしては珍しく肩上のボブヘアーに切りそろえており、オリヴィエ王妃のように私を実娘のように可愛がってくれる素敵な人だった。
次男のエニエスを出産する際に短くしてみたところ、楽なボブヘアーを気に入りそのまま維持するようになったらしい。
立て続けに息子ばかり三人を産んだことで、リラニアも長年娘が欲しいと思っていたそうだ。
「急に泊まるなんて報せが来たからまた何かあったのかと心配していたのよ…?」
「ごめんなさい。ディアーナ修道院から戻ってくるのに少し時間がかかってしまいまして…シリウス様も夜に帰宅するよりは泊まっていけばいいとおっしゃってくださいましたので、使用人仲間のお友達とお話しながら過ごしてしまいました」
「……もう…」
ここぞとばかりに言い訳を並べていると、口を尖らせながらもチラリと私の後ろに立つリュークに視線を向けるリラニア。
「………」
リュークが黙ったまま反応しないところを見て、私の言葉を信用してくれることにしたらしい。
呆れたように笑いながら手を引いてくれる。
「そう…まぁ、あなたが楽しく過ごせたのならいいわ。夕食の前に私にも昨日の話を聞かせてくれる?」
「はいっ!」
一旦自室に戻り軽装に着替えた後、公爵夫人の私室へ向かうとすでにお茶の準備をしてくれていた。
「あ、お養母様。良ければ今日のお茶は私が淹れてもよろしいですか?」
「あら嬉しいわ、何を淹れてくれるの?」
ニコニコと笑いながらリラニアは侍女を下がらせてくれる。
私は手に持っていた茶缶を自慢げに見せる。
「実は昨日シリウス様に頂いたものなんですけど…バロッズという島国のフレーバードティーなんだそうです」
「あら、バロッズの物が手に入るなんて珍しいわね?」
「やっぱりそうなのですね!」
「ええ、バロッズは島国だから元々生産量が少ないの。国内ですら高級品として扱われるから輸出量も少ないし、バロッズ産となれば茶缶一つでもとても希少なのよ?わたくしも頂けるなんて嬉しいわ~」
「希少…知りませんでした。う~ん、美味しく淹れられると良いのですが…」
「うふふっ、アイリスの淹れてくれるお茶は美味しいから大丈夫よ。楽しみだわ~♪」
夕食の際、珍しい物が手に入ったとシリウスが自慢げに渡してくれたのは希少だったからなのかと今さら納得してしまう。
バロッズの茶葉と言われても私の反応が薄かったのではないか?と少しだけ不安になるが知らなかったのだから仕方ない。
そもそもシリウスの説明が足りていないと思う。
希少な茶葉。
そのイメージがつくと、お茶を淹れるだけのはずが少しだけドキドキしてしまう。
…が、どうせ大したテクニックもないのでいつも通り淹れることにする。
花のイラストがあしらわれたピンクの可愛らしい茶缶を開けると、フルーティーな香りが鼻をくすぐる。
元々フレーバードティーには乾燥させた花びらやドライフルーツなどが入っているらしい。
ティーポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐとローズとピーチの芳醇な香りが部屋に広がる。
砂時計が落ちたのを確認して注いだ紅茶を置くと、リラニアはすぐにカップへ手を伸ばしてくれた。
「まぁ…本当に良い香りだわ~マクレーガン伯爵は相変わらずこういうプレゼントのセンスが良いのね。ほんと、私の旦那様にも見習って欲しいわ」
「ふふっ…渋みも少なくてとっても美味しいですね!」
シリウスのセンスを褒められてつい嬉しくなってしまう。
「あ、お養母様っ!教えて頂いたとおり、目を見てきちんと告白したらシリウス様にとっても喜んで頂けました♪」
