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第二章~Re: start~
☆ あの男に嫁ぐの…?
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アネスティラが初めての舞踏会に参加する日、私はシリウスと邸でお留守番をすることになった。
前回同様、ダリアは実家のシュタート侯爵邸へお母様の見舞いに行っているため明後日までは戻らないことになっている。
回帰前、アネスティラは私の寸劇に巻き込まれて早く帰ることになってしまったが、今日はセドリックが側にいるので遅くまで参加するだろう。
そう考えて私は先にお風呂を済ませておくことにする。
アネスティラの帰宅時間にもう一度着替えて出迎えに出なければならないが、この方が効率的かつゆっくり出来ると考えての事だった。
昨日まではアネスティラの全身ケアなど連日夜遅くまで働いていたので、睡眠時間を削ってもバタバタと済ませるだけのお風呂ばかりだった。
久しぶりにゆっくり浸かることが出来て、全身がポカポカと温まり若干眠気を覚えてしまう。
お風呂から上がると簡単にネグリジェを身につけ部屋へと戻る。
髪からしたたる水を無視しながら、眠気覚ましにお茶を淹れようかと準備をしていると視界の端に動く影が見えた。
警戒して咄嗟に振り向くと、テーブルに肘をついたままこちらを眺めているシリウスと目が合った。
「───……シリウス様?」
「うん、僕だよ」
笑顔を浮かべるシリウスの視線に気づき、自分の格好を思い出す。
持っていた茶缶を手放してしまい、床に茶葉が散らかってしまったが今はそれどころではなかった。
掛けておいたガウンを慌てて羽織る。
「……一体、こんなところまでどうされたのですか?シリウス様といえど、こんな夜更けに淑女の部屋まで押しかけるだなんて…感心出来ませんよ?」
「………」
焦りから激しく脈打つ心臓をなんとか落ち着かせながら、私はこんなことをしてはいけないと指摘する。
いつもなら子ども扱いしないで、と返してくるシリウスが、私をじっと見たまま言葉を発しない様子に違和感を覚える。
「……シリウス様?」
先程までの笑顔は消え失せ、私に不満を訴えるようないつものシリウスの視線に、半年以上ろくに話していなかった事が少しだけ悔やまれる。
聞けばすぐに答えてくれる素直なシリウスはもうずっと見れていなかった。
「………シリウス様?まさか具合でも悪いのですか?」
明かりもなく薄暗い部屋の中ではシリウスの顔色を窺うことが出来ない。
咄嗟に近づいて、膝をついてシリウスを見上げる。
「アイリス、背中に傷があるよね?」
「………何のお話ですか?」
「母上を庇おうとしているのなら、気にしなくていいよ。言いふらすようなことはしないから。現に、この五年間僕は誰にも話していないしね」
「………やはり、医薬品を私の部屋に置いてくださっていたのは…」
「うん、僕だよ」
そう言ってテーブルにあの軟膏と同じものが置かれる。
…驚いた。
薬学に詳しいと知ってからはその可能性が高いとは考えていたが…
まさか、シリウスに薬を調合出来るほどのスキルがあるとは思っていなかった。
「………優しいシリウス様にご心配をおかけしたようですね。ありがとうございます。ですが…私の傷はもう塞がっていますので、このお薬はお持ち帰りください」
「薬、塗ってないよね?傷痕を薄くする成分も含まれているから今からでもちゃんと塗った方がいいよ。僕に見せて」
「…ご存知の通り、傷は背中にある為自分では塗ることが出来ないのです。これ以上、お薬をお持ちいただいでも私ではとても使いきれません。ですから…こちらはお持ち帰りください。お菓子やお花まで頂いてしまっていたのに、今更のお礼となって申し訳ありません」
「そんなことは気にしなくていいよ。僕が言わなかったんだから」
「…ありがとうございます。さぁ、もうお部屋へ戻りましょう?お送り致しますから」
立ち上がってシリウスにも立つよう促して手を差し出す。
「アイリス、どうして僕に逆らうの?」
「……え?」
「僕は傷を見せるように言ってるじゃないか」
