【R18】奈落に咲いた花

夏ノ 六花

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第一章〜First end〜

とっても大切なお話をしに参りました

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~時間は少し遡り、セドリックが領地へ出発する前日の話~



「モートン王国から最後通牒が届きました…」

ヘリオからの報告にコンラッドは深くため息を吐いた。
執務室にはヘリオしかいなかった為、コンラッドが態度を繕う必要はなかった。

二十年程前、懸命な抵抗にも関わらずロマ帝国の属国となってしまったモートン王国は、我がシャダーリン王国への牽制として輸出入にかかる税金の引き上げから始まり、国境の小さな町村でのトラブルなどが増え少しずつだが確実に各地で戦争の火種を作ってきた。

モートン王国は豊富な資源を有し商業を主軸として成長してきた小国であり、近隣国とも友好的に対応してきたこともあって今まで戦争の経験はない。
まともな戦力すら集められないだろうという考えから、モートン王国からの宣戦布告など有り得ないと国王も考えてこれまで対応をしてきた。
しかし、その状況が一変してしまった。

モートン王国からの最後通牒を国王が跳ね除ければ、それは実質戦争の開戦を意味している。
ロマ帝国の動きがきな臭いと思ってはいたが、まさかモートン王国を使ってくるとは…
戦争が始まればいくらモートンが小国とはいえ、シャダーリンの国力も多少低下してしまう。
内外が落ち着かない状態で、北からロマ帝国が侵攻してくるという最悪なシナリオだけは避けたいところだった。

「この情勢では、マクレーガン伯爵家への制裁は見送るべきかと…」
「……そうだな…だが…」
「………」

イーリスはミリオン侯爵家への養子縁組を断ってしまった。
その為、イーリスを王子妃として迎え入れることが難しくなってしまい、マクレーガン伯爵家への制裁も進めることが出来ずにいた。
イーリスを助け出したいという気持ちももちろんあるが、王族として現状ではマクレーガン伯爵家の捜査を中断し、モートン王国への対応を優先するべきだと冷静に考えている自分もいる。

薬の入手経路や、オフィーリア侯爵令嬢とロダン男爵からの聴取でアネスティラの関与に関してもある程度の立証が可能にもなっていた。
しかし、名門貴族家を処罰することによる貴族社会の混乱は必須でもあった。

モートン王国との戦争がほぼ確実となってしまった現状で、貴族が王家への叛意を抱きかねない火種を作ることは悪手としか言いようがないのも分かりきっていた。

「………モートン王国への対応を最優先とする」
「かしこまりました…」

断腸の思いでイーリスを切り捨てるコンラッド。

イーリスが自分を選んでくれていたなら…と思わなくもない反面、かの事件で手放すことを一度は決めていた自分の優柔不断さを嗤うしかなかった。
全ての選択肢がなくなった結果、イーリスへ再び手を伸ばすなど彼女にとっても失礼な話である。
落ち着いて考えてみれば当然の結果に思えた。



              *



「…ヘリオ・ミリオン侯爵様?」

マクレーガン伯爵家に潜入させている者を回収し、モートン王国との戦争へ備えるため王宮を出ようとしていたヘリオを呼び止める声があった。

「…あなたは…ヒルディラン子爵令嬢…?」

王宮の前庭園で日傘を差しながら一人優雅に過ごしていたご令嬢…カサリン・ヒルディラン子爵令嬢だった。

「まぁ!ご存知でいらしたのですね!改めまして、カサリン・ヒルディランと申します」
「………本日はどうされたのですか?ヒルディラン子爵令嬢からの謁見の申請はなかったと思いますが…?」
「…まぁ!さすがはコンラッド王子殿下の右腕でいらっしゃいますのね!殿下の全てを把握されていらっしゃるという噂は誇張ではありませんのね」

嫌味な言い回しにも聞こえるカサリンの言葉に思わず眉をひそめてしまう。

「ふふっ、そのような冷たいお顔をされないでください。今日はコンラッド王子殿下の大切な方について、とっても…とっても大切なお話をしに参りましたの」
「殿下の大切な方ですか…?」

その言葉に思い浮かぶ人はイーリスただ一人だった。
そして、カサリンがイーリスと親しい関係であることは、伯爵家に潜入させている手下からの報告にもあった内容だった。
カサリンが持つ大切な話という情報に、ヘリオは少しだけ興味が出てくる。

「…殿下は政務でお時間が取れませんので、私でもよろしければ…」
「ええ、もちろんですわ!ミリオン侯爵様なら、必ず殿下へお伝え頂けると信じていますもの…」

カサリンの人好きする…上辺だけの笑顔を見て本能的に同じ匂いを感じるヘリオ。

「…では、応接室にご案内致します」
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