「ええっ?!あなたに教えるつもりで話したわけではなかったのだけど…はぁ…まったく…変なところばかり真似して…!この前はマクレーガン伯爵の手を握って《お願い》をしたとも言っていたし…マクレーガン伯爵に変なことはされなかったでしょうね?」
「はいっ!もちろんですっ!」
「………」
しっかり返事したのに何故か不審そうな目で見られてしまった。
以前、ペルージャン公爵とケンカした時の仲直りの方法を教えてもらったことがあったのだが…
社交界でも愛妻家で有名なペルージャン公爵だが、実は夫婦喧嘩を全くしないわけではないらしい。
リラニアの方が一枚上手なので、公爵とのケンカが長引かないだけなのだそうだ。
「本当ですよ…?」
「……はぁ、せっかく娘が出来たというのに…思ったより早く手放すことになりそうね…」
「うふふっ…本当に良い香りですね♪」
とりあえず笑って誤魔化しておく。
まさかとは思いたいが…
リラニアはオリヴィエ王妃とも義姉として仲が良いらしいので、私とシリウスの関係を聞いているのかもしれない…
カップに口を付けながら、今後は言葉に気をつけようと思い直す。
ちなみにペルージャン公爵とお義兄様…それからリュークもおそらく気づいていないはずだ。
私の純潔を心配してくれている三人には申し訳ないが、とっくの昔に捧げてしまっているので今さらである。
何より大好きなシリウスに求められて断れるはずもない。
まぁ、シリウスには《お願い》だけでは効かなかったので、今後何かあった時は《告白》してから《お願い》した方がいいかもしれない。
シリウスはどうやらリュークのことを目障りに思っているらしいが、ペルージャン公爵夫妻が私に対して最低限の干渉に留めてくれているのは護衛騎士としてリュークが側にいてくれているからだ。
私に忠誠を誓ってくれたリュークを現状手放すつもりはない。
今のリュークは私が望む限り、ペルージャン公爵夫妻にすら平然と嘘をついてくれるのだ。
やっぱり、あの時リュークの誓いを受けていて良かった。
正直、シリウスが何を心配しているのかよく分からないが、ペルージャン公爵家にいる間はリュークを護衛騎士として側に置いておきたい、というのが私の本音だった。
「………ふふっ…♪」
よそ見なんてするはずがないのに…まったく心配症なんだから。
でもそんな心配も、シリウスが私を愛してくれている証のようで嬉しいと思ってしまう。
「何かいい事でもあったの?」
「実は……シリウス様がリュークに嫉妬してくれているみたいなんです!ふふっ♪可愛くないですか?」
「あら、マクレーガン伯爵に嫉妬してもらえて喜ぶだなんて…アイリスは随分と小悪魔な女の子だったのね?」
「だって…」
イタズラを指摘されてしまった子どものように軽く頬を膨らませてしまう。
こんな風に振る舞えるのも、ペルージャン公爵家の人達が私を本当の家族のように甘えさせてくれるおかけだ。
「アイリス、よく聞きなさい?男なんてカッコつけてばかりでその実、独占欲の塊のようなものなのよ?嫉妬させるにしても甘えるにしても程々にしなければダメなの」
「……そうなのですか?」
お養母様の恋愛講座はとてもためになるので、つい身を乗り出してしまう。
「ええ、そうよ。もちろん小悪魔に振る舞うのもいいけれど、加減を間違えるとアイリスも後悔することになるわよ?」
「……ということはお養母様様にも経験がおありなのですね?」
「そうねぇ……私の場合は、旦那様が婚約前にも関わらず肝心な言葉も言わずに私の恋人ぶってたから、嫌がらせとして社交場で仲の良い侯爵令息達を侍らせた事があったの」
ほう…?
