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第一章〜First end〜
私のことは忘れてください sideコンラッド
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イーリスの誘拐事件を聞きつけ、多くの人員を投入して捜索に充てたがめぼしい情報は無かった。
当日行動を共にしていたアネスティラ嬢は泣き崩れるばかりで、馬車を呼びに行かせただけだと…
自分は何も知らないと言い張るばかりだった。
何より、身代金が目的ではないのか犯人側からのアクションが全く無かったことが大きい。
時間と共に焦りばかりが募る中…
弟であるシリウス・マクレーガンが彼女を助け出したという情報が届き、俺は驚きつつも急いで執務室を飛び出すのだった。
ヘリオを伴い伯爵邸へ向かうと、マクレーガン伯爵自ら出迎えに来てくれたものの…
挨拶する時間も惜しく思えて、ヘリオの案内に従いイーリスの部屋までそのまま駆けていく。
「…こちらになります」
イーリスの部屋の場所を知っているヘリオを訝しんでいる様子だったが、マクレーガン伯爵は賢明にも口に出すことは無かった。
開かれた扉の向こうで、イーリスは眠っていた。
イーリスの手や頭にも包帯が巻かれていた。
「───イーリス…!」
眠るイーリスへかける言葉が見つからず、ふらふらと歩み寄るもベッドの傍で膝を着いてしまう。
イーリスの傷だらけの姿を見て、心配より先に絶望してしまった自分に驚いた。
シャダーリン王国では清い身体で嫁ぐことが美徳とされている。
貴族子女であれば当然という意味合いが強いのだが、イーリスの誘拐事件は既に社交界へ広く知られてしまっていた。
清い身体だと主張し、婚姻を無理矢理進めることは出来たとしても王侯貴族は納得しないだろう。
その上、ゴシップにさられるイーリスをなにかと攻撃し、新たな王妃を…正統な跡継ぎをと求めてくるはずだ。
そんな状況では、イーリスは気を休めることすら出来なくなるだろう。
『君の不安は私が請け負う。だから…なんの障害もなく、君を迎えられる準備が出来た時は…私を受け入れて欲しい』
そんな婚姻ではあの約束を守ることは難しいだろう。
つまり、この事件が社交界に知られてしまった時点で、俺とイーリスが結ばれるという未来は潰えてしまったのだ。
「───………?」
「イーリス?!」
目を覚ましたイーリスに気づいて慌てて顔を上げる。
覗き込んだ俺を認識したイーリスの顔色が、サァ…と変わるのを見て気づいてしまう。
イーリスが受けた傷の深さを…
「……何故、来られたのですか?私を侮辱するためですか…?」
「侮辱だなんて…私はただ、君を心配して…」
「殿下に心配していただいても私にとっては重荷でしかないのです…」
「……イーリス」
あえて私を攻撃するような言葉を口にするのは心に余裕がないのも頭では理解している。
しかし…
「以前お伝えした通り…私を婚約者候補から除外してください」
「………」
「もう…あの約束が叶わないことは、殿下もご存知でしょう?」
「いや、だが私は…」
「殿下にとって…私はペットのような存在なのでしょう」
「ペット、だと…?」
「はい、傷ついて弱っていた動物に情けをかけて手厚く看護をしてあげたのに、自分ではない人に懐いたから気になって仕方ないという程度の存在なのです。自分も気に入られようと構いたくなってしまっただけにすぎません」
「………」
「…ですから、気まぐれで拾ったペットは野生に帰ったと思って、どうか…私のことは忘れてください」
「そんなはずない、私は…確かに君を…一人の人間として対等な存在として…愛していたんだ!だから…───」
…私を諦めないで欲しい。
その言葉を言うことが出来ず、思わず口を噤む。
例え、穢されていようともイーリスを愛する自信はあった。
しかし、諦めないで欲しいと言う権利が俺には無いこともわかっていた。
今のイーリスを妻として迎えることが出来ないのは俺の事情であって、そんな俺が言ったところで、彼女を傷つけるだけであることは明白だった。
肩を震わせ、泣き出してしまったイーリスを見て理解する。
先程の言葉は口にするべきではなかった。
自分の想いはペット感覚ではない、本気で君を愛していた…なんて言葉は所詮自己満足に過ぎない。
ムキになって、今更自分の気持ちをイーリスに認めてもらったところで何になる…?
