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第二章~Re: start~
仲直りは出来たと思っていいよね?
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半年後。
アネスティラがガーデンパーティーを主催する事になり、昨日から伯爵家の使用人達は戦場のように駆けずり回っていた。
既にアネスティラの同年代の貴族子女が到着し賑やかなパーティーが開かれている。
舞踏会のデビュー以降、初めての主催ということでコンラッド王子も参席してくれ…
昨年のティーパーティーには結局参席されなかった為、私とはほぼ一年ぶりの再会だった。
「…アイリスだったか?久しぶりだな」
「コンラッド王子殿下に名前を呼んで頂けるとは、望外の喜びにございます」
「……母上が寂しがっていたぞ?たまにはアネスティラ嬢について王宮に顔を見せに来てくれ」
「承知致しました。そのようにお声がけ頂けて身に余る光栄でございます」
終始頭を下げたままの私に興が冷めたのか、コンラッド王子はヘリオを伴ってそのままアネスティラの方へと歩いていく。
その場で見送りながらそっとヘリオへと視線を移す。
そんな私の視線に気づいているのか、ヘリオは軽く口角を上げつつも無言でコンラッド王子について歩いていく。
「………」
残念なことに私の徹底的な妨害にもめげず、ノワは未だマクレーガン家にとどまっていた。
一体何を調べているのか…目的を話してくれればこちらとしてもやりやすいというのに。
「やぁ、アネスティラ嬢。ガーデンパーティーは盛況なようだな」
「まぁ!王子殿下、お越し頂けて光栄ですわ!」
指導の成果なのか、アネスティラの社交界での評判は上々だった。
今世では全くといっていいほど害がないアネスティラはこのまま行けば、コンラッド王子の妃候補に名を連ねることが出来るだろう。
少し残念なような…これで良かったのだと思えるような…。
復讐だけに囚われていたなら、あの二人が並んでいるのは決して喜べない光景だったろう。
この光景を見ても平然としていられるのはシリウスのお陰な気がした。
だがそんなシリウスとももう何ヶ月もまともに会話をしていなかった。
あの日から、私と距離を取るようになり…冷たい目で観察するように見てくるだけになってしまったシリウス。
私だけではなく…ダリアやアネスティラ、セドリックとも距離が空いたような気がする。
ただの思春期の可能性もあるが…
だがそれ以上に、かつてのシリウスのようなどこか危い雰囲気を纏っているようにも見えた。
「おい、お前…少し酒を飲みすぎた。涼しみたいから庭園を案内してくれないか?」
ガーデンパーティーに参加していた男性の一人から声をかけられる。
たしか男爵家の子息だっただろうか…?
羽目を外し過ぎたのか随分と酔っているようなので、騒がれる前に庭園へと連れて行くことにする。
「………っ───!!」
邸宅に沿って案内しているとパーティー会場から死角に入った瞬間、男に腕を引かれ草陰に押し倒されてしまう。
「───っ、何をされるのですか?!」
「黙れ!そんな目立つ容姿をしているお前が悪い…平民のくせに俺に流し目を使ってくるとはな…」
「たかが男爵家の人間が、マクレーガン伯爵家の侍女にこのような乱暴を働くなんて…許されるとお思いですか?!」
「───…貴、様ぁ…!!」
「今すぐこの手を放しなさいっ!!」
「黙れ黙れぇ!!」
───バシッ!!
「うぐっ───!!」
「はははっ!やり返してみろよ!出来るのか?平民のお前が俺にかすり傷一つ付けてみろ…即刻絞首刑だ。俺がお前に何をしたのかは問題じゃないんだよ…平民が貴族様に歯向かうことは…この国の法で、決して許されないんだからなぁ!!」
「………」
「ほら、突き飛ばしてみろよ?そうなれば…むしろ賠償金を負うのは伯爵家の方になるだろうな?そうだろう…?」
怒りに全身が沸騰するような心地だった。
だが、使用人の身分に落としたのは自分自身で決めたことだ。
この男の言う通り…これは私が撒いた種でもあった。
この国での平民の扱いを知っていて、あえて養女という話を断ったのだから…
「───…」
「ははっ!そうそう、最初から大人しくしていればいいんだよ…」
私のお仕着せに手を伸ばそうとする男を冷めた目で眺める。
今世では既に純潔をシリウスに捧げている。
この状況になって初めてそれが救いのように思えた。
───ガサッ…!
近づいてくる人の気配に慌てて襟元を押さえると、向こうも気づいたのか慌てて逃げていってしまう。
「───…アイリスさん?」
現れたのはレオだった。
「だ、大丈夫ですか?!一体何が…あの男に乱暴されたのですか?!」
「…レオのおかげで未遂で済みました。レオに助けられたのはこれで二度目ですね」
「何を平然と…!!」
「………平然としているつもりはないのですが…」
外されてしまった胸元のボタンを留めながらレオに笑いかける。
震えている手に気づいたのか、立とうとする私をレオが支えてくれる。
「大丈夫ですか?部屋まで付き添いましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。着替えてすぐ会場に戻らないといけませんし…」
───パリンッ!!
大きな音が聞こえて邸宅の二階を見上げる。
「───」
「あれは…シリウス様?どうかされたんですかね?」
無言で窓の奥に消えてしまうシリウス。
そんなシリウスの姿に不安を覚え、私は思わず駆け出していた。
「───…アイリスさん?!」
「ついてこないでください!シリウス様は他人が部屋に来られるのを嫌悪されますので」
「でも…」
追いすがろうとするレオを無視して私は邸へ駆けて行くのだった。
───…コンコン。
シリウスの応接室まで勝手に入ると、先程の窓がある方のドアをノックする。
「………シリウス様?」
返事が無いため、意を決してドアを開ける。
窓の傍の壁に立つシリウスを見つけて安堵したのもつかの間、左手から血がしたたり落ちていることに気づく。
「───…シリウス様?!」
「来るな…」
「───…っ!」
シリウスの怒りの孕んだ瞳を見て心がチクリと痛む。
だが今はシリウスとのことで気後れしている場合ではない。
仕方なく気持ちを切り替えるため、一旦ドアを閉めて廊下まで出ると、急いで使用人の休憩室から救急セットを取ってくる。
一度心を落ち着ける為に深呼吸をしてから再度シリウスの部屋へ入る。
シリウスは変わらず窓の側に立っていたが、今度はノックもせずに突然開けた為かかなり驚いているようだった。
手が痛いのだろう…若干目が赤くなっている。
「───…シリウス様!!すぐに手当致します!」
「…く、来るなって言ってるだろ!」
駆け寄って手を取ろうとするもシリウスから振り払われてしまう。
「きゃっ…!」
よろめいた表紙に積み重なっていた本が崩れ、そのまま床に倒れ込みそうになる。
床に散らばるガラス片に気づいて咄嗟に顔を庇う。
「───……?」
しかし私がガラス片の上に倒れ込むことはなかった。
シリウスが私を抱きとめてくれたおかげだった。
「はぁ……危ないから来るなと言ったのに…」
「───シリウス様が振り払われたからこけそうになっただけで、シリウス様が大人しくしてくだされば危なくはありませんでした!!」
「……わ、悪かった」
私の剣幕に驚いたのか、素直に謝るシリウスに思わず目を見張ってしまう。
「……お願いですから、手当をさせてください。いったん、応接室に移りましょう。ここは…物が多すぎて手当するには少し手狭ですから…」
「………」
応接室のソファーに座って黙って左手を出すシリウス。
ガラス片で切ったのだろう。
手のひらだけでなく、指の関節のところまで切ってしまっている。
私はシリウスの左側に膝をついて、傷の手当を行った。
丁寧にガラス片を取り除き、綺麗に水で洗ってから消毒をする。
シリウスが炎症止めの薬を出してきたので、それを塗って包帯を巻く。
「……剣の授業もあるのに…こんな手でどうされるのですか?」
「…剣は右手だけでも振れるから問題ない」
「基本は両手で持つ物ではありませんか!しばらくは剣は触れませんよ?!」
「………君が…抵抗しないからだ…」
「───…見ていたのですね」
「あの男の頭に投げつけてやろうとしたら…」
「あの男とは…?」
タイミング的にまさかレオのことを言っているのだろうか?
「…男爵家の、ミカエルだったか?あいつの頭に投げつけてやろうと手に取ったのに、厩の息子がしゃしゃり出てきたからつい…」
「つい?なんですか?」
「……窓枠に叩きつけてしまった」
「───…な!!」
だからあのようなタイミングで音が出たのかと目を剥いてしまう。
一体あの状況をどう見たらグラスを窓枠に叩きつけることになるのか私にはさっぱり分からなかった。
「レオは私を助け起こしてくれただけではありませんか!!」
「………僕の時は泣いて嫌がってたくせに…」
「それは…嫌がって泣いたというわけでは…」
「……嫌じゃなかったってこと?」
「嫌でしたよ…?男爵家のあの男に押し倒されたことも…シリウス様から…所有物のようにぞんざいに扱われたことも…」
「………」
久しぶりにシリウスと話せたからか…素直に口にしてしまう。
あんな風に繋がりたくはなかった、と…。
だが私の返答が気に入らなかったのか、どこかムッとするシリウス。
「でも泣いてしまったのは、本当に自分でも分からなくて…とにかく混乱していたのです。シリウス様にあのように言われて悔しかったし…寂しかった気もします…」
「………そう」
ぽつぽつと言い訳を並べる私の言葉に、何かを考えるように指でテーブルを叩き出したシリウスをじっと見つめる。
少しずつ…記憶の中のシリウスとここにいるシリウスが同じ人に見えてくる。
今のシリウスは驚く程に回帰前のシリウスと似ていた。
そもそも同一人物なので、似ているという表現も変な話なのだが…
言葉遣いは変わらないのに雰囲気というか…何気ない仕草がやけに彷彿とさせるというか…
アネスティラの変わりようを目の前で見てきたからか、あまり変化の見られないシリウスがむしろ不思議に思えてしまう。
「………」
テーブルを見つめていたはずのシリウスから視線を向けられ、咄嗟に目を逸らしてしまう。
だが、シリウスは慣れた手つきで私の顎をなぞると私の視線をいとも簡単に引き戻してみせる。
「「…………───」」
言葉もなく重なる唇。
優しくてシリウスの謝罪が込められているような甘いキスだった。
そっと離れていく唇につられてシリウスを見上げると驚く程に大人びた顔をしていた。
どこか勝ち誇るような…むしろ私を挑発しているような自信に満ちた笑顔だった。
回帰前のシリウスが思い起こされる魅惑的な笑顔に喉がこくりと鳴る。
「…良かった、アイリスに嫌われていないようで安心した」
「………嫌うだなんて…」
「そう?まぁ、これで仲直りは出来たと思っていいよね?」
そう言って笑うシリウスは、再び私と唇を重ねてくる。
もちろん、私がそれを拒むことはなかったのだった。
アネスティラがガーデンパーティーを主催する事になり、昨日から伯爵家の使用人達は戦場のように駆けずり回っていた。
既にアネスティラの同年代の貴族子女が到着し賑やかなパーティーが開かれている。
舞踏会のデビュー以降、初めての主催ということでコンラッド王子も参席してくれ…
昨年のティーパーティーには結局参席されなかった為、私とはほぼ一年ぶりの再会だった。
「…アイリスだったか?久しぶりだな」
「コンラッド王子殿下に名前を呼んで頂けるとは、望外の喜びにございます」
「……母上が寂しがっていたぞ?たまにはアネスティラ嬢について王宮に顔を見せに来てくれ」
「承知致しました。そのようにお声がけ頂けて身に余る光栄でございます」
終始頭を下げたままの私に興が冷めたのか、コンラッド王子はヘリオを伴ってそのままアネスティラの方へと歩いていく。
その場で見送りながらそっとヘリオへと視線を移す。
そんな私の視線に気づいているのか、ヘリオは軽く口角を上げつつも無言でコンラッド王子について歩いていく。
「………」
残念なことに私の徹底的な妨害にもめげず、ノワは未だマクレーガン家にとどまっていた。
一体何を調べているのか…目的を話してくれればこちらとしてもやりやすいというのに。
「やぁ、アネスティラ嬢。ガーデンパーティーは盛況なようだな」
「まぁ!王子殿下、お越し頂けて光栄ですわ!」
指導の成果なのか、アネスティラの社交界での評判は上々だった。
今世では全くといっていいほど害がないアネスティラはこのまま行けば、コンラッド王子の妃候補に名を連ねることが出来るだろう。
少し残念なような…これで良かったのだと思えるような…。
復讐だけに囚われていたなら、あの二人が並んでいるのは決して喜べない光景だったろう。
この光景を見ても平然としていられるのはシリウスのお陰な気がした。
だがそんなシリウスとももう何ヶ月もまともに会話をしていなかった。
あの日から、私と距離を取るようになり…冷たい目で観察するように見てくるだけになってしまったシリウス。
私だけではなく…ダリアやアネスティラ、セドリックとも距離が空いたような気がする。
ただの思春期の可能性もあるが…
だがそれ以上に、かつてのシリウスのようなどこか危い雰囲気を纏っているようにも見えた。
「おい、お前…少し酒を飲みすぎた。涼しみたいから庭園を案内してくれないか?」
ガーデンパーティーに参加していた男性の一人から声をかけられる。
たしか男爵家の子息だっただろうか…?
羽目を外し過ぎたのか随分と酔っているようなので、騒がれる前に庭園へと連れて行くことにする。
「………っ───!!」
邸宅に沿って案内しているとパーティー会場から死角に入った瞬間、男に腕を引かれ草陰に押し倒されてしまう。
「───っ、何をされるのですか?!」
「黙れ!そんな目立つ容姿をしているお前が悪い…平民のくせに俺に流し目を使ってくるとはな…」
「たかが男爵家の人間が、マクレーガン伯爵家の侍女にこのような乱暴を働くなんて…許されるとお思いですか?!」
「───…貴、様ぁ…!!」
「今すぐこの手を放しなさいっ!!」
「黙れ黙れぇ!!」
───バシッ!!
「うぐっ───!!」
「はははっ!やり返してみろよ!出来るのか?平民のお前が俺にかすり傷一つ付けてみろ…即刻絞首刑だ。俺がお前に何をしたのかは問題じゃないんだよ…平民が貴族様に歯向かうことは…この国の法で、決して許されないんだからなぁ!!」
「………」
「ほら、突き飛ばしてみろよ?そうなれば…むしろ賠償金を負うのは伯爵家の方になるだろうな?そうだろう…?」
怒りに全身が沸騰するような心地だった。
だが、使用人の身分に落としたのは自分自身で決めたことだ。
この男の言う通り…これは私が撒いた種でもあった。
この国での平民の扱いを知っていて、あえて養女という話を断ったのだから…
「───…」
「ははっ!そうそう、最初から大人しくしていればいいんだよ…」
私のお仕着せに手を伸ばそうとする男を冷めた目で眺める。
今世では既に純潔をシリウスに捧げている。
この状況になって初めてそれが救いのように思えた。
───ガサッ…!
近づいてくる人の気配に慌てて襟元を押さえると、向こうも気づいたのか慌てて逃げていってしまう。
「───…アイリスさん?」
現れたのはレオだった。
「だ、大丈夫ですか?!一体何が…あの男に乱暴されたのですか?!」
「…レオのおかげで未遂で済みました。レオに助けられたのはこれで二度目ですね」
「何を平然と…!!」
「………平然としているつもりはないのですが…」
外されてしまった胸元のボタンを留めながらレオに笑いかける。
震えている手に気づいたのか、立とうとする私をレオが支えてくれる。
「大丈夫ですか?部屋まで付き添いましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。着替えてすぐ会場に戻らないといけませんし…」
───パリンッ!!
大きな音が聞こえて邸宅の二階を見上げる。
「───」
「あれは…シリウス様?どうかされたんですかね?」
無言で窓の奥に消えてしまうシリウス。
そんなシリウスの姿に不安を覚え、私は思わず駆け出していた。
「───…アイリスさん?!」
「ついてこないでください!シリウス様は他人が部屋に来られるのを嫌悪されますので」
「でも…」
追いすがろうとするレオを無視して私は邸へ駆けて行くのだった。
───…コンコン。
シリウスの応接室まで勝手に入ると、先程の窓がある方のドアをノックする。
「………シリウス様?」
返事が無いため、意を決してドアを開ける。
窓の傍の壁に立つシリウスを見つけて安堵したのもつかの間、左手から血がしたたり落ちていることに気づく。
「───…シリウス様?!」
「来るな…」
「───…っ!」
シリウスの怒りの孕んだ瞳を見て心がチクリと痛む。
だが今はシリウスとのことで気後れしている場合ではない。
仕方なく気持ちを切り替えるため、一旦ドアを閉めて廊下まで出ると、急いで使用人の休憩室から救急セットを取ってくる。
一度心を落ち着ける為に深呼吸をしてから再度シリウスの部屋へ入る。
シリウスは変わらず窓の側に立っていたが、今度はノックもせずに突然開けた為かかなり驚いているようだった。
手が痛いのだろう…若干目が赤くなっている。
「───…シリウス様!!すぐに手当致します!」
「…く、来るなって言ってるだろ!」
駆け寄って手を取ろうとするもシリウスから振り払われてしまう。
「きゃっ…!」
よろめいた表紙に積み重なっていた本が崩れ、そのまま床に倒れ込みそうになる。
床に散らばるガラス片に気づいて咄嗟に顔を庇う。
「───……?」
しかし私がガラス片の上に倒れ込むことはなかった。
シリウスが私を抱きとめてくれたおかげだった。
「はぁ……危ないから来るなと言ったのに…」
「───シリウス様が振り払われたからこけそうになっただけで、シリウス様が大人しくしてくだされば危なくはありませんでした!!」
「……わ、悪かった」
私の剣幕に驚いたのか、素直に謝るシリウスに思わず目を見張ってしまう。
「……お願いですから、手当をさせてください。いったん、応接室に移りましょう。ここは…物が多すぎて手当するには少し手狭ですから…」
「………」
応接室のソファーに座って黙って左手を出すシリウス。
ガラス片で切ったのだろう。
手のひらだけでなく、指の関節のところまで切ってしまっている。
私はシリウスの左側に膝をついて、傷の手当を行った。
丁寧にガラス片を取り除き、綺麗に水で洗ってから消毒をする。
シリウスが炎症止めの薬を出してきたので、それを塗って包帯を巻く。
「……剣の授業もあるのに…こんな手でどうされるのですか?」
「…剣は右手だけでも振れるから問題ない」
「基本は両手で持つ物ではありませんか!しばらくは剣は触れませんよ?!」
「………君が…抵抗しないからだ…」
「───…見ていたのですね」
「あの男の頭に投げつけてやろうとしたら…」
「あの男とは…?」
タイミング的にまさかレオのことを言っているのだろうか?
「…男爵家の、ミカエルだったか?あいつの頭に投げつけてやろうと手に取ったのに、厩の息子がしゃしゃり出てきたからつい…」
「つい?なんですか?」
「……窓枠に叩きつけてしまった」
「───…な!!」
だからあのようなタイミングで音が出たのかと目を剥いてしまう。
一体あの状況をどう見たらグラスを窓枠に叩きつけることになるのか私にはさっぱり分からなかった。
「レオは私を助け起こしてくれただけではありませんか!!」
「………僕の時は泣いて嫌がってたくせに…」
「それは…嫌がって泣いたというわけでは…」
「……嫌じゃなかったってこと?」
「嫌でしたよ…?男爵家のあの男に押し倒されたことも…シリウス様から…所有物のようにぞんざいに扱われたことも…」
「………」
久しぶりにシリウスと話せたからか…素直に口にしてしまう。
あんな風に繋がりたくはなかった、と…。
だが私の返答が気に入らなかったのか、どこかムッとするシリウス。
「でも泣いてしまったのは、本当に自分でも分からなくて…とにかく混乱していたのです。シリウス様にあのように言われて悔しかったし…寂しかった気もします…」
「………そう」
ぽつぽつと言い訳を並べる私の言葉に、何かを考えるように指でテーブルを叩き出したシリウスをじっと見つめる。
少しずつ…記憶の中のシリウスとここにいるシリウスが同じ人に見えてくる。
今のシリウスは驚く程に回帰前のシリウスと似ていた。
そもそも同一人物なので、似ているという表現も変な話なのだが…
言葉遣いは変わらないのに雰囲気というか…何気ない仕草がやけに彷彿とさせるというか…
アネスティラの変わりようを目の前で見てきたからか、あまり変化の見られないシリウスがむしろ不思議に思えてしまう。
「………」
テーブルを見つめていたはずのシリウスから視線を向けられ、咄嗟に目を逸らしてしまう。
だが、シリウスは慣れた手つきで私の顎をなぞると私の視線をいとも簡単に引き戻してみせる。
「「…………───」」
言葉もなく重なる唇。
優しくてシリウスの謝罪が込められているような甘いキスだった。
そっと離れていく唇につられてシリウスを見上げると驚く程に大人びた顔をしていた。
どこか勝ち誇るような…むしろ私を挑発しているような自信に満ちた笑顔だった。
回帰前のシリウスが思い起こされる魅惑的な笑顔に喉がこくりと鳴る。
「…良かった、アイリスに嫌われていないようで安心した」
「………嫌うだなんて…」
「そう?まぁ、これで仲直りは出来たと思っていいよね?」
そう言って笑うシリウスは、再び私と唇を重ねてくる。
もちろん、私がそれを拒むことはなかったのだった。
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