「…申し訳ありません、醜い傷なのでとてもシリウス様にはお見せできません。私の気持ちを、お察し頂けませんか?」
「……随分と反抗的だね。今まで僕を散々無視した挙句、命令にすら反論するなんて…使用人なら使用人らしく…僕の言うことを大人しく聞けばいいじゃないか…!」
いつものように子ども扱いされた事が気に入らなかったのか、シリウスの声に怒気が込められる。
「───…シリウス様…!」
「アイリス、命令だ。その服を脱いで…今すぐ背中の傷を僕に見せるんだ!」
「っ……かしこまりました」
仕方なくシリウスに背中を向けると、目の前でガウンとネグリジェを脱いでいく。
衣服の擦れる音だけが支配する静寂の中で、背後から唾を飲み込む音が聞こえる。
「………」
やっぱり止めると言うのを待っていたが、思っていた反応は得られなかった。
肩紐をずらしてネグリジェを腰まで下ろすと、背中に流れていた髪を左肩へ寄せて背中の傷をシリウスに見せる。
「───…こんな…酷い傷で…」
シリウスは微かに震える手で私の背中へ優しく薬を塗り込んでくれる。
「………っ…」
軟膏に冷感成分でも入っているのか、慣れない他人の指の感触にもぞわりと来てしまう。
「……痛かった?」
「…構いません。せっかくのご好意ですから…いち使用人である私に構わず、どうぞシリウス様のお気の済むようになさってください」
「………」
もちろん痛みなどなかったが、先程シリウスに言われた言葉で傷つける。
しかし、今後このようなことをしないようここでしっかり釘を刺しておかなければならない。
来年になれば回帰前と同様、シリウスは性を意識するようになるかもしれない。
以前のような関係を望んでいない私は、今後シリウスがこの部屋に勝手に入ることを阻止しなければならなかった。
「……マクレーガン伯爵家の次期当主になられるシリウス様が、使用人の部屋でこんな風に薬を塗っているという噂が出回ってしまったら…シリウス様の経歴に傷を付けてしまうことになります。ダリア様やセドリック様がお知りになったら、きっとお叱りになるはずですよ?」
「………」
その言葉に薬を塗る手が止まる。
「シリウス様…?」
言葉を発する者がいなくなった部屋で、再び聞こえてきた唾を飲み込む音。
もしかしたら少し言い過ぎたかもしれないと内心焦りを覚えてしまう。
「……アイリス」
「…はい」
「さっきから随分とよく喋るんだね…」
「………」
「薬はもういいよ」
「はい…塗って下さって…ありがとうございます」
床に脱ぎ捨てたガウンを取ろうと伸ばしていた手が途中で止まる。
「あの………シリウス様…?」
シリウスが後ろから私の肩を掴んだ為、服を取ることが出来ないでいた。
これ以上動けばシリウスの手を振り払ってしまうことになる。
「ねぇ、アイリス。立って…僕に君の裸を見せてよ…」
「───」
「伯爵家次期当主の…僕の言うことが聞けないの?アイリス」
「……ですが…」
「………」
完全に怒らせてしまったようだ。
例え、女性の身体に興味があったとしても今日の今日でどうこうなることはないだろうと諦めて立ち上がる。
腰に引っかかっていたネグリジェもそのままストンと落ちてしまう。
私は下着だけの姿でシリウスに向き直ると、胸を隠していた両手を下ろした。
「………」
最初こそ気まずそうに目を逸らしていたシリウスも、ようやく私の姿をまじまじと見つめる。
シリウスの視線の先に熱が宿るような気分だった。
見られたところが熱くなりそわそわしてしまう。
幼いシリウスへ私が性教育を施しているような…背徳感。
「………」
初めてみる女体に興味津々な様子で凝視していたシリウスは、思わずといった風に私の胸へ手を伸ばしてしまう。
ふにっとした感触に頬を染めてしまうシリウス。
その姿に私もまた羞恥に顔が赤くなるのを自覚する。
すくっとイスから立ち上がると、シリウスは両手で胸を掴んでくる。
ふにふにと感触を楽しむように触れるだけだった手は、すぐに先端を摘む手つきに変わっていく。
「…ん……ぁっ…シリウス…様…!」
久しぶりのシリウスの愛撫に胸が高鳴り、つい瞳を潤ませてしまう。
そんな私の姿に目を輝かせていたシリウスは、私の胸を口に含むと舌で転がし甘噛みしてみたりと様々な刺激を与えてくる。