俺達が結ばれることはない。
この事実が覆らない限り…
俺の告白は…想いはイーリスを苦しめるだけの楔にしかならないのだから。
イーリスが頷いてくれた時、全てが上手くいくと思っていた。
なんて思い上がりだったのだろう。
あの眩しい笑顔が、再び俺に向けられることは無いのだ。
俺は本当に、彼女を得る機会を失ってしまったんだな…
「………っ…」
そう自覚して…思わず涙が零れる。
イーリスの為を想うなら…
ペット感覚で可愛がっていた、と自分が泥を被るべきだった。
酷い男だと、イーリスが罵れるように。
お互いが想いあっているのに、結ばれないだなんて…誰も報われないから。
「………」
結局、かける言葉を失ってしまった俺は、ベットでうずくまるイーリスを残し、そっと部屋を出るしか無かった。
部屋から漏れてくるイーリスの泣き声に胸が痛む。
今すぐ引き返して抱きしめてあげたい。
恋人らしい扱いも出来ずに終わってしまった愛しい人…
王位など捨ててしまえたら…
そう思う自分と、王位を捨てることなどできるものかと冷静に考えている自分もいる。
どちらが本音なのかすら分からなくなり、俺はイーリスを手放すことを決める。
「………イーリス嬢を婚約者候補から除外する」
「……承知致しました」
ただ、この事件を引き起こした人間だけは絶対に許すことは出来ない。
そう、心に誓いながら…
当日行動を共にしていたアネスティラ嬢は泣き崩れるばかりで、馬車を呼びに行かせただけだと…
自分は何も知らないと言い張るばかりだった。
何より、身代金が目的ではないのか犯人側からのアクションが全く無かったことが大きい。
時間と共に焦りばかりが募る中…
弟であるシリウス・マクレーガンが彼女を助け出したという情報が届き、俺は驚きつつも急いで執務室を飛び出すのだった。
ヘリオを伴い伯爵邸へ向かうと、マクレーガン伯爵自ら出迎えに来てくれたものの…
挨拶する時間も惜しく思えて、ヘリオの案内に従いイーリスの部屋までそのまま駆けていく。
「…こちらになります」
イーリスの部屋の場所を知っているヘリオを訝しんでいる様子だったが、マクレーガン伯爵は賢明にも口に出すことは無かった。
開かれた扉の向こうで、イーリスは眠っていた。
イーリスの手や頭にも包帯が巻かれていた。
「───イーリス…!」
眠るイーリスへかける言葉が見つからず、ふらふらと歩み寄るもベッドの傍で膝を着いてしまう。
イーリスの傷だらけの姿を見て、心配より先に絶望してしまった自分に驚いた。
シャダーリン王国では清い身体で嫁ぐことが美徳とされている。
貴族子女であれば当然という意味合いが強いのだが、イーリスの誘拐事件は既に社交界へ広く知られてしまっていた。
清い身体だと主張し、婚姻を無理矢理進めることは出来たとしても王侯貴族は納得しないだろう。
その上、ゴシップにさられるイーリスをなにかと攻撃し、新たな王妃を…正統な跡継ぎをと求めてくるはずだ。
そんな状況では、イーリスは気を休めることすら出来なくなるだろう。
『君の不安は私が請け負う。だから…なんの障害もなく、君を迎えられる準備が出来た時は…私を受け入れて欲しい』
そんな婚姻ではあの約束を守ることは難しいだろう。
つまり、この事件が社交界に知られてしまった時点で、俺とイーリスが結ばれるという未来は潰えてしまったのだ。
「───………?」
「イーリス?!」
目を覚ましたイーリスに気づいて慌てて顔を上げる。
覗き込んだ俺を認識したイーリスの顔色が、サァ…と変わるのを見て気づいてしまう。
イーリスが受けた傷の深さを…
「……何故、来られたのですか?私を侮辱するためですか…?」
「侮辱だなんて…私はただ、君を心配して…」
「殿下に心配していただいても私にとっては重荷でしかないのです…」
「……イーリス」
あえて私を攻撃するような言葉を口にするのは心に余裕がないのも頭では理解している。
しかし…
「以前お伝えした通り…私を婚約者候補から除外してください」
「………」
「もう…あの約束が叶わないことは、殿下もご存知でしょう?」
「いや、だが私は…」
「殿下にとって…私はペットのような存在なのでしょう」
「ペット、だと…?」
「はい、傷ついて弱っていた動物に情けをかけて手厚く看護をしてあげたのに、自分ではない人に懐いたから気になって仕方ないという程度の存在なのです。自分も気に入られようと構いたくなってしまっただけにすぎません」
「………」
「…ですから、気まぐれで拾ったペットは野生に帰ったと思って、どうか…私のことは忘れてください」
「そんなはずない、私は…確かに君を…一人の人間として対等な存在として…愛していたんだ!だから…───」
…私を諦めないで欲しい。
その言葉を言うことが出来ず、思わず口を噤む。
例え、穢されていようともイーリスを愛する自信はあった。
しかし、諦めないで欲しいと言う権利が俺には無いこともわかっていた。
今のイーリスを妻として迎えることが出来ないのは俺の事情であって、そんな俺が言ったところで、彼女を傷つけるだけであることは明白だった。
肩を震わせ、泣き出してしまったイーリスを見て理解する。
先程の言葉は口にするべきではなかった。
自分の想いはペット感覚ではない、本気で君を愛していた…なんて言葉は所詮自己満足に過ぎない。
ムキになって、今更自分の気持ちをイーリスに認めてもらったところで何になる…?
俺達が結ばれることはない。
この事実が覆らない限り…
俺の告白は…想いはイーリスを苦しめるだけの楔にしかならないのだから。
イーリスが頷いてくれた時、全てが上手くいくと思っていた。
なんて思い上がりだったのだろう。
あの眩しい笑顔が、再び俺に向けられることは無いのだ。
俺は本当に、彼女を得る機会を失ってしまったんだな…
「………っ…」
そう自覚して…思わず涙が零れる。
イーリスの為を想うなら…
ペット感覚で可愛がっていた、と自分が泥を被るべきだった。
酷い男だと、イーリスが罵れるように。
お互いが想いあっているのに、結ばれないだなんて…誰も報われないから。
「………」
結局、かける言葉を失ってしまった俺は、ベットでうずくまるイーリスを残し、そっと部屋を出るしか無かった。
部屋から漏れてくるイーリスの泣き声に胸が痛む。
今すぐ引き返して抱きしめてあげたい。
恋人らしい扱いも出来ずに終わってしまった愛しい人…
王位など捨ててしまえたら…
そう思う自分と、王位を捨てることなどできるものかと冷静に考えている自分もいる。
どちらが本音なのかすら分からなくなり、俺はイーリスを手放すことを決める。
「………イーリス嬢を婚約者候補から除外する」
「……承知致しました」
ただ、この事件を引き起こした人間だけは絶対に許すことは出来ない。
そう、心に誓いながら…
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