侯爵令息達…
私のことを小悪魔だなんて言っていたが公爵夫人もなかなかのモテっぷりである。
…というか、側にいるのが当たり前な護衛騎士のことを嫉妬されて喜んでいる程度ではとても小悪魔とは呼べない気がしてきた。
知り合いの貴族令息もいないので、今回のは真似出来そうにないな…
と思いながらも公爵夫人の話にしっかり耳を傾ける。
「あの頃はダリアを筆頭にみ~んなセドリックに夢中だったから、未婚の男はちょっと優しくしてあげると案外簡単に釣れたのよ。まぁ私達の場合は、同じ侯爵家ってことで単に顔なじみでもあっただけなのだけど」
「わぁ~素敵ですっ!さすがお養母様です!」
リラニアの可愛らしい見た目とは裏腹になかなかのやり手である。
「遅れてきた旦那様…まぁ、あの頃はペルージャン小公爵と呼ばれていたのだけれど…ダンスに誘おうと目の前で私の指先にキスしただけのカルティーア小侯爵を問答無用で殴りつけてしまったのよ…」
「───…それは…大変ですね…?」
「大変のなんのって…その上、まるで私が浮気したかのように大騒ぎしだしたの!しかもみんながいる社交場のど真ん中でよ?!信じられる?!」
「信じられないですっ!!」
まぁ、あの熱血漢なペルージャン公爵ならともかく、シリウスはそんなことはしないだろうな…
と考えながらも、当時のペルージャン公爵夫妻を想像しながら鼻息を荒くして同意してしまう。
「肝心な告白もしないくせに周りの男達を牽制するだけの…身体だけ熊みたいに大きくて肝の小さかった男が、あろうことか幼なじみのティルを殴ったのよ?!ティルは私のお遊びに付き合ってくれただけなのに…!しかも俺は断じて浮気は許さん!だなんてふざけたことを言ってきたの!」
「………」
「私も腹に据えかねて、ティルに馬乗りで殴りつけようとする旦那様の顔を思いっきり引っぱたいてやったわっ!!」
身振り手振りで説明してくれているが、想像以上の修羅場である。
ティルというのは、ラザティル・カルティーア侯爵のことなのだろうが…
興奮しすぎて昔の愛称が出てしまっている。
「…そ、そのような騒ぎがあったのに、お養父様とはどうやって仲直りされたのですか?」
「え?………あぁ、まぁ…そう、ね…」
「?」
「こほん…要するに…私から求婚したのよ…」
「───えっ?!」
「そんなに私が好きならさっさと貴方の妻にしてくださいませっ!!ってね?」
律儀にも床に向かってピシッと指を向けて再現してくれる。
目を丸くして見上げるペルージャン公爵が目に浮かぶようだ。
「え~素敵です~!!」
「…ふふ、ありがとう。でもね?その言葉を聞いた旦那様がどうしたと思う?呆れるほど素早く立ち上がって何も言わずに私にキスしてきたの。信じられる?公衆の面前でよ?!」
「くすくすっ…」
「おかげで結婚式まではあっという間だったわ…まぁ、代わりにティルにはめちゃくちゃ怒られてしまったけれど。誘われても二度とお前とは踊らないって、痴話喧嘩にも巻き込んでくれるなってね?はぁ…」
公爵夫人は失敗談のように話してくれてはいるが…
なるほど。
社交界で認められれば結婚まではあっという間に進められるのだ、というペルージャン公爵夫人からのアドバイスだったらしい。
隣で眠っていた今朝のシリウスを思い出しながら、口元に手をあてたままついニマニマしてしまう。
「……アイリス、あなたまさかマクレーガン伯爵のことを思い出しているの?」
「………?」
どうやら公爵夫人にはなんでもお見通しらしい。
私は慌てて顔を取り繕うと、手を下ろしてにっこり笑い返す。
「…いい?今の話は、リュークとの関係を勘違いしたマクレーガン伯爵が剣を振り回す可能性もある、という教訓なのですよ?」
「……う~ん、さすがにそれはないかと思うのですが…ふふっ、お養母様からの教訓は心にしっかり刻みますね♪」
「はぁ…またそんな可愛らしいことを言って…本当に心配だわ…」