「っ…────!!」
本能的に下半身が疼いてしまい気づかれないよう慌てて足を閉じるが、既に私は立っているのも辛い状態だった。
非現実的な状況と、シリウスの執拗な愛撫に全身が震えてしまう。
そんな私をじっと観察してくるシリウスにすら、欲情してしまっている。
「アイリス、キスさせて…」
「…ん───」
言うが早いか重ねられた唇。
まだ私より頭一つ小さいシリウスは、背伸びをしながらも必死な様子で口づけてくる。
溢れ出た愛液が太ももの内側を伝っていく感覚に羞恥心を覚えながらも、シリウスのキスを受け入れ舌を絡ませてしまう。
そんな私に気を良くしたのか、シリウスは本能的に私の腕を引っ張りベッドへ押し倒すのだった。
下着まで脱がされてしまった私は、足を押さえつけているシリウスに全てをさらけ出していた。
愛液を垂らしながらはくはくさせている秘部は、さぞ扇情的な光景に見えたことだろう。
指で入口をなぞられて慌ててシリウスを止める。
「───…シリウス様、ここまでにいたしましょう…?」
「………」
シリウスの未来を壊しかけない現状に私は涙を零して懇願する。
私が泣いたことに罪悪感を覚えたのか、僅かにシリウスの顔が歪んでいく。
本音を言えば私の純潔を貰ってくれる人がシリウスだったら…と思ったことならば何度もある。
でもそれは…今じゃない。
もっとちゃんと成長して、他の女性とも知り合った上で私を望んでくれるなら…という淡い期待のようなものだった。
だが私の懇願も無視して、シリウスは自身を取り出して私にあてがってしまう。
「……シリウス…様…お願いです…それ以上は…」
少しでもシリウスが動けばするりと入ってしまうだろう。
口から出る言葉とは裏腹に、私の秘部は彼が挿ってくるのを今か今かと待ち構えている。
それに気づいているのか、シリウスはじっと凝視したまま離れる気配はない。
だが、こんな風に罪悪感しか残らないような関係にはなりたくないのも本当だった。
あの残酷な未来が繰り返されるのではないか?という恐怖に身体が震えてしまう。
「………」
「お願いします…こんなことをしてはいけません、シリウス様もきっと後悔されます…」
「僕は後悔しない…僕は……」
「───…ですが…私はお嫁に行けなくなってしまいます!シリウス様!ですから……」
「やっぱり、あの男に嫁ぐの…?」
「…え?」
シリウスの優しさを信じての言葉だった。
それでも…
私は言うべき言葉を間違えたのだろう。
怒りを孕んだ青い瞳が私を見下ろしながら、ぐぐっと押し込まれてくる感覚と僅かな痛みに小さく悲鳴が上がる。
「ぁぁ……ぁ……やめ…!シリウスさ…────!」
「───…」
言い終わるより早く全てが押し込まれてしまう。
初めて異物が侵入してくる感覚に、ゾワゾワとした寒気を覚えて咄嗟にシーツを掴んで耐える。
記憶の中のシリウスよりもずっと小さなそれをいとも簡単に飲み込んでしまい、少しの物足りなさと言いようのない快感を覚える。
それはシリウスも同じだったようで…
私の様子から拒絶されていないことに気づいたシリウスは、躊躇うことなく動き出してしまう。
シリウスらしい本能的で激しい抽挿ではあったが、かつてのような苦しさはなく…
ひたすら与え続けられる刺激と快感、そして頭の片隅に残る背徳感に私は気が狂いそうになる。
「……っ───!!」
長いようで記憶よりもずっと短い時間が終わり…
一際強く打ち込まれた後、シリウスは全ての熱を私の中に吐き出してしまう。
「………はぁ…はぁ…」
全身を支配していた高揚感も、落ち着いてしまえばすぐに後悔に塗りつぶされてしまう。
シリウスが私を使用人として扱ったことを悲しいと思う気持ちと、破滅への道を一歩踏み出してしまったような怒り…
そして念願が叶ったことを喜んでしまったことに対する後悔。
色んな気持ちが綯い交ぜになり、思わず涙が溢れてしまう。
「───……その髪は…」
「…ぇ?」
一瞬驚いたように目を瞬かせるシリウスだったが、私が泣いていたせいか再び言いなおすことは無かった。
「………」
結局、泣いていた私に声をかけることなくシリウスはそのまま部屋を出ていってしまう。
「…うぅっ……!」
