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第一章〜First end〜
イカれていない人間などいませんよ sideアネスティラ
しおりを挟む「…アネスティラ・マクレーガン伯爵令嬢、大変お待たせ致しました。シリウス・マクレーガンが間もなく到着致します。どうぞ中でお待ちください」
「…どうもありがとう」
二日後、悩んだ末、私はシリウスのいる学校まで来ていた。
士官学校では早朝から遅くまで座学と実技の授業で非常にタイトなスケジュールを組まされているらしい。
そんな中の面会申請にシリウスも渋っていたのだが、私が会えるまで帰らないと改めて伝えてもらうと座学を一コマ抜けて面会に来てくれることになった。
家族との面会なので、個室へ案内してもらう。
シリウスが到着するまでの短い時間、私は緊張と不安で逃げ出しそうになる自分を叱咤し、両手を握りしめてなんとか耐える。
───…コンコン。
「お待たせ致しました、アネスティラ姉上。今日はわざわざどうされたのですか?」
「………」
軽いノックの後、シリウスが入室する姿をじっと観察する。
そこで久しぶりにシリウスの顔をまともに見たことに気づいた。
二ヶ月ほど前、邸宅にシリウスが帰省していた時も食事の時間以外会うことはほとんどなく、食事の時も私の隣に座っていたため真正面からシリウスの顔を眺める機会がなかったのだ。
「?…お話があったのでは?」
「ええ、忙しい時にごめんなさい。今日はあなたに報せたいことがあって来たのよ」
「………」
「……イーリスが、身ごもったわ」
その言葉を聞いたシリウスの口角が上がっていくのを真正面から見つめる。
お母様の知らなかった一面を見ることが出来た。
恐ろしい方だという認識に改めることができた一方で、私は何も知らなかったのだと痛感した。
だから、私は今日シリウスに会いに来たのだ。
シリウスの知らない一面を知るために…。
「そうですか、それは…良い報せですね」
「お腹の子が…あなたの子だから?」
「………驚きました、イーリス姉様から聞いたのですか?」
「いいえ、お母様よ」
お母様だと言い放つ私に、シリウスの視線が一気に鋭くなる。
「イーリス姉様は…?」
「……お腹の子は、お母様からの鞭打ちが原因で流れてしまったわ」
「………イーリス姉様は?」
「イーリスも重症だったけど、今は回復に向かっている…と」
「…そうですか、報せてくれてありがとうございます。しかし、その程度なら問題は無さそうですね。本日の用件はそれだけですか?」
「………シリウス、あなた今…自分が何を言っているのか分かっているの?」
授かった子の死を悼む様子もなく、イーリスの鞭打ちについても大した反応を見せないシリウスに驚きを隠せなくなる。
元々幼い頃からどこか達観した子だと認識はしていたが…まさかこれほどとは思わなかった。
「もちろんです。まぁ、姉上が何を仰りたいのかは理解できていませんが…」
今のシリウスには人間性が欠如しているように見えた。
「あなた…イーリスを愛しているのではないの?姉弟でありながら一線を超えたのは、それほどの想いがあったからではないの?あなたの子を孕んだイーリスが傷ついたのよ?あなたの子が流れてしまったのよ?!」
「なるほど…イーリス姉様のことを私がどれほど想っているか…それをアネスティラ姉上に知ってもらいたいとは思っていません。たしかに子が流れてしまったのは少し残念ではありますが、当初の目的は達成出来ていますので特に問題はありません」
「目的ですって…?」
「姉上と同じですよ。イーリス姉様が王家に嫁ぐことを防ぎたかっただけです」
「───」
私がオフィーリアにしたことを、実の姉にしただけだと言い放つシリウス。
私がしてきたことのうち、シリウスは一体どの程度まで把握しているのだろうか。
私にとって、最早お母様もシリウスもなにか恐ろしい別の生き物ように見えていた。
「私を受け入れてくれた時点で、イーリス姉様がコンラッド王子を選ぶことは無くなりました…まぁ、妊娠までしたのならしばらくはそのままにしておいても他に目移りをするようなこともないでしょう。ですから問題はないと言っただけです。納得いただけましたか?」
「…イカれてるわ、あなた」
「私はイーリス姉様を愛しているだけです。あの人を生涯私の手元で大切にしたいのです。あぁ、それから最後に…マクレーガン家にイカれていない人間などいませんよ、姉上も含めて…ね」
そう言って自慢げに微笑むとシリウスは部屋を出ていってしまう。
私はその後も椅子に座ったまましばらく呆然としていた。
マクレーガン伯爵家…その当主であるセドリックもイカれていると言ってのけたシリウス。
「……帰ろう」
私は邸宅へ帰ることを決めて馬車へと向かうのだった。
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