85 / 168
第二章~Re: start~
瞳のせいかしら?
しおりを挟む
朝食後。
シリウスの提案でお茶をすることになったトライオスとシリウスは、食堂から移動して話を続けていた。
二人が当たり障りのない話で談笑する中、ノワと並んで壁側で待機していた私は昨夜の寝不足を引きずっていた。
緊張感のない二人の雰囲気も相まって、気を抜くとついぼーとしてしまう。
「───…あぁ、そうだ…アイリス」
「…はい、シリウス様。如何されましたか?」
シリウスに名前を呼ばれた私は、反射的に笑顔で返事をする。
そのまま座るシリウスに合わせて身体を屈めようとして…思い出す。
ここがトライオスに割り当てられた客室だったことを。
「───…」
ぶわっと頬を赤くする私を見て可笑しそうに笑いながらも、シリウスは私の手を引いて更に顔を近づけてくる。
「アイリス…僕の部屋に年代もののお酒があるんだ。僕はまだ飲む機会もないし、トライオス猊下にプレゼントしたいから一本取ってきてくれる?」
「………はい」
そう言ってシリウスは後ろに立つノワには見えないように指を絡めてくる。
そんな私達の様子をじっと見つめているトライオスに気づいて、私は羞恥心から顔が赤くなり慌てて手を離そうとしたが、シリウスはむしろ挑発するかのように更に絡ませてくる。
「うん…よろしく」
そう言って離される手。
私はトライオスの目を見ないよう注意しながら軽く一礼して足早に客室を出る。
「………」
他の使用人にこの真っ赤な顔を見られないよう、私は慌ててシリウスの部屋へと向かうのだった。
「「………」」
アイリスが駆けて行く足音を聞きながら満足気に笑うシリウス。
その対面でトライオスは静かにお茶を飲んでいた。
「…シリウスは使用人との距離が近すぎるようだ。伯爵位を継ぐつもりならそれ相応の振る舞いをしなければ…あることない事噂されて足元を掬われてしまうよ?」
「……使用人と距離が近いわけではないので、猊下の心配には及びません。僕はアイリスを傍に置くと決めていますから…」
「正式に婚約したわけでもないだろうに…若いな」
「………」
「私がここに来たのは君の母上からの要請だと言うことを忘れない方がいい」
「……そうですね。経験豊富な年配者からの忠告には耳を傾けるようにしなければいけませんね」
「はははっ…私はまだ二十六だから年配者という表現は少し早い気もするが…そうだな、一つ言わせてもらうなら…幼稚な独占欲で縛り付けて優越感に浸るような男子よりも…抱擁力のある頼りになる年上の男性に女性は惹かれるものなんだよ」
微笑み合う二人。
「ところで…トライオス猊下はいつまで滞在される予定なのですか?」
「あ~まぁ、コンラッドにも再三呼ばれているからね。明日の朝にはここを離れることになるよ」
「…そうですか」
「是非、アイリスには王宮までついてきて欲しいな…彼女の淹れる紅茶はとても美味しいから」
「王宮では王宮侍女が美味しい紅茶を淹れてくれますよ」
「シリウス、君はアイリスを過小評価しているんじゃないか?」
「まさか…どうやら猊下が失念されていらっしゃるようでしたので。アイリスは猊下の侍女ではなく、マクレーガン家の侍女だとお伝えしたかっただけですよ」
「ならば現当主のセドリックが認めてくれればなんの問題も無さそうだな」
「……そうですね」
退室するタイミングを逃して何気なく同じ空間にいたノワは、呆れるようにそっと息を吐くのだった。
*
シリウスの言っていたワインを手に客室へ向かっていると、部屋から出てきたコーデリアと出くわしてしまう。
私の手にあるワインボトルを見たコーデリアは目を見開いて驚く。
「…あらやだ!素敵なものを持ってるじゃない!!」
「コーデリア様、こちらのワインはシリウス様よりトライオス猊下への献上品にございます」
「そう、トライオスにあげるものなのね…残念だわぁ」
「…申し訳ございません」
「ふふっ…気にしなくていいのよ。どうせ開ける時にはトライオスにお呼ばれされるだろうから大丈夫よ」
後見人とは名ばかりだと思っていたが…
トライオスとは本当に仲が良いようで驚いてしまう。
後見人というからには血縁関係は無いのだろうが、いまいちコーデリアとトライオスの関係がどういう繋がりなのかは分からなかった。
「……本当に見れば見るほど不思議ねぇ…銀髪のような白髪だなんて…トライオスとも少し違った雰囲気ねぇ、瞳のせいかしら?」
探るようなコーデリアの視線に、私は返事を控えてにっこり微笑む。
「トライオスは随分とあなたを気に入っているみたい。良かったら王宮についていってあげて、王宮の風習に慣れていないトライオスをサポートしてもらえると有難いのだけれど…」
「……恐れながら、私はマクレーガン家の所属となりますので、王宮でのお世話は難しいかと…」
「まぁ…そうよねぇ。ごめんなさいね、無理を言って。あの子が初恋みたいにはしゃぐものだから」
「……」
「あらやだ、気にしないで。さぁ、トライオス達も待っているでしょうからもう行きなさい。引き止めて悪かったわ」
「はい、では失礼致します…」
…初恋?はしゃぐ?