最悪としかいいようのない初体験だった。
そしてそれ以降…
気持ちが冷めてしまったのか、シリウスが私に声をかけることはなくなったのだった。
前回同様、ダリアは実家のシュタート侯爵邸へお母様の見舞いに行っているため明後日までは戻らないことになっている。
回帰前、アネスティラは私の寸劇に巻き込まれて早く帰ることになってしまったが、今日はセドリックが側にいるので遅くまで参加するだろう。
そう考えて私は先にお風呂を済ませておくことにする。
アネスティラの帰宅時間にもう一度着替えて出迎えに出なければならないが、この方が効率的かつゆっくり出来ると考えての事だった。
昨日まではアネスティラの全身ケアなど連日夜遅くまで働いていたので、睡眠時間を削ってもバタバタと済ませるだけのお風呂ばかりだった。
久しぶりにゆっくり浸かることが出来て、全身がポカポカと温まり若干眠気を覚えてしまう。
お風呂から上がると簡単にネグリジェを身につけ部屋へと戻る。
髪からしたたる水を無視しながら、眠気覚ましにお茶を淹れようかと準備をしていると視界の端に動く影が見えた。
警戒して咄嗟に振り向くと、テーブルに肘をついたままこちらを眺めているシリウスと目が合った。
「───……シリウス様?」
「うん、僕だよ」
笑顔を浮かべるシリウスの視線に気づき、自分の格好を思い出す。
持っていた茶缶を手放してしまい、床に茶葉が散らかってしまったが今はそれどころではなかった。
掛けておいたガウンを慌てて羽織る。
「……一体、こんなところまでどうされたのですか?シリウス様といえど、こんな夜更けに淑女の部屋まで押しかけるだなんて…感心出来ませんよ?」
「………」
焦りから激しく脈打つ心臓をなんとか落ち着かせながら、私はこんなことをしてはいけないと指摘する。
いつもなら子ども扱いしないで、と返してくるシリウスが、私をじっと見たまま言葉を発しない様子に違和感を覚える。
「……シリウス様?」
先程までの笑顔は消え失せ、私に不満を訴えるようないつものシリウスの視線に、半年以上ろくに話していなかった事が少しだけ悔やまれる。
聞けばすぐに答えてくれる素直なシリウスはもうずっと見れていなかった。
「………シリウス様?まさか具合でも悪いのですか?」
明かりもなく薄暗い部屋の中ではシリウスの顔色を窺うことが出来ない。
咄嗟に近づいて、膝をついてシリウスを見上げる。
「アイリス、背中に傷があるよね?」
「………何のお話ですか?」
「母上を庇おうとしているのなら、気にしなくていいよ。言いふらすようなことはしないから。現に、この五年間僕は誰にも話していないしね」
「………やはり、医薬品を私の部屋に置いてくださっていたのは…」
「うん、僕だよ」
そう言ってテーブルにあの軟膏と同じものが置かれる。
…驚いた。
薬学に詳しいと知ってからはその可能性が高いとは考えていたが…
まさか、シリウスに薬を調合出来るほどのスキルがあるとは思っていなかった。
「………優しいシリウス様にご心配をおかけしたようですね。ありがとうございます。ですが…私の傷はもう塞がっていますので、このお薬はお持ち帰りください」
「薬、塗ってないよね?傷痕を薄くする成分も含まれているから今からでもちゃんと塗った方がいいよ。僕に見せて」
「…ご存知の通り、傷は背中にある為自分では塗ることが出来ないのです。これ以上、お薬をお持ちいただいでも私ではとても使いきれません。ですから…こちらはお持ち帰りください。お菓子やお花まで頂いてしまっていたのに、今更のお礼となって申し訳ありません」
「そんなことは気にしなくていいよ。僕が言わなかったんだから」
「…ありがとうございます。さぁ、もうお部屋へ戻りましょう?お送り致しますから」
立ち上がってシリウスにも立つよう促して手を差し出す。
「アイリス、どうして僕に逆らうの?」
「……え?」
「僕は傷を見せるように言ってるじゃないか」
「…申し訳ありません、醜い傷なのでとてもシリウス様にはお見せできません。私の気持ちを、お察し頂けませんか?」
「……随分と反抗的だね。今まで僕を散々無視した挙句、命令にすら反論するなんて…使用人なら使用人らしく…僕の言うことを大人しく聞けばいいじゃないか…!」