「それよりお養母様!私の話も聞いてくださいませっ!久しぶりにお会いしたのですが、アネスティラ様がとっても美しくなっていまして…お養母様がアドバイスしてくださったとおり退院用の品を色々と考えて持参してみたのですが、帰宅用に選んだドレスが少し子どもっぽかったのではないかとあれからずっと不安なんです…はぁ、こんなことならシリウス様に選んでもらえばよかったです…!!」
「ん~でも、マクレーガン伯爵も何も言わなかったのでしょう?」
「それはそうなのですが…いえ、アネスティラ様と並んで呆れたように見ていましたっ!!はぁ…そもそもあのお二人が並んで立つ姿が本当にお美しくて…私もアネスティラ様くらい身長が欲しかったですっ!」
「そう?アイリスもすごく小さいわけではないと思うけれど?」
リラニアは軽く首を傾げながら眺めてくる。
とはいえ、リラニアはシリウスと直接会ったことがないはずなので、おそらく身長差のイメージがつかないのだろう。
「う~ん、確かに昔に比べればまだ身長は伸びた方なのですが…何しろシリウス様の身長が高すぎて…なんならオフィーリア様くらいの身長でもいいくらいです」
「まぁ、確かにあのくらい高いと見栄えはいいでしょうけど…旦那様やレグルスも小さくて可愛いっていつもアイリスに言ってくれるでしょう?」
「…はい」
「男なんて意外と小さいものに心惹かれるものなのよ?」
「…本当ですか?シリウス様がリュークくらいの身長だったら私の身長でもまだちょうどいいと思うのですが…」
「………う~ん、あなたの気持ちも分かるけど今の話はマクレーガン伯爵にしてはダメよ?無い物ねだりは良くないわ」
「……はぁい。お養母様、他に何か教訓になるようなお話はありますか?」
「ん~そうねぇ……あぁ、そうだわ。あなたはお酒に強いから使うことは無いと思うけど、今度の舞踏会は王城で開かれるから酔いつぶれてしまった人の為に個室の休憩室もあるの。でも興味本位でも絶対そこには行ってはダメよ?」
「………へぇ、そのようなところがあるのですね…」
いわゆる、休憩室という名の密会部屋のことである。
回帰前にもダリアから耳にタコが出来るほど忠告されたものだ。
…が、私は初耳を装いリラニアの忠告に頷きながら聞き流すことにする。
それから夕食までの時間を、私はリラニアとおしゃべりしながら楽しく過ごしたのだった。
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「…アイリス、お帰りなさい」
「お養母様?ただいま帰りましたっ!」
リュークのエスコートで馬車を降りると、出迎えに来てくれていたお養母様…リラニア・ペルージャン公爵夫人が私を優しく抱きしめてくれる。
リラニアはモカブラウンの髪を貴族女性にしては珍しく肩上のボブヘアーに切りそろえており、オリヴィエ王妃のように私を実娘のように可愛がってくれる素敵な人だった。
次男のエニエスを出産する際に短くしてみたところ、楽なボブヘアーを気に入りそのまま維持するようになったらしい。
立て続けに息子ばかり三人を産んだことで、リラニアも長年娘が欲しいと思っていたそうだ。
「急に泊まるなんて報せが来たからまた何かあったのかと心配していたのよ…?」
「ごめんなさい。ディアーナ修道院から戻ってくるのに少し時間がかかってしまいまして…シリウス様も夜に帰宅するよりは泊まっていけばいいとおっしゃってくださいましたので、使用人仲間のお友達とお話しながら過ごしてしまいました」
「……もう…」
ここぞとばかりに言い訳を並べていると、口を尖らせながらもチラリと私の後ろに立つリュークに視線を向けるリラニア。
「………」
リュークが黙ったまま反応しないところを見て、私の言葉を信用してくれることにしたらしい。
呆れたように笑いながら手を引いてくれる。
「そう…まぁ、あなたが楽しく過ごせたのならいいわ。夕食の前に私にも昨日の話を聞かせてくれる?」
「はいっ!」
一旦自室に戻り軽装に着替えた後、公爵夫人の私室へ向かうとすでにお茶の準備をしてくれていた。
「あ、お養母様。良ければ今日のお茶は私が淹れてもよろしいですか?」
「あら嬉しいわ、何を淹れてくれるの?」
ニコニコと笑いながらリラニアは侍女を下がらせてくれる。
私は手に持っていた茶缶を自慢げに見せる。
「実は昨日シリウス様に頂いたものなんですけど…バロッズという島国のフレーバードティーなんだそうです」
「あら、バロッズの物が手に入るなんて珍しいわね?」
「やっぱりそうなのですね!」
「ええ、バロッズは島国だから元々生産量が少ないの。国内ですら高級品として扱われるから輸出量も少ないし、バロッズ産となれば茶缶一つでもとても希少なのよ?わたくしも頂けるなんて嬉しいわ~」
「希少…知りませんでした。う~ん、美味しく淹れられると良いのですが…」
「うふふっ、アイリスの淹れてくれるお茶は美味しいから大丈夫よ。楽しみだわ~♪」
夕食の際、珍しい物が手に入ったとシリウスが自慢げに渡してくれたのは希少だったからなのかと今さら納得してしまう。
バロッズの茶葉と言われても私の反応が薄かったのではないか?と少しだけ不安になるが知らなかったのだから仕方ない。
そもそもシリウスの説明が足りていないと思う。
希少な茶葉。
そのイメージがつくと、お茶を淹れるだけのはずが少しだけドキドキしてしまう。
…が、どうせ大したテクニックもないのでいつも通り淹れることにする。
花のイラストがあしらわれたピンクの可愛らしい茶缶を開けると、フルーティーな香りが鼻をくすぐる。
元々フレーバードティーには乾燥させた花びらやドライフルーツなどが入っているらしい。
ティーポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐとローズとピーチの芳醇な香りが部屋に広がる。
砂時計が落ちたのを確認して注いだ紅茶を置くと、リラニアはすぐにカップへ手を伸ばしてくれた。
「まぁ…本当に良い香りだわ~マクレーガン伯爵は相変わらずこういうプレゼントのセンスが良いのね。ほんと、私の旦那様にも見習って欲しいわ」
「ふふっ…渋みも少なくてとっても美味しいですね!」
シリウスのセンスを褒められてつい嬉しくなってしまう。
「あ、お養母様っ!教えて頂いたとおり、目を見てきちんと告白したらシリウス様にとっても喜んで頂けました♪」
「ええっ?!あなたに教えるつもりで話したわけではなかったのだけど…はぁ…まったく…変なところばかり真似して…!この前はマクレーガン伯爵の手を握って《お願い》をしたとも言っていたし…マクレーガン伯爵に変なことはされなかったでしょうね?」
「はいっ!もちろんですっ!」
「………」
しっかり返事したのに何故か不審そうな目で見られてしまった。
以前、ペルージャン公爵とケンカした時の仲直りの方法を教えてもらったことがあったのだが…
社交界でも愛妻家で有名なペルージャン公爵だが、実は夫婦喧嘩を全くしないわけではないらしい。
リラニアの方が一枚上手なので、公爵とのケンカが長引かないだけなのだそうだ。
「本当ですよ…?」
「……はぁ、せっかく娘が出来たというのに…思ったより早く手放すことになりそうね…」
「うふふっ…本当に良い香りですね♪」
とりあえず笑って誤魔化しておく。
まさかとは思いたいが…
リラニアはオリヴィエ王妃とも義姉として仲が良いらしいので、私とシリウスの関係を聞いているのかもしれない…
カップに口を付けながら、今後は言葉に気をつけようと思い直す。
ちなみにペルージャン公爵とお義兄様…それからリュークもおそらく気づいていないはずだ。
私の純潔を心配してくれている三人には申し訳ないが、とっくの昔に捧げてしまっているので今さらである。
何より大好きなシリウスに求められて断れるはずもない。
まぁ、シリウスには《お願い》だけでは効かなかったので、今後何かあった時は《告白》してから《お願い》した方がいいかもしれない。
シリウスはどうやらリュークのことを目障りに思っているらしいが、ペルージャン公爵夫妻が私に対して最低限の干渉に留めてくれているのは護衛騎士としてリュークが側にいてくれているからだ。
私に忠誠を誓ってくれたリュークを現状手放すつもりはない。
