【R18】奈落に咲いた花

夏ノ 六花

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第一章〜First end〜

あなたの姉であることは認識しているのよね?side シリウス

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「……まだ夢だと思っているだなんて可愛い人ですね」

ベッドサイドに座ると眠るイーリスの頬を優しく撫でる。
ふと胸ポケットから隠し持っていた小瓶を取り出す。

今日はお茶を変えることになってしまったが効果はどうだろう?
恐らく効力は落ちるだろうが無理にあのお茶を飲ませる訳にも行かない。

今はまだ、たまに見る甘い夢として認識してもらえていればいいのだから…

そう思いなおして姉様のキレイな頬へ唇を寄せる。

───カタンッ…

「………」

はぁ…どうやら余計な鼠が入り込んでいるようだな。

仕方なく立ち上がると…
姉様の安眠のため、早速、鼠退治に動き出すのだった。



廊下へ出ると蝋燭の香りがまだ残っていた。
残り香を辿って行くと階段の方向へ続いている。

「………」

階段を登ろうとして、ふと足を止めた。
三階には母上と父上の部屋がある。
蝋燭の香りは上に向かって登っているものの、直感を信じて下へ降りることにする。
そのまま階段下にある物置部屋の扉を開けると、ガタガタと震えている一人のメイドを見つけた。

「………?」

あのような細工が出来るとは、ただのメイドではなさそうだが…
メイドの怯える様子がただの演技なのか、本気なのかがすぐに見抜けなくて困惑してしまう。

「──お、お許しくださ…!!」

姉様が戻られてから、姉様の部屋への不必要な接近は禁じていた。
姉様が安心して過ごせるよう、極力人の出入りを控えるようにと。
それをあえて破るだけの名分があるはずだ。

「……ふむ、母上から頼まれたのか?」
「───ぃ、いいえ!私はただ…お嬢様のお部屋から話し声が聞こえたので様子を窺っただけです!何も…何も見ておりませんッ!!」
「そうか…」

ニッコリと微笑んでやると明らかに顔色が良くなった。

どいつもこいつも騙されやすくて似たような反応ばかりなのだな…

「それで……何を見たのかな?」
「ひッ…───!!」



メイド一人が居なくなったところでマクレーガン家では大きな騒ぎにはならなかった。
元々お金の絡むトラブルが多かった娘らしく、恐らく母上にもそこに目をつけられて雇われたのだろう。

大して話題に登ることも無く、夜逃げしたと思われて忘れ去られていった。

「………」

母上だけは、私に意味深長な表情を向けていたが素知らぬ顔でやり過ごした。

それよりも今、気がかりなのはイーリス姉様の方だった。
あれからはカモミールティーばかり飲んでいる。
目下の問題はカモミールティーと薬の相性が良くない事だった。
即効性はあるが、どうにも目が覚めやすいようだ。
前のように好き勝手するには少し効力が不足していた。

そうこうしているうちに士官学校へ行く日が近くなる。

「シリウスも士官学校では寮に入ることになるから寂しくなるわね」

食後に姉様の部屋に伺おうかと考えていた私は、母上からの牽制にも似た発言に先程までの上機嫌が急落するのを自覚する。

「…はい、私も寂しくなります」

にっこり微笑んで返す。
歳を重ねるにつれ交流が目に見えて減っている母子の会話ではないだろう。
アネスティラ姉上はどうやら弟である私の性格を正しく把握しているようで、私と母上の話を聞きながら顔を顰めている。

父上だけは未だに何を考えているのかよく分からない。
伯爵としての彼は尊敬出来る人ではあるものの、イーリス姉様への対応を見る限り役には立たない人間だと認識している。

むだに機嫌を取ろうと物を贈るから母上や姉上からイーリス姉様がやっかまれるというのに…
父上にはそう言った考えが欠落しているようだった。

まぁ、父上が贈ったプレゼントは全てが回収しているのだが。
大切なイーリス姉様へのプレゼントは私だけが贈るべきだと思う。

本音を言えば花束だけでなく、カードも万年筆も焼却炉にくべてやりたいところだが、今はコンラッド王子への想いを消すことに専念することにしている。

下手に刺激して、また泣かれても敵わないしね…



「シリウス…どこへ向かうの?」

食事が終わり早速、姉様のところへ向かおうと歩いていると母上に呼び止められた。

「……いかがされましたか?母上」

私がどこへ向かおうが、母上にはなんの影響もないことを伝える。

「イーリスのところへ入り浸るのは止めなさい。あなたもイーリスには安静が必要だと言っていたでしょう?」
「ええ、姉様が安心して過ごせるよう、そのように伝えました。姉様も私の顔を見ると安心すると言っていたので、特に問題はありませんよね?」

母上は聞き分けのない息子にため息を吐いて諦めたようだった。

「………好きになさい。どうせもうすぐ士官学校へ行って会えなくなるのだから」
「はい、そのようにいたします」
「あの子は…血が繋がらないとはいえ、戸籍上あなたの姉であることは認識しているのよね?」
「はい、もちろんです。私だけの姉様ですから」
「…ならばいいのよ」

そう言って踵を返す母上。
訝しんでいても決定的な証拠がなく、自分で確認する勇気もないのだろう。

彼女は私だけの大切な姉様だ。
血の繋がりなど今更重要ではないのだから…
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