いつものように子ども扱いされた事が気に入らなかったのか、シリウスの声に怒気が込められる。
「───…シリウス様…!」
「アイリス、命令だ。その服を脱いで…今すぐ背中の傷を僕に見せるんだ!」
「っ……かしこまりました」
仕方なくシリウスに背中を向けると、目の前でガウンとネグリジェを脱いでいく。
衣服の擦れる音だけが支配する静寂の中で、背後から唾を飲み込む音が聞こえる。
「………」
やっぱり止めると言うのを待っていたが、思っていた反応は得られなかった。
肩紐をずらしてネグリジェを腰まで下ろすと、背中に流れていた髪を左肩へ寄せて背中の傷をシリウスに見せる。
「───…こんな…酷い傷で…」
シリウスは微かに震える手で私の背中へ優しく薬を塗り込んでくれる。
「………っ…」
軟膏に冷感成分でも入っているのか、慣れない他人の指の感触にもぞわりと来てしまう。
「……痛かった?」
「…構いません。せっかくのご好意ですから…いち使用人である私に構わず、どうぞシリウス様のお気の済むようになさってください」
「………」
もちろん痛みなどなかったが、先程シリウスに言われた言葉で傷つける。
しかし、今後このようなことをしないようここでしっかり釘を刺しておかなければならない。
来年になれば回帰前と同様、シリウスは性を意識するようになるかもしれない。
以前のような関係を望んでいない私は、今後シリウスがこの部屋に勝手に入ることを阻止しなければならなかった。
「……マクレーガン伯爵家の次期当主になられるシリウス様が、使用人の部屋でこんな風に薬を塗っているという噂が出回ってしまったら…シリウス様の経歴に傷を付けてしまうことになります。ダリア様やセドリック様がお知りになったら、きっとお叱りになるはずですよ?」
「………」
その言葉に薬を塗る手が止まる。
「シリウス様…?」
言葉を発する者がいなくなった部屋で、再び聞こえてきた唾を飲み込む音。
もしかしたら少し言い過ぎたかもしれないと内心焦りを覚えてしまう。
「……アイリス」
「…はい」
「さっきから随分とよく喋るんだね…」
「………」
「薬はもういいよ」
「はい…塗って下さって…ありがとうございます」
床に脱ぎ捨てたガウンを取ろうと伸ばしていた手が途中で止まる。
「あの………シリウス様…?」
シリウスが後ろから私の肩を掴んだ為、服を取ることが出来ないでいた。
これ以上動けばシリウスの手を振り払ってしまうことになる。
「ねぇ、アイリス。立って…僕に君の裸を見せてよ…」
「───」
「伯爵家次期当主の…僕の言うことが聞けないの?アイリス」
「……ですが…」
「………」
完全に怒らせてしまったようだ。
例え、女性の身体に興味があったとしても今日の今日でどうこうなることはないだろうと諦めて立ち上がる。
腰に引っかかっていたネグリジェもそのままストンと落ちてしまう。
私は下着だけの姿でシリウスに向き直ると、胸を隠していた両手を下ろした。
「………」
最初こそ気まずそうに目を逸らしていたシリウスも、ようやく私の姿をまじまじと見つめる。
シリウスの視線の先に熱が宿るような気分だった。
見られたところが熱くなりそわそわしてしまう。
幼いシリウスへ私が性教育を施しているような…背徳感。
「………」
初めてみる女体に興味津々な様子で凝視していたシリウスは、思わずといった風に私の胸へ手を伸ばしてしまう。
ふにっとした感触に頬を染めてしまうシリウス。
その姿に私もまた羞恥に顔が赤くなるのを自覚する。
すくっとイスから立ち上がると、シリウスは両手で胸を掴んでくる。
ふにふにと感触を楽しむように触れるだけだった手は、すぐに先端を摘む手つきに変わっていく。
「…ん……ぁっ…シリウス…様…!」
久しぶりのシリウスの愛撫に胸が高鳴り、つい瞳を潤ませてしまう。
そんな私の姿に目を輝かせていたシリウスは、私の胸を口に含むと舌で転がし甘噛みしてみたりと様々な刺激を与えてくる。
「っ…────!!」
本能的に下半身が疼いてしまい気づかれないよう慌てて足を閉じるが、既に私は立っているのも辛い状態だった。
非現実的な状況と、シリウスの執拗な愛撫に全身が震えてしまう。