今のリュークは私が望む限り、ペルージャン公爵夫妻にすら平然と嘘をついてくれるのだ。
やっぱり、あの時リュークの誓いを受けていて良かった。
正直、シリウスが何を心配しているのかよく分からないが、ペルージャン公爵家にいる間はリュークを護衛騎士として側に置いておきたい、というのが私の本音だった。
「………ふふっ…♪」
よそ見なんてするはずがないのに…まったく心配症なんだから。
でもそんな心配も、シリウスが私を愛してくれている証のようで嬉しいと思ってしまう。
「何かいい事でもあったの?」
「実は……シリウス様がリュークに嫉妬してくれているみたいなんです!ふふっ♪可愛くないですか?」
「あら、マクレーガン伯爵に嫉妬してもらえて喜ぶだなんて…アイリスは随分と小悪魔な女の子だったのね?」
「だって…」
イタズラを指摘されてしまった子どものように軽く頬を膨らませてしまう。
こんな風に振る舞えるのも、ペルージャン公爵家の人達が私を本当の家族のように甘えさせてくれるおかけだ。
「アイリス、よく聞きなさい?男なんてカッコつけてばかりでその実、独占欲の塊のようなものなのよ?嫉妬させるにしても甘えるにしても程々にしなければダメなの」
「……そうなのですか?」
お養母様の恋愛講座はとてもためになるので、つい身を乗り出してしまう。
「ええ、そうよ。もちろん小悪魔に振る舞うのもいいけれど、加減を間違えるとアイリスも後悔することになるわよ?」
「……ということはお養母様様にも経験がおありなのですね?」
「そうねぇ……私の場合は、旦那様が婚約前にも関わらず肝心な言葉も言わずに私の恋人ぶってたから、嫌がらせとして社交場で仲の良い侯爵令息達を侍らせた事があったの」
ほう…?
侯爵令息達…
私のことを小悪魔だなんて言っていたが公爵夫人もなかなかのモテっぷりである。
…というか、側にいるのが当たり前な護衛騎士のことを嫉妬されて喜んでいる程度ではとても小悪魔とは呼べない気がしてきた。
知り合いの貴族令息もいないので、今回のは真似出来そうにないな…
と思いながらも公爵夫人の話にしっかり耳を傾ける。
「あの頃はダリアを筆頭にみ~んなセドリックに夢中だったから、未婚の男はちょっと優しくしてあげると案外簡単に釣れたのよ。まぁ私達の場合は、同じ侯爵家ってことで単に顔なじみでもあっただけなのだけど」
「わぁ~素敵ですっ!さすがお養母様です!」
リラニアの可愛らしい見た目とは裏腹になかなかのやり手である。
「遅れてきた旦那様…まぁ、あの頃はペルージャン小公爵と呼ばれていたのだけれど…ダンスに誘おうと目の前で私の指先にキスしただけのカルティーア小侯爵を問答無用で殴りつけてしまったのよ…」
「───…それは…大変ですね…?」
「大変のなんのって…その上、まるで私が浮気したかのように大騒ぎしだしたの!しかもみんながいる社交場のど真ん中でよ?!信じられる?!」
「信じられないですっ!!」
まぁ、あの熱血漢なペルージャン公爵ならともかく、シリウスはそんなことはしないだろうな…
と考えながらも、当時のペルージャン公爵夫妻を想像しながら鼻息を荒くして同意してしまう。
「肝心な告白もしないくせに周りの男達を牽制するだけの…身体だけ熊みたいに大きくて肝の小さかった男が、あろうことか幼なじみのティルを殴ったのよ?!ティルは私のお遊びに付き合ってくれただけなのに…!しかも俺は断じて浮気は許さん!だなんてふざけたことを言ってきたの!」
「………」
「私も腹に据えかねて、ティルに馬乗りで殴りつけようとする旦那様の顔を思いっきり引っぱたいてやったわっ!!」
身振り手振りで説明してくれているが、想像以上の修羅場である。
ティルというのは、ラザティル・カルティーア侯爵のことなのだろうが…
興奮しすぎて昔の愛称が出てしまっている。
「…そ、そのような騒ぎがあったのに、お養父様とはどうやって仲直りされたのですか?」
「え?………あぁ、まぁ…そう、ね…」
「?」
「こほん…要するに…私から求婚したのよ…」
「───えっ?!」
「そんなに私が好きならさっさと貴方の妻にしてくださいませっ!!ってね?」
律儀にも床に向かってピシッと指を向けて再現してくれる。
目を丸くして見上げるペルージャン公爵が目に浮かぶようだ。
「え~素敵です~!!」
「…ふふ、ありがとう。でもね?その言葉を聞いた旦那様がどうしたと思う?呆れるほど素早く立ち上がって何も言わずに私にキスしてきたの。信じられる?公衆の面前でよ?!」
「くすくすっ…」
「おかげで結婚式まではあっという間だったわ…まぁ、代わりにティルにはめちゃくちゃ怒られてしまったけれど。誘われても二度とお前とは踊らないって、痴話喧嘩にも巻き込んでくれるなってね?はぁ…」
公爵夫人は失敗談のように話してくれてはいるが…
なるほど。
社交界で認められれば結婚まではあっという間に進められるのだ、というペルージャン公爵夫人からのアドバイスだったらしい。
隣で眠っていた今朝のシリウスを思い出しながら、口元に手をあてたままついニマニマしてしまう。
「……アイリス、あなたまさかマクレーガン伯爵のことを思い出しているの?」
「………?」
どうやら公爵夫人にはなんでもお見通しらしい。
私は慌てて顔を取り繕うと、手を下ろしてにっこり笑い返す。
「…いい?今の話は、リュークとの関係を勘違いしたマクレーガン伯爵が剣を振り回す可能性もある、という教訓なのですよ?」
「……う~ん、さすがにそれはないかと思うのですが…ふふっ、お養母様からの教訓は心にしっかり刻みますね♪」
「はぁ…またそんな可愛らしいことを言って…本当に心配だわ…」
「それよりお養母様!私の話も聞いてくださいませっ!久しぶりにお会いしたのですが、アネスティラ様がとっても美しくなっていまして…お養母様がアドバイスしてくださったとおり退院用の品を色々と考えて持参してみたのですが、帰宅用に選んだドレスが少し子どもっぽかったのではないかとあれからずっと不安なんです…はぁ、こんなことならシリウス様に選んでもらえばよかったです…!!」
「ん~でも、マクレーガン伯爵も何も言わなかったのでしょう?」
「それはそうなのですが…いえ、アネスティラ様と並んで呆れたように見ていましたっ!!はぁ…そもそもあのお二人が並んで立つ姿が本当にお美しくて…私もアネスティラ様くらい身長が欲しかったですっ!」
「そう?アイリスもすごく小さいわけではないと思うけれど?」
リラニアは軽く首を傾げながら眺めてくる。
とはいえ、リラニアはシリウスと直接会ったことがないはずなので、おそらく身長差のイメージがつかないのだろう。
「う~ん、確かに昔に比べればまだ身長は伸びた方なのですが…何しろシリウス様の身長が高すぎて…なんならオフィーリア様くらいの身長でもいいくらいです」
「まぁ、確かにあのくらい高いと見栄えはいいでしょうけど…旦那様やレグルスも小さくて可愛いっていつもアイリスに言ってくれるでしょう?」
「…はい」
「男なんて意外と小さいものに心惹かれるものなのよ?」
「…本当ですか?シリウス様がリュークくらいの身長だったら私の身長でもまだちょうどいいと思うのですが…」
「………う~ん、あなたの気持ちも分かるけど今の話はマクレーガン伯爵にしてはダメよ?無い物ねだりは良くないわ」
「……はぁい。お養母様、他に何か教訓になるようなお話はありますか?」
「ん~そうねぇ……あぁ、そうだわ。あなたはお酒に強いから使うことは無いと思うけど、今度の舞踏会は王城で開かれるから酔いつぶれてしまった人の為に個室の休憩室もあるの。でも興味本位でも絶対そこには行ってはダメよ?」
「………へぇ、そのようなところがあるのですね…」
いわゆる、休憩室という名の密会部屋のことである。
回帰前にもダリアから耳にタコが出来るほど忠告されたものだ。
…が、私は初耳を装いリラニアの忠告に頷きながら聞き流すことにする。
それから夕食までの時間を、私はリラニアとおしゃべりしながら楽しく過ごしたのだった。
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