コーデリアの言葉に嫌な予感を覚える。
私は慌てて首を振るとシリウスの待つ客室まで急いで向かうのだった。
シリウスの提案でお茶をすることになったトライオスとシリウスは、食堂から移動して話を続けていた。
二人が当たり障りのない話で談笑する中、ノワと並んで壁側で待機していた私は昨夜の寝不足を引きずっていた。
緊張感のない二人の雰囲気も相まって、気を抜くとついぼーとしてしまう。
「───…あぁ、そうだ…アイリス」
「…はい、シリウス様。如何されましたか?」
シリウスに名前を呼ばれた私は、反射的に笑顔で返事をする。
そのまま座るシリウスに合わせて身体を屈めようとして…思い出す。
ここがトライオスに割り当てられた客室だったことを。
「───…」
ぶわっと頬を赤くする私を見て可笑しそうに笑いながらも、シリウスは私の手を引いて更に顔を近づけてくる。
「アイリス…僕の部屋に年代もののお酒があるんだ。僕はまだ飲む機会もないし、トライオス猊下にプレゼントしたいから一本取ってきてくれる?」
「………はい」
そう言ってシリウスは後ろに立つノワには見えないように指を絡めてくる。
そんな私達の様子をじっと見つめているトライオスに気づいて、私は羞恥心から顔が赤くなり慌てて手を離そうとしたが、シリウスはむしろ挑発するかのように更に絡ませてくる。
「うん…よろしく」
そう言って離される手。
私はトライオスの目を見ないよう注意しながら軽く一礼して足早に客室を出る。
「………」
他の使用人にこの真っ赤な顔を見られないよう、私は慌ててシリウスの部屋へと向かうのだった。
「「………」」
アイリスが駆けて行く足音を聞きながら満足気に笑うシリウス。
その対面でトライオスは静かにお茶を飲んでいた。
「…シリウスは使用人との距離が近すぎるようだ。伯爵位を継ぐつもりならそれ相応の振る舞いをしなければ…あることない事噂されて足元を掬われてしまうよ?」
「……使用人と距離が近いわけではないので、猊下の心配には及びません。僕はアイリスを傍に置くと決めていますから…」
「正式に婚約したわけでもないだろうに…若いな」
「………」
「私がここに来たのは君の母上からの要請だと言うことを忘れない方がいい」
「……そうですね。経験豊富な年配者からの忠告には耳を傾けるようにしなければいけませんね」
「はははっ…私はまだ二十六だから年配者という表現は少し早い気もするが…そうだな、一つ言わせてもらうなら…幼稚な独占欲で縛り付けて優越感に浸るような男子よりも…抱擁力のある頼りになる年上の男性に女性は惹かれるものなんだよ」
微笑み合う二人。
「ところで…トライオス猊下はいつまで滞在される予定なのですか?」
「あ~まぁ、コンラッドにも再三呼ばれているからね。明日の朝にはここを離れることになるよ」
「…そうですか」
「是非、アイリスには王宮までついてきて欲しいな…彼女の淹れる紅茶はとても美味しいから」
「王宮では王宮侍女が美味しい紅茶を淹れてくれますよ」
「シリウス、君はアイリスを過小評価しているんじゃないか?」
「まさか…どうやら猊下が失念されていらっしゃるようでしたので。アイリスは猊下の侍女ではなく、マクレーガン家の侍女だとお伝えしたかっただけですよ」
「ならば現当主のセドリックが認めてくれればなんの問題も無さそうだな」
「……そうですね」
退室するタイミングを逃して何気なく同じ空間にいたノワは、呆れるようにそっと息を吐くのだった。
*
シリウスの言っていたワインを手に客室へ向かっていると、部屋から出てきたコーデリアと出くわしてしまう。
私の手にあるワインボトルを見たコーデリアは目を見開いて驚く。
「…あらやだ!素敵なものを持ってるじゃない!!」
「コーデリア様、こちらのワインはシリウス様よりトライオス猊下への献上品にございます」
「そう、トライオスにあげるものなのね…残念だわぁ」
「…申し訳ございません」
「ふふっ…気にしなくていいのよ。どうせ開ける時にはトライオスにお呼ばれされるだろうから大丈夫よ」
後見人とは名ばかりだと思っていたが…
トライオスとは本当に仲が良いようで驚いてしまう。
後見人というからには血縁関係は無いのだろうが、いまいちコーデリアとトライオスの関係がどういう繋がりなのかは分からなかった。
「……本当に見れば見るほど不思議ねぇ…銀髪のような白髪だなんて…トライオスとも少し違った雰囲気ねぇ、瞳のせいかしら?」
探るようなコーデリアの視線に、私は返事を控えてにっこり微笑む。
「トライオスは随分とあなたを気に入っているみたい。良かったら王宮についていってあげて、王宮の風習に慣れていないトライオスをサポートしてもらえると有難いのだけれど…」
「……恐れながら、私はマクレーガン家の所属となりますので、王宮でのお世話は難しいかと…」
「まぁ…そうよねぇ。ごめんなさいね、無理を言って。あの子が初恋みたいにはしゃぐものだから」
「……」
「あらやだ、気にしないで。さぁ、トライオス達も待っているでしょうからもう行きなさい。引き止めて悪かったわ」
「はい、では失礼致します…」
…初恋?はしゃぐ?
コーデリアの言葉に嫌な予感を覚える。
私は慌てて首を振るとシリウスの待つ客室まで急いで向かうのだった。
1
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる