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第二章~Re: start~
一番になりたい… side シリウス
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初めてアイリスを見た時、天使様かと思った。
本の挿絵にあった美しい天使様にそっくりだったから…
「アイリス、シリウスです。よろしく…」
僕を見る眼差しがあまりにも優しくて、紫の神秘的な瞳があまりにも綺麗で…ずっと見ていたいと思った。
ティア姉様は白い髪をお婆さんみたいだと笑っていたが、僕にはそれすらもアイリスの純真さを映しているように見えて…
「………シリウス様、アイリスです。どうぞ…よろしくお願い致します」
僕の名前を呼んで柔らかく微笑む姿に一瞬で心を奪われたのを今でも覚えている…
*
───コンコン…。
「………アイリス?」
夕食後のこの時間なら部屋に戻っているかと思ったのに返事がない。
まだなにか仕事をしているのだろうか?
以前アイリスに食べさせた時に美味しいと喜んでいたお菓子を手に入れたので分けてあげようと思って持ってきていた。
お菓子を片手に邸宅内をあちこち探すよりは…と部屋の中に置いていくことを決める。
マクレーガン伯爵家の次期当主という立場が約束されている僕が入ってはいけない場所はこの邸宅内には存在しなかった。
「………ぅ…」
ぱたん…と閉まるドアの音と一瞬の静寂の後、奥のベッドから小さなうめき声が聞こえた気がした。
「………アイリス?」
まさかもう寝ているのだろうか…?
もう一度だけ声をかけてからベッドに近づく。
寝苦しいのか…顔を歪ませながらアイリスはうつ伏せで寝ていた。
普段は大人ぶって澄ました顔をしているが、こういうところはまだまだ子どもみたいだと思った。
笑いながら手に持っていたお菓子の包みをサイドテーブルに置くと、寝返りを手伝うべく軽い気持ちでシーツを捲った。
「…………っ──!!」
真っ赤に染まっている寝間着を見てしまい、慌ててシーツを手放してしまう。
見てはいけないものを見てしまったようで、心臓がバクバクと音を立てていた。
「………ァ…アイリス…?」
震える手を情けなく思いつつも、掛けられているだけの寝間着を捲って確認する。
アイリスの真っ白な肌にはおびただしい数の鞭痕が残っていた。
傷のせいで熱が出ているのか、頬は紅潮し息も荒くとても苦しそうに見える。
「────…!!」
溢れそうになる涙をぐっと堪えて部屋まで走りだす。
常備薬として部屋に置いていた解熱剤を手に取り再びアイリスの部屋まで戻る。
解熱剤は部屋に置かれていた水差しに解熱剤を溶かして眠るアイリスの口に少しずつ流し込んで飲ませた。
痛々しい背中の傷も手当をしてあげたかったが、どうしていいのかも分からず結局清潔なタオルを濡らして背中に置いてあげることしか出来なかった。
繰り返しタオルを替えて背中の傷を冷やす。
「───アイリス…!」
たくさん本を読んでいたつもりだったが、こんな時にちっとも役に立たない自分に憤りを感じてしまう。
そう考えて走った胸の痛みに、再び涙が込み上げてくる。
アイリスを助けたい…ただそれだけだった。
「………ぅぅ…」
苦しそうに呻くアイリスをこのまま放っておくことは出来なかった。
だが、何もない僕に出来るのは痛みに苦しむアイリスの手を握って傍にいてあげることだけだった。
「………?」
いつの間にか寝落ちてしまったらしい。
静かな部屋の中で、アイリスの落ち着いた寝息が聞こえてくる。
持ってきた明かりは消えてしまったようで、部屋の中は真っ暗になっていた。
仕方なくカーテンを開けると、差し込んだ月明かりに照らされてアイリスの顔色を窺うことが出来た。
顔色もすっかり良くなっている様子に安堵する。
月明かりを頼りにアイリスの汗を拭っていると、可愛いらしい唇につい目がいってしまった。
「………」
ティア姉様とは違う感覚…
アイリスの寝顔を見ているだけでふわふわと夢心地のような気持ちを覚える。
この邸で自分と一番近しい女の子、それがアイリスだった。
優しい眼差しで僕を見つめてくれる人で、名前を呼ぶと嬉しそうに応えてくれる不思議な女の子。
アイリスが僕の専属だったなら、どんなに楽しいだろう。
そう考えて生まれて初めてティア姉様が羨ましいと思った。
アイリスにとってのご主人がティア姉様なら、僕は一体なんなのだろう…?
アイリスが自分の物ではないことにどこか息苦しさを覚えてしまう。
「………」
僕もアイリスの一番になりたい…。
そんな気持ちが大きくなって、つい唇を重ねてしまう。
ふにっとした柔らかい感覚と初めての高揚感に心が震えた気がした。
「ん………」
アイリスが目を覚ますのではないかという焦りから、心臓がバクバクと音を立て始める。
身を隠すことも出来ず息を潜めて様子を窺っていると、アイリスは再び寝息をたて始めた。
ほっとしながらも自分だけの秘密が出来てしまったことに気づいて、顔が真っ赤になるのを自覚する。
いけないことをしてしまったという自覚と同時に、これをアイリスが知ったら自分を軽蔑してしまうのではないかという不安に襲われる。
それでも…
唇が触れた瞬間だけは、アイリスを手に入れられたような気がしていた。
欲しくて欲しくて堪らないものを手に入れる充足感。
アイリス自身にも打ち明けられない秘密を持つことに対するスリル。
震える手を伸ばしてアイリスの頬に触れる。
「………アイリス…」
どうしようもなく手に入れたいと思った…
この愛らしい人を。
ティア姉様の物ではなく、自分だけの物にしたいと思った…
この清らかな人を。
その欲望に気づいてしまえば…
少しだけ、あの息苦しさが楽になったような気がした。
本の挿絵にあった美しい天使様にそっくりだったから…
「アイリス、シリウスです。よろしく…」
僕を見る眼差しがあまりにも優しくて、紫の神秘的な瞳があまりにも綺麗で…ずっと見ていたいと思った。
ティア姉様は白い髪をお婆さんみたいだと笑っていたが、僕にはそれすらもアイリスの純真さを映しているように見えて…
「………シリウス様、アイリスです。どうぞ…よろしくお願い致します」
僕の名前を呼んで柔らかく微笑む姿に一瞬で心を奪われたのを今でも覚えている…
*
───コンコン…。
「………アイリス?」
夕食後のこの時間なら部屋に戻っているかと思ったのに返事がない。
まだなにか仕事をしているのだろうか?