そんな私をじっと観察してくるシリウスにすら、欲情してしまっている。
「アイリス、キスさせて…」
「…ん───」
言うが早いか重ねられた唇。
まだ私より頭一つ小さいシリウスは、背伸びをしながらも必死な様子で口づけてくる。
溢れ出た愛液が太ももの内側を伝っていく感覚に羞恥心を覚えながらも、シリウスのキスを受け入れ舌を絡ませてしまう。
そんな私に気を良くしたのか、シリウスは本能的に私の腕を引っ張りベッドへ押し倒すのだった。
下着まで脱がされてしまった私は、足を押さえつけているシリウスに全てをさらけ出していた。
愛液を垂らしながらはくはくさせている秘部は、さぞ扇情的な光景に見えたことだろう。
指で入口をなぞられて慌ててシリウスを止める。
「───…シリウス様、ここまでにいたしましょう…?」
「………」
シリウスの未来を壊しかけない現状に私は涙を零して懇願する。
私が泣いたことに罪悪感を覚えたのか、僅かにシリウスの顔が歪んでいく。
本音を言えば私の純潔を貰ってくれる人がシリウスだったら…と思ったことならば何度もある。
でもそれは…今じゃない。
もっとちゃんと成長して、他の女性とも知り合った上で私を望んでくれるなら…という淡い期待のようなものだった。
だが私の懇願も無視して、シリウスは自身を取り出して私にあてがってしまう。
「……シリウス…様…お願いです…それ以上は…」
少しでもシリウスが動けばするりと入ってしまうだろう。
口から出る言葉とは裏腹に、私の秘部は彼が挿ってくるのを今か今かと待ち構えている。
それに気づいているのか、シリウスはじっと凝視したまま離れる気配はない。
だが、こんな風に罪悪感しか残らないような関係にはなりたくないのも本当だった。
あの残酷な未来が繰り返されるのではないか?という恐怖に身体が震えてしまう。
「………」
「お願いします…こんなことをしてはいけません、シリウス様もきっと後悔されます…」
「僕は後悔しない…僕は……」
「───…ですが…私はお嫁に行けなくなってしまいます!シリウス様!ですから……」
「やっぱり、あの男に嫁ぐの…?」
「…え?」
シリウスの優しさを信じての言葉だった。
それでも…
私は言うべき言葉を間違えたのだろう。
怒りを孕んだ青い瞳が私を見下ろしながら、ぐぐっと押し込まれてくる感覚と僅かな痛みに小さく悲鳴が上がる。
「ぁぁ……ぁ……やめ…!シリウスさ…────!」
「───…」
言い終わるより早く全てが押し込まれてしまう。
初めて異物が侵入してくる感覚に、ゾワゾワとした寒気を覚えて咄嗟にシーツを掴んで耐える。
記憶の中のシリウスよりもずっと小さなそれをいとも簡単に飲み込んでしまい、少しの物足りなさと言いようのない快感を覚える。
それはシリウスも同じだったようで…
私の様子から拒絶されていないことに気づいたシリウスは、躊躇うことなく動き出してしまう。
シリウスらしい本能的で激しい抽挿ではあったが、かつてのような苦しさはなく…
ひたすら与え続けられる刺激と快感、そして頭の片隅に残る背徳感に私は気が狂いそうになる。
「……っ───!!」
長いようで記憶よりもずっと短い時間が終わり…
一際強く打ち込まれた後、シリウスは全ての熱を私の中に吐き出してしまう。
「………はぁ…はぁ…」
全身を支配していた高揚感も、落ち着いてしまえばすぐに後悔に塗りつぶされてしまう。
シリウスが私を使用人として扱ったことを悲しいと思う気持ちと、破滅への道を一歩踏み出してしまったような怒り…
そして念願が叶ったことを喜んでしまったことに対する後悔。
色んな気持ちが綯い交ぜになり、思わず涙が溢れてしまう。
「───……その髪は…」
「…ぇ?」
一瞬驚いたように目を瞬かせるシリウスだったが、私が泣いていたせいか再び言いなおすことは無かった。
「………」
結局、泣いていた私に声をかけることなくシリウスはそのまま部屋を出ていってしまう。
「…うぅっ……!」
最悪としかいいようのない初体験だった。
そしてそれ以降…
気持ちが冷めてしまったのか、シリウスが私に声をかけることはなくなったのだった。
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