【R18】奈落に咲いた花

夏ノ 六花

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第二章~Re: start~

瞳のせいかしら?

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朝食後。
シリウスの提案でお茶をすることになったトライオスとシリウスは、食堂から移動して話を続けていた。
二人が当たり障りのない話で談笑する中、ノワと並んで壁側で待機していた私は昨夜の寝不足を引きずっていた。
緊張感のない二人の雰囲気も相まって、気を抜くとついぼーとしてしまう。

「───…あぁ、そうだ…アイリス」
「…はい、シリウス様。如何されましたか?」

シリウスに名前を呼ばれた私は、反射的に笑顔で返事をする。
そのまま座るシリウスに合わせて身体を屈めようとして…思い出す。
ここがトライオスに割り当てられた客室だったことを。

「───…」

ぶわっと頬を赤くする私を見て可笑しそうに笑いながらも、シリウスは私の手を引いて更に顔を近づけてくる。

「アイリス…僕の部屋に年代もののお酒があるんだ。僕はまだ飲む機会もないし、トライオス猊下にプレゼントしたいから一本取ってきてくれる?」
「………はい」

そう言ってシリウスは後ろに立つノワには見えないように指を絡めてくる。
そんな私達の様子をじっと見つめているトライオスに気づいて、私は羞恥心から顔が赤くなり慌てて手を離そうとしたが、シリウスはむしろ挑発するかのように更に絡ませてくる。

「うん…よろしく」

そう言って離される手。
私はトライオスの目を見ないよう注意しながら軽く一礼して足早に客室を出る。

「………」

他の使用人にこの真っ赤な顔を見られないよう、私は慌ててシリウスの部屋へと向かうのだった。



「「………」」

アイリスが駆けて行く足音を聞きながら満足気に笑うシリウス。
その対面でトライオスは静かにお茶を飲んでいた。

「…シリウスは使用人との距離が近すぎるようだ。伯爵位を継ぐつもりならそれ相応の振る舞いをしなければ…あることない事噂されて足元を掬われてしまうよ?」
「……使用人と距離が近いわけではないので、猊下の心配には及びません。僕はアイリスを傍に置くと決めていますから…」
「正式に婚約したわけでもないだろうに…若いな」 
「………」
「私がここに来たのは君の母上からの要請だと言うことを忘れない方がいい」
「……そうですね。経験豊富な年配者からの忠告には耳を傾けるようにしなければいけませんね」
「はははっ…私はまだ二十六だから年配者という表現は少し早い気もするが…そうだな、一つ言わせてもらうなら…幼稚な独占欲で縛り付けて優越感に浸るような男子よりも…抱擁力のある頼りになる年上の男性に女性は惹かれるものなんだよ」

微笑み合う二人。

「ところで…トライオス猊下はいつまで滞在される予定なのですか?」
「あ~まぁ、コンラッドにも再三呼ばれているからね。明日の朝にはここを離れることになるよ」
「…そうですか」
「是非、アイリスには王宮までついてきて欲しいな…彼女の淹れる紅茶はとても美味しいから」
「王宮では王宮侍女が美味しい紅茶を淹れてくれますよ」
「シリウス、君はアイリスを過小評価しているんじゃないか?」
「まさか…どうやら猊下が失念されていらっしゃるようでしたので。アイリスは猊下の侍女ではなく、マクレーガン家の侍女だとお伝えしたかっただけですよ」
「ならば現当主のセドリックが認めてくれればなんの問題も無さそうだな」
「……そうですね」

退室するタイミングを逃して何気なく同じ空間にいたノワは、呆れるようにそっと息を吐くのだった。



               *



シリウスの言っていたワインを手に客室へ向かっていると、部屋から出てきたコーデリアと出くわしてしまう。
私の手にあるワインボトルを見たコーデリアは目を見開いて驚く。

「…あらやだ!素敵なものを持ってるじゃない!!」
「コーデリア様、こちらのワインはシリウス様よりトライオス猊下への献上品にございます」
「そう、トライオスにあげるものなのね…残念だわぁ」
「…申し訳ございません」
「ふふっ…気にしなくていいのよ。どうせ開ける時にはトライオスにお呼ばれされるだろうから大丈夫よ」

後見人とは名ばかりだと思っていたが…
トライオスとは本当に仲が良いようで驚いてしまう。
後見人というからには血縁関係は無いのだろうが、いまいちコーデリアとトライオスの関係がどういう繋がりなのかは分からなかった。

「……本当に見れば見るほど不思議ねぇ…銀髪のような白髪だなんて…トライオスとも少し違った雰囲気ねぇ、瞳のせいかしら?」

探るようなコーデリアの視線に、私は返事を控えてにっこり微笑む。

「トライオスは随分とあなたを気に入っているみたい。良かったら王宮についていってあげて、王宮の風習に慣れていないトライオスをサポートしてもらえると有難いのだけれど…」
「……恐れながら、私はマクレーガン家の所属となりますので、王宮でのお世話は難しいかと…」
「まぁ…そうよねぇ。ごめんなさいね、無理を言って。あの子が初恋みたいにはしゃぐものだから」
「……」
「あらやだ、気にしないで。さぁ、トライオス達も待っているでしょうからもう行きなさい。引き止めて悪かったわ」
「はい、では失礼致します…」

…初恋?はしゃぐ?
コーデリアの言葉に嫌な予感を覚える。

私は慌てて首を振るとシリウスの待つ客室まで急いで向かうのだった。
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