以前アイリスに食べさせた時に美味しいと喜んでいたお菓子を手に入れたので分けてあげようと思って持ってきていた。
お菓子を片手に邸宅内をあちこち探すよりは…と部屋の中に置いていくことを決める。
マクレーガン伯爵家の次期当主という立場が約束されている僕が入ってはいけない場所はこの邸宅内には存在しなかった。
「………ぅ…」
ぱたん…と閉まるドアの音と一瞬の静寂の後、奥のベッドから小さなうめき声が聞こえた気がした。
「………アイリス?」
まさかもう寝ているのだろうか…?
もう一度だけ声をかけてからベッドに近づく。
寝苦しいのか…顔を歪ませながらアイリスはうつ伏せで寝ていた。
普段は大人ぶって澄ました顔をしているが、こういうところはまだまだ子どもみたいだと思った。
笑いながら手に持っていたお菓子の包みをサイドテーブルに置くと、寝返りを手伝うべく軽い気持ちでシーツを捲った。
「…………っ──!!」
真っ赤に染まっている寝間着を見てしまい、慌ててシーツを手放してしまう。
見てはいけないものを見てしまったようで、心臓がバクバクと音を立てていた。
「………ァ…アイリス…?」
震える手を情けなく思いつつも、掛けられているだけの寝間着を捲って確認する。
アイリスの真っ白な肌にはおびただしい数の鞭痕が残っていた。
傷のせいで熱が出ているのか、頬は紅潮し息も荒くとても苦しそうに見える。
「────…!!」
溢れそうになる涙をぐっと堪えて部屋まで走りだす。
常備薬として部屋に置いていた解熱剤を手に取り再びアイリスの部屋まで戻る。
解熱剤は部屋に置かれていた水差しに解熱剤を溶かして眠るアイリスの口に少しずつ流し込んで飲ませた。
痛々しい背中の傷も手当をしてあげたかったが、どうしていいのかも分からず結局清潔なタオルを濡らして背中に置いてあげることしか出来なかった。
繰り返しタオルを替えて背中の傷を冷やす。
「───アイリス…!」
たくさん本を読んでいたつもりだったが、こんな時にちっとも役に立たない自分に憤りを感じてしまう。
そう考えて走った胸の痛みに、再び涙が込み上げてくる。
アイリスを助けたい…ただそれだけだった。
「………ぅぅ…」
苦しそうに呻くアイリスをこのまま放っておくことは出来なかった。
だが、何もない僕に出来るのは痛みに苦しむアイリスの手を握って傍にいてあげることだけだった。
「………?」
いつの間にか寝落ちてしまったらしい。
静かな部屋の中で、アイリスの落ち着いた寝息が聞こえてくる。
持ってきた明かりは消えてしまったようで、部屋の中は真っ暗になっていた。
仕方なくカーテンを開けると、差し込んだ月明かりに照らされてアイリスの顔色を窺うことが出来た。
顔色もすっかり良くなっている様子に安堵する。
月明かりを頼りにアイリスの汗を拭っていると、可愛いらしい唇につい目がいってしまった。
「………」
ティア姉様とは違う感覚…
アイリスの寝顔を見ているだけでふわふわと夢心地のような気持ちを覚える。
この邸で自分と一番近しい女の子、それがアイリスだった。
優しい眼差しで僕を見つめてくれる人で、名前を呼ぶと嬉しそうに応えてくれる不思議な女の子。
アイリスが僕の専属だったなら、どんなに楽しいだろう。
そう考えて生まれて初めてティア姉様が羨ましいと思った。
アイリスにとってのご主人がティア姉様なら、僕は一体なんなのだろう…?
アイリスが自分の物ではないことにどこか息苦しさを覚えてしまう。
「………」
僕もアイリスの一番になりたい…。
そんな気持ちが大きくなって、つい唇を重ねてしまう。
ふにっとした柔らかい感覚と初めての高揚感に心が震えた気がした。
「ん………」
アイリスが目を覚ますのではないかという焦りから、心臓がバクバクと音を立て始める。
身を隠すことも出来ず息を潜めて様子を窺っていると、アイリスは再び寝息をたて始めた。
ほっとしながらも自分だけの秘密が出来てしまったことに気づいて、顔が真っ赤になるのを自覚する。
いけないことをしてしまったという自覚と同時に、これをアイリスが知ったら自分を軽蔑してしまうのではないかという不安に襲われる。
それでも…
唇が触れた瞬間だけは、アイリスを手に入れられたような気がしていた。
欲しくて欲しくて堪らないものを手に入れる充足感。
アイリス自身にも打ち明けられない秘密を持つことに対するスリル。
震える手を伸ばしてアイリスの頬に触れる。
「………アイリス…」
どうしようもなく手に入れたいと思った…
この愛らしい人を。
ティア姉様の物ではなく、自分だけの物にしたいと思った…
この清らかな人を。
その欲望に気づいてしまえば…
少しだけ、あの息苦しさが楽になったような